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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
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決戦までの課題

 会議が終わり、フレイラとユティスは二人で話し合うことにする。場所はユティスの部屋。向かい合うように椅子に座り、最初にユティスが発言した。


「……僕が渡した剣の使い方は大丈夫?」

「ある程度は……もっとも、私の魔力に反応するタイプの武器だから、私自身が強くならないと真価を発揮するのは難しいかもしれない」


 不安げな表情。自分では無理だという考えが頭の中にあるのがわかる。


「フレイラ、現状の戦力でヨルクさんが出てきた場合、まず勝ち目がないと思う」


 ユティスは言う。フレイラはそれを黙って聞く。


「彩破騎士団の面々が弱いなんて思っていない。条件にもよるけれど『四剣』を圧倒できる可能性だってあると思う……けど、ヨルクさんだけは別物だ。あの人の教えを受けた僕としては……正直、高すぎる壁だと思っている」

「だからこそ、魔法院はヨルクさんを旗下に加えたかったということだろうね」

「だろうね。混乱が生じるとわかってなお、僕が『精霊式』の魔法を手に入れてなお記憶をよみがえらせたのは、それを利用して権力を高める意味合いだってあると思うけれど、それ以上にヨルクさんの存在も大きいはずだ」

「……あの人に、私が対抗できるとは正直思えないのだけれど」

「差を埋めるのが、僕の『創生』だ」


 断言。フレイラは少なからず驚いた様子。


「風の聖剣のように……やり方次第で、十万の敵にだって対抗できる力を持っている。だからこそ、フレイラに託したい」

「……ユティスが贈ってくれた剣は、それほどの力があると?」

「風の聖剣のように即効性はないけれど、使い方次第で対抗できる可能性はあるよ」


 フレイラは呻く。その間に、ユティスはさらに続ける。


「彩破騎士団は強い。フレイラだってララナス家との戦いで僕らを護る力を手に入れた。自信を持っていいはずだ」

「ユティス……」

「逆に言うと、今度は僕が足手まといになるだろう」


 それもまた断言。途端にフレイラの顔つきが強張る。


「演習という形にした敵の目論見も理解できる……ブローアッド家の問題に加えララナス家との騒動。この二つで戦力分析を行い、その上で僕らを倒す。さらに言えば、敵のとる作戦は一つ」

「――長期戦」


 フレイラの言葉に、ユティスは即座に頷いた。


「丸一日戦いどおしなんて無茶な真似はしないはずだけど……少なくとも、僕の体調が悪くなる程度には長く戦い続ける気だろうね」

「とすると、短期決戦……でも」

「少数の僕らには難しい……とはいえ、銀霊騎士団側としては僕の体調を崩すレベルまでもっていかなくてもいいんだ。そうした兆候を生み出すだけで、途端に僕らはもろくなる」


 ユティスはそう述べると、一度窓の外を見た後、続ける。


「ティアナ、アシラ、ジシスにリザ……そしてフレイラについては単身で斬り込めるだけの能力が備わっている。イリアとオズエルについては魔術師である以上厳しいが……それでも、単独で危機をどうにか突破できる能力はある」

「けど、ユティスだって――」

「僕自身、他の騎士団の誰よりも長く戦えない……そこがネックとなってくる。確かに『精霊式』の魔法を手にしたことにより、僕の戦闘時間は飛躍的に伸びた。けど、一番の問題は相手がヨルクさんでありロイ兄さんということだ」

