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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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憧れ

 名を呼ばれたフレイラが視線を転じると、魔法を放ち終えて一度後退したユティスが口を開いていた。


「僕は今のフレイラの気持ちがわかる……いや、瀬戸際になってわかってしまった、かな」


 少しばかり苦笑するユティス――心を読まれていると思った矢先、


「小さい頃から顔を突き合わせていたんだ。そのくらいのことはわかるよ」


 続けざまに告げられて、フレイラは二の句が継げなくなった。


「僕は……いや、異能があっても僕はこの場で一番の足手まといだと思っている。僕の異能は準備が全てだ。あの十万の大軍相手にだって、フレイラが持つ剣だって、僕は一人で生み出せない。僕には始まってしまった戦いの戦局を変える術は、ない」


 そう断言したユティスは、小さく笑みを浮かべた。


「フレイラはこう思っているはずだ……自分の力は全て借り物ではないかと。でもそれは違うんだ。その剣は確かにフレイラのために用意したものだ。けれど、僕はフレイラに託した……それはフレイラが剣を正しく使ってくれると、信じていたからだ」


 確信を伴った声。なぜそうまで――沈黙していると、ユティスから答えがやってきた。


「僕は剣を握り戦う姿を見て、憧れたんだ……それはヨルクさんと出会った後も変わっていない……フレイラは自分に力がないと悩んでいた。けれどそれは違う。記憶を飛ばされたフレイラは、自分の意思で事件を止めるために強引にでも僕の所へ赴いて、あの戦争で戦った。それは全てフレイラの力だ。誰の力でもない、借り物でもない、フレイラの力だ」


 ユティスは小さく笑みを浮かべる――視線は合わせない。それはどこにいるのかわからないからか、それともわかっていながらイドラに勘づかれないためか。


「フレイラはもう、この場で戦えるだけの力があるんだ……それをフレイラ自身が認識していないだけだ」


(私が……戦える……)


 信じられない気持ちだった。目の前の混沌とした光景を見据え、果たして自分が応じられるのか、不安しかない。

 けれど、ユティスは信じてくれている――力を持たない自分を励まし、そして力があると語っている。


「僕がフレイラのことを信じる必要もないんだ。フレイラは自分の足で立ち、判断し、この戦場を終わりにすることができる」


 そうユティスが語った直後、イドラが一歩歩んだ。それにユティスは反応し、魔法を放つべく構えた。

 彼の言葉が途切れ、フレイラは握り締める剣を見据える。自分にできること――戦えるということ――


 不安はあるし、ユティスの言葉はまだ信じられない――けれど、呼吸を整えた直後、静かに剣から目を離し、イドラを見据えた。


(……誰よりも、ユティスが信じてくれている)


 心の中で呟き、フレイラは一歩足を踏み出した。


(戦える……そう信じてくれる以上、私は戦う……ユティスのために……!)


 戦場に近づく。アシラを始め仲間もフレイラと視線を合わせることはない。いや、この場合気付いていないというべきか。

 オズエルの魔法は精密で、仲間でさえ気付くことはない――イドラもまた気付いている様子はない。もし察しているのであれば、隙だらけの今攻撃が来てもおかしくないはず。


(考えろ……私にできること……)


 自分に何ができるのか……ユティスや彩破騎士団の面々が自分に何を求めているのか。


 フレイラは一度剣を構えようとして――やめた。無策に突撃するのは姿を隠している現状では意味がない。かといってかく乱するのも有効だろうか。仲間達を混乱させるだけではないのか。

 とはいえ、この状況がどれだけ長く続くのかもわからない以上、できるだけ早く決断しなければならない。むしろ失敗した時にまだ仕掛けられる余力を残すために、急いで仕掛けるべきか――


(いや、それはきっと敵の思うつぼだ)


 イドラはおそらくフレイラの位置さえわかればもう容赦はしないだろう――


(そうか……敵としては位置がわかればそれに対する攻撃を仕掛けてくるはずで……)


 準備は既に整っていると捉えるべきだとフレイラは思う。ならば自分がとれる行動は――

 まず、フレイラは地面に目を向ける。足下に石ころが一つ。魔法自体はフレイラの体表面をまとい姿を消しているため、それを拾い上げたりすれば石が見えなくなる。それによってイドラはおそらく気付く。


(……なら、私がやれることは)


 頭の中で算段を立てる。イドラの攻撃がどのようなものかを頭の中で予測し、次にどう戦うかを組み立てていく。

 その時、フレイラは一度ユティスを見た。声は発さず黙々とイドラに対し攻撃するその姿を見て、フレイラはもう一度心の中を落ち着かせる。


(……憧れた、か)


 ユティスの発した言葉を頭の中で反芻する。それと同時に笑みを浮かべた。


 決してヨルクの弟子になったとしても、フレイラのことを見下すような真似をする人では決してなかったし、早合点で彼を傷つけてしまった。それでもなお彼はフレイラを信用している。それに報いなければならないとは、強く思う。


(……私は、ずっと悩んでばかりだ)


 そう思ったと同時、自分はそうやって少しずつ前に進んできたのだと悟る。それはこの場にいる誰よりも歩みは遅いかもしれない。

 けれど、確かにフレイラ自身は少しずつ、強くなっている。


 フレイラは一度深呼吸をする。頭の中で戦術を思案し続け、おぼろげながら展望が見えてくる。


(私の考えた通りにことが進むとは思えないけれど……後は、どれだけ自分がやれるか、か)


 もしこの勝負に負けてしまったら――そこでフレイラは思考を中断した。

 それと共に、もう一度ユティスを見据える――必ず、成功させる。


(――行くよ)


 フレイラは心の中で呟く。それはこの場にいる誰からも気取られることはなく、彼女の胸の内に声は消え――作戦を、開始した。


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