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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
269/411

出し尽くす

 フレイラはヨルクへ一歩踏み込んだ瞬間、いつも以上に足へ力を加えた。それによって呼応する体。刹那、一挙に間合いを詰めヨルクに肉薄する。


「――ほう」


 驚愕というよりは感嘆の声。構わずフレイラは剣を振る。

 それを杖で阻むヨルク。鍔迫り合いなど力に持ち込んだ勝負はせず、そのまま足を動かす。


 それによりヨルクの横手に回り込む。動作は一瞬だが、彼も気配で場所を察知し追随する。


「速力強化……具足が『創生』により生み出した武具か?」


 ヨルクの疑問は正解だった。速力の強化――それこそ、新たに『創生』によって得た能力。

 アシラのような圧倒的技術、ジシスの熟練した武芸、リザのような異能と破壊力――それらとは一線を画す、相手を翻弄するような速力向上。それが『創生』で生み出した武具の目的。


「なるほど、俺の技量に対し、能力で上回る選択をとったか」


 全てを理解するように呟くヨルク――フレイラ自身、勝てるとしたらそこしかないと考えていたし、ユティスもまた同意見だった。

 また同時に周囲の気配探知能力も高まっており――残る彩破騎士団の中で、アシラなどフレイラと同行していた者達はバルゴを含めた騎士と戦っている。ユティスやティアナ、イリアについてはフレイラ達へ向かおうとした騎士の露払い。彼らはきちんと役目を全うし、問題はない。


 長期戦になれば不利という懸念は、そもそもフレイラ自身短期決戦のつもりなので考える必要はなかった――根本的に短時間しかこの戦法をとることができない、ということでもある。

 つまり、勝負はほんのわずかな時間。その全てに力を集約し、ヨルクを討つ――それが、彩破騎士団の策だった。


 ヨルクもおそらくそれに気付いているはず。フレイラはそう直感しながらも剣を振るう。高速で放たれる剣戟。だがそれを相手は杖で受け流す。

 既に並の騎士では知覚できない段階に至っているはず――だがフレイラの速度にヨルクは反応し、あまつさえ視線すら送ってくる。


「どうした? それで終わりか?」


 ヨルクが挑発的に問い掛ける。いや、彼は間違いなくわかっている。どのタイミングでフレイラが仕掛けるのか。それを見極めようとしている。


(もし攻勢に出れば、勝負は決する)


 自分が勝つのか、ヨルクが勝つのか。一つ言えるのは、今こうやって聖賢者と斬り結んでいるのは、間違いなく奇跡ということだ。


(ユティスの……いや、みんなの力を背負って、私は戦っている)


 彩破騎士団の命運が自分の手に委ねられている。そう感じた瞬間プレッシャーもあった。けれど、それ以上にやらなければならないという闘争心に、火が付いた。


(ああ、そうか)


 フレイラはめまぐるしく変化する情景の中で、思う。


(私に、ユティス達は全てを預けた……託されるとは、こういうことなのか)


 最初は復讐のため。そしてただ純粋に強くなりたいと願った。

 フレイラは誰かのためではなく、自分のために強くなった。ユティスが成長していく姿を見て、悲劇もあった。けれど彼は全てを許し、フレイラを迎え入れた。


 仲間達は疑問の余地もなく、ユティスと同様にフレイラを認めた。ヨルクとの戦いが差し迫る中でそういう自覚はなかった。けれど今、こうして戦っている今だからこそ、強く感じられた。

 そう思った矢先、フレイラの体の中から自然と魔力が溢れ出た。まるで体が使えと――運命が決まるこの戦いで出し尽くせと言っている。


 力を増幅させる。まだフレイラは本命の力を起動させてはいない。しかし、


「一段階上げたか。まだいけるのか?」


 ヨルクが状況に気付き問う。だがフレイラはそれを無視し、応じるように速度を上げた。

 つんざくような金属音が響く。ヨルクが杖で剣を弾いたが、それまでとは明らかに音が違った。咄嗟の反応で、どうにか刃を逸らした――そんな風にフレイラは思った。


 それは果たしてわざとか、本物か。


(構うか……! 私は策を遂行するだけ)


 足を動かす。さらに一歩踏み出した瞬間に最高速度に達し、ヨルクへ間合いを詰める。

 聖賢者はそれを杖でいなし続ける。魔法を使う様子はない――というより、今この時では魔法など隙になると彼もわかっている。


 フレイラの体表面には、十二分な膜状の結界が構築されている。それを突破するには相応の魔法を行使しなければならない。例え無詠唱魔法と言えど、発動直後は隙が生じる。もっとも熟練の魔術師であるヨルクからすれば瞬きをする程度の時間しか、隙はないだろう。

 しかしフレイラの速力が、その隙を生み出すことにリスクがあると直感させる。


(だからこそ、ヨルクさんは見極めている……こちらが乾坤一擲の技を繰り出し、その後生じる隙に照準を合わせている)


 もし攻撃が不発に終われば、間違いなくヨルクの勝利。とはいえフレイラは魔力が尽きるまでに仕掛けなければならない。現状はもって数分。

 ヨルクはどう頑張っても隙は見せないだろう。防戦に回りカウンター狙いのヨルクは、まさしく鉄壁だった。


(やはり、挑むしかないか……)


 フレイラは胸中呟く。ただこれは、予想の範囲内だ。


『フレイラが僕の創った武器で挑みかかれば、絶対ヨルクさんは警戒するはずだ』


 そうユティスは作戦を組み立てる際に語った。


『十万の敵兵を打ち砕くだけの力を持っているとはヨルクさんも思わないだろうけど、速度強化により一瞬でも隙を見せれば牙をむく……そういう戦法だとわかれば、必ず守勢に回る。フレイラ自身の魔力量を考えれば、持久戦に持ち込む方が明らかに有利だし』


 このまま攻めていても、迎える結末はわかりきっている。けれど、


『勝つためには……フレイラの持ちうる力を活用した手段としては、一番望みがあるだろうな』


 ユティスは語る――そこで彼は、笑った。


『だから、正面突破……これで決しよう』


(そうだね、ユティス)


 自然と、口の端に笑みを浮かべていた。それをヨルクが認識したかはわからないが――彼は杖を構える。来るとわかったらしい。

 悟られたが、フレイラは構わなかった。真正面からの攻撃。刹那、ありったけの魔力を刀身に注ぎ込む、フレイラはヨルクへ肉薄する。


「来い――!!」


 ヨルクもまた応じる構え。そして二人は、剣と杖を合わせ――まばゆい光が、周囲を包み込んだ。


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