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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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聖賢者を打ち破る策

 この戦場にいる多くの人は、フレイラが切り札であるとは思えない――が、ヨルクは彩破騎士団の行動がどういう意味合いなのか読み切っているらしい。


「さっき、ユティスと会った」


 さらにヨルクが告げる。


「どういうことをするつもりか、俺に目にはわかったが……指示では彩破騎士団計略を全て打ち破った上で倒すとのことだったから、何もせず引き上げた」

「何が言いたいの?」

「単にもし策を行うなら、始まる前にしておいた方がいいという話だ」


 肩をすくめるヨルク。つまりそれは――ユティス達の策がきちんと発動するまで待つという意味だ。


「……それで、いいんですか」


 フレイラが問う。ヨルクは笑い、


「ああ、構わない……さて、どう出る?」


 聞き返したヨルクだったが、その顔に浮かぶ表情を見てフレイラは確信する。

 これから何が起こるか、聖賢者は明確に理解している。


「……どちらにせよ、変更はできないか」


 フレイラは呟くと同時に、地面に剣を突き立てた。

 それと同時に魔力が生じる。何か策を――というわけではない。これは単なる合図だ。


 直後、森で異変が起きる。突如ズアッ、と魔力が鳴動する。

 ロイやバルゴが目を見張る。その間もヨルクだけはフレイラを見据え、佇んでいる。


「ユティスが何をしようとしているのか、少しばかり疑問はあった」


 そうヨルクは告げる。


「だがこの魔力……そうか、この場所にも、あったのか」

「この戦いだけの一回限りですけどね」


 ユティスが用いる『創生』の異能――ヨルクは肩をすくめた。

 異能で、土地の魔力を利用したもの――それを利用しヨルクを打ち崩す算段。この演習場付近で『創生』が仕えるとわかったが故の、作戦。


 とはいえ、単純に能力を強化しただけではおそらく勝てない。それはフレイラも痛いほど理解している。


「だが、それだけではないだろ?」


 ヨルクが問う。その間に後方から騎士が近づいてくる。

 なおかつバルゴもまた指示を飛ばす。囲み彩破騎士団の逃げ道をなくす。


 そうした中で――ユティス達も現れた。


「フレイラ」


 ユティスが何かを投げる。フレイラはそれを受け取り――腕輪だった。

 ヨルクから視線を外さないままそれをはめる。ただ剣のように永続的に使えるような物ではない。


「――確か、情報では剣以外にも武具があったはずだ」


 ヨルクが言う。全てお見通しというわけだ。


「つまりフレイラ……君が『創生』によって得られた武具は三つだ」

「そうですね」


 構える。フレイラ自身、改めて思う。

 眼前にいる聖賢者という存在――聖騎士とは異なり本来剣を用いた武術の心得などない、と考えてもおかしくない。


 けれどヨルクからは、魔術師でありながら圧倒的な武の気配がある。


(まともに戦えば、絶対に負けるでしょうね……)


 それは傍らにいるユティス達も確信していることだろう。


「どうやって戦う?」


 ヨルクが問う。こちらを窺うような気配を漂わせ――フレイラは呼吸を整える。


(果たしてこちらの計画に気付いているのか、それとも……)


 推測はできているかもしれない――どちらにせよ、フレイラとしては選択肢はない。


「さあ、来い」


 ヨルクが告げる。フレイラはどこか胸を借りるような心境で――最初の一歩を、踏み出した。






 ――ここで話は遡り、決戦前のある日。フレイラはヨルクとの戦いの際にどう立ち回るか――それを協議していた。

 場所は庭園で、食後のティータイム。白いテーブルにつくのは、ユティスにフレイラ。そして対面する形でティアナとリザ。


「正攻法では、十中八九無理だろうな」


 そう述べたのはユティス。


「そもそもあの人に真正面から打ち合いをするのは……無謀極まりない」

「確かに、勝てる気がしませんね」


 と、ティアナがこぼす。それにリザが肩をすくめ、


「ずいぶんと弱気ねえ。これから倒さなきゃいけない相手だというのに」

「僕らはヨルクさんに色々教えてもらっていたことも関係しているけどね……間近で見ていたからあの人の強さは知ってる。この国の中で、間違いなく最強の戦士だ」

「それをフレイラさんと武具を使ってどう倒すつもり?」


 ユティスはそこでフレイラを一瞥。


「まず『創生』を使う際の武具……これは以前決めた内容で問題ないと思う。そして計画として森の奥で一時的に使える『創生』武具の作成……この二つを組み合わせて、勝機を見出す」

「ぶっつけ本番なのが厳しいところよね」


 新たに『創生』で生み出された武具は永続的に扱えるため、二つだけなら鍛錬できる。しかし三つ目については演習までにユティスが擬似的に作成し扱えるようにするといっても、本番で使用する武具とは大きく違うだろう。


「問題はそこ……なんだけど、こればかりはどうしようもないからね。とにかく、今ある手札でどうにかするしかない」

「まず、ユティスさんから見てヨルクさんを倒せる手法は思い浮かぶの?」


 リザの質問。ユティスは一考し、


「戦略の読み合いとか、心理戦は辛い。圧倒的な力の差で上回るなどしないと厳しいと思う」

「その力を生み出すのがユティスさんの『創生』ってわけね」

「そう。三つ目の武具に例えば魔力増幅機能を加え、『創生』した二つの武具の強化を施す……というのが一番基本に忠実とした戦法だ」

「けれど、力の差がどれだけつくかわからないわよ?」


 フレイラが言う。そもそも基本的な能力が違いすぎる。力を上回ることはあるとしても、よほどのことがない限り相当な差がつくとは思えない。


「そうだね。加え魔力増幅なんて無茶をするとなれば……その場しのぎで創り出した武具はもって数回、といったところかな」


 さらにハードルが上がる。


「つまり、単純に力で押し切る場合はその数回でどうにかしなくちゃならない」

「無茶苦茶よね」

「……ただ、僕としてはここが好機だと思っている」


 思わぬ発言。フレイラが彼に注目すると、


「ヨルクさんの方も考えるはずなんだ……彩破騎士団がどうやって自分を攻略するのか。仮にフレイラが相手になるなら、『創生』の武具を所持していることからその力を利用して倒すという手段になるって考えると思う」

「実際、それしか方法はないし」


 フレイラは肩をすくめる。


「たぶん私達が新たに武具を創ったことも把握しているはずよ」

「そうだね……重要なのはここだ。ヨルクさんの力を上回る手法……それに加え、あの人を出し抜く戦術を組み込む」

「読み合いは避けたいのではないの?」


 フレイラの質問に、ユティスは苦笑した。


「確かに……でも結局、そこでも勝たないとあの人を倒すなんて無茶はできないよ」

「ユティスさんには、考えがありそうね」

 リザの言葉。するとユティスは肩をすくめ、

「フレイラ自身の立ち回り方を含め、検証しなければならないことは山ほどあるけど……僕のはあくまで案の段階。出し抜く策を、みんなで完璧に構築しよう――」


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