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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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銀霊の騎士

 フレイラが到着した場所から見えるものとしては、まず真正面にいくつもの天幕と騎士の姿。次いでその奥になだらかな坂と本営と思しき天幕。


「奥に聖賢者がいるってことで、間違いないでしょうね」


 リザが言う。彼女は悠然と騎士を見回し、語る。


「聖賢者という切り札は得ているけれど、それはあくまで最終手段。本音を言えば、銀霊騎士団のメンバーだけで勝ちたいはず」

「それは儂も同意する」


 矛を肩に担ぎ、ジシスが応じる。


「さあて、いよいよ戦いが始まるわけじゃが……先陣を切るのは誰にする?」

「――いや、こちらがその辺りのことを考慮する必要はなさそうだぞ」


 オズエルの言葉。彼の言う通り、騎士達の中から一人、騎士が前に出てくる。


「……騎士ゼイク」


 フレイラは声を発する。それにいち早く反応したのは、リザ。


「知っている顔?」

「中央騎士団所属で、北部を守護する役目を持ったゼイク=エクサードという人物……ただ話によると、スランゼル魔導学院などの一件で部署替えがあったらしいけど」


 おそらく魔法院の良し悪し混在する説得により、銀霊騎士団に加入したのだろう。

 彼にとって、それは望むものだったのか――フレイラはどこか同情するような気持ちを抱きつつ、ゼイクを見据える。


 兜まで被った彼の顔立ちは、綺麗ではあったが表情は硬く彩破騎士団の面々を睨むようだった。彼はフレイラ達の間合いからずっと離れた場所で立ち止まり、口を開いた。


「……ようこそ、彩破騎士団の方々」


 警戒の眼差し。それと共に彼は剣を抜いた。


「今回演習に参加した銀霊騎士団……まずは、私達が阻ませていただきます」

「なるほど、貴殿が先陣を切る役目か」


 ずい、とジシスが前に出る。


「とはいえ、あまり乗り気ではないようじゃな……ふむ、当然と言えるか。望まぬ形でここにいるのじゃろうから」


 ピクリ、と一度だけゼイクの肩が震える。


「どういう経緯でここにいるのか……単に有望だからという理由だけではないじゃろう。貴殿もそれか?」

「……答える必要はない」


 ゼイクが構える。間合いから遠いが、何かをきっかけにして仕掛けてくるのは明白だった。

 それと共に他の面々が構える。魔術師も散見されるが、詠唱を始めるような気配はない。


「ふむ、最初は騎士達のようじゃな」

「おそらく、彼らにとっても試験的な意味合いがあるんでしょうね」


 リザが言う。その言葉に、僅かだが反応する騎士もいる。


「銀霊騎士団は確かに優れた騎士達の集まりなのでしょうけれど、本来騎士は連携を行い戦う……ここの能力が如何ほどなのか見極めないと魔法院側としてもまずいってことじゃないかしら」


 リザはわざと騎士達に言うように話す。少なからずどよめきをもって応じられる。


「連携確認という意味合いもあるのでしょうけれど……不幸よねえ。本来彩破騎士団と銀霊騎士団との戦いなのに、あなた達まで試されるなんて」

「――聞く耳を持つな」


 途端、ゼイクの後方から前に出てくる騎士が一人。整えられた金髪に、握る長剣は綺麗な装飾が施されている。

 着込む鎧も白銀ではあるが細部に装飾が加えられ、一発で高価な物だと理解することができる。


「ずいぶんとまあ、過剰装飾な奴ね」


 リザの感想。それに対し、フレイラは目を細め相手の名を呼んだ。


「……騎士アンデル=レクレオン」

「知り合い?」

「『四剣』の一人……だけど、彼は他の三人と少しばかり立ち位置が違う」


 フレイラはアンデルを見据えながら、説明を加える。


「基本『四剣』は実力順だけど、その選定方法には種類がある。大臣からの推薦の他、騎士から評価された者……その中で、騎士達の中で行われる訓練の大会みたいなものの覇者というのが挙げられる」

