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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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森の中で

「風の聖剣のように、一時的な武具であってもこちらを混乱させる物を生み出すことは可能だろう。それに注意を払えば、駐屯地よりも本営を守るのが重要だと誰でも理解できるはず」

「……いいの? そんなことを言って」


 リザが問う。するとハベルトは平然と応じる。


「今更そちらも作戦変更することもないだろう? ただ一つ言っておくべきなのは、我らは『創生』の異能を根本的に封じる気はないということだ」


 それは――フレイラが聞き返そうとした時、さらにハベルトは続ける。


「気付いているようだが、我らは彩破騎士団よりも強いことを示さなければならない。それには彼の異能の力……莫大な力にも対応できるということを証明する必要だってある」

「ずいぶんと、力の証明にこだわるのねぇ」


 リザがどこか面白そうに語る。


「私としてはそこがずいぶんと意外ね。その気になれば私達が勝ってもそれを捻じ曲げるだけの政治力を持っているでしょうに」

「それをして、何の得がある?」


 ハベルトの問いに、リザは沈黙――フレイラはここで理解する。『四剣』や『三杖』は確かに魔法院の味方となった。けれど決して服従しているわけではない。


「魔法院が黒を白と主張しようとも、騎士達は納得しないだろう。そうした不満はやがて魔法院そのものを瓦解させる可能性がある。だからこそ、絶対的な勝利というファクターが必要なのだよ」

「……にしても、幾重にも予防線を張ってあるけどね」


 フレイラが発言。するとハベルトは眉をひそめた。


「予防線?」

「『創生』の異能を真正面から受け止める。聞こえはいいけれど、あなた達にはエドルという異能者がいる。それはつまり、どうにもならない場合最終手段が備えられているということ」

「聖賢者の存在も、その一つではあるな」


 オズエルが続ける。ハベルトは何も答えなかったが、フレイラの言葉を認めている様子もある。


「……どちらにせよ、魔法院の動きによってこの戦いは始まり、また彼らが主導することによって銀霊騎士団が生まれたのは事実」


 フレイラは語る。次いで、ハベルトへ言う。


「その中で『四剣』や『三杖』は独自の考えを持ち、私達彩破騎士団と戦い力を証明したい……主張は、こんなところ?」

「その通りだな」


 ハベルトも同意し、一歩足を前に出す。

 戦闘が始まる――すると彼の前にはジシスが立った。


「アシラ殿、ここは任せろ」

「なら、あちらの魔術師は私が」


 リザがジシスの隣に。ここは二人が対処するらしい。


「いいのか? 我らの戦いで負傷すれば、後がないぞ?」


 ハベルトが問う。挑発的な要素など一切ない、純粋な質問。


「構わんさ。なぜなら」


 と、ジシスが応じる。フレイラからは表情は見えなかった。けれど笑っているのだと、用意に想像できる。


「儂らは無傷で対処する気だからな」

「自信があるようだが……その油断が、命取りだぞ」


 声と共にハベルトが駆ける。また同時にラグアも動き出す。

 それに対応するジシスとリザ。今までの戦いは前哨戦で、ここからが本番――フレイラはそう思いながら、二人が勝利するのを祈りつつ、戦いを行方を見据えた。



 * * *



 ユティス達はさしたる障害もなく森の奥へと辿り着く。戦場となるこの演習場にはいくつか魔力の集積ポイントがある。それなりの準備しかできないが、この戦いで利用できるレベルの武具を生み出すくらいに魔力を引き上げることはできる。


 よって、ユティス達はその準備をすることになったのだが――


「ここまで何もないと、逆に不安になるな」


 ユティスが呟く――元々の計画は、フレイラ達が正面から突撃し銀霊騎士団を混乱させ、その間に異能を行使するというものだった。

 けれど森に敵がまったくいない――これはつまり、


「僕らが策を仕込むのを黙って見て、それを正面から打ち砕くつもりという話だな」

「現状の戦力は、ロゼルスト王国の中で最強の布陣。それで謀略など巡らせるのは愚の骨頂ということですね」


 ティアナが嘆息しつつ話す。


「これでは、私達が同行したことも裏目に出ていますね。正面突破にもう少し人を寄越しても良かったかもしれません」

「相手がどう動くかわからなかったんだから、仕方のない話だよ。それに、さすがに護衛がゼロというのはリスクがあるし」


 ユティスは語りながらティアナを見る。


「まあ僕らの体力が温存できる、という事実は喜ぼう」

「そうですね……しかし、フレイラ様達は大丈夫でしょうか」

「不安になるのは事実だけど……僕らの最終目標はヨルクさんを倒すことだ」


 ユティスは過去、ティアナと共に手合せしたことを思い出す。


「ティアナと組んで戦った時、まさしく手も足も出なかった。それは今も変わっていないはずだ……そもそも記憶を失って以後、僕は『精霊式』の魔法に関する訓練をしてこなかったし、ティアナも同じだ」

「そうですね」

「時間経過によって僕らが強くなっているわけではない以上、策を用いるしかない」

「はい」

「そしてフレイラ達がそこまで到達できなかったら……その時点で、僕らの負けが確定する」


 厳しい表情で語ったユティスは――その直後、一転して笑みを浮かべた。


「ただ、僕は信じているよ。フレイラ達が勝利することを。明確に……ネイレスファルトで加わった面々が、間違いなく強いと確信しているからだ」

「……はい」


 ティアナは頷く。そこだけは彼女も同意するようだった。

 ユティスとしても、アシラやジシスが簡単にやられるような人間ではないと考えている。彼らを撃破することはきっと『四剣』であっても難しいだろう――そういう考えを抱いた時、ふと気配を感じた。


「……これは」


 呟き、視線を巡らせる。イリアやティアナも気付いたようだが――


「イリア、周囲の状況は?」

「気配を一瞬感じましたけど……」


 イリアにもわからない。こういう場合考えられる可能性は二通り考えられる。

 一つは彼女の勘違い。だがユティスやティアナも感じ取れたため、気のせいではないだろう。


 となると考えられるのは――魔力探知などが得意なイリアですら判別できない存在。しかしそういった人物は相当な力を有していなければならない。その条件を満たすのは――


「やっぱりな」


 男性の声。ひどく聞き覚えのあるものであり、すぐさまユティスは視線を移す。


「……ヨルクさん」

「こういう形で再会するとは、正直思ってもみなかったな」


 彼の言葉と同時、ティアナが剣を構えユティスの前に出る。するとヨルクは苦笑し、


「心配するなって。ここでやり合おうなんて気は毛頭ない……銀霊騎士団は真正面からの戦闘を望んでいるからな」

「……なぜここに来たのですか?」

「ちょっと暇だったからな。何もするなと言われているし」


 それはつまり――ユティスが口を開こうとした矢先、ヨルクはおもむろに腰を下ろした。


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