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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
281/411

彼女の拳

 先んじて攻撃を行うリザが選択したのは、拳による突き。異能による身体強化を施している一撃であるが、先ほどの攻防時よりも強化されたログオーズの前には――


「無駄だと言っているはずだ」


 相手は避ける。ログオーズは即座に反撃に転じ、剣戟がリザへと向かう。


 だが、彼女も異能による身体強化で回避に転じる。とはいえ状況としてはジリ貧と言っても差し支えない。リザの異能には確実に時間制限がある。ログオーズも同じであるはずだが、ユティスの感覚ではどう考えてもリザの魔力切れの方が早い――


「先ほどの威勢はどうした?」


 ログオーズが問う。


「隙を作ると言っておきながら、まともに一撃当てることすらできないとは」

「とはいえ、あなただって無理はしていないわよね?」


 リザが返答。ログオーズは押し黙る。


「そっちだって聖賢者が来ることを予想している以上、短期決戦が望ましいはず。しかし私に対し強引に仕掛けるような真似はせず、むしろ慎重……こちらの魔力が尽きるよりも先に、聖賢者が到着する方が早いと思うけれど?」


 挑発を挑発で返す――するとログオーズは笑った。


「お前が自分の手で俺を始末するより、聖賢者を頼っている……その事実が自信のなさを示しているな」

「後がつかえている以上、ここで無理をするのは私も得策じゃないって話よ」

「……やれやれ、煽りあいにしてももう少しマシにしたかったが」


 苦笑するログオーズ。直後、空気が変わる。

 動く――そうユティスが確信した矢先、リザへ向かうログオーズの動きが、明らかに変わった。


 一歩で間合いを詰め、リザが避けられる余裕のない状態にして――斬撃を叩き込む。下手すれば反撃を食らう状況だが――いや、リザもそれを狙っていた。

 彼女もまた一転して踏み込む。刃をまともに食らって無事で済むとは思えない。ティアナの援護を期待しているのか、それとも――


 刹那、ログオーズの剣がリザの腕に、触れた。直後ギィィィ、という不快な金属音めいたものが聞こえる。


「結界の強度を限界まで上げたか」

「そうしないと両断されかねないからね……!」


 ユティスの予想とは違う状況に陥る――膠着状態。ログオーズとしてはおそらく一度剣を引こうとするか――

 その予測は当たり、ログオーズは一度後退しようとした――が、ここでリザが思わぬ行動に出る。突如相手の剣を、リザがつかんだ。


「何……?」

「甘く見すぎなのよ、あなたは」


 リザの会心の笑み。それと同時、ティアナが魔力を高め横手から迫る。

 イドラ達はどうする――ユティスはそちらへ視線を移す。見ればイドラが状況を懸念し手をかざそうとする。だがそれに対しフレイラが剣を構えた。


 それによって、彼の手が止まる。もしログオーズに援護すれば、フレイラの攻撃が飛ぶ――このやりとりによって、勝負はリザ達に託された。

 ログオーズは剣を無理矢理引き抜こうとする。もし剣を手放すという選択肢をとればまだ目はあったかもしれないが、それをしたとしてもおそらくリザが追撃しただろう。となれば、この戦況に持ち込んだ彼女の勝利か。


 ログオーズの目に迷いが生まれる――いや、押そうとも退こうともどうにもならないと悟ったか、わずかながら覚悟のような雰囲気があった。

 そしてティアナの剣が――『幻霊の剣』が、彼の体へ入った。物理的な傷を負うようなことがないその剣だが、斬撃が彼の体に入った瞬間、彼の体を取り巻いていた黒が、完全に消え失せた。


「――ありがとう、ティアナさん」


 リザが告げ、拳が振るう。一歩対応に遅れたログオーズの顔面にそれは突き刺さり――吹き飛んだ。

 身体強化もあって彼の体は建物の壁にまで到達し、打ち付けられた。それにより建物が砕かれ、黒き鎧を失った彼の体は結界を張る暇も無かったか、崩れ落ちる。


「……捨て身とは、さすがだな」


 イドラが声を漏らす。とはいえリザも無事ではなかった。剣を受け、握った彼女の両腕は鮮血に染まっている。


「ただその怪我では戦闘することは無理だろ?」

「――どうかしら」


 異能発動。次の瞬間、彼女の両腕にある傷は一気に癒えていく。再生能力――


「怪我がすぐに治るってことを考慮すれば、捨て身もさして覚悟はいらないわよ」

「だが流した血は元に戻らないはずだ。多少なりとも動きは鈍る」


 イドラの指摘にリザは肩をすくめた――が、状況は彩破騎士団に大きく傾いた。


「テオ、どうする?」

「少しばかり時間を稼いでくれ。それで事足りる」

「わかったよ――ケイン」


 名を呼ぶと、少年が動き出す。すると彼の瞳の奥にある『彩眼』が一際強く輝き――


「何……?」


 リザが呟いた。同時にユティスの横にいるフレイラもうめき声を上げる。


「体が……!?」

「本来は一人を対象にする能力だが、やり方によっては一定の範囲内にまで広げることができる」


 イドラは語る――が、そういう彼は苦笑していた。


「もっとも、範囲内にいた人間が敵味方問わず動けなくなるからね……テオ、ケインもそう長くはもたないよ」

「十分だ」

「――アシラ! ジシス!」


 ユティスは二人に呼び掛ける。それに両者は頷くことで応じた。どうやら二人は異能の効果範囲外にいる。


「ログオーズはやられてしまったが、まあ予想していた展開でもある」


 どこか切って捨てるような声音でテオドリウスは語る。


「異能者に、特殊な能力を持つ聖騎士候補……ログオーズは異能者ではなく魔具に能力を底上げされた身だ。やはり力は不十分……異能は、絶対的だということが証明されたな」

「異能を持たないその二人には負けない、とでも言いたいの?」


 リザが問う。それにテオドリウスは頷いた。


「ああ、その通りだ」

「甘く見られたものね、彩破騎士団も」

「油断はしていない。実力的なものを差し引いてもまだ俺の方が強いと言いたいだけだ」

「ならば、証明して見せよ」


 ジシスが語る。矛を構え超然とする姿と、その横には彼と対称的に穏やかな動きでゆるりと構えるアシラ。


「儂らとしても貴様との戦いで証明できるかもしれん……異能者でなくとも、異能者に対抗できる存在がいるということを」

「ならば雌雄を決しよう。どちらが正しいのか、実力で証明する……嫌いじゃない」


 テオドリウスの顔に、笑みが生まれた。それはリザが時折見せるような、好戦的な笑み。

 どういった理由を持っていたとしても、彼はやはり闘士なのだと、ユティスは理解する。


「始めよう――彩破騎士団達よ」


 テオドリウスは悠然と語り、アシラとジシスは動き始めた。


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