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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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決意表明

 真実を知った直後、ラシェン達は戦いの渦に放り込まれていた。


「まったく、好き放題やってくれる……!」


 ラシェンはそう毒づき、傍らにいるサフィ王女と宮廷内を移動する。

 突如、城内に魔物が出現していた――おそらくレイテルとつながっている者達の仕業だ。彼女の権限を利用し、準備を済ませていたということだろう。


 王女のフリをしていた彼女ならば、このくらいのことは容易くできた――ラシェンは内心毒づきながら周囲を見回す。

 本来レイテルを捕らえるはずの兵士が魔物の掃討に回っているような有様であり、とにかくこの状況を打破しなければ――


「サフィ王女、どうする?」


 ラシェンは問う。もし何もなければ屋敷に引き上げるくらいの心づもりだったのだが、そうも言っていられない。

 そして彼女の答えには迷いがなかった。


「レイテルの所へ行きます」


 既に抜き身の剣を下げるサフィの声は決然としていた。


「追及しなければならない……何より、ここで逃がすわけにはいきません」

「……そうだな。しかし戦力は――」

「王女!」


 サフィに呼び掛ける人間が。ラシェンが視線を転じると、そこには騎士服を身にまとった男性騎士が幾人も。


「……親衛隊か」


 今回の演習には参加しなかった、王女直属の部隊。


「王女、ご無事で何よりです」

「ええ……状況は?」

「魔物については対処できております。我らは王女の護衛を」

「わかった。レイテルを捕らえるわ……全員、混乱の中でやらなければならない。覚悟はできている?」

「もちろんです」


 先頭の一人で応じる。サフィは頷き、剣で進むべき道を指し示す。


「まずは部屋を目指す……魔物の撃破は短時間で。難しいと判断すれば無視して突破するわ」


 親衛隊が動き始める。ラシェンはそれに追随し、サフィの手腕を眺めることにする。


(もし国を挙げて異能者と戦うのであれば……彩破騎士団と共に戦うのは、彼女になるだろうな)


 一連の事件で彩破騎士団の少ない味方であったサフィ。彼女は純粋に支えたいという気持ちで彩破騎士団と接触したはずだが、結果的に彼女は賭けに勝ち、異能者との戦いにおいて先頭に立とうとしている。

 無論矢面に立つことを望んでいるのかわからないが――


「公爵」


 そこでサフィが話し始める。


「異能者という存在……これがどれほど国を脅かすものなのか、今回の戦いでよく理解できました」

「そうだな……正直、異能によって国の者全てが翻弄されていた。魔法院の者もまさかという考えだろう」

「決して望んだ形ではないけれど、変革の時が来たのかもしれません」


 サフィが述べる。変革というのは――


「この国が、もう一歩発展のために先へ進む……そのために、私は彩破騎士団が必要であると感じていました」

「異能者との戦いを通して、宮廷内の掃除をすると?」

「そこまでは……そもそも私は単なる王女で、権限があるわけではないので」


 ほのかな笑み。ただこの話をラシェンにするということは――


「そして公爵、あなたもまたそうでしょうね」


 サフィは続ける。それはラシェンの密約などについてだろう。


「さすがに全てを理解することはできない……けれど、ユティスはあなたと手を組み前に進むと決意した。私はそれに従います」

「彩破騎士団と共に、王女はこれからも戦っていくと」

「ええ、その決意表明だと思っていい。もっとも、私が異能者相手に立ち回れる能力なんてないのだけれど」

「十分ですよ。共に戦ってくれる存在……あなたのような存在がいれば、彩破騎士団の面々も心強いでしょう」


 そこでサフィは笑みを浮かべた。


「そう思ってくれるなら、嬉しいですね……さて」


 サフィが立ち止まる。気付けば目的地――レイテルの部屋へ到達していた。

 親衛隊がまずは先導して扉を蹴破る。次いでサフィが入り、ラシェンもまた続き、


 そこに、目的の人物がいた。


「……さすがに、かく乱は無理のようね」


 笑みを湛えたまま、相手は語る――美しい金髪と美貌を持った彼女は、今見ても王族にふさわしい佇まいであるとラシェンは感じるし、また今の記憶が嘘なのではないかと錯覚してしまうほど。

 ただサフィは毅然とした態度で、レイテルに向かい合う。そこに姉を思っていた彼女は、いなかった。


「あなたが何者であるかは問わない。けれど、これだけ国を混乱させた罪……償ってもらうわ」

「そうね、バレてしまった以上、私がこの城に留まれる理由はない」


 窮地に追いやられている状況にも関わらず、笑みを絶やさないレイテル。何か手があるのかと考え、ラシェンはまず部屋を見回す。

 彼女以外に人はいない。だが魔物が突如現れたことを考えると――


「君を迎えに来る人物が、それほど経たないうちにやってくるな」


 ピクリ、とわずかに身じろぎするレイテル。


「なるほど、万が一策に失敗しても、そうした対応ができると考えているため、余裕を見せているのか。ともあれそれは決してこうした事態に備えたものではないだろう」

「ええ、そうよ」


 臆面もなく話すレイテル。そこでラシェンも意図を理解する。


 もし銀霊騎士団が勝てば、レイテルはいよいよ行動を起こした。彩破騎士団が敗れた以上どうとでもできるわけだが、最大の障害である聖賢者ヨルク――彼に多少なりとも傷を負わせることなどはできるはず――そういう算段だったのかもしれない。

 敵からすれば同士討ちの状況。ここを狙わない手はない。


 そこでレイテルは彩破騎士団を打倒後、魔物をけしかけてまずは演習場に襲い掛かる。それと同時に城内を今のように混乱させ、狙うは――


「王位を狙っていたのか?」

「女王になろうという気はあまりなかったわ。でもその権力を得ようとしたいと思ったのは事実だし、またそれを振りかざし思うがまま生きてみたかった」

「それは残念だが、叶えられそうにないな」


 ラシェンは言う。レイテルが言い放ったことが真実なのかはわからないが――


「ここで捕まえる……サフィ王女」

「ええ」


 彼女が剣を振る。それと同時に親衛隊がレイテルへと迫る。

 相手はなおも笑っている。これを打開できるほどの助けが来るとすれば、それは間違いなく異能者――


 次の瞬間、異変は起こった。


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