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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話

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権力闘争

「あなたは……ラグア殿」

「ええ」


 微笑を浮かべるラグア――名はラグア=シュディル。宮廷魔術師『三杖』の一人であり、魔術師きっての武闘派としても知られている。


 騎士から見ればその体格は細いと断言してもいい。だがその手に握られた武器は槍であり、魔法と武の融合により繰り出される攻撃は、シルヤをして「凄まじい」と評価する、宮廷魔術師の中でも攻撃的な存在。


「もう一人は後方で話をしている。直にこちらへと来るだろう」


 ハベルトが語る。彼に並び立つラグアを見て、ロランは小さく眉根を寄せた。


 ロゼルスト王国にとって聖賢者ヨルクの存在はまさしく至高であり、彼ら『四剣』も『三杖』もその陰に隠れがちであまり目立たない存在。だからこそ、こうした舞台で実力をはっきりさせることを望んでいたのだろう。


「騎士ロランとシルヤは、騎士達のとりまとめをしていてくれ」


 ハベルトは言う。何を主張したいのかは一発で理解できた。


「バルゴ殿の話によれば、敵の行動として考えられるのは二通り。一つは正面部隊を食い止める間に森から奇襲を仕掛け本営を狙うパターン。そしてもう一つは、戦力を正面に集中させ、短期決戦で狙うやり方」

「どちらもリスクはあろうだろうな」


 シルヤが言う。それにハベルトは大きく頷いた。


「どちらを選択するかは……彩破騎士団団長がどこまで自分達と我らのことを考えているかで決まるだろう。もし彩破騎士団の戦力が上だと考えたら迷わず後者をとるはず」


 言うと、ハベルトは矛を握る右腕に力を入れた。


「だが、それは我らを甘く見過ぎということだ」


 彼に合わせ、ラグアもまた闘志をみなぎらせている様子――ロランとしては、ないがしろにされている『四剣』や『三杖』は、彩破騎士団のことを憎たらしく思っているのだろう。そしてこ導を渡す機会が生じた。


「もし正面から来るならば、私達に任せておけ。騎士ロランと騎士シルヤは、騎士の統制を頼むぞ」


 そう告げ、彼は去っていく。ラグアもまた移動を開始し、それを見送りながらロランは思う。


「……そのやる気が、空回りしないといいけどな」

「まったくだ」


 シルヤも同意する。


「ともあれ、私達は普段通りに動くしかなさそうだな」

「……しかし、もし彼らが倒されたならどうする?」


 ロランが問う。するとシルヤは小さく息をつき、


「魔法院にとって、それもまた都合のよいことなのだろう」

「どういうことだ?」

「彼らが敗れたならば……魔法院としてはそれらを根拠にして今後『四剣』も『三杖』もしっかりと管理する必要がある、などと主張するに違いない」

「どう転んでも、結局魔法院の手のひらの上ってわけか」

「悔しいが、そういうことだ」


 シルヤは語り――彩破騎士団が来るであろう方向を見据える。


「その全てを打ち砕く可能性があるのは、彩破騎士団だが……果たしてどこまでやれるのか」


 呟き、ロランもまた考える。この戦いに勝機はあるのか。


(……どちらにせよ、俺も考えなければならないんだろうな)


 自分がどういう立ち位置でいるのか――多くの騎士もそうだろう。

 こうして集い演習目的で共に戦っているわけだが、内実は大きく分断している。それを魔法院が取りまとめるのか、それとも彩破騎士団が楔を打ち込むのか――


 ロランは考えながら行動を開始する。ひとまずハベルトの言う通り、騎士達の指示から始めた。



 * * *



「ほぼ準備、整いました」

「ご苦労」


 騎士の言葉にバルゴが応じ、本営から坂の下にある騎士団の拠点を見下ろす。

 その傍らで周囲に視線を向ける――ロイ。


「騎士バルゴ」


 その中で、ロイは確認を行う。


「大丈夫ですか?」

「心配するな」


 バルゴが自信満々に答え――隣にいる騎士と魔術師に目を向ける。


 それぞれ男性と女性。片方は肩まで届く灰色の髪を束ね、藍色の胸当てを身に着けた男性騎士。端正取れた顔立ちは女性を見間違うほどのものであるが、彼こそ『四剣』の一人、エテラ=リークス。