「つまりあの騎士はその優勝者ってわけ?」

「ええ……強いのは間違いない。けど、他の三人が推薦者だという点を踏まえると、少し立ち位置が違う」

「――騎士フレイラの言う通りだ」


 アンデルはどこか怒りにも似た表情を伴いながら、返答する。


「無論、推薦者は『四剣』にふさわしいかしっかりと確認するわけだが……本来覇者が『四剣』に選ばれることは、騎士達のモチベーションなどを高める意味合いにもつながる。これによって選ばれた者の中には歴代でも強い人物だって存在していた。だが――」

「あなたは不満、というわけね」


 リザが言う。その目は明らかに心を読み取る『霊眼』を伴うもの。


「あなたは優勝したのにこう思われている……単に運が良かっただけ。もっと強い騎士はいる。あるいは、強い奴が参加していなかっただけだ、と」


 アンデルの眉が僅かに動く。図星のようだ。その様子を見て、リザはフレイラに質問をぶつける。


「ちなみにフレイラさん、その大会っていつ行われるの?」

「二年に一度……彼は去年選出された」

「つまり式典前ね。平和なこの国では制度も形骸化したってところかしら」


 リザの言葉は、アンデルにとってナイフで斬りつけられるようなものらしく――怒りが溜まっていくのがフレイラにも理解できた。


「あなたが何を言いたいのかはわかったわ……つまりここで、自分の実力を証明しなければいけないと」

「そういうことだ」


 今にも攻めてきそうな雰囲気。その様子を見て、リザは笑みを浮かべた。


「なら、いいわよ。一騎打ちといかない?」

「何?」

「集団で同時に戦うのもありでしょうけれど、一番わかりやすいのは一騎打ちで戦うことよ」


 ――フレイラとしてはその提案は微妙なところだった。これは彩破騎士団にとって有利なのか不利なのか。


「……なら、君達の判断に任せよう」

「あっそ。それならちょっと待ってもらえる?」


 意外な展開――フレイラは思いながらリザが首を向けたため視線を合わせる。


「感情を制御できないタイプね」


 リザが語り始めた。


「おそらくだけど『四剣』における他の三人と比べれば劣るんじゃないかしら。けど、その腕は他の騎士よりも上なのは、おそらく間違いない」

「そこで、一騎打ち?」

「彼の最大の弱点は、おそらくその感情にある。こちらの安い挑発にムキになって応じているところを見ると、普段から感情が激しいんでしょう」

「つまり、こう言いたいわけじゃな?」


 ジシスがリザへ言う。


「感情が高ぶり本来の実力を出せない間に、さっさと倒す」

「そういうこと。例えば『四剣』であっても人間であることに変わりはない。彼らだって体調や感情の波に晒されれば本来の実力は出せないでしょう」


 語りながら、リザはアンデルを一瞥する。


「彼も強いのは間違いないわ。けど、その力を完全に活用するには、冷静さが足りていない。ここで評価してもらわなければ――という意識が強くて、実力を出せない感じね。今ならあっさりと倒せるはずよ」

「で、誰が行くんだ?」

「そんなの決まっているじゃない」


 リザはアシラに視線を投げた。


「最初が肝心よ。相手の士気を下げ、なおかつ機先を制すには圧倒的な力を示す必要がある」

「……お、俺が?」

「儂も同意じゃな」


 ジシスが賛同。


「儂は見た目に迫力もある上、騎士達も動揺しにくいじゃろう。一方アシラ殿なら強いようにはあまり見えない……彩破騎士団の面子に弱兵はなしという印象を抱かせることにもなろう」

「……ああ、確かにアシラが倒す方がインパクトはあるだろうな」


 オズエルも言う。当のアシラは困惑した様子ではあったが、全員が視線を集中させたためか、やがて小さく頷いた。


「わかりました。やります」

「じゃあお願い」


 どこか含みのある微笑を浮かべリザが言う。フレイラが騎士達に向き直ると、アシラが一歩前に出た。


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