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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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一騎打ち

「彼が相手か?」

「ええ」


 アンデルの問いに頷くリザ。それと共に彼はゼイクの前に出た。


 騎士達は一騎打ちという状況に少なからずどよめく。ゼイクがなぜ先陣を切る役割を担っていたのかわからないが、ともかくそれが変更になったため、騎士達もどう動くか迷っている。

 もし駐屯地に別の『四剣』がいたなら、この一騎打ちを止めにくる可能性もあるが――アンデルのことを考えると手出しはしにくいか。


(ここに彼がいたということは、おそらく騎士アンデルは前線を任されているということ……そこに他の『四剣』が出てくれば、彼の神経を逆なでする可能性がある)


 プライドが高い人物だとフレイラも聞いたことがあるため、彼がへそを曲げないようにする処置――こう考えるとずいぶん『四剣』も脇が甘い。いや、この場合は『四剣』や『三杖』は強力な存在ではあるが、癖が強いということなのか。


 アシラもまたフレイラ達の前に出る。これから一騎打ちが始まるというのに、その気配は非常に穏やかで、むしろリラックスしているとさえ言える。


「ずいぶんと、おとなしそうな奴が出てきたな」


 挑発するようにアンデルは言う。一方のアシラは無言のまま彼と対峙し、自然体のまま口を開いた。


「――どうぞ」


 それだけ。フレイラも何を言っているのかわからなかったが、やがて構えもせず一騎打ちを始めようとしていることに気付き、アシラの背を眺める。

 アンデルもまた最初意味がわからなかったようだが――アシラが微動だにしない様を見て理解したか、苦笑に近い表情に変わる。


「……お前、本気か?」


 剣を抜く事すらしないアシラを見て、アンデルは声を発する、フレイラからはアシラの表情を見ることはできないが、きっと先ほどまでと変わらずただひたすらに無表情なのだろうと予想できる。

 その様子がどういう反応をもたらすのか――アンデルはどうやら怒りを覚えたらしい。憤怒の表情を見せた後、肩を震わせ――やがて、笑い始めた。


 アシラはまったく動かない。相手の態度を見ても反応がない様は、フレイラから見ても奇妙な構図だった。


「……フレイラさん」


 その時、小声でリザが言う。


「たぶんあっという間に勝負が決まるから、もし終わったら一気にいくわよ」

「……わかった」


 フレイラは頷く。とはいえリザがそう言うもののアシラは微動だにしない。

 やがて、アンデルの肩の震えが止まる。握り締めた剣をさらに強く握り、


「――後悔させてやろう」


 声を放ったと同時、恐るべき速度で間合いを詰めた。

 一瞬の出来事。縮地のような移動手法はおそらくアンデル独自のものだろう。アシラの虚を衝いたと言ってもいい動作だったはずだが――彼は、あっさりと反応した。


 剣を抜く。アンデルが間合いを詰め動ける空間を潰そうとした矢先の動き。騎士にとってみれば驚くべき反応だったのかもしれない。

 アンデルからすれば一太刀で勝負をつけたかったはずだ。だがアシラはその上を平然といった。振られようとした剣をアシラは出だしの部分で大きく弾くと――


 突如、アンデルの背後に回っていた。


「な……?」


 声を発したのはアンデル。一瞬で背後に回ったことではなく、突如相手が視界から消えたため――そういう声を発したのだとフレイラは理解する。

 そして、膝から崩れ落ちる。頭部か腹部か、ともかくどこかに剣を受け、立つことができなくなったのは間違いない。


 アンデルが倒れる。騎士達が呆然とする中で、アシラはただ悠然と歩む。


「……出番じゃな」


 ジシスが言う。直後、フレイラは横にいるリザが興奮を抑えきれないような野性的な笑みを見せるのを目に留めた。


「――行くわよ」


 声と共に、ジシスとリザが同時に走り出した。おそらくタイミングを合わせたわけではなかっただろうが――二人はアシラの横を左右からすり抜け、リザが右、ジシスが左から騎士団へ仕掛ける。

