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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第一話
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戦いへの過程

 フレイラ達が平原にいち早く到着した時点で、まだ敵の存在は見えなかった。

 時間は夕刻。間に合ったとフレイラが思う間に、宮廷魔術師が準備を始める。


「ここからは時間との勝負だな。聖剣を創り出す魔力を吸い出す程の魔法が必要となると、本来準備に数日掛かるが……急がせる」


 フレイラの横に立つラシェンが述べる。


 ――現在準備を進めている場所は、平原内にいくつか点在する丘の頂点。背後には森があり、フレイラの目には緩やかな下り坂の後、延々と草原が広がっている。

 街道は左手に位置し、目視できる限りでは右斜め前――南南西に青々とした小麦畑が見えている。


 平原を見下ろす形となるため、敵が来たのならすぐにわかるだろう――フレイラは小さく息を零しつつ、現状を頭の中で整理する。


 街道を進む王国の部隊が到着するまでに、おそらく数日――それと共に、敵もまた出現するのは間違いない。相対したその瞬間戦争が始まるのは間違いなく、そうなってしまえばフレイラ達の役目は終わってしまう。


 なぜか――大地から魔力を集める場合、魔法と大地を常に結び付けねばならならいのだが、戦争などによる衝突はそうした結びつきを大きく阻害する程に魔力を乱す。よって、魔法を吸い上げることができるのは、戦いが始まるまでとなる。


