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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第一話
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風の聖剣

 爆発的な魔力の奔流――それが『創生』の使い手から生じたのを認識した時、予想通りだと思った。


「無駄だろうに」


 ガーリュはそんな風に呟きながら――兵の目を通し見えるロゼルスト軍を見据え、思考を巡らせる。


 大規模魔法を仕掛けてくる可能性を考える。結界を張れと命じれば兵士達は即座に応じるが、魔法による攻撃を防げなかった場合、多少なりとも兵を消耗してしまう。それを避けるには、結界を張るタイミングが重要だった。


 しかし、相手は魔法を使う兆候を見せない。やはりこちらに手があるとわかって、別の手を実行するつもりだろう。そして最終目標は、間違いなくガーリュ自身。だがこれだけの軍勢を前にして、彼らも難しいとわかっているはずであり――


 その時だった。ガーリュは『創生』異能者の魔力が次第に収束していくのを理解する。


「……できるというのか?」


 そこでガーリュは意外そうな顔を見せる。

 どうやら武器を創り出せるらしい――自分にはできなかった手段。けれど彼にはそれができた。原因は何なのか。自身と能力が違うためか。それとも何か別の理由があるのか――


「いや、ここは考えている場合じゃないな……とはいえ、どれほどの攻撃であっても、結界によって防ぐことができる」 


 思い直すと、ガーリュは再びロゼルストの軍勢に視線を巡らせる。

 同時に異能者の能力を考える――強力な力を封じた剣ならば、正面衝突して乱戦となれば味方に被害がでるだろう――だからこそ、戦端が切り開かれる前に『創生』との戦いが始まる。


「そして勝負は、一瞬だ」


 武器から放たれる攻撃――大地の魔力を利用したものだとしたら、先陣を切った兵士を滅する程の威力は出せるだろう。ならばそれを防ぐことができれば――相手は、手立てを失ったも同然。


 頭の中で理解すると同時に、兵士を前に進めた。目前にいるロゼルストの軍勢を蹂躙しようと、淡々とした足取りで兵を進める。

 勝負は、『創生』によって生み出された武器によって決まる――そう確信したガーリュは兵達に突撃を命じた。



 * * *



 騎乗し、馬を走らせるフレイラの右手には風の聖剣――その柄を握るだけで、凄まじい魔力が体の内に上ってくる。


 これはまさしく本物だと、フレイラ自身強く思う。


 馬の速度も申し分なく、最初の激突が始まる前にどうにか割り込むことができそうだった。

 丘を下りるとそこにはフレイラを見て驚く兵士の姿。けれど瞳の奥には少なからず恐怖が宿り――もしこのまま戦えば、敗北は間違いないと悟る。


 一瞥しながらフレイラは馬を走らせる。兵士達はすぐさま左右に分かれフレイラに道を譲る。その中で――


「――騎士フレイラ!」


 聞き覚えがあった。間違いなくアドニスだ。

 けれどフレイラは応じることなく、剣を握り締めながら馬を疾駆させる。その目的地は――最前線。


 やがて軍を率いる隊長クラスの騎士が事態に気付き、制止しようと声を上げた。けれどフレイラは止めなかった。説明する間に激突が始まってしまう。そこへ割り込んで剣を振るう――それが兵を残らず救う方法であり、自身の役割だとフレイラは思った。


 同時に――こんな荒唐無稽な策をはっきり信用したのは、あの軍議の場では間違いなくラシェンだけだったと思った。同意した王ですら、彼の言が無ければ策に踏み切ることはなかったかもしれない。


 そう思うと同時に、フレイラは馬上で苦笑したくなった。剣を握り戦場に向かおうとした寸前の会話。あれは間違いなく、色々と疑っていることを把握した言動だった。

 そこまで看破しながら共に行動していたという事実に、フレイラとしては驚く。加え、その洞察力に感服する他なかった。


 再度、騎士からの呼びかけが聞こえる。けれど馬の速度をさらに速めることで応じ、いよいよ最前線が近づいてくる。

 剣を握り締め、到着と同時に剣を薙ぐべくフレイラは準備する――その時、後方から蹄の音。おそらく制止するために騎士の誰かが追って来ているのだろう。フレイラは振り向きもせず断ずると一度大きく息を吸った。