 そしてもう一人は漆黒のローブに身を包み杖を持った魔女のような出で立ちの人物。美人といって差し支えないが化粧っ気のない顔立ちはどこか地味で、周囲にいる宮廷魔術師の中でも目立たない存在。


 名はウルノス=チャラック。『三杖』にして無詠唱魔法の達人。とはいえヨルクもまた同じ領域の使い手であるため、見た目と同様あまり目立たない存在ではある。一説ではそれをどこか嘆いているらしいが、今の彼女は無表情で騎士達の拠点を見下ろしている。


 またロイの近くには異能者であるエドル。騎士服を着こんだ彼だがあまり似合っておらず、新人騎士のような見た目でこの場にそぐわない風貌となっている。

 そして近くに聖賢者ヨルク。無表情で杖を握り締める彼は、心の内は怒りか不満か。


「ヨルク殿」


 そんな彼にバルゴの声が飛ぶ。


「あなたには本営の防衛をしていただきますが」

「指示には従うさ」


 ヨルクは言う。不満を完全に隠しきれてはいないが、それでも様々な要因によりおとなしく命令は聞く、といった感じだろうか。

 エドルもまた同様の表情。しかしこうした状況になるのをどこか予期していたのか、沈黙を守りたた立ち尽くしている。


「ロイ殿」


 次にバルゴはロイへ告げた。


「作戦の指揮は、私に任せてもらっても?」

「あなた以上の適任者はいないでしょう。存分にやってください」

「では、遠慮なく」


 ニコリとするバルゴ。自身の力を活用する機会が与えられ、彼自身高揚しているのかもしれない。

 その中でロイは思考する。この戦いのためにあらゆる布石を投じてきた。そして今、彩破騎士団を銀霊騎士団が倒すことで全ての策が完了する。


 どのような形であれ、銀霊騎士団が勝てばロイ達が権力闘争に終止符を打つことができる――欲しいのはその明確な事実であり、それを果たすことができれば、今までの全てが報われる。


 最悪『あの御方』の異能があるとはいえ――記憶を戻したという時点で何かしら相手も対策は立てているだろう。大規模な異能行使には準備がいるとラシェンやユティスは気付いているはずであり、だからこそロイとしてもその手はリスクがあるため打ちたくなかった。


 ともあれ――順当に考えればヨルクさえもいる銀霊騎士団側が負けるはずがない。彩破騎士団の実力は見えない部分もあるにはあるが、それでもヨルクの領域に到達しているとは思えない。


「……ずいぶんと、心配しているようだな」


 その時、ヨルクから声が。視線を転じると、彼はロイを見据え肩をすくめていた。


「現状は、あんたらの予定通りなのだろう?」

「……ええ、そうですね」

「その状況下で何が不満なんだ?」


 不満――表情に出ていたということか。


「不満は、ありませんよ」


 ロイはそう語りながら、心のどこかで懸念を抱いていると感じる。


 なぜそう思うのかは自分自身でもわからない――ギルヴェを始めとした魔法院はこの戦いを単なる通過点と思い、ここで挫けることなどないと考えているようだが。

 その余裕を見て、心のどこかで油断しており、それが懸念を抱かせているのかもしれない――などとロイは結論づけた。


 絶対的優位な状況をひっくり返されるなど、過去政争でいくらでも見てきた。ロイの頭にウィンギス王国との戦いがよぎる。あれもまた、大逆転の一つだ。


「ヨルク殿、あなたの目から見て、この戦いどう思われますか?」


 ロイは世間話の呈でヨルクに問い掛ける。


「彩破騎士団は少数……まともにぶつかれば銀霊騎士団に押しつぶされますが」

「悪いが、俺は新たに加わった団員の能力を口頭でしか聞かされていないため、予測しかできないぞ」


 前置き。ロイは「構いません」と答えると、ヨルクは自身の見解を述べた。


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