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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第八話
239/411

屋敷前で

 ――ユティス達がアシラと合流したのは、城を出て三十分ほど経過した後だった。


「アシラ、首尾は?」


 場所はマリードの屋敷近く。ラシェンの私兵と共にいたアシラは難しい顔をして、


「門の向こう側に強固な結界が張ってあり、入れません。破壊なども難しいという状況です」


 アシラの言葉に、ユティスは真正面に存在するマリードの屋敷を見据える。


 結界――確かにそれらしいものが存在しているようにも見えるが、巧妙に隠されているのか強い魔力は感じられなかった。


「私には、それほど大きな力は感じられないのだが」


 ラシェンが言う。それにオズエルが解説