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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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疑問と力

 光がユティスの体を満たした直後、イドラはさらに前進しようと足を前に出す。


 彩破騎士団の面々の攻撃を一身に受けながら、それでもなお笑っているイドラは異様の一言。不死身の魔具――実際はあくまで魔力による強化ではあるが、そうであると認識していても、異常な状況であることは間違いない。


 そうした中で、ユティスが光の槍を放つ――ただ彼自身、ダメージは皆無に等しいと思っている。光の目的は別にある。放つ直前、近くにいるオズエルへ視線を流し――彼は意を介したか頷き、槍は放たれた。

 同時、アシラ達は一歩下がる。わずかながら生じた余裕のはずだが、イドラは悠然と歩みを進めるだけで、突撃するような所作は見せない。


(地の力で体を固定していることに加え、それをすぐさま解除とはいかないわけか)


 鍛錬次第で発動解除を即座に行えることが可能かもしれないが、イドラはまだそういった境地には達していない――だからこそ、付け入る隙がある。

 光が着弾し、周囲が一時白い閃光に包まれる。イドラも視界全てが覆われ、完全に何も見えなくなったはず。


 なおかつ、ユティスの魔法により魔力もかき乱された――それにより、魔力探知などもできない――ユティスはそういった効果を付与し、魔法を放った。

 確かにこの魔法で打撃を与えることは不可能だろう。しかし、


「――切り札、というわけではなさそうだな」


 イドラの声が聞こえる。やがて姿を現し、健在な姿をユティス達に見せる。


「異能者……十万の兵さえも倒した異能者が、これで終わりのはずが――」


 言葉が、止まる。原因は明白だった。

 光により視界を覆い尽くした直後、一計を案じ――フレイラの姿が、消えていた。


「……なるほど、そうきたか。ずいぶんと狡い手を使う」


 イドラの発言にユティスは無言に徹し、さらなる光を放つべく右腕に魔力を集める。


「姿を消して意表を突き、剣を当てるといったところか。しかし舐められたものだな。私に居所が探られないとでも思っているのか?」

「――実際、どこにいるのかわかるのか?」


 ユティスの問いにイドラは沈黙する。フレイラの魔力を探っているはずだが――

 そこへ、アシラやジシスが迫る。イドラは一度舌打ちをした後、彼らの剣戟を、受けた。


 攻撃が効かないからこそできる所行。猛攻をあえて受けながら、フレイラの位置を探ろうとしている。


「……ヨルクさん、フレイラの剣は――」

「準備はできた。あとは彼女次第だな」


 ヨルクは言うと、オズエルに目を移す。


「こちらはできるだけのことはやった……が、成功するかは運も絡むな」


 返答にユティスは「十分」と返した。


「僕らは……フレイラが渾身の一撃を叩き込むための隙を作る……ヨルクさん」

「ああ、これが最後の攻防だ」


 ヨルクは言いながらイドラを見据える。


「イドラは徐々にではあるが、力を蓄えている――先ほど光だ。俺やオズエルに対抗されたため、今度はこっちの対処ができないほど魔力を高めてくるだろう。全快の俺ならまあなんとかなるかもしれないが、手負いの今ではそれに対抗できるかはわからない」

「なら、ここで勝負を決めないと……そうだろ?」


 ユティスの言葉にヨルクは頷き、


「ああ、俺達がフレイラさんの剣を当てるだけの隙を作れるか……ユティス、行くぞ」


 その号令と共に、ユティス達もまたイドラへ向け猛攻を開始した。



 * * *



 圧倒的な攻撃を受けながら平然とするイドラを見て、フレイラは多少なりとも畏怖を抱いたのは確かだった。


(彼は異能者ですらない……けれど、確実に異能者を凌駕するだけの力を手にした)


 その目的まではわからないし、解明されることもおそらくない――ただ、確実に言えるのはそうした力を得なければ勝てない存在がいる、ということ。


(そんな敵と遭遇した場合、私は勝てるの……?)


 不安な心境が突如、フレイラの胸中に響いた。それと同時にほんの少し気が緩み、慌てて引き締め直した。

 フレイラはオズエルの魔法によって、姿と気配を断った。それによりイドラはどうやらフレイラのことを認識できていない様子――ただ彼の魔法は相当強力で、ユティス達もフレイラのことを認識できていない。オズエルはそのくらいはやらなければイドラを欺けないという判断だったのだろう。


 そうした中、ユティス達は隙を作るべくイドラへ向け猛攻を仕掛ける。アシラの斬撃に始まり、ジシスの矛がイドラの首筋を薙ぎ、リザの拳が彼の横腹を打つ。またオズエルを始め後方支援に徹していた面々も攻勢に出る。だが、イドラは倒れないし、また涼しい態度を崩していない。


 近しい存在であるティアナでさえ、アシラやジシス達と共に状況を的確に判断して剣を当てる。相手が無抵抗だということも関係しているが――そうであっても、フレイラ自身ああして猛攻の輪の中に入るのはおそらく無理だろうと思う。


(力を得ても、私にはあの場に加わるだけの技量はない……)


 異能により手に入れた剣――ユティスによって生み出された剣が切り札となるこの戦いにおいて、フレイラ自身の技量が最大のネックだと、彼女自身思う。アシラ達に紛れて剣を振ることはできないし、かといってユティス達のように後方支援に徹するなんて芸当もできない。なおかつ握り締める剣は最愛の人によって生み出されたもの――自分には、何があるというのか。


(そんな私を信じて、皆戦っている……)


 フレイラは正直、申し訳なく思う。ユティスは銀霊騎士団との決戦の際、自分が一番足手まといだと語った。けれどそれは違うとフレイラは思う。彼は策を講じ、異能を用いてフレイラを支援する道具を作成した。

 そしてフレイラは異能の力を秘めた剣で、ヨルクを倒した――あの場でフレイラはヨルクと対等に戦ったように見えたかもしれない。けれど実際は違う。全て、与えられた力だ。


(力が、欲しい……)


 フレイラは胸中で呟く。そしてほんの少しだけ剣を強く握り締めた時、


「――フレイラ」


 ユティスの声が、はっきりと聞こえた。


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