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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
252/411

魔力の器

 クルズを招いた日、オズエルと話を行い対策を協議――ただ、それはまだ不安要素があるものだった。


「魔具によって、僕の魔力容量を増やすか……」

「魔力の総量が斬られたことにより増えないとなれば、おそらく器自体が小さくなっているものと考えられる」


 オズエルが言う。場所は庭先で、ユティス達の他にフレイラやティアナの姿もある。双方とも騎士服姿で、オズエルの言葉を聞き続けている。


「器、というのは言ってみれば魔力を入れる容器のようなもの……人間は大小様々だが保有している。例えて言えばガラスのコップ。魔力がコップに注がれる水であり、時間が経過すれば自然と水が注がれる……つまり、回復する」

「ユティス様の何が問題なのですか?」


 質問したのはティアナ。オズエルは彼女を見返し、


「ユティスさんは元々そのコップの中の量しか魔力を持てなかったが、『精霊式』を得たことによりそのコップの上に容器でも着けられ、魔力の総量を増やした」

「けど、今は総量が以前よりも低い……」

「コップそのものが破損したものと考えてくれ。水は絶え間なく注がれるわけだが、破損した部分から漏れている……これがユティスさんの状況だ」

「元に戻すことは?」


 フレイラが問う。だが当の彼は小さく首を振った。


「同じように戻すというのは無理だ。ガラスや陶器が、砕けて元通りになったなんて話はないだろう?」

「それじゃあ……」


 フレイラは俯く。気にするなとユティスが言おうとした時、オズエルから発言が。


「だが、砕けた部分を補修することはできる」

「できるの?」


 ユティスが問うと、オズエルは首肯しながらも難しい表情だった。


「可能だが……それをして以前と同様の力を手に入れる保証はない」

「以前の力を手にしたとしても、それではおそらく解決にはならないと思う」


 ユティスの言葉にオズエルとフレイラは押し黙った。


「僕自身、強くならなければならない……難しいとわかっているけれど、それができなければ演習で勝つことができないと考えていい」

「そして、ヨルクさんのこともある」


 フレイラの言葉にユティスは「そうだ」と答え――次に声を発したのは、オズエル。


「ユティスさん、現状『創生』を一度だけだが使える手段が存在する。それを用いてユティスさん自身の戦力強化をしようとは考えないのか?」

「……僕の能力とヨルクさんと戦う事実を照らし合わせた結果だよ。僕の方は他にもやり方があるかもしれない。けど、ヨルクさんに対抗するための手段はそう多くない」

「だからこそ、そちらに使いたいということか」

「うん……よって他の手段が必要なわけだけど」


 沈黙。オズエルもさすがにすぐには答えられない様子だった。


「……対抗、手段か」


 そして呟く。難しい表情ではあったが、決して不可能ではない――そんな考えを抱いているように感じられた。


「なるほど、わかった……とはいえ、仮に魔具を作成するとしてもユティスさんがそれを扱えるようにする必要がある……正直、余裕はほとんどないぞ」

「わかっているよ」


 その返答にオズエル自身も踏ん切りがついたらしい。頷いた後、述べた。


「……さっきも言ったが手がないこともない。色々と問題が生じる可能性もあるが……ユティスさんの要望をある程度叶えられるはずだ」

「わかった、オズエル……頼んでもいいか?」

「ああ」


 これにて話は終了。オズエルとフレイラは庭園を去る。一人残されたユティスはしばしその場に佇み、


「この戦いは……僕と、フレイラの戦いか」


 そう呟き、自室に戻るべき立ち上がった。


「……兄さん」


 歩き始めると共に、ユティスはロイのことを頭に浮かべる。


 記憶操作に加担していたのは間違いなくロイだろう。しかし不可解な部分がある。異能者が王女だとしたならば、ロイは王女と繋がりを持っていたことになる。

 そんな話は一度として聞いたことがない――いや文官として活動するロイならばアドニスでも知らない状態で交流を持っていた可能性は高い。


 問題は王女がなぜ、ロイに干渉したのかということ。あるいはロイ自身が権力を得るために近づいたのか――両親はファーディル家をさらに発展させるべく動いていたことを考えれば、ロイのような行動も十分あり得るとは思う。


(この辺りは、直接本人に訊かないと難しいか)


