表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第九話
250/411

対抗手段

「同時に、どういう理由で事を起こしたのか理解できたはずです」


 クルズはサフィ王女へ向け、なおも告げる。


「現在、年齢が低いながら王子がいるこの国に継承問題は存在しません。ラシェン公爵を始め王家に近しく、なおかつ継承権を持つ者も多くは王子が王となることを同意している」

「けどレイテル姉様は、それを望んでいないと?」

「真意が他にある可能性は捨てきれませんが……言えることは一つ。もし魔法院や銀霊騎士団が権力の中枢を担うことになれば、実質レイテル王女が権力の中枢に居座ることになる」

「とはいえ……さすがに自身が女王となる、なんて妄想はしていないんじゃないかしら」


 リザが発言。するとクルズは同意するように「だと思います」と応じた。


「現状、王位継承権については問題ないですし、支持者も多い……なおかつ、今回魔法院や銀霊騎士団の面々でも王女が関わっていると知る者は多くないでしょう。首謀者の事実が知れたら大事になる。その狙いが女王になることだとでも噂が流れれば、支持を失う可能性が高い」

「権力さえ手に入れたら、その辺りどうとでもなりそうな気はするが」


 オズエルの言葉。クルズは同意を示しつつも捕捉を加える。


「無論、実質的な権力を得れば、いくらでもやりようはあるでしょう……しかし、彼女は矢面に立つことを望んでいない。これはおそらく王女自身が前に出ることをリスクと感じているか、あるいは裏で権力を握ることに終始し、表に出る必要がないとでも考えているのでしょう」

「……どちらにせよ、相手がわかったならやることは一つだ」


 そしてユティスが口を開く。


「近い内に行われる軍事演習……そこで彩破騎士団と銀霊騎士団は相対する。こちらがそれに勝っても、王女は何かしらの手段を用いて記憶操作を行う。どれだけ窮地であっても、その事実をなかったことにできる――これは非常に恐ろしい」


 この場にいる全員――クルズでさえも同意するような空気。


「僕達のやることは二つ。一つは軍事演習に打ち勝つこと。そしてもう一つが、レイテル王女を止めること」

「王女を止めること自体は、そう難しくないと思います」


 クルズが言う。ユティス達は再度彼に視線を集める。


「王女は平常宮廷内にいます……加え、下手に行動すればそれだけで大きな騒ぎとなりましょう。記憶操作の異能を行使すればバレずに宮廷内を抜け出すことは十分可能かと思われますが、私達が監視します」


 断言だった。本来王女を監視など由々しき事だが、クルズ達自身レイテルを完全な敵とみなした以上、提言しても行動するだろう。

 サフィもそれについては一言も言及しない。仕方がないと思っているのかもしれない。


「……王女の動向は私達が監視します。あなた方は、これから始まる最後の大勝負を勝つことだけを考えてください」

「――僕達に、味方するということでいいのか?」


 確認を行うユティス。するとクルズは笑みを浮かべ、


「あくまで今回……一時的なものですが。基本私達は中立です。今回は、相手の異能の特性が由々しきものと判断したまで」

「……納得いかない部分もあるが、わかったよ」


 ユティスは告げるとクルズは立ち上がる。


「会食の用意もしているけど?」

「さすがにそれを受ける気はありませんね。本来私達とあなた方は敵同士といっても過言ではない。虎の巣はさっさと出るべきです」


 体を反転させるクルズ。彩破騎士団は誰も動かず――やがて、彼は扉を開け会議室を去った。

 靴音が響く。それもやがて途絶えた時――口を開いたのは、リザだった。


「ま、今回は色々騒動があったからああいう人と組むというのを話しそびれたという感じかしら?」

「……黙っていたのは悪いと思っているよ」

「ユティス」


 フレイラだった。叱責がくるかと思ったが、彼女の表情に怒りは存在しなかった。


「もし次に何かあったら……私達に、相談して」

「うん」


 話はそれで終わりだった。本当ならばこのまま食事でも良かったのだが――ユティスは続けるべきだと判断し、改めて口を開いた。


「それじゃあ次に、演習に関する話し合いを行いたい……サフィ王女、そちらはどうしますか?」

「私は帰らせてもらうわ……彩破騎士団の方々」


 サフィが語り出す。


「次の一戦で勝負が決まる……御武運を」


 言い残し彼女も立ち去った。そしてユティスは、全員に現状を説明し始める。


「まず、軍事演習の内容は……軍事演習用の拠点を本陣に見立て、銀霊騎士団が異能者を含めた能力者と戦う、といった想定になっている」

「その敵能力者が私達ね」


 フレイラが述べる。ユティスはすぐさま頷き、


「演習の目的は銀霊騎士団を始めとした騎士団、宮廷魔術師などの連携確認、というもの」

「儂らは敵役に選ばれる程強い、という認識で良いのか?」


 ジシスが問う。ユティスはそれに肩をすくめ、


「魔法院側がどういう考えなのかわからないけど……銀霊騎士団としてはこの演習で自分達が異能者と立ち向かう力を持っていることを証明しないといけないから、相当厳しい戦いになるのは間違いない」


 そこでユティスは一度騎士団の面々を見回し、続ける。


「銀霊騎士団側は、異能者を想定した僕らを全員捕縛もしくは倒した段階で勝利。僕らは本陣にいる大将を倒せば勝ち……もっとも、大将は陛下のような存在を仮定し、騎士団がそれを守るという形のようだ」

