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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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誓い

 ユティスはゆっくりとイドラへと歩み寄る。倒れた彼は動かず、また魔力も霧散している。


「……フレイラさんの一撃により、魔力を制御できなくなったな」


 ヨルクが言う。彼はイドラへ近寄り手を差し出すと、彼の目を閉じた。


「氷の剣による一撃を受けて、体の内に存在する魔力が暴走してしまった。その結果、魔力が自らの体を破壊するに至った……最後は、ひどく惨めな終わり方だ」

「遠大な策を施した者の結末としては、あっけないですね」


 ユティスが評する。それにヨルクは首を左右に振った。


「彼はあくまで、レイテルに乗っかっていただけだ……そしてレイテルはイドラ達と手を組み、この国を脅かそうとした。今まで記憶の操作によって気付くことができなかったという事実は恐ろしく、彩破騎士団がいなければ俺達は何もできず傀儡となっていたはずだ」


 そこでヨルクは破顔した。


「結果的に彩破騎士団は国を救うことになったんだ。もっと誇っていいぞ」


 その言葉にユティスとフレイラは笑う――次いでティアナが近寄ってきて、


「これで、終わったんですよね?」

「一連の首謀者が消え失せた。国内の戦いはようやく区切りがついた……が、まだ戦い自体は終わっていない」


 そう――大きな勢力の一つが潰えたが、戦いはまだこれから。


「とはいえ、敵勢力がこの町に襲い掛かろうとしているわけでもないため、今はゆっくりと休めばいいさ。事後処理は俺達がやっておく。心配するな」

「僕達は、いいんですか?」

「彩破騎士団はむしろ休んでもしもの時に備えておくべきだ」


 告げるとヨルクは、周囲にいる騎士に呼び掛けた。


「それじゃあ、早速始めよう……大変だろうが戦いが終わった。もう少しの辛抱だから踏ん張ってくれ――」






 ユティス達はヨルクと別れた後、屋敷まで戻ってくる。そこにはラシェンが待っていて、彼が出迎えるような形となった。

 仲間達はさすがに疲労がピークに達したか、イドラに猛攻を仕掛けていた面々を始めオズエルやイリアも自室で休むことに。そうした中でラシェンと話をすることになったのはユティスとフレイラの二人。


「さて、まずは演習場について。報告が来ていてこちらも無事に鎮圧できたそうだ」

「そうですか、良かった」


 ユティスは安堵する。続いてラシェンは話を別の方向に。


「城内はまだ混沌としているが、サフィ王女の活躍により落ち着きを取り戻しつつある。私も微力ながらそれを支援し、どうにか収まるはずだ」

「けれど、レイテルが行った策の爪痕は相当なものですよね」

「そうだな。城側が元通りになるまで……いや、記憶が戻りレイテルという存在まで喪失したのだ。元通りとはいかないかもしれない」


 深刻な表情。しかしラシェンはすぐに表情を戻した。


「とはいえ、ようやく戦いは終わった……内外双方ともだ。これにより大きく我らは前進できる」

「……ラシェン公爵」

「言いたいことは、わかっている」


 ラシェンはユティスと目を合わせ、


「納得できないのも重々承知だ……しかし進まなければならない。その中で、私の処遇も決まってくるだろう」

「……僕は、公爵と話し合った結論で全てだと思います」


 そうユティスは返し、ラシェンは黙す。


「この異能者の戦いは、それこそこんな権力争いをしている場合ではないほどの話なのでしょう。大きな犠牲を生み出そうとも、力を手に入れなければならない……今回の戦いを通し、僕らはそうした力を得るに足る存在となったでしょうか?」

「それについてはわからない……が、一歩前進したのは確かだ」


 ラシェンは答える。ならばと、ユティスは微笑を浮かべた。


「十分です。いずれ僕らが……この世界を救う救世主となるべく、行動します」

「ああ、わかった。それについて私は全力で手助けしよう」


 ――それからラシェンは「城のことは任せてほしい」という説明を行い、屋敷から去る。それを見送った後、ユティスはフレイラと椅子に座り向かい合って話をすることになった。


「国内における敵勢力はほぼ潰えた。よってこれからは純粋に異能者に対する準備をしていかないといけない」

「エドルさんともきちんと話をしないといけないね」

「うん。サフィ王女と連携して城と上手くやっていく……レイテルという言わば支柱が幻想であった以上、こちらになびくと思うし、そう心配はしていないけど」


 魔法院なども頼るべき存在がいなくなった以上、最終的に城側に従うことになるはず――ユティスはそう思うと改めて終わったのだと悟る。


「……ウィンギス王国から、長かったな」

「そうね。けれど私達はこうしてまだ共に戦っている」


 フレイラは語る――もしかすると彼女はこうして並び立って戦っていることを喜んでいるのかもしれない。

 自分が、ユティスのような存在と共に――自分を悪く言うのはきっと後ろめたさなども関係しているだろう。そこについてユティスは気にしていないが、彼女がそうした感情を取り払うまで、まだ時間は掛かりそうだ。


「……目先の脅威が去った以上、少しばかり時間はあるだろう。その間に準備を進め、次に起こったことに対し備えておく」


 ユティスが述べる。フレイラは頷き、


「それともう一つ……ユティス、お兄さんはどうするの?」

「ロイ兄さんのことか」


 ユティスもそこについては憂慮していた。状況が状況だけにロイに対する風当たりも強いはず。


「……どちらにせよ、僕としてやることは一つかな」

「決まっているの?」

「この屋敷を離れて、一度故郷へ帰るべきか……それとも――」

「公爵と相談してもいいかもしれないね」


 フレイラは言う。どうやら何をしたいのか彼女は理解した様子だった。

 そこでユティスも「そうだね」と同意し――ふと、思った。


 大きな戦いが終わった。けれどまだわからないことは多い。

 今後はその謎について迫る戦いとなるだろう――そしていずれ始まるこの世界の命運を賭けるかもしれない戦いに対し、備える。


(どこまでできるかわからないけれど……)


 この世界に生まれ、使命を持った以上、やりきる――そうユティスは心の中で誓った。


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