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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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増援の精鋭

「前線は、完全に崩壊したようだな」


 ヨルクの言葉にロイは頭をかきつつ「そのようですね」と応じる。

 戦いが始まり、まずは彩破騎士団が圧倒する形で始まった――もし正面突破をするならばそのくらいの力を見せる必要が彩破騎士団にはあるため、この辺りについては本営にとっては想定内と言える。


「動いているのはジシスとリザの二人……アシラはアンデルとゼイクを倒し、後は二人に任せているような状況か」


 ヨルクはあごに手をやり分析を始める――そこに、バルゴが問い掛けた。


「騎士フレイラが動いていないというのは、何か心当たりがあるのか?」

「……少なくとも、力がないから手を出さないというわけではないだろうな」


 ヨルクはそう分析すると、肩をすくめた。


「おそらく彼女に『創生』の力が加わっていると考えられる……ララナス家との騒動で見せた氷の剣についても完全に分析できたわけじゃない。アシラ達で対処できなくなった相手に対し、意表を突くような役割を担っていると考えていいかもしれないな」

「ふむ、なるほど……となれば、騎士フレイラに本気を出させれば、我々の有利に傾く可能性があると」

「だが、ジシス達を止められるのか?」


 問い掛けに、バルゴは自信ありげに笑みを浮かべる。


「愚問だな」


 ロイはバルゴを見据える。その態度にどこか一抹の不安を覚えたのは事実。

 ヨルクはどう受け取ったのか――バルゴを見返す彼は「わかった」と応じ、それ以上の言及は控えた。

「よし、では各所に伝令を」


 バルゴが側近に指示を出す。ロイは多少なりとも気になり、問い掛けた。


「どういう手を?」


 質問に、バルゴはまたも笑い、


「戦いは始まったばかり……アンデルはやられたようだが、そう懸念するような状況ではない。ここはじっくりと、攻めさせてもらおうじゃないか」



 * * *



 ジシス達が攻勢を掛けておよそ十分程経過した時、騎士達も混乱を脱し理路整然と後退を始めた。


「まあ、最初はこんなところじゃな」


 吹き飛ばした騎士達を見回し、息一つ切らさないままジシスが言う。


 演習である以上刃を鈍らせてはいるが、致命的な攻撃を受けたと考えた場合は退場することになっている。自己申告的な意味合いもあるのでこの辺りでゴネそうな可能性もあったのだが、ジシスやリザの攻撃を受けた面々は早々に横へ逃れている。

 その数はおよそ四十人くらいだろうか。前線にいた騎士の多くを退場させたことになり、駐屯地内にいた騎士達が前へと出てきている。


「あの中に『四剣』や『三杖』は?」


 オズエルが問う。フレイラはそれに首を小さく振り、


「出てきていない……さすがにこの状況で出るような真似はしないということでしょうね」


 アンデルは事情も色々あったため前に出てきた、といったところだろう。

 ジシスやリザは一度後退し、アシラが立つ場所まで来る。三人が並んで立つ姿はそれぞれ垣間見せた実力から相当の圧力になるようで、騎士達も来ようとはしない。


「聖賢者殿の前に、まずは『四剣』と『三杖』から対処しなければならないわけじゃが、さすがに攻めてこんか」

「最初の攻防が大きかったのでしょう」


 アシラが応じる。フレイラ達としては膠着というのはあまり望まない展開なのだが――


「いや、いずれ仕掛けてくるわよ」


 リザが述べる。根拠があるのかとフレイラが問おうとした時、彼女から説明が。


「銀霊騎士団は私達を倒さないといけないわけでしょう? ここで及び腰になっていても向こうから攻めなければならないような状況に自分達で追いこんでいるわけだし」

「――そして、時間が経てばそちらの目論見が発動する」


 声。見れば駐屯所の奥から騎士と魔術師が。


「ジシス、『四剣』と『三杖』だけど」

「ほう、噂をすれば、というやつか」


 矛を構え直すジシス。そこでフレイラは現れた人物の名を告げる。


「騎士がハベルト、魔術師がラグア……得物なんかは見てのとおり」

「解説すまないな。さて、申し訳ないが進撃はここまでにしてもらいたい」


 ハベルトもまた矛を構える。その所作はアシラ達三人を相手にするかのようであり、兵士達も動揺を見せる。


「一人で対処できる自信があるのかしら?」

「申し訳ないが、二人さ」


 槍を揺らしラグア。彼は槍術を駆使して戦う武闘派の魔術師だったはずだ。


 その辺りの情報についてはアシラ達にも渡してあるため、武器を見た時点でどういう相手なのかは理解できているはず――仕掛けてくるかと思ったが、その前にハベルトが口を開いた。


「感情的となっていたとはいえ、アンデルを一蹴するほどの相手だ。こちらも油断はしていないさ」

「退く気はないようじゃの」

「当然だ」


 ジシスの言葉にハベルトは頷く。


「彩破騎士団……我ら『四剣』と『三杖』は城の守護という目的があるにしろ、本来ならば彩破騎士団のかかわった騒動をこちらが対処してもおかしくなかった」

「だが、ついぞ出番は回ってこなかった」

「そこには政治的な思惑が存在していたことは、間違いないだろう」


 ハベルトは断定する。フレイラは多少ながら驚いた。銀霊騎士団側の人間から、そのような言葉が聞かれるとは思っていなかった。


「その辺りについては目をつぶるにしても、だ……私達の存在より彩破騎士団を重点に置く人間も現れ始めた。これについては異論ありと思っていたところだ」

「なるほど、白黒つけたかったのは間違いないというわけじゃな」


 ジシスの言葉にハベルトは無言で首肯。烈気をみなぎらせるその様子からいつ何時突撃してきてもおかしくないが、自制しているのか動かない。


(さすがにアンデルのようにはいかないか)


 フレイラは胸中呟く。アシラが一蹴したのは士気を下げる上では必要なことだったかもしれないが、その代わりフレイラ達がヨルクと戦う前に倒さなければならない『四剣』や『三杖』を警戒させる結果につながった。


(いや、彼らを倒し続ければいずれ警戒された……これは既定の流れだった)


「警戒されるのは当然じゃが、それにしても腑に落ちんことがある」


 ジシスが述べる。するとハベルトはわかっているという雰囲気で頷いてみせた。


「こちらを大いに警戒するならば、なぜ『四剣』達は同時に仕掛けてこない?」

「それぞれの役割がある、とでも言おうか。それに」


 ハベルトは小さく肩をすくめる。


「そちらも、ただ正面突破するだけではないだろう? 『創生』の魔術師がいない……この戦いの鍵となるのは彼の力だ。それを最も警戒しなければならないのは必定」

「守りのために、本営に残る面々を待機させているというわけか?」

「その通りだ」


 彼は返事をすると同時、確信に満ちた声音でフレイラ達へ言う。


「そちらの策は当然読んでいる――彼の『創生』の力によって大地から魔力を引き上げ、本営を混乱させるような武具を生み出す、だろう?」


 問い掛けにフレイラ達は沈黙。肯定とも否定ともつかない空気が一瞬流れたが、ハベルトは言葉を進めた。


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