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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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最強との対峙

 ――彩破騎士団が戦いを行う間に、ラシェンもまた動いていた。


 その主な行動理由は、レイテル王女に関すること。今回の戦いにおいて、何かまずいことがあったならすぐさま異能を使うために行動すると推測したためだ。


「現時点で動きはなし……とはいえ、油断はできんな」


 仮に彩破騎士団が勝利しても、レイテルはその全てを無にすることができる。対人という観点において、これほど面倒な異能も存在しない。


「しかし、異能を用いて記憶を改ざんするにしても、それなりに魔力が必要なはずだ」


 よって、ラシェンは魔力の集積点についても探していた。すぐに行動するとなれば間違いなく王都の中のどこか。宮廷内である可能性も否定できないが、現時点で怪しい場所は見受けられないし、サフィ王女もいる。中で行動を移す可能性は低いのではないか。


 仮に外であれば、マリードの一件があったように地下に魔力集積点を作成することは可能。ラシェンはそれについて情報を集めているが、結果は芳しくない。

 ラシェンとしても、この点については仕損じるわけにはいかない。どうするか――


「――公爵」


 ふいにノックと共に侍女が姿を現した。


「クルズ様がお見えです」

「通してくれ」


 言葉の後少ししてクルズが現れる。笑みを浮かべるその表情を見て、ラシェンは肩をすくめた。


「情報を持ってきたのか?」

「ええ」


 応じたクルズはにこやかな表情のままラシェンへ近づいてくる。


「情報、といっても精々レイテル王女の動向くらいだろう――」

「異能をどう使用するか、その推測が立ちました」


 彼の言葉を聞き、さすがのラシェンも驚き彼を見る。


「どういうことだ?」

「推測ですよ、あくまで。しかし確度は高いかと」

「城内で行使できるのか?」

「おそらくは」

「それほどの魔力があるとは思えん……いや、あるにしても王女が簡単に使えるものなのか?」

「そこが、思考における最大の難関でした」


 クルズの言葉にラシェンは眉をひそめる。


「何を言っている?」

「そこがネックとなり、私達は王女がどのように動き出すのか判断できませんでした。しかし、とある報告が舞い込んだことにより、議論の必要がない結論に達しました」


 ラシェンは黙し続きを促す。どういう意味なのか――


「私達が結論を導き出したのには理由があります。王女はユティス様達の記憶を操作する前、一度異能を行使したと説明しましたよね? その場所を突き止めたのです」

「それと今回の件、どのような関係がある?」

「非常に密接に関わっていますよ。その場所を発見したことで、レイテル王女が現在異能を行使できる状況にあると我々は理解しました」

「今、だと?」

「はい。とはいえ使う場合それなりに準備が必要でしょうから、動いてはいない。騎士団の戦いが終わるまでは、静観するつもりでしょう」

「話が見えてこないのだが」

「これについては……彩破騎士団が勝利した時、ご理解できると思います」


 ラシェンはじっとクルズへ視線を送る。どうやらここで語るつもりはないらしい。


「わかった……ならば、異能発動の対策はどうなっている?」

「タネがわかればこちらも動きようがあります。既に王女に気付かれないうちに準備は済ませてあります。もし彩破騎士団が勝利したなら、王女は迷わず異能を行使するでしょう。その時、私達の罠が発動します」

「他の者に危険はないのか?」

「異能だけをどうにかするものですから」

「わかった。ならば私もこれ以上語ることはせん」


 クルズ達が手に入れた情報が気にはなったが――


「そう瞳で要求せずとも、彩破騎士団が勝てば必然的に明瞭となりますよ」


 と、クルズは肩をすくめる。


「語らないのは、相応の理由があるためです。この事実は、ラシェン公爵にとっても信じられないものでしょうから」

「何が隠されていたのだ?」

「根幹……この戦いの根幹を大きく狂わせる内容です」


 それほどのもの――ラシェンは追及したかったがやはりどこまでも話す気の無いクルズ。


「これについては、私達の策が成功した時点で理解できますよ」

「……失敗する可能性は?」

「確実にできる、と断言することは無理です。しかし、相手は私達のことに気付いていない。勝算は十分にある」


 ラシェンからしてみれば、降ってわいたような話。なおかつ自分の手では動かすことのできない事態。

 喉の奥に引っ掛かるものを感じるのは事実だったが、ラシェンとしては手の出しようがない以上、返答できる言葉は一つしかなかった。


「……わかった。何かあれば動こう」

「ええ」


 にこやかに応じるクルズ。その笑みがひどく不気味なものであると、今更ながらラシェンは感じた。



 * * *



「……さて」


 フレイラ達が到着したと同時、ヨルクが声を上げ軽く伸びをした。


「いよいよ最終決戦だな」

「ヨルク、お前は――」

「騎士バルゴ、言っておくがこの場で戦ってもあんた達は十中八九負けるぞ」


 機先を制すヨルクの言葉に、フレイラは驚いた。


「前線にいた面々に、彩破騎士団は圧勝した……元々騎士全員を相手にすることも想定していたと予想できる彼らだ。結果として銀霊騎士団の戦意を挫き、ここまで来ることに成功した」


 と、ヨルクは次にエドルへ目をやった。


「下がっていた方がいい」

「……ヨルクさん?」

「君の異能は確かに強力だが、今回の戦いには向かない……君自身の技量がまだまだだからな。おそらくフレイラさんの後方にいる騎士に先手を打たれて戦死扱いだ。へたに負傷するなら、やめておいた方がいい」

「ですが……」


 ヨルクが彼を見る。それにエドルはじっと目を合わせ……やがて、頷いた。


「わかりました。従います」


 ヨルクの眼差しに何を感じ取ったか――エドルは引き下がる。

 そしてヨルクは、フレイラ達へ視線を送った。


「一応訊くが、騎士シルヤとの戦いはどうなった?」

「申し訳ないが、さっさと終わらせてもらった」


 ジシスが返答。するとヨルクは破顔した。


「ま、そういうことだな……騎士バルゴ、あんたはこの銀霊騎士団に命を賭けているようだが、その賭けも危ういな」

「な、貴様――」

「最後は俺次第だな。前線の『四剣』や『三杖』を無傷で撃破できる相手だ。この場に残る面々で攻撃しても、彩破騎士団の本命については絶対に到達できない。どう足掻いても、彩破騎士団の目論見通りになる」


 断定したヨルクは、次に笑みを戻し続ける。


「だったら、同じ王国の騎士団同士これ以上争う必要もないだろ。俺と大将であるフレイラさんとの一騎打ち……それで全てを終わらせようじゃないか」


 沈黙が生じる。フレイラは、ロイなどから向けられる視線――つまり本当にフレイラが切り札なのかと、疑っているのを確信した。


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