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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
275/411

王女の戦い

 突如、レイテルの背後にある窓に人影が生じた。親衛隊が迫る中で窓がぶち破られ、その奥から現れた人物が手をかざすと、レイテルの体がそちらへと引っ張られる――


「止まれ!」


 サフィの叫びに親衛隊は反応。その時レイテルは既にバルコニーに到達し、その傍らには――


「ここにいる面々は初めまして、だな」


 くせ毛の黒髪を持つ男性。青一色の衣服に加え、先ほどの行動からラシェンは目の前の人物がどういう存在であるのかを認識する。


「異能者、テオドリウスか」

「さすがに報告はされているか。ま、別に構わないが」


 肩をすくめる異能者、テオドリウス。異能についても把握しているが、親衛隊は抗えるのか――


「言っておくが、今回はそちらと戦う気はない」


 テオドリウスは言うが、サフィを含め誰も信じていない。


「まあそうは言っても信用されないか……さっさと用を済ませよう」


 レイテルを連れて脱出する気か――ラシェンはそう推察し、即座に親衛隊へ呼び掛けようとした。

 直後、


「やめなさい!」


 サフィが声を張り上げた。それは何かを察したかのようであり、

 レイテルがサフィ達を警戒しながらテオドリウスへ近寄る。もし何かあれば彼の手引きにより脱出するという腹づもりだったのだろう。


 異能を用いるか、それとも身体能力でここから脱出するのか――ラシェンがそれを見極めようとした矢先、

 テオドリウスは剣を抜き放ち、レイテルの背後から――剣で胸を刺し貫いた。


「――え?」


 レイテルは予想外という表情。そして自身の胸から出る剣を見て、


「……どうし、て」

「主によると、お前は邪魔だと。成功しても失敗しても消せと言われたまでだ」


 冷酷な声音。それと共に剣を引き抜くと、レイテルは倒れ伏した。


「その異能は人間相手には恐ろしいほどの効果を発揮する……が、奴相手には何も効果を発揮しない。それではまったく意味がない……それだけの話だ」

「奴、とはあなた達の敵かしら?」


 サフィが問う。レイテルの鮮血によって床が赤く染まり……彼女はもう、動かない。


「言い方からすると、魔物?」

「答える必要はないな……さて」


 テオドリウスは親衛隊を見据える。多勢に無勢といった様子だが、その物腰はそれこそ『四剣』に匹敵する――いや、それを超える力を所持しているのではないか。


「……少しばかり遊んでやりたいとも思ったが、さっさと引き上げるか」


 呟いた矢先、彼はバルコニーから身を投げた。即座に親衛隊が追随するが、追うこともできず立ち尽くすだけ。


「サフィ王女――」


 ラシェンが呼び掛ける。当の王女は倒れるレイテルを見据え、無念そうに目を伏せた。


「……ラシェン公爵。ここは親衛隊に任せましょう」

「大丈夫なのですか?」

「ええ……」


 サフィはそのまま部屋を出る。それにラシェンが追随すると、別所からまた別の親衛隊が現れた。


「おそらく先ほどレイテルを殺めた人物の主は、町中にいるのでしょう。けれど目的を果たした以上、間違いなく町を脱する」

「追うということですか?」

「いえ、違うわ」


 サフィは烈気をみなぎらせた瞳を伴い、


「ここで決着をつける」

「しかし、それでは――」

「リスクもある。けれど町の外に脱してしまえば、それ以上の被害が生まれる……そう思わない?」


 ――ラシェンとしても判断に困るところだった。


 サフィの言うとおり、先ほどの人間の主――ユティスの報告によればイドラという名だったはず。彼がどういう目的で動いているのか不明だが、少なくともレイテルと手を組んでいたのは間違いない。だからこそネイレスファルトにおける戦いが終わった後、彼らもまたこの国を訪れた。

 よって、野放しにしておけばいずれ国に大きな災いをもたらす可能性が高い。だからこそ、彼らが密かに動き戦力が整っていないと思しき今の段階で仕掛ける。それについては決して間違っていない。


 しかし下手すれば民に被害が出てしまう。


「先ほどの人物があっさりと引き上げたことから考えるに、敵はここから逃げの一手であるはず」


 サフィはなおも続ける。


「間違いなく私達と直接対決するだけの準備はしていない……もし仕掛けるのなら、今しかないわ」

「……無理は承知、ということですか?」

「ええ」


 ラシェンはその瞳の奥に確かな決意の色があるのを見て取った。

 説得はおそらくできない――いや、もし仕損じれば自らが責任を取るくらいの覚悟を持っている。


「……サフィ王女、一つ確認したいことが」

「何かしら?」

「私のことを含め、今回のことも……ずいぶんと性急な動きをしている。そこまでして無理をするのは、何か明瞭な理由があるのですか?」

「まず一番は、国の人の犠牲を減らすべく行動したいという考えから」


 サフィはそう言いながら、続いてラシェンを眼光鋭く見据える。


「そしてもう一つは……ある予感がするのよ」

「予感?」

「異能者との戦い……これはあくまで人間同士の戦い。けれど私達に敵対する勢力の一つ……クルズが語っていた相手は人間を逸した存在であるように思える。もしかしたら先ほどの異能者が語った奴、とはその人物のことかもしれない。そうした存在に対抗するべく、騎士団をさらに強化したい……国を守るために」

「その存在を相手するために、今回の敵とはできるだけ早く決着をつけたい、と?」

「ええ、そういうこと」


 ――王女はこの異能者との戦いについての知識はほとんどない。にも関わらず何かを感じ取ってイドラとの戦いをできるだけ速やかに終わらせようとしている。

 ラシェンとしても同意見ではあった――が、さすがに町中で戦闘となればフォローしきれない部分も多くなる。


 しかしそれをサフィが自らが背負うと語っている以上――


「手は、どのような方法を?」

「まずは彩破騎士団と合流を。なおかつここは敵の監視が必要ね」

「監視……先ほどの人物を、ですか?」

「ええ。城内に単独で潜入するだけの力を持っているのなら、今回の敵においてもかなりの実力者でしょう? 仮に敵の主に逃げられたとしても、彼を失うことは痛手にもなるはず。もっとも、できるだけ敵の主も倒すべく全力を尽くすけれど」


 そう言ってから彼女は親衛隊に指示を出した。


「先ほど出現した相手に対し術式を発動。詳細は部屋に残る親衛隊から聞きなさい。次いで各城門、城壁に同様の術式と警戒を」


 親衛隊は指示を出すべく速やかに動き出す。そこでラシェンは疑問を投げかけた。


「王女、術式とは?」

「魔法院の騒動で彩破騎士団の面々が活躍してくれたことにより、私達の陣営になびく人も現れた……そこで考案したのが、魔力を捕捉する術式。制約上その術式が使用できるのは半日程度だけれど、現状では十分でしょう」

「対策を立てていたということですか……敵を捕捉する術もあり、戦うことはできるでしょうな」

「ええ。もっとも彩破騎士団にとってもかなり辛い戦いになるでしょう。軍事演習からの連戦だから……けれど、それに対する準備も済ませている」


 ――彼女はもしかすると、こういう事態になることを想定し、策を練り準備を進めていた。ラシェンとしては感服する他ない。


「ラシェン公爵、あなたも一緒に」


 彼女の言葉にラシェンも礼を示す――異能者との戦い、ひいてはいずれくるもう一つの勢力との戦い。その中心は彩破騎士団だが、彼女こそ後ろ盾としてふさわしい。


「ええ、そうしましょう」


 ラシェンは応じる――そして二人は、城内を歩き出した。


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