 既に覚悟はできている。万が一、このユティスが創り上げた剣が動作しなかったのなら、間違いなく死ぬだろう。けれど、それも承知の上だった。

 おそらく彼が同じことを思っているはずだ――十万の大軍によって蹂躙される光景。そんなことを許せるはずもない。だからこうして、フレイラは馬を駆る。


 とうとう最前線へ躍り出る。目前には既に突撃を開始した敵兵達。

 フレイラの登場に味方側の兵士が驚き、槍の先を僅かながら揺らす。そして、


 馬を横に向け――槍をフレイラに向けようとした相手の兵へ、


 剣を、一閃した。



 * * *



 後方から蹄の音が聞こえたため、前線にいたフリードは緊張した面持ちと共に振り返る。

 それは紛れもなく気を紛らわそうとしたのだ。迫る大軍を少しでも忘れたく思い、現実逃避をしたかった。


 戦場に立った瞬間、何一つものを考えられなかった。そのため魔法を詠唱することすら忘れ、目前に敵兵が迫るまで体が凍りついたように動かなかった。


 無理だ――昨夜前線で戦うよう言い渡された時、悲鳴を上げそうになった。いっそ首を振れば楽になれると思っていたのに、家のことが頭をチラつき、何も言わず頭を垂れた。そのことを今まさに、後悔している。


 周囲にいる兵士達も似たような心境なのか、顔を硬くし槍先を馬鹿のように敵軍へ突きつけているだけだった。そこに勝機などありはせず、ただ敵軍の槍に屠られるのを待つだけ。

 だからこそ、何かに逃れるようにフリードは視線を転じた。そして、


「――っ!?」


 あのフレイラが、前線に姿を現したのを捉える。


 前線に赴く時、その姿は認めていた。平原後方にある丘の上で、なぜかラシェン公爵と共にいた。さらに言えば、その場にユティスの姿もあった。


 そこで、一つ気付く――別の作戦を同時並行で行うと聞いていた。詳細は聞かされていないが、ユティスの姿を見て彼がそうなのではと思っていた。

 根拠は一つ。式典襲撃の際に見せた魔法。武器を創り出したあの力。事情を知らぬ者達は、あれを単なる魔法だと認識していたが、違う。


 王を救った力で、目の前の大軍に相対する――刹那、フリードは無茶だと思った。十万の大軍になど、対抗できるはずがない。それは間違いなく、無謀極まりない行為。


 ――大地の魔力に干渉している事実を明確に認識できれば、フリードもまたその可能性を考えたかもしれない。だが前線に立つことで何も考えられなかったために、その可能性を今この場で考え付くことができなかった。


 だからこそ、無理だと悟る。フレイラは剣を握り馬を横に。その所作を見ながら、今にも敵兵達がフレイラに襲い掛かろうとしていた。


 フリードの体に力が入る。その女騎士に何かしら感情を抱いたことなどありはしなかったが、死に様を見せられ良い気分にはならない。そして、自分もまたそうなる――想起させるようで、吐き気がしてくる。


 フリードは目を背けようとした。そして彼女が剣を薙ぎ、


 完全に視界から外れる寸前に、見た――剣先から風が流れ、それが目の前の兵士を消し飛ばす光景を。



 * * *



 最初の一太刀――それと共に風が生まれ、まるでそこに存在していなかったかのように女騎士の前にいた兵士が消し飛んだ。


 魔法剣――そう認識したガーリュに、さらなる衝撃が訪れる。

 風が伝播し、彼女の周囲にいた兵達が諸共吹き飛ぶ。いや、そればかりではない。風は突風のように荒れ狂い、撫でた分だけ兵が一気に消えていく。


 その時に至り、兵の目を通しガーリュは彼女が握る剣が何なのか気付いた。


「あれは……風の聖剣……」


 空想上の伝説の剣を、『創生』により生み出したなどというのか――そしてその力を引き出すために、大地の魔力を利用したとでもいうのか。


 たちまちガーリュの心にまさか、という感情が生まれる。同時、おぼろげながら昔読んだ英雄譚を記憶から引っ張り出しながら、後続の兵に突撃するよう命じる。

 その間に風が流れ、やがて収まる。一振りで最前線にいた兵が丸ごと消滅した。


 消えた――その状況にガーリュは首筋に嫌な汗が生じるのを自覚する。だが、まだ兵はいる。倒すのは造作ない。


 そこでガーリュは前線の兵へ結界を張るよう命じた。風は間違いなく魔法だろう。だとすれば多重の結界で防ぐことも可能なはず。だからこそ女騎士が再度剣を振ろうとした時、後続の兵を一度立ち止まらせ多重の結界を構成した。