「つまり、手の内が全て知れていると?」

「正解。僕がどうすれば魔力を多大に消費し、疲労するかを知り尽くしているはずだ。だから一番の問題は、僕だ」


 語った後、ユティスは肩をすくめた。


「それに、成長の余地も少ないからね」


 フレイラの顔が険しくなる。それにユティスは苦笑し、


「フレイラが力を奪ったから、というのが原因ではないよ」

「でも……」

「今は僕自身、フレイラと同様どう強くなるかを考えないといけないな……オズエルと相談するのが一番かな」


 その時、ノックの音。ユティスが呼び掛けると、現れたのは――


「ああオズエル、丁度良かった」

「丁度……? ああ、フレイラさんもいるのか。出直した方がいいのか?」

「何かあった?」

「調査の経過報告だが……」


 フレイラは首を傾げる。まだ何かしているのかと疑問を抱いている様子。


「遺跡調査で出てきた道具の解析だよ」

「……あれについては、進捗進んでいるの?」

「一応ね。もう少しまとまったら言うことにする」

「わかった……ユティス」


 彼女は席を立ちながら、自身の意思を表明した。


「正直どこまで戦えるかわからないけど……頑張ってみるよ」

「うん」


 フレイラが退出。それに合わせオズエルが近づく。


「いいのか?」

「会議で決まったことについて不安がっていたから、発破をかけていたんだ」

「なるほどな……だが、客観的に聖賢者という存在に対抗できるのはリザがフレイラさんくらいだろう……もっとも、『創生』の力を活用した上で、だが」

「わかっている……それにこれは、好機でもある」

「好機?」


 聞き返したオズエルに、ユティスは微笑を浮かべながら応じた。


「僕の『創生』の力にしろ、もしヨルクさんを打倒できたなら……それはつまり、国内で最強であるという証になる」

「それが彩破騎士団の強さにもつながる、か……しかし、本当にできるのか?」

「フレイラの剣の真価がわかっていないからこそ、どうにか対抗できるという感じかな。手の内が悟られていたら間違いなく僕らは勝てない」


 そこで、ユティスは肩をすくめた。


「僕なんて最たるものだ」

「……この戦いでネックなのは、自分だと気付いている様子だな」

「それを相談しようと思っていたんだ」


 ユティスの言葉にオズエルは沈黙。団長のためにどうするべきか思考をし始め――


「……ユティスさん、現状『精霊式』の魔法で手に入れた魔力のいくらかは、喪失したと考えていいのか?」

「フレイラに斬られてそうなったのは事実だな」

「それを穴埋めするだけでは、今までと変わらないだろう……そして、ユティスさんが懸念している部分の解決にはならない」

「うん、そうだね」

「手がないこともない……が、俺の手段はあくまでユティスさんのリミットを伸ばすという程度の効果しかないぞ」

「根本的な解決に至らないのはわかっている……今は敵の意表を突ければ、といったところかな」

「ならば、そういうやり方を模索してみよう……フレイラさんの訓練と同時並行だな。大丈夫か?」

「もちろん」


 ユティスは頷き、笑う。


「やるしかない」

「わかった。それでは協議に入ろうじゃないか」


 オズエルが体面に座る――そうして、両者は話し合いを開始した。



 * * *



 ラシェンが執務室で仕事をしていると、クルズが訪れた。


「話してまいりました」

「どうだった?」

「予想以上に冷静でしたね」

「サフィ王女もいたのだろう? なら平静にするしかないさ」


 笑うラシェン――サフィが訪れたのはそういう目的もあってのことだろう。


「まあ、一番の理由は姉上が主犯者であることを確認するためのはずだが」

「……予測はしていたようなので、さして驚いた様子はありませんでしたね」

「当然だろうな」


 ラシェンの言葉に、クルズは眉をひそめる。


「何か理由が?」

「いや、姉に近しい彼女が主犯格の存在を認知していないはずがない……そう思っただけの話だ」


 ラシェンは語ると、クルズを視線を合わせる。


「ところで、そちらの方針だが――」

「私達は演習に関して介入はしません。そもそも部外者が立ち入れる場所ではありませんしね。その辺りのことは、彩破騎士団にお任せしましょう」

「となると、王女の監視だな?」

「はい……しかし公爵。あなたの彩破騎士団に対する評価は相当なもののようですね」

「相当? 何が言いたい?」

「いえ、演習をさほど気に掛けている様子ではないため、信頼しているのだろうと思いまして」

「……立て続けにあそこまで事件を解決した能力を保有している一団だ。演習で銀霊騎士団とぶつかっても、十分やり合えるとは思っている。ただ、賭けであるのは間違いない」


 ラシェンは笑う。牙を剥くような、獰猛な笑み。


「だが……そういう時こそ、面白い」

「……やれやれ、公爵の味方はたまったものではありませんね」


 息をつくクルズ。どこか付き合っていられない、という雰囲気も垣間見せている。


「私達は以後、王女の動向を探ることに致します……そちらは任せましたので」

「ああ。承った」


 クルズが退出する。それを見送りラシェンは扉を見据えながら――呟く。


「賭けには違いない」


 ラシェンは次いで天井を見上げ、


「本当ならば確実な何かを求めるべきだろうが……肩入れしたくなったからな」


 ユティスの交渉――あれ自体は間違いなくサフィ王女の差し金だろう。しかし最終的な決断をしたのはユティス自身という雰囲気を匂わせていた。

 面と向かい交渉を始めたユティスに、ラシェンは一定の称賛を抱いていた。公爵という地位から、同じ立ち位置で語ってくるような人間はいなかった。だが彼は――


「……一番の問題は、ユティス君だな」


 ラシェンは言う。演習で戦力的に問題なのはユティスになるのは間違いない。そこをどう是正――いや、ヨルクやロイの予測をどう上回るかで、勝負が決まってくるのは間違いない。


「彩破騎士団の団長として……この戦いをどう乗り越えるか、見せてもらおう」


 ラシェンはそう声を発し――やがて仕事を再開した。


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