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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
257/411

別働隊

「彩破騎士団が不利なのは、誰もがわかりきったこと。一番の問題は、俺がいることだろうな」


 自意識過剰――というわけではない。ヨルクの言うことは、紛れもなく事実。


「それ以前に『四剣』や『三杖』までいる……はっきり言ってどれだけ精鋭をそろえていたとしても、この防壁を突破するのは難しい」

「ならば、奇襲ですか?」

「ユティスならその辺りのことについて、成功の可能性が低いだろうと察しているだろう。となれば他にはない奇策だが……さて」


 ヨルクは黙り込んだ。ロイはそこで一つ言及する。


「可能性の話ですが……彩破騎士団が勝てる可能性はどれほどだと思いますか?」

「難しい質問だな」


 ヨルクは言う。またも沈黙してしまったので、ロイはさらに話を変える。


「では……彩破騎士団の中で一番手強い相手は? ヨルク様が得ている情報の中で考えてもらって構いませんが」

「……実力だけを見るながら、アシラという人物もしくはジシスという人物だろう。特にジシスは年齢を重ねている分こうした戦いの戦歴が厚い……出身地を考えると、銀霊騎士団の誰よりも戦いを重ねた人物と言えるだろう」

「それは同意します」

「そしてアシラ……魔人を前にしても臆さず、なおかつ一蹴する剣技は相当なものだ……下にある騎士の拠点を潰すとなる場合、この二人の役割が大きいだろうな」

「なるほど、わかりました」


 ロイは言うが――そこでヨルクは神妙な顔つきとなった。


「ただ……懸念があるとしたら、ユティスの『創生』の力だろうな」

「……ラシェン公爵がユティスの能力を扱える場所を捕捉していましたね。それのことですか?」

「そうだ。もし今後俺の脅威となる存在が現れるとしたら……風の聖剣を生み出した、ユティスの『創生』の力がきっかけとなるだろう」

「……なるほど、確かに」

「ユティスは間違いなくこの戦いの先を見据えている。つまり、完全に物質化した武具を生み出す可能性が極めて高い」


 ――銀霊騎士団は対異能者という観点において、様々な対策を講じていた。その最たるものがユティスの『創生』により生み出された力。ラシェンの働きにより何かしら武具を生み出せる場所が発見されたため、その対策を行っていた。


「宮廷魔術師達が構築した結界は見事だ」


 ヨルクが語る。ロイは彼の話に耳を傾ける。


「君達がもっとも警戒するのは風の聖剣のような武器……それに対する手段として、多重の結界を構築……とはいえそれはあくまで魔力のみを遮断する。軍同士がぶつかるレベルの結界を、大地の力を活用してとはいえ、きちんと発動させているのはさすがだろう」

「しかし、無駄になると?」


 ロイが問う。それにヨルクは頷いた。


「実際、日の目を見ることはないんじゃないか? 人の通り抜けは簡単にできるため、さっさと内側に入るのがベストだろうし」

「ユティスが来るとなれば、おそらく左右の森どちらかから、と考えています」


 ロイは語る。それにヨルクは首を向ける。


「根拠はあるのか?」

「全戦力が真正面から向かってくるとは考えにくい。となると別働隊が森から進むわけですが……それを率いるとしたら、ユティスでしょう」

「確かにその可能性はありそうだが……」

「――最後に、もう一つ質問が」


 ロイはなおも問い掛ける。


「彩破騎士団の面々の中で、弱点とでも言うべき人物は?」

「それこそユティスと……あとはフレイラさんかな。ただ、両者共それは認識しているだろうし、対策の一つも立てているだろう」

「まさしくそうでしょう」


 ロイの言葉に、ヨルクは視線を騎士団の拠点へ向け、


「……この戦いは、そこで決まるとでも言いたげだな」

「どちらにせよ、私としてはヨルク様がいる以上勝ちは揺るがないと思っていますが」

「そうか……ま、しばらくの間は観戦させてもらうさ」


 ヨルクがそう語った時、どこからか車輪の音が聞こえてきた。


「いよいよだな」


 ヨルクが言う。ロイは内心同意すると共に――視線を、演習場の入口へと向けた。



 * * *



 正面から挑む面々とは別に、彩破騎士団は別働隊として森を進む面々を決めた。そのリーダーはユティス。そして傍らにいるのは――


「そろそろフレイラ様達が到着する時刻ですね」


 ティアナがユティスへ言う――その隣にはアリス。二人とも戦闘準備は万端となっている。

 ユティス達は演習場の入口から見て左側の森――演習場とは反対側の森の入口へと到達していた。目を凝らしても気配は感じられないが、人がいなくとも魔力を探知する魔法が張り巡らされていることだろう。


