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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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騎士団の意志

 戦場の見取り図は屋敷にきちんと届けられ、会議室で彩破騎士団が一堂に会し確認を行う。


「ほう、非常に面倒じゃな」



 最初に発言したのはジシス。そこでユティスは彼に問い掛けた。


「ジシス……異能者との戦いは個の戦いであり、戦術といったものは必要としない。けど、今回は違う。敵は平地ながら守りを固め、僕達を迎える用意ができている……これは間違いなく――」

「戦争じゃな」


 ジシスが言う。その言葉により彩破騎士団全員に緊張が張りつめた。


「こちらは十にも満たない数に対し、この見取り図が正しければ向こうは百近くはいる……しかも兵卒のような雑兵はいない。全てが騎士以上の称号を持っている」

「やはり、難しいと」

「じゃが彩破騎士団の実力も中々のもの……手はある」


 ジシスは笑う。戦場を生き抜いた古強者の彼だからこそ、見取り図を確認し思うところがあるようだ。


「実力はあれど、ユティス殿を始めこの場にいる全員は戦争というものをほとんど経験しておらん。ウィンギス王国との戦いも策などが始まる前に全て『創生』の力でねじ伏せたことを考えると、軍略を携え戦うのは初めてじゃろう」

「はい」


 ユティスが頷くと、ジシスは見取り図に目を落とす。

「拠点の左右は森が存在している。そして真正面には一般騎士達の拠点。奥にはなだらかな坂と、ロイ殿達がいる本営……正面突破するとなると、まず騎士団を一掃せねばなるまいな」

「真正面から堂々と戦っていてはこちらの身が持ちませんね」


 ティアナが発言。ジシスはそれに小さく頷いた。


「しかし、どれだけ力を保有しようとも聖賢者のヨルク殿という存在がいる限り、短期決戦に持ち込むことは不可能じゃろう。かといって長期の戦いとなれば人数が少ないこちらが不利。ユティス殿の体の問題もある」


 問題は山積み――その状況でユティス達は戦わなければならない。


「さて、そこで策が必要なわけじゃが……当然ながら拠点に事前に仕込むことなどできん以上、やれることもそう多くない。策を仕込むのに人員を割くのもまずいじゃろう」

「なら、どうすれば?」


 フレイラが問うと、ジシスは森を指差した。


「基本的な戦法じゃが、いくつかに分かれて戦うしかあるまい」

「分かれる、か」

「とはいえ、多くとも二手じゃろう。それ以上分断するとさすがにまずい。片方は正面から攻め陽動を担い、もう片方は森を利用して本営を狙うというやり方が基本的か」


 ジシスはそう語ると、小さく笑みを浮かべる。


「当然敵もその程度のことは考えているじゃろう……ここで重要なのは、陽動の方じゃ。彩破騎士団の面々は、それこそ並の騎士では対応できない技量を有しておる。その実力差を利用し、存分に暴れてもらう」

「森を移動する側に戦力を割けないくらいに、猛攻を仕掛けるというわけですね」

「いかにも……ここで、フレイラ嬢には選択してもらわねばならないな」

「選択?」


 聞き返したフレイラに、ジシスは頷く。


「陽動と正面突破……どちらを軸にするかということじゃな。森を進む面々が横から攻撃し拠点の騎士を混乱させ倒す方法もある上、奇襲を仕掛け本営を狙うやり方もある」

「……私が同行する側が、メインだと言いたいの?」

「そういうことになる……ユティス殿、一つ確認じゃが」

「はい」

「フレイラ嬢の能力については、敵はどこまで把握している?」

「……ララナス家の騒動に関する報告は上がっている以上、僕が贈った剣についての情報はあるはず。ヨルクさんがそれに関する情報を魔法院に渡している可能性は高いので、フレイラ自身も手強くなっているという認識ではいるでしょう」

「なるほど。となれば、敵も少なからず警戒するということじゃな。とはいえ、ヨルク殿と戦う切り札と考える可能性は低い」

「――つまり、それは」


 フレイラが言及しようとした矢先、ジシスはその言葉を手で制しつつ、さらに言った。


「この戦いの鍵となるのは、最大の敵であるヨルク殿に対処する役目を担うフレイラ嬢と、オズエル殿、貴殿だ」

「俺の『召喚式』魔法だな。とはいえそれを行使するとなると、他の魔法を行使することが難しくなるぞ」

「わかっておる。そのためオズエル殿は、正面突破の役割を担うことになるじゃろう」

「俺が?」

「二手に分かれ、どちらを主軸にするにしても、正面突破を図る面々には相当頑張ってもらう必要があるからな」


 仮に森を異動する面々が攻撃を仕掛けるにしても、当然ながら正面突破を行う人員が戦力を集中させなければ陽動にならない。よって、必然的にそちらに戦力を傾ける必要性は出てくる。