「改めて訊くが……フレイラ君は、この策が可能だと思うか?」


 ふいに、ラシェンが問う。フレイラは一時無言となったが、


「可能だと、思います」


 やがて、確信に満ちた声音で返答した。


「強い口調だな」

「はい。ユティスも理論的にできるだろうと語っていましたし……それに、以前の襲撃で彼が力を用いて戦っていたのを見て、そう思っています」

「空想上の武具を自由に、か……確かに彼自身の魔力で会場内にいた襲撃者を一掃した以上、魔力があればできるだろうな」


 彼もまた、同調する言葉。対するフレイラはそうした言葉を聞きつつも、いまだ疑問を拭い切れない。

 本当に、彼は味方なのか――仮にユティスが剣を作成したところで、彼が何かしでかすのではないか。


「……フレイラ君?」


 ラシェンの問い。フレイラは即座に「すみません」と応じた。


「……これから、どうなさいますか?」


 フレイラは問い掛けつつ後方にいるユティスへ目を向ける。黒いローブ姿と完全に魔術師の格好だが、革のベルトを巻き腰に剣を刺している。不格好な気もするが、念の為だ。


「ただ、ユティスの体のことはありますが……」

「それは様子を見つつどうにかやっていくしかないな……ユティス君!」


 ラシェンが呼び掛けると、ユティスはすぐさま反応しフレイラ達へ近づく。


「はい」

「既に魔術師が準備を始めているが……まずは、土地の魔力がどのような形で収束するか、現段階で試した方が良い。さすがにぶっつけ本番はリスクが高すぎる」

「そうですね」

「では、私が彼らに指示をしよう。少し待っていてくれ」


 頷いたユティスに対し、ラシェンはその準備を始めるべく動き出す。一方のユティスはラシェンの姿を見送り――


「ユティス」


 フレイラは声を掛けた。


「体の方は?」

「大丈夫……緊張しっぱなしのせいか、体も疲労を忘れているみたいだ」

「それって、後が怖いけど……」

「戦いが終わったら、三日くらいは寝込むのを覚悟しないといけないかな」


 苦笑するユティス。けれどその顔は決して悲観的ではない。


「もしこの場にセルナがいるなら、怒鳴っていたかもしれないな」

「そういえば、彼女には一切……?」

「さすがに詳細は話せなかった。相手が十万の兵だということも知らないから」


 そう述べたユティスは、ふいにフレイラと目を合わせた。

 フレイラ達には太陽が茜色の光を与えているそ。彼の顔が染まり――そこで、


「……私は」


 おもむろにフレイラは告げる。


「移動中の時にも話したけど……私が、あなたを守る」

「ありがとう。けど本来は、僕が言いたいセリフなんだけどね」


 さらに苦笑するユティス。そこでフレイラは微笑を浮かべ、


「ひねくれ者同士なのだから、別に男女の役割が逆転していてもいいんじゃない?」

「そんなものかな……なんとなく不服だけど」


 そう言った後、二人は笑い合う――衝突が近い中、フレイラは心の芯が幾分和らいだ気がした。


「ユティス、もう一つだけ約束して」


 その中でフレイラはなおも語る。


「作戦が失敗したとしても、自分だけがその責を負わないで欲しい」

「……それは」

「今回の作戦は、私が最初に立案した。だからこそ、私もその責任を負わせて欲しい」


 それに対し、ユティスはただ視線を合わせ――やがて、


「……わかった」


 フレイラの決意を汲み取った様子の彼が、頷いた。


「ユティス、頑張ろう」


 そして最後にフレイラは言うと、彼に背を向ける。

 やがて彼はラシェンに呼ばれ遠ざかっていく。その中でフレイラは、


「……私が、守る」


 強く決意したと同時に――赤色に染まる平原を眺め続けた。



 * * *



 目標の平原に辿り着こうとした段階で、斥候から報告があった。


「襲撃から王を守った『創生』の魔術師が、騎士や魔術師と共に戦場予定の場所にいるようです」


 斥候に出ていた者が告げると、周囲がにわかにざわつき始める。

 けれどガーリュは一切気にする風もなく、言い聞かせるように呟く。


「敵もどうやら同じ『彩眼』の使い手に戦局を預けたということか……土地の魔力でも借り受けるつもりか。が、何程のこともない」

「警戒は、するべきでは?」


 進言は、襲撃作戦に参加した人物から。


「一度はガーリュ様の能力を破った相手」

「そんなことはわかっている。だがな……以前俺は土地の魔力を活用して兵を増やそうと試みたが、失敗に終わった。奴の能力は俺と多少違えど同じ『創生』だ。それがおそらく適用されるだろうし、無駄な足掻きさ」


 そう述べたのだが、進言した者の顔は晴れない。


「此度の戦、おそらく勝負は一瞬で決するでしょう……とはいえ、その戦いを妨げる可能性があるとすれば――」

「ああ、わかった。とはいえ対処するにしても、戦場に到着してからだな」


 戦場を訪れた時もし前線にいるとしたら、迷わず狙う――そういう決心をしつつ、ガーリュは周囲の兵を見回す。


 何程のことがあろうか――多少ながらガーリュは増長していた。例えどのような『異能』を持とうが、数の暴力の前には一切通用しない。それを、今回の戦いで間違いなく証明できるだろう。

 そうなれば、次は――ウィンギス王の野心に影響されたかそのような想像を行いつつ、ガーリュは息をつく。


 とはいえ、この能力の制約については、気を払う必要がある。これだけの兵を操るには命令を簡素化しなければならない――数が圧倒的である以上余裕に思えるかもしれないが、ここにできるだけ数を減らしたくないという思惑が重なると、多少なりとも兵の動かし方に気を遣う必要があるだろう。


 ただ、最初の激突を見て相手の士気を把握してからでも遅くは無い――そうガーリュが思った時、


「……ガーリュ様」


 先ほど進言した者がまたも口を開く。


「もしよろしければ……先遣隊を編成し、当該の魔術師を襲撃しましょうか」


 彼は余程警戒している様子――だが、ガーリュは首を左右に振った。


「十万の兵を同時に動かしているため、俺の兵は使えない。となればお前達が行くことになるが……敵も警戒しているだろう。奴らにやられるだけだ」

「しかし――」

「ウィンギスの正規兵こそ、なくてはならない存在だ。心配するな。対処はする」


 その言葉で相手は押し黙る――そう、なくてはならない存在。

 彼らには無傷で生き残ってもらわなければならない。生き証人としての価値がある上、犠牲者がゼロでロゼルストを潰したという事実が、何より自身の名を轟かせる大きな力となる。