 戦いが終わった後、それらの事情を話す機会はあるのだろうか――疑問を感じつつ、ユティスは自室へ戻ろうとした、その時、


「ユティス様」


 セルナの声だった。視線を転じると、手紙を差し出す彼女の姿。


「どうした?」

「ラシェン公爵からお手紙が」

「公爵から?」


 何か伝え損ねたことでもあったのか――受け取り部屋に入り開封する。

 それは手紙というよりはメモに近い内容だった。


『演習に際し、結果次第で銀霊騎士団は動く。だがもし彩破騎士団が勝ったならば、何かしらこちらの要求が通るようにしておく』

「……なるほど」


 ユティスは呟き、思考する。

 要求、といっても例えば銀霊騎士団を吸収するなどはさすがに無理だろう。もし何かを要求するとしたら、それは――


「……ま、これが無難かな」


 ユティスはそう呟いた後――改めて自分のやるべきことを確認することにした。



 * * *



 同時刻、ロイは自室にヨルクを招いていた。様々な手法によりとうとう味方につけたわけだが――当然、好意的なはずもない。


「言っておきますが、演習時に手を抜いたとしたら彩破騎士団にも色々と干渉するつもりなので、頭に留めておいて頂ければ」

「……お前らのやり口は、本当に強引だな」


 吐き捨てるようにヨルクは言う。


「確認だが、マリードさんについては――」

「私達自身、彼女に多大な協力をしていたのは事実。最後にああした形となったのは非常に悲しいところですが、名誉回復は行いますよ」


 ヨルクとしては、ララナス家の騒動は納得いかないことではあるだろう――本来なら片がついている以上ヨルクは彩破騎士団に味方してもおかしくないのだが、ララナス家――つまり師匠の名誉が失墜したままでは納得がいかないのも事実。


 すべてはマリード自身が引き起こしたことであり自業自得だが、それでもヨルクは彼女に対し多大な恩がある。決して見捨てないとロイは読んでいた。


「今回の演習……それにだけ協力してもらえればいいのです」

「で、シルヤを始め彩破騎士団に肩入れする人間にも今さっきお前が言ったことを伝えればいいのか?」

「理解が早くて助かります」


 つまり、シルヤやロランもまたヨルクと同様釘を刺しておかなければならない。


「しかし、本当にお前は悪役が板についたな」

「お褒めに預かり恐縮です」


 悪態に近い言葉に、ロイは律儀に応じる。そこでヨルクはこれ以上話す気もなくなったか、ため息を吐いた後ロイに背を向けた。


「……約束は、守るんだろうな?」

「これ以上ヨルク様の逆鱗に触れるようなことはしませんよ」

「今まで触れたせいで俺も限界だがな……わかったさ。けれど一つ」


 肩越しに首だけ振り返ると、ヨルクは問う。


「もしあんた方が負けたら、名誉回復はされるのか?」

「私達が勝っても負けても、対応はさせていただきますよ」

「約束だぞ」


 出ていこうとするヨルクがだが扉に手をかけた段階で、もう一度――今度は体を向ける。


「……彩破騎士団と、どう戦うつもりだ?」

「何か策を用いるつもりはありませんよ。銀霊騎士団の力を見せる必要がある以上、正面切って戦わなければ証明にならない」


 ロイの言葉にヨルクは沈黙する。ロイは正攻法だと言ったが、それを疑っているような様子。


「本当ですよ。だからこそヨルク様、あなた方をこちらに引き入れたのです」

「……正面からその実力を示し、ということか」

「ええ」

「だが俺が加わった状態では、銀霊騎士団の強さを誇示したことにはならないんじゃないか?」

「無論、それは同意します。ですがやり方はいくらでもありますよ」


 ヨルクは不快感を示す。その言動によって、ロイ達がどういう腹積もりなのか理解したのだろう。


「……ヨルクさん、今回の演習は異能者との演習であり、我々も全力で戦います。騎士団の配置などに関しても少なからず意見を求めることになるかと」

「よく言うな立て続けに発生した事件で戦力分析しておきながら……言っておくが、本当の異能者は予備知識なんて一切なしで戦わないといけないんだぞ?」

「わかっていますよ」


 微笑を伴い応じるロイ。ヨルクはその顔つきを見てこれ以上無駄だと悟ったか、退出した。


「……わかって、いますよ」


 ヨルクがいなくなった後、ロイは声を上げる。そう、わかっている。しかし例え異能者相手でも「あの御方」の力の前には敵わない。

 記憶操作を利用すれば、異能者が襲撃したとしても全てを無為にできる――だからこその、自信だった。


「最後に勝つのは、俺達だ……ユティス」


 一人になった部屋の中で――ロイはそう宣言した。


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