「ここからは、儂だけの判断では無理じゃろう……ユティス殿」


 ジシスが言う。直後、全員の視線がユティスへと集まった。


「どちらの作戦が成功率の高いものなのかは……人選などによっても左右される。どういう組み立てにするかは、協議の上で決めるべきじゃろう」

「……僕が一番それぞれの特性を知っているから、ですか?」

「それもある。加え」

「加え?」


 僅かに間を置いたジシスは、小さく肩をすくめ、


「ユティス殿の選定した面子は、信頼におけるような気がしてな」

「……買い被り過ぎだと思いますけどね」


 ユティスは息を吐き――全員を一度見回す。

 それぞれが覚悟ある意志を持っている。だがユティスは、今一度確認しておきたいと思った。


 理由はわからない。けれど彩破騎士団がどういう存在なのか――それによって、どういう人選にすべきか考える必要があると思ったのだ。


「……フレイラ」

「ええ」

「フレイラにとって、彩破騎士団とは?」


 唐突な問い掛けに驚きもしただろう。けれど彼女はよどみなく答えた。


「……私自身、彩破騎士団という名称にこだわりを持っているわけじゃない。というより、守るべきは騎士団の看板ではなく、ユティス自身だと考えている」

「……ティアナ」

「フレイラ様と同じく。私自身がどう考えているかは、ユティス様にお伝えした通りです」

「……アシラ」

「ユティスさんに恩があります。それに報いるために」

「俺も同じだな」


 オズエルが訊く前に声を発する。次いでジシスもまた同じ意見なのか同調の意味を込め深く頷いた。


「なら、リザ」

「私自身、闘士として力があると自負しているけれど、それでも異能者として思うところがあった。その袋小路を救い出してくれたのが、ユティスさんかしら」

「……イリア」

「私とイリアは、彩破騎士団に救われたから」


 明瞭な答えは、紛れもなくアリスのものだった。

 全員の意思を聞き、ユティスは思わず苦笑する。やはり買い被り過ぎだと思う。


「……ユティスは」


 その中で、フレイラが声を発する。


「ユティスは、どう考えているの?」


 問われ、ユティスはしばし黙す。自分がどうありたいか――それは――


「……異能者は、謎が多い。クルズという人物と接触できたわけだけど、重要な情報は話してくれないだろう。けれどこの戦いを通し、情報を手に入れることができたのは明確な事実だ」


 ユティスは思い返す――前世のこと。そしてこれまで生きてきた、封印されていた記憶の中の出来事を。


「なぜ僕やリザがこの世界に転生されてきたのか……僕はその真実が知りたい。銀霊騎士団との戦いは、それに至る戦いの一つに過ぎない」

「戦いの、一つ……」


 フレイラが呟く。ユティスは即座に首肯し、


「銀霊騎士団との戦いが終わっても、それは新たな始まりに過ぎないということだ。異能者……ひいてはこの大陸で起ころうとしていること……それらに触れる、最初のきっかけ」

「なら、是が非でも勝たないといけませんね」


 ティアナが言う。ユティスは即座に頷き、声を発した。


「皆の意見、しかと聞かせてもらった……僕も、皆のことを信用し、この戦いに臨む。頼む」


 全員が頷く――それはまさしく、彩破騎士団が一つになった瞬間だった。






 それから演習が始まるまでの数日は、何事もなく過ごした。それぞれが準備を行い、またそれぞれが役目を果たすべく決意を固めた。

 そして演習当日――ひどく静かな朝であり、ユティス自身もずいぶんと気持ちを落ち着かせ起床した。


「……よし」


 支度を整え一言発し、ユティスは部屋を出る。朝食の時はそれこそ和気あいあいとしたものであり――これから演習とはいえ戦場に赴くような雰囲気ではなかった。

 それは決して演技していたというわけではない。誰もが自身の役割を理解し、また他の面々を信用し、この戦いに勝つという気概を持ちながらのもの。やがて朝食を終え、全ての準備が整った時、屋敷の外へと出た。


 見送りはセルナと、屋敷へやって来たラシェンとナデイル。戦地へ赴く馬車は用意されており、その中でラシェンはユティスへ告げる。


「吉報を待っている」

「はい」


 頷き、ユティス達は馬車に乗り込む。そしてラシェン達に見送られ――戦地へと、向かった。


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