「ここに足を踏み入れるのも間違いなく罠だとは思うけど……」

「当然、そうでしょうね」


 ティアナが言う。その目は鋭いが、ララナス家などの時のような硬質な――憂慮しているような雰囲気はない。

 それはおそらくこの戦いが演習だからかもしれない――無論、真剣を用いた勝負である以上運が悪いと死ぬ。それについて配慮は成されているはずだが、肩の力を抜くのは危険。


「……大丈夫かな」


 アリスがふいに呟く。フレイラ達を心配しての発言だろう。


「むしろ、僕達の方が気を付けないといけないんだけどね」


 ユティスは肩をすくめる――単純な攻撃能力を言えば、アシラ、ジシス、リザと三人いるもう一方はユティス自身さして心配していない。

 無論『四剣』や『三杖』が出てくるとなれば、どう転ぶかわからないというのはある。だが、ユティスはそれでも――もしかするとこれは、予感なのかもしれない。


 彼らが騎士団を前にしても、対抗できると。


「……さて、僕らは僕らで動くとしよう」

「はい。しかしユティス様、ずいぶんと大胆な決断をされましたね」


 ティアナが言う。それにユティスは首を向ける。


「この編成のこと?」

「こちらにもリザ様あたりが加わると思っていたのですが……」

「相手としては、二手に分かれるとなると戦力をある程度均等に……もしくはどちらかに傾けるという可能性を考えているはずだ。この辺りのことで裏をかけるとは思っていないけど、相手の万全の準備を打ち崩せる可能性を考慮した場合、ある程度戦力を集中させた方がいいと思っただけさ。それに」

「それに?」

「ジシスがいるからね」


 ――ユティス自身、ジシスの戦略眼が相当なものだと心のどこかで察していた。


 それは紛れもなく戦乱を生き抜いたことにより得られた重厚な経験。もしまずい状況になったとしても、彼の経験などが頼りになる――そういう考えもあり、ジシスを含め真正面に人間を集中させた。


「ユティス様」


 ティアナの声。ユティスは言われなくとも何が言いたいのか理解できた。


「フレイラに頼まれた以上、絶対に僕らを護る、だろ?」

「正解です」

「わかっている……僕もアリスも全力を尽くす。ティアナも、頼む」

「はい」


 力強い返事。それを聞いたユティスは、森へ踏み込む。

 気配などを探ってみるが、少なくともユティスには感じられない。


「……アリス」

「ええ」


 返事と共に、一瞬アリスは目を瞑る。イリアと交代し――


「……気配は、ないです」

「魔法的な罠の存在は?」

「それも、私が見た上では……」

「何も仕掛けていないのでしょうか?」


 ティアナが呟く。そこでユティスは小さく嘆息した。


「……なんとなく魂胆がわかったよ。僕らには自由に策を施させる気なんだろう」

「つまり、私達が森から入ることをわかった上で何もしないと?」

「二手に分かれるくらいのことは銀霊騎士団だってわかっているはずだ。けど、僕らを自由に泳がせた上で、対処する……ま、訓練だし、敵の存在を気付かないという想定という可能性もあるけど」

「舐められている、というわけではないのでしょうね」

「たぶんね……さて、こうなると僕らは自由に立ち回れることになるけど」


 と、ユティスはティアナとイリアに首を向ける。


「どちらにせよ、僕らの方針は変わらない……森の中で動き回れるわけだし、非常にやりやすくなった」

「タイミング的には、もっと遅くにするつもりでしたが」


 ティアナが言う。彼女の指摘通り、ユティス達が講じた策は、まずフレイラ達正面側が行動を開始してからのものだった。


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