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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
287/411

迫る終局

 剣術においてこの場の誰よりも優れた力を持つアシラ――その彼が放つ剣戟は、イドラにとっても脅威であるはずだが、


「波状攻撃というわけか」


 イドラはそれほど反応を示すことなく――アシラから放たれた剣を、受けた。

 金属音が鳴り響く。アシラの真っ直ぐな一太刀は、イドラの防御によって阻まれる。


「その鋭さは、テオドリウスを破るのに十分な力を所持しているのは間違いない」


 せめぎ合う中でイドラは呟く――対抗できている。


「そして突撃は確固たる自信があってのことだろう。だが」


 刹那、イドラの力がさらに膨らんだ。それは一時ユティスの思考を止めるほどのものであり、


(――隠していたか!)


「アシラ!」


 ユティスが叫ぶと同時、イドラは拳を振るう。狙いは間違いなくアシラであり、その速度は回避が間に合わないのではないか――そう思った直後、アシラは大きく後退していた。

 イドラはそこで笑みを浮かべる。それと同時に放った拳を一瞥し、


「さすがにぶつかり合っている間に仕留めるのは無理そうか。どれだけ体を強化しても動きが素人だからな」


 ――イドラが攻撃するより早く、アシラは回避に移った。魔力を噴出し攻撃を仕掛けるというイドラの奇襲は確かに有効ではあったが、さすがにアシラを追い切れる技術はなく、力を噴出した段階で彼も反応し対処できたというわけだ。


(純粋な戦闘能力は、間違いなく僕よりも下だな)


 ユティスはそう断じる。しかしそれは有利に材料ではあるのだが、逆を言えばそうした技量にも関わらずアシラの攻撃を防げるだけの力を有している。


(まともに戦ってはまずいか……?)


 フレイラの準備がいつ終わるかわからないが、そう長くは掛からないだろう。ならば時間稼ぎに終始して対応すべきか――


「ならこれはどうだ?」


 イドラが呟く。直後、その右手に光が溢れた。

 それは、ユティスの目から見て暴虐に等しいだけの魔力が込められているのがわかった。おそらくあれは――


「まあそう来るだろうな!」


 ヨルクが叫ぶ。するとオズエルも同時に動き出し、両者は杖と両手、同時にイドラへとかざした。

 刹那、イドラの手元にある光が炸裂する。既に親衛隊やアシラ達は大きく退いていたが――それは紛れもなくこの周辺を爆発、崩壊させるだけの威力を所持していた。


 まともに炸裂したのなら町に多大な被害が及ぶ。だが、それをヨルクとオズエルの二人が――防いだ。

 二人の魔法により、イドラの周辺が結界によって取り囲まれた。それと同時にイドラの光が爆裂四散し、轟音がユティスの耳に入ってくる。


 もしこれが炸裂していれば――ユティスは背筋が寒くなりながらもじっと前を見据え、爆発により粉塵が舞うイドラの立ち位置を観察する。


「……ユティス」


 そこでフレイラの声。準備が整った意だと察し、


「フレイラ、遠隔でも攻撃はできる?」

「ええ、できるけど――」

「やるなら直接叩き込んだ方がいいな」


 ヨルクがフレイラの言葉を遮り、告げた。


「イドラの能力は驚異的だ。あれをどうにかするには、生半可な一撃では無理だ」

「ヨルクさんの判断でも、それか……」

「ああ。今の爆発も、ダメージはおそらくないだろう」

「――さすがに多勢に無勢で、ことごとく攻撃を防ぎに掛かるな」


 そこでイドラの声がした。ユティスが警戒し見守っていると、やがて無傷の彼が姿を現した。


「ならばどうするか……どうやらそちらの切り札は完成したようだな」


 フレイラを見据え、イドラは呟く。


「ならば、確実にこちらを終わらせるべく、剣を直接叩き込もうとするだろう」


 推測しながらイドラは彼女と視線を合わせた。


「とはいえ、だ。無策に突っ込んできてもこちらは力で応じればいいだけの話。そう甘くはないぞ?」

「そこで活躍するのが、他の面々さ」


 ヨルクが告げる。その顔には笑みが。


「さっきのように剣をその身で受けることもできないぞ? 氷を食らえばそれで終了だからな」

「そのくらいはわかっているさ」


 肩をすくめ返答するイドラ――両者はにらみ合いのような様相を呈し、それでいてイドラは他の面々に注意を怠らない。


(こちらとしてはフレイラの剣を当てるだけでいい……ならば彩破騎士団総出で取りかかれば、勝機は十分にある)


 問題は、犠牲をゼロにすることができるのか――誰かがその身を挺してイドラを止めればいいが、さすがにユティスとしても避けたい。いや、そもそも先ほどのような光によって周囲全てを巻き込む可能性もある。接近すれば結界のような処置も難しい以上、そこは大きなリスク。


(さっきのイドラの攻撃……あれはこちらが無闇に接近しないよう牽制的な意味合いがあったのかもしれない。ならば、どうすべきか――)


「ユティス、悩んでいるようだが答えはシンプルだぞ」


 ヨルクが口を開く。


「俺から提言は……こっちでなんとかする。フレイラさん、渾身の一撃を食らわせてやれ」


 彼の言葉に、フレイラは――短く頷いた。


「ユティス、いい?」

「……うん」


 ユティスは頷く。それと同時、イドラは突進の構えを見せた。


 アシラの剣戟すら防いで見せた力。それが足を前に踏み出し暴虐とも呼べる突撃を見せたら――アシラやジシスでも止められないかもしれない。

 安全策をとるならば、突撃を回避し牽制しながらフレイラの斬撃を当てる機会を探す――しかし先ほどの光もある。彩破騎士団が出方を窺うような真似をすれば、一転してイドラは強力な攻撃を行うかもしれない。


 それをヨルクやオズエルが再度止められるのかどうか――どの策をとっても大きな賭けには違いない。


「――始めようか、騎士団」


 イドラが呟く。同時、彼は突撃を開始した。

 それと共に光も生まれる。自爆覚悟かそれとも何か別の効果があるのか――ここからは、瞬間的な対応をしなければ、無事では済まない。


(やるしか……ないか!)


 ユティスは心の中で呟くと右手に収束していた魔法を解放する。同時、仲間達も全員魔力を発しイドラに対抗するように動き始め――戦いは、最終局面を迎えた。


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