「大将の首筋に刃を突き立てればこちらの勝ちということだな」


 オズエルの言葉。ユティスはそれに頷くと、今度はアシラが質問した。


「今回の演習の規模は?」

「……さすがに騎士団全員参戦なんて馬鹿な話にはならないさ。そもそも銀霊騎士団だって異能者戦に特化するためか、数はそれほど多くない……といっても、百人近くはいるけどね」

「その中に、同じ異能者であるエドルって人も混じっている」


 リザが言う。ユティスは「そうだ」と返事をして、さらに続ける。


「その全てと戦う必要はないけれど……ただ、最大の障害がいる」

「聖賢者、ヨルクか」


 ジシスが言う。彼は口元に手を当て話し始める。


「その実力の程は儂らも深く認識していないが……強いのか?」

「魔法に関してはロゼルスト王国で間違いなく最強であることに加え、直接的な戦闘能力も高い……もちろん近接戦専門というわけではないから、アシラなどが一騎打ちしたら勝てる可能性は十分ある……武器による戦闘という状態ならば」

「魔法と格闘能力を組み合わせているから、非常に厄介だと言いたいわけか」


 リザが発言し、肩をすくめる。


「なるほどね……ユティスさんの目で見て、現状ヨルクさんに勝てる人物は?」

「勝つとなると難しい……ただ魔法院としても彼を利用し防衛をするのは間違いない。僕の見立てとしては、大将を守る側近……かな?」

「となると、どうしてもヨルク様をどうにかしなければならないわけですね」


 ティアナが言う。ユティスは「そうだ」と賛同し、対策を口にする。


「演習の中で、もっとも重要なのがヨルクさんとの戦いのはずだ。そこを突破しない限り……いや、少なくとも食い止めない限り勝つことは難しい」

「彩破騎士団のメンバーで、勝てそうな人はいない?」


 リザの問い掛けに、ユティスは一時考え、発言する。


「……複数人ならば十分勝機はあるけど、さすがに敵もそんな状況にはしないだろう。一騎打ちで戦うのを想定した場合……単に技量で上回っているだけでは駄目だ。アシラやジシスなら斬り合いで対処できる可能性もあるが……ヨルクさんには無詠唱魔法がある」

「そこを突かれると、儂やアシラでは太刀打ちできんじゃろうな」


 ジシスが言う。アシラも同意見なのか小さく頷いている。


「……かといって、オズエルやイリアのような魔術師でも無理だろう。接近され杖術で対応されればひとたまりもない。そして僕やティアナについては、手の内がバレている」

「可能性としては、二人ということか」


 オズエルが声を発し、フレイラとリザに視線を移す。


「リザの場合は異能を用いてといったところか?」

「……私自身、ヨルクって人と直接会ったことがないからわからないけれど……ユティスさん、私の異能で戦えると思う?」

「……食い止めることは、もしかするとできるかもしれない」


 ユティスは考えつつ、リザへ告げる。


「再生能力と身体強化……その辺りの能力を使えれば、おそらくは」

「魔力を強制的に拡散させる能力は?」

「ヨルクさん持つ杖は魔具の一種だ。魔法を封じられたとしても対応できるだろう……リザの体術でどうにかできればいいけど……それに、もう一つ問題がある。リザ、異能はどのくらい維持できる?」

「戦い続けながら、となるとそう長くはないでしょうね」

「となると短期決戦の必要があるわけだけど、ヨルクさんはそういう戦況を判断するのが得意だ。しかも異能の詳細については頭に入っていて、おそらく『同化』の弱点もわかっているはずだ」

「なるほどね……けど、そうなるとフレイラさんしか残らないことになるわよ?」


 言及されたフレイラは表情を強張らせる。自分では到底――そう考えているのは明白だった。


「……リザは、どう思う?」


 ユティスが訊く。内心考えはあった。それを言葉に乗せたわけではなかったが――


「……確かに、一番勝算ありそうなのはフレイラさんでしょうね」


 ――その言葉に、当のフレイラが驚いた様子だった。


「リ、リザ!?」

「さっきユティスさんが語った通り、他の面々で対処できる可能性がないから」

「だからって、私は――」

「……ここで、『創生』の力が活用されるわけですね」


 ティアナが言う。ユティスは彼女と目を合わせ「そうだ」と答えた。


「フレイラに使えるよう生み出した剣……この力は大地の魔力を利用したものだから、相当ポテンシャルがある。けど、それ一つだけで対抗できるとは思っていない」

「公爵の言っていた異能が使える魔力噴出の件ですね」

「そうだ……その二つを組み合わせて、ヨルクさんに対抗できる戦法を創り出す」


 戦法を――全員が緊張した面持ちでユティスを見据える。


「ここからやることは二つだ。鍵となるのはヨルクさんとの戦い……相手には『四剣』も『三杖』もいるけれど、やはり一番は聖賢者の存在だ。そこをクリアできれば、僕らの勝ちが見えてくる」

「フレイラさんを強化するのに、時間を費やすわけですね」


 アシラの言葉。ユティスはそれに同意するように続ける。


「僕はフレイラと協議して、もう一つの武具をどうするか決める。それと並行して訓練を行う……ヨルクさんは紛れもなくこの国最強の存在だ。それに対抗するのは並々ならぬことじゃない。全員、覚悟を決めてくれ」


 ほぼ全員が同意の意を示す空気――ただフレイラだけは、自分でいいのかという顔つきだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