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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
263/411

始まる作戦

 悠長なヨルクの行動――だがユティス達は仕掛けることなどしない。


「出番が来るまでは暇を潰すしかない……ま、そんな感じだ。銀霊騎士団としては俺を旗下に加えたはいいが、完全に信用されていないという話だ」

「その状況下で、戦おうとしている?」

「言っておくが、攻め込まれたら全力で戦うさ。けどまあ、俺に彩破騎士団側に利するようなことをして欲しくないために、何もするなという指示を出しているんだろう」


 小さく欠伸をするヨルク。ユティスとしては戸惑う他なく、沈黙するしかないが――


「……銀霊騎士団側も、正面にユティスがいない時点でどういう策なのかは理解できている」


 ヨルクが語る。そこでユティスは頷いた。


「重々承知しています」

「この作戦の肝は、ユティス……お前がどれだけ銀霊騎士団の裏をかくような者を創り出せるかどうかで決まる」

「……ヨルクさんは」


 ユティスは、おもむろに口を開く。


「この戦いでどうなることを望んでいます?」

「望む、か……その前に、一つだけいいか?」

「どうぞ」

「師匠のことだ」


 マリードの――沈黙していると、ヨルクはまたも苦笑した。


「うちの師匠は、言ってみればずいぶんと追い詰められていた。元々そう権力を所持していたわけでもないのに、力を失ってしまったことでさらに状況が悪化した……だからこそ、あの人は力を失った時焦った。その果てに、最終的に暴走し……俺も止められなかった」

「ヨルクさん……」

「けど俺は、ユティス達を恨んでいるわけじゃない。それは理解してもらうと助かる」

「はい」

「俺がこの戦いで望む結末だが……正直、俺はどちらが勝っても立場は変わらないだろう。聖賢者という立場は、それくらい強固だからな。この戦いで勝利した騎士団と共に戦う……それだけだ」

「ならヨルクさんは、どちらと戦うのを望んでいますか?」


 問い掛けに、彼は笑みを浮かべただけ。だが、ユティスとしてはそれで十分だった。


「わかりました。けど、この戦いでは全力で応じなければならない……大変ですね」

「お前達の試験的な意味合いもある」

「試験?」

「異能者は脅威だ。中には先の戦争を起こすことができるほどの存在もいる……一騎当千の実力を持つ異能者と今後渡り合っていくためには、精鋭と言われる戦力を突破できるくらいの実力がないと話にならない」

「手厳しいですね」

「だがこれは、銀霊騎士団にも同じことが言える」


 やれやれといった様子でヨルクはさらに続ける。


「異能者……それも十万の敵兵を消し飛ばした武具をも生み出せる使い手を相手にする。何の実績もない銀霊騎士団は、それをもって自らの武威を証明しなければならない。だからこそユティス達と戦うことにした。そして全ての策を受け切るだけの戦力を用意した。俺を含めて」

「なら、もう一つ質問を」


 今度はティアナが口を開いた。


「私達に、銀霊騎士団を打ち破れる力があると?」

「俺はネイレスファルトから戻ってきて以降彩破騎士団の動向を紙の上でしか確認できていないからな。正直俺にとってはわからないことが多いから、未知数という評価をしておくよ」

「そうですか」

「だが、一つだけ……フレイラさん達が戦っている『四剣』や『三杖』……この辺りをきちんと対処できないことには辛いだろう。ユティスが策を講じるのは、俺と戦う時の話だろう? 駐屯地には精鋭も控えている。何か考えはあるのか?」


 その辺りのことが気になったため、こうして話をしにきた、という感じだろうか――ユティスは思いつつ、話し出す。


「……僕らの策をさすがに答えることはできませんが、一つだけ」

「何だ?」

「決して無策ではないですよ……ただ、ヨルクさんが思っている策とは少し異なるかもしれませんが」


 ユティスの言葉にヨルクは眉をひそめる。しかしそれ以上何も訊くこともなかった。


「……わかったよ。俺の所まで到達できることを期待している」


 彼は背を向け歩き出す。それを見送りつつ、ユティスはさらに思考する。


(この作戦は、全てあなたのためにあるもの……)


 聖賢者という存在は、ユティスやティアナにとってみれば遥かな高み。そしてヨルクという存在は、紛れもなく今回の戦いで最大の障壁となっている。

 その相手を――いや、その相手だけを倒すためだけに考え出された策。ユティスは一呼吸置いた後、作業を再開する。


「ティアナ、念の為周囲を見張っていてくれ」

「わかりました」


 頷いたティアナは警戒を始める。イリアもまた同じように動き出し――静かに、ユティスの作戦が始まった。



 * * *



 ハベルトが先んじて動き、それにジシスが応じるような形で、戦端は切り開かれた。彼の剣とジシスの矛がぶつかり合い――押し勝ったのは、ジシス。


「ふむ、見事な身体強化だ」


 ジシスはそう評価しつつ、追撃を加える。防御するハベルトだったが、恐ろしい程の鋭さを伴った彼の矛を食い止めるだけで精一杯の様子だった。

 一方、リザとラグアの戦いも始まった。フレイラが所持している情報では、ラグアは槍術と魔法を組み合わせた技法を使うと聞いている。


 リザは真正面から踏み込み、拳を見舞う。それにラグアはまず、結界を構築することで対処した。


「――異能は使わないのか?」


 彼が問い掛けを発する。リザは拳を引き戻しつつ肩をすくめ、


「悪いけど、あなたに使う必要はないと思うわよ」


 挑発的な言動だったが、ラグアは眉一つ動かさない。ならば使えないまま死ねと言わんばかりに反撃を行う。

 その槍には、明らかな魔力が存在していることをフレイラも認識する。まともに食らえばリザとて無事では済まないだろう。


「――あなたは、こう思っているかもしれない」


 リザが槍を避ける。するとフレイラに僅かだが風が到来する。槍には、風の魔法が加わっているらしい。


「自慢の槍術と魔法……この二つを高いレベルまで引き上げた実力は、唯一無二のものだと思っているのよね?」

「違うと言いたいのか?」


 槍を放ちながらラグアは問う。


「ええ、あなたのような使い手、ネイレスファルトにはたくさんいたわね」

「――単なる闘士と同じ扱いをしないでもらおうか」


 どこか怒気を発するような声でラグアは言う。だがリザは笑い声を上げながら返答する。


「あなたの技量は、確かにそこらにいる闘士と比べればずっと強いわね。けど――」


 放たれる槍。リザはそれを見極め、刃の少し手前を掴んだ。


「私にとっては、さして珍しいものでもないのよね」


 リザは蹴りを放つ。届かない位置ではあったが、その足先には魔力――衝撃波が、ラグアを襲った。


「ぐ……!」


 それを見に受けたラグアは、槍に対するリザの拘束を振りほどきつつ後退する。


「さあて、ちょっとばかりダメージを食らったわけだけど、まだやる?」


 ラグアは構え直す。その目には、明らかに殺意が宿っていた。

 一方、ジシスとハベルトの攻防は一進一退――というよりは、徐々にジシスが上をいく展開となっていた。


「ふん!」


 気合を入れた声と共に何度目かわからない矛を薙ぐ。ハベルトはそれを堪えてはいるのだが、フレイラからも見てわかるほどに、苦しい顔を浮かべている。


「貴殿の実力、この程度というわけではあるまい」


 ジシスが言う。それと共に放った斬撃により、ハベルトは大きく弾き飛ばされた。


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