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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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戦術

 フレイラは手始めに足下に転がっている石を、蹴り飛ばした。無論、その行為はイドラに気付かせるきっかけとなる。


「――そこか」


 近づいてきた時、注意不足で蹴り飛ばしてしまった――そんな解釈だったのかもしれない。イドラは即座に腕をかざし、光弾を生み出した。

 それが一瞬で石が蹴り飛ばされた場所を通過する――予め場所がわかった際にこうすると決めていなければ実行できないくらいの反応。戦いに関して未熟なイドラにしては、恐ろしく機敏な動きだった。


 とはいえそれは空振りに終わり、光弾は遙か後方にあった家屋に直撃し、建物を砕く。


「外した――」


 イドラはここで体に力を入れる。攻撃そのものが通用しない彼にとってその動きは不必要なもののはずだが――フレイラはこれを攻撃準備と解釈した。


(私を仕留めていないと判断すれば、イドラは選択に迫られる)


 周囲のアシラ達を巻き込むような攻撃を仕掛ける――これは光弾をかわしフレイラも密かに近づくことを予測しての行動。アシラ達は回避に移るだろうが、技量的に下のフレイラならば避けることができず攻撃に巻き込まれるという考え。

 だが、その力はおそらく現在溜めている必殺攻撃の魔力を使うことになるだろう――


「……っ!」


 イドラは察したか短く声を発する。迷いが生まれた。おそらく必殺攻撃の魔力は不完全。ここで発すればもう一度溜め直すのに時間が必要。

 しかし、攻撃が完成する前にフレイラが斬りかかり、終わるかもしれない――だからこそ迷った。


 かといって回避行動はできない。地の力を抑えて自由に動けるようになればフレイラと距離を置くことも可能だろうが、そうなると今度はアシラ達の攻撃に対処できなくなる。もし攻撃を受けきれず対処できなければ、猛攻により動きを拘束されてフレイラの剣が――となる可能性が高い。

 イドラはどうすべきか攻撃を受け続けながら思案し始めた様子。それと同時、周囲に視線を送る。フレイラの居場所を特定できるものはないか、と。


 ――単純な力勝負ではなく、戦術勝負に持って行く。フレイラが決めた戦い方は、まさにそれだった。


 イドラとしてはアシラ達の猛攻を縫うようにフレイラが剣をどう差し込むか。そしてそれをどう防ぐかに終始していたはず。だがそうではなく、フレイラはどういう形で「詰み」の状態に持って行くかに主眼を置いた。それをイドラも察し、どう応じるかを考え始めたのだ。


「ずいぶん小癪だな……!」

「あら、さすがにそれは傲慢じゃないかしら」


 リザが拳を振り下ろしながらイドラへ告げる。


「単純な差し合いだと思っていたことが間違いだったわね。こういう駆け引きは嫌いかしら?」

「まったく、彩破騎士団はつくづく厄介者揃いだな」


(――そう思ってくれるのなら、嬉しいわね)


 フレイラは胸中で呟く――戦えている。


 それと同時に一つ悟る。圧倒的な力を前にしてフレイラは尻込みして不安を抱いた。イドラの力はフレイラにとって絶対的なのは間違いない。

 だが、相手は人間――例え力を得ていようとも、それを利用されない戦い方をすれば、勝てる。


 フレイラは自身が握り締める剣を見下ろす。ヨルクが仕込んだ魔法はまだ継続している。一閃するまで効果は持続するだろう。勝負は一瞬だが、そこに至るまでの選択肢は無数にある。


 イドラはなおも周囲に視線を巡らせ、フレイラの居所を探ろうとする。もし次場所がわかるようなヒントを与えたら、今度はかわせるような攻撃はしてこないだろう。それこそ仲間達を蹂躙するような攻撃を、フレイラに対し放出する。それから逃れる術は、おそらくない。


 フレイラはどうするか判断に迫られる。イドラに対し精神的な揺さぶりを掛けているのは事実だが、それでもまだ足りない。ここから戦局を動かすには、もう一手必要だ。

 そこでフレイラはイドラに注目。視線などから特徴などがないか――と、ふいに一つ気付いた。


(視線が、仲間達の間を縫っているのは当然だけど……)


 なおも猛攻を仕掛ける騎士団の面々の隙間から、イドラはフレイラの動向を窺おうとしているが――その視線が一定の方向に注がれていることがわかる。

 つまり、騎士団が猛攻を仕掛けている中でも明確な隙間が存在する。


(穴、ってことか……ジシスやアシラがこれに気付いていないはずがないし、あえてそういう場所を作っているということ)


 もし剣を差し込むのならばそこから――そこでリザやアシラが周囲を一瞥していることにも気付く。おそらくフレイラを探している。そして何らかの方法で剣を差し込む手法を教えようとしているか、あるいは穴があることを伝えようとしているか。


(けど、イドラも警戒している……)


 フレイラはイドラに視線を戻す。よくよく見ればイドラが多く視線を向けているのは三箇所。位置的に言えばイドラの後方と左右。もし剣を決めるならばそこから、ということだ。


(順当にいくのなら後方から狙いを定めるのだけど……)


 フレイラはゆっくりと背後に回ろうとする。そこでイドラの魔力が高まった気がした。

 それは魔力を噴出したというわけではなく、横から見るよりも背後から見た方が魔力に厚みがある――つまり背中を重点的に守っているということ。


(あの防備を突破できるとは思うけど……もし剣の入りが浅かったりしたら、防がれる危険性ある……背後から仕掛ける場合、その可能性が高まる)


 かといって、背面は戦闘経験がないイドラにとって大きな隙であるのは間違いない――


(いや……ここは――)


 フレイラは頭の中で戦術を組み立てる。失敗は許されない一度きりの勝負だが、不安はない。


 ゆっくりと、フレイラはイドラの後方へと軸足を移す。なおも攻め続ける仲間達は疲労などもなく、まだまだ戦える様子だが――いつ途切れるかわからない。かといって急いで行動してイドラに気付かれれば終わりだ。

 背後に立ってみて、改めて実感する。イドラは確かに背面に神経を集中させている。少しでも剣が触れたのなら、イドラは即座に反応するだろう。


 そこで用いる攻撃は、仲間達を巻き込む攻撃――彼らは全員回避するだろう。フレイラの場合はどうなのか――


(上手くいくかどうか……けれど、イドラは間違いなく――)


 頭の中で戦略をもう一度巡らせる。それを整理し終えた直後、フレイラは足を大きく踏み出した。


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