 それで会話は完全に途絶え、ガーリュはただ馬を進める。従軍するウィンギスの兵士も最早助言する意思は無いのか、ガーリュから視線を逸らし前を見る。


 それでいい――ガーリュは頭の中で思いながら、いずれ見えるであろうロゼルストの軍を想像する。詳細な人数を把握しているわけではないが、内通者からの情報から推測すれば、兵力差は十倍に迫るくらいだろう。


 そして、『彩眼』の所持者。果たして実を結ぶのか。


「……どちらにせよ、無駄な足掻きだ」


 決然と述べたガーリュは、空を見上げながら――十万の兵を淡々と進ませ続けた。



 * * *



 戦場へ向かう兵達の中に、魔術師として従軍する者も少なからずいる。

 フリードもその一人であり、手綱を無意識に強く握りしめ、戦場へと向かっていた。


 その中で――なぜこう無言で兵達が歩を進めているのか、まったく理解できなかった。

 もしかすると兵は自軍の人数を理解できていないのではないか。戦況を見れば、どちらが勝つかは火を見るより明らかだというのに。


 フリードは多少ながら兵法も学び、なおかつ貴族間のコネにより駐屯地に存在する兵の多寡もある程度知っている。その人数を聞いて相手が十万だと知れば、恐慌が起きてもおかしくないと思っていた。

 そしてフリードは思う。なぜ、今戦わなければならないのか。なぜ、自分がいる世の中で戦争など起こるのか。


 言ってみればそれは運としか言いようがない事象ではあったのだが、フリード自身はこの境遇を嘆いていた。兵達が進む様は死の行軍にしか見えないし、自分が行ったからといって戦況がひっくり返せるとは思えない。


 そもそも『聖賢者』でさえ、十万という兵を前にしては無意味だと思う。大地の魔力を利用し大規模の魔法を使えれば――と、フリードが考えたのは一瞬。おそらく仮初めの兵に持たされた結界によって阻まれてしまうだろう。


 だからこそ、フリードは怖かった。戦いが始まれば、自分は――


 ふいに、後方から馬の蹄の音。フリードは列の中でも後方にいるのだが、どうも城から報告にでも来た者が街道から近づいてきているらしい。

 何か急変でも――などと考えつつ使者らしき人物がフリードの横を通り過ぎていく。


 それを無感情に見ながら、ふと手綱を握り締める両手に痛みが走っていることに気付く。慌てて力を抜くと、今度は鈍い痛みが襲った。

 痛みが、フリードに一つの想像を行わせる。敵兵が突撃し、自分もまた斬られるのだろうか。そして、その痛みは――


 そこまで想像してフリードは恐怖を抱き、考えを忘れるべく首を左右に振る。その時、


「――フリード殿」


 後ろから、声が。振り向くと、そこには騎士の姿。


「騎士アドニスから連絡が」

「連絡……なんでしょうか?」

「明日平原に到着します。その時……貴殿には、前線に出てもらいたいと」

「私に?」


 最初は純然たる問い掛けだったが、それが次第に恐怖へと変わる。


「はい、あなたの魔法を利用し、前線で敵の動きを乱して欲しいと」


 よもや、最前線。フリードは半ば本能的に拒絶しようとしたが――


「……わかり、ました」


 次に出た言葉は、肯定。理由は、自分の命よりも先に――


「では……詳しい話は、後程」


 騎士は手早く告げると馬を速く進め前へ。そこで、フリードは小さく息をつく。気付けば両手が、僅かに震えていた。


「……なぜ」


 命を失うより、臆病者だと言われた方がまだマシではなかったか。けれどフリードは承諾した。それはまさに、生まれながら染みついた家柄の呪いに他ならない。

 生きられる保証もないというのに、城の中で生きるため保身――滑稽極まりなかった。


 フリードは途端に笑いたくなった。けれど奇異な目で見られることが嫌で、すぐにその衝動も収まった。






 そして翌日の朝平原に辿り着き、布陣を始める中で、フリードはその目で見ることになる。

 街道を進む――覆い尽くすほどの白。それこそ、フリードを震撼とさせる絶望そのものだった。


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