 アンデルがやられ呆然となった騎士達が動き出したのは二人がずいぶんと近づいてから。途端誰かが鬨の声を上げ、戦闘態勢に入ったが――遅かった。


「ぬうん!」


 ジシスの矛が、横に薙がれた。訓練である以上刃は多少なりとも鈍らせているはずだが――豪快に吹き飛ぶ騎士の姿を見て、フレイラは大丈夫かと驚く。

 さらにリザは拳を放ち、周辺にいる騎士達をもろとも吹き飛ばしていた。おそらく拳に衝撃波でも乗せているのだろう。銀霊騎士団所属である以上この場にいる騎士は精鋭のはずだが、二人はまったく相手にせずまるで一般兵を扱うように平然と吹き飛ばしている。


 アンデルを倒したことによる動揺が、こうした情勢に拍車をかけているのは間違いないだろう。混沌となりつつある中でアシラが悠然と歩んでいる様を見て、フレイラはなんとなく苦笑しそうになる。


「……フレイラさん、ここまでは作戦通りだな」


 オズエルが言う。フレイラはひとまず頷き、


「敵に助けられた面もあるけど」

「どういう形であれ、俺達にとって良い方向に導くことはできただろう。銀霊騎士団は急造の組織である上、色々としがらみもある。その一人がアンデルだったということだ」


 フレイラは倒れるアンデルを見据えた後、アシラを見る。その先にいるのは、本来先陣を切るはずだった、ゼイクの姿。

 彼は吹き飛ぶ騎士達と倒れるアンデルを見て、動揺している様子だった。剣を構えてはいるが身が入っていないのは明らかで、真正面から歩み寄ってくるアシラを呆然と眺めている。


 ジシス達が放つ轟音が響く中で、アシラはゆっくりとゼイクへ近寄る。対する彼は何かにとりつかれたような表情を見せた後、やがて、


「……お」


 声を発し――がむしゃらにアシラへと突撃を敢行した。


「おおおおおっ!」


 雄叫びと共に放たれた剣戟は、フレイラの目から見ても策など存在していない愚直なもの。アシラはそれを一蹴し、剣で横手に吹き飛ばし、いとも容易く対処した。

 体を吹き飛ばし、地面に激突するゼイク。意識はあるはずだが動けないのか僅かに体を震わせた後、剣を取り落した。


 アシラがゆっくりと歩む間に、状況は混沌とし始める。元々の作戦では先陣を切った騎士を一蹴し、ジシスとリザの制圧能力で一気に周辺の騎士を倒す――というのは基本方針で、相手の力量に合わせて臨機応変に対応するというものだった。


 その目論見は十二分に成功したといっていい。これが彩破騎士団を誘い込むための罠だという可能性もあるにはあるが、まさか『四剣』の一人を囮にするとは考えにくい。


(ここまでは順調……?)


 とはいえ戦端は切り開かれたばかり。敵が何をしてくるかわからない以上、警戒はしなければならないだろう。


「リザさん」


 その中で、横に控えるようにして立つオズエルが言う。


「もし何か動きがあったら俺が伝える」

「わかった」


 了承と同時、ジシスが豪快に騎士を跳ね除ける姿が見えた。天幕すらも吹き飛ばすその矛は、まさしく武神と呼ぶにふさわしく、騎士達を前にして無双している。

 銀霊騎士団から見れば、彼の存在は脅威であることに相違はなく――この時点で前線の士気は彩破騎士団に傾いていると言っていい。


(となると、問題は……)


 フレイラは胸中で今後どうするかの算段を立てる。まだ自分達の作戦通りではある。だがここから敵の動きによって戦法を変える必要が出てくるだろう。

 そこをいかに修正するか――フレイラは、剣を握りながら頭を回転させ始めた。


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