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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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聖賢者の考え

 ロイが前線にいた『四剣』の二人と『三杖』の一人が敗北したと聞いた直後、どこかにふらりと歩いていったヨルクが戻ってくる。


「戦況は……悪い方向みたいだな」


 ヨルクは周囲で話しこむ面々を見ながらコメントする。


「ま、先の二つの事件を思い返せば、一筋縄ではいかないのは自明の理だったろうに」

「……ヨルク殿」


 そこでロイは声を上げた。


「前線の戦況は、どうやら芳しくない様子」

「そうみたいだな」


 ロイは彼にラグア達が敗北したことを告げると、彼はあごに手を当て、


「どんな感じで敗北したのかが問題だな。傷を負わすことができたのか、それともあっさりと敗北したのか」

「報告によると、彩破騎士団側の圧勝という状況のようで」

「なるほど……そうなってしまうと、銀霊騎士団としてはまずいことにならないか?」


 ヨルクの問い。するとそれに反応したのは、騎士バルゴ。


「まずいとは、どういうことだ?」

「確かに『四剣』や『三杖』はこの国の精鋭……負けたことが問題というわけじゃない。俺が考えているのは、ロゼルスト王国の精鋭――とりわけ選りすぐられた面々が敗北するとなると、実力的に彩破騎士団の強さが際立っているだろう、ってことだ」

「つまり、我らの方が下だと言いたいのか?」


 怒りすら滲ませバルゴは言う。それに対し、ヨルクは肩をすくめた。


「この場合は、彩破騎士団の方が一枚上手と言った方がいいのかもしれないな」


 その言葉に対し、バルゴは表情を険しくする。次いで他の騎士に話し掛け、伝令の指示を出す。


「……ふむ」


 そうした光景を見てヨルクは一つ呟いた。ここでロイは彼に話し掛ける。


「何か、考えがあるのですか?」

「ん? いや、考えなんてないさ。単にバルゴがこの戦況をどう判断し、次にどうするのかなと」


 深い意味はなかったらしい。ヨルクが笑っているところを見ると、やっかみの意味合いもあったのだろう。


「反応からして、銀霊騎士団に最も入れ込んでいるのは、騎士バルゴだろうな」


 さらにヨルクは言う。ロイもそれには同意する。一方バルゴは残る『四剣』達に指示を送っているところだった。


「まだここに来ようとしている様子はないので、彩破騎士団も入口付近で足止めされているのでしょう」


 ロイが声を発すると、ヨルクは小さく肩をすくめた。


「もし突破されたら、あっという間にここに到達すると思うぞ」

「……何か根拠が?」

「根拠というか、戦いの流れとして」


 ロイにとっては訳の分からない理由。眉をひそめていると、ヨルクは説明を始めた。


「彩破騎士団側としては、この戦場内にいる騎士全員を相手にするわけにはいかない――『四剣』相手であっても圧勝だというのなら、それもできなくはないと思うが。彩破騎士団として戦いを少しでも楽にするなら方法は一つ。圧倒的な武威を見せ、騎士達の士気を下げ戦意喪失させることだ」

「……その中で『四剣』の撃破などは、よほどインパクトがあったでしょうね」

「だろうな。そうした事柄から彩破騎士団側としてはこれ以上俺達と戦う意味はないとでも言って、騎士団の戦意を喪失させる。例えば騎士ジシスなんて、見た目も相当なものであるため、矛で騎士を吹き飛ばしでもすれば騎士達にも動揺が広がるだろう。そうして彼らは、入口付近を突破し、この本陣まで近づいてくる」

「……例えどれほど騎士がいたとしても、戦意を挫き彼らの横を通ることで、ここまで到達するというわけですか」

「そういうことだ。とはいえ、騎士の中には挑む人間だっているだろう。シルヤなんかがいい例だな」


 その言葉と同時、駐屯地の入口付近で光が。同時に雷光が発する破裂音が聞こえ、ヨルクは笑う。


「俺の見立て通りだな。おそらく今、騎士シルヤが戦っている」

「彼女が対抗できると?」


 ロイの質問に、ヨルクは肩をすくめる。


「彼女も間違いなく逸材だとは思うが……まあ、無理だろうな」

「……その様子からすると、何か思いついているように見えますが」

「これはあくまで推測であるため、詳しい言及は控えることにする……さて、ここから騎士バルゴはどう動くか」


 今から起こることがどのようなものなのか悟りきった表情でヨルクは言う。ロイは彼の横顔を見た後、この後の展開がどうなるのか推測してみる。

 とはいえ文官の身である以上、戦術的な思考など基本的にできない。騎士がやられたという情報を聞いて、現状有利なのか不利なのかを判断するくらいだ。


 ただ現在シルヤが戦っているが、それも長くはもたないだろう理解はできる。『四剣』を打ち破った戦力が無傷であるならば、シルヤ一人――いや、シルヤの周囲には勇者オックスなどがいる。けれど、そうした戦力を加えたとしても、到底勝てるとは思えない――


「ロイさん、そう深く考える必要はないぞ」


 ヨルクが言う。ロイは即座に彼へと顔を向けた。


「戦いが始まる前、色々と想定していたが……その内の一つに当てはまっているな。いずれ結果はわかるし、今グダグダ考えても仕方がないさ」


 仕方がない――どこか他人事のようにヨルクは語る。


 いや、実際他人事だとロイは思う。彼としては彩破騎士団側に弟子とでも言うべき人物がいる以上、肩入れしたくなるのは理解できるし、こちら側にいることは不本意だろう。

 それに、この勝負で負けたとしても彼の絶対的な立場は揺るがない。しかしロイは違う。ここで敗れれば、それは政争に敗れたことを意味する。


 その時、バルゴの怒声が周囲に響いた。連絡のミスか、それとも悪い状況に陥ったのか。

 そんな彼の声を聞いていると、ヨルクがさらに口を開いた。


「騎士バルゴや騎士メドジェは、おそらくこの銀霊騎士団に全てを捧げる気だろう。それはおそらく、この騎士団が勝つと考え、また出世の早道になるだろうという判断からだ」

「……それを崩されないために、そして私達の目的のために、こうして戦力を集めたはずです」

「そうだな」


 頷くヨルク。ロイとしては何が言いたいのか判然としない部分があるため、どうにも返答に困る。


「で、だ。ロイさん。一つだけ訊きたいんだが、いいか?」

「答えられることならば」

「そう言われると、さすがに難しいかな。いや、魔法院の後ろ盾になっている人物が何者なのかと思ってさ」

「……答えられるとお思いですか?」

「真っ正直に話す気が無いのはこっちも理解しているさ。だけど、ヒントくらいはもらいたいなと」


 ロイは無言となる。彼の言動について疑問もあるが、なんだか不気味な感じでもあった。

 彼はどこまで状況を把握し、何をするべくこの戦場に立っているのか――


「――とはいえ、だ。俺としては一つの可能性を推測している。それが当たっているかの確認をしてもらいたい」

「無理ですよ。答えられません」


 にべもなく返答するロイ。するとヨルクは笑った。


「そっか。ま、仕方のない話だな」


 あっさりとあきらめた彼。ロイはその表情を窺うと、今後の展開を予想でもしているのか、どこか楽しそうな気配さえあった。


「――心配するな」


 その時、ヨルクは語る。


「もしここに彩破騎士団が攻め込んできたとしても、俺は全力で応じる」


 それは、もしかするとただ彩破騎士団と戦いたいだけ、ということなのでは――ロイはなんとなくそう思ったのだが、口に出すことはなかった。


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