 けれど、その全てが無為に終わる。女騎士が馬上で再度剣を振る。それもまた一陣の風となり――結界は一瞬で吹き飛ばされ、風は兵へと当たり光となる。

 その風は先ほどよりも鋭く流れ、さらに後続まで食い込んだ。たった二振り。その攻撃で、前方に布陣していた兵が、喪失する。


「……馬鹿な」


 ガーリュはどこか悪い夢でも見ている気分となりながら、それでもなお兵に突撃させようとした。状況がこうまでひっくり返ると人間はどこまでも愚かになるのか、まともに思考が働かない。女騎士は一度様子を見ることを選択したのか剣を振るのをやめる。最早彼女にとって、白き兵はただ自分に飛び込んでくる鴨に過ぎないのかもしれない――


 そこで、ガーリュは飲まれるなと自分に言い聞かせ、すぐさま兵に方向転換を指示する。

 あの聖剣の効果範囲に入らなければいいのではないか――氷解しきれない思考の中で、ガーリュは周囲にいるウィンギス兵達の言葉を無視し、兵を分散させた。


 万単位の兵が、素早く花開くように横に戦列が伸びる。寡兵であるロゼルスト軍に対し、囲うように突き進む兵達は、圧倒的という言葉に尽きる。もし女騎士がいなければ、この突撃は成功し確実に相手の軍をくらい尽くしていたことだろう。


 けれど、いくら理路整然として素早く行動できたとしても兵は移動に時間を要する――対する女騎士は、まず下馬した。

 後方で呆然とする兵士に手綱を預け、生み出された剣を両手に構え、分散する兵に対しまず腰を落とす。


 次いで――突撃しようとする兵に対し、半円を描くような一閃を繰り出した。

 同時に剣先から風が生じる。それは大地に足をつけたが故に二度の風と比べてもさらに鋭く、兵達に届くのは一瞬のことだった。


 散開していた兵達に風は容赦なく直撃し――消え去る。一瞬の出来事。ほんの瞬きをする間。その時間で、


 攻撃しようと動いていた兵達が、全て消滅した。


 風――ここに至りガーリュは深く理解する。縦横無尽に駆け巡る剣風から、逃れる術は一切ない。風に触れ消失する兵は最早戦力にはならず、役目を果たさない。


 手は二つ。退却するか、なおも突撃させるか。しかし退却という選択肢は相手の追撃を意味する。その間に間違いなく兵はさらに減らされる。勝機が生まれるとは到底思えなかった。


 ならば、手段は一つしかない。


「――ガーリュ様」


 兵士の一人が慄き声を掛ける。けれどそれを完全に無視しながら、ガーリュは兵に命令した。


 あの女を――殺せ。そして剣を奪え。


 奪えば、あの力が自分達にも使える。加え残りの兵数でもロゼルストを潰すのは難しくない。風は確かに強力だが、剣を振らせる間もなく押し潰せばよい。

 そう断じたガーリュは再度突撃を敢行する。対する女騎士は、再度剣を振るべく構えた。


 距離はある。このままいけば兵が辿り着く前に女騎士の剣戟が決まるだろう。そこで、


 ガーリュは兵に指示を送る――結果、

 十体前後の兵が魔力を開放。一斉に、跳躍するように女騎士へ急接近した。


 兵達の身体能力は常人と同等――けれど内に秘める魔力を開放すれば、一時的にその能力は向上する。

 ただし魔力を開放すれば形が保てなくなり、直に消滅するのは確定――しかし、消滅するまでに女騎士を倒すだけの時間はある上、十数の兵なら安い代償だった。


 これには相手も僅かながら驚いた様子で、一瞬動きが止まる――が、すぐに剣を振ろうとする。おそらくその攻撃は決まるだろうが、目先の相手を倒すことに集中するだろう。ならば風の流れも乱れるはずで、第二波を放てば確実に接近し攻撃することができるはず。四方から同時に攻撃すれば、いくら女騎士でも防げないだろう。


 さらにガーリュは指示を送り、次の攻撃態勢を整える。女騎士は剣を振り、襲い掛かって来た騎士を消し飛ばす――が、襲い掛かって来た兵を損耗させたくらいで、被害が少ない。


 ここだ――ガーリュは会心の笑みを浮かべ、第二波を放つ。女騎士は即座に対応しようとするが、それよりも一歩早く兵達が襲い掛かる。

 やった――確信の言葉が胸中に浮かんだ、その刹那、


 ここに至り、ロゼルストの騎士団が彼女を取り巻こうとしているのに気付いた。


「な――」


 呻く間もなく、騎士団は女騎士に襲い掛かろうとしていた兵を一息に潰す。そして、

 とある騎士が馬上で――剣を掲げ後方の騎士達に指示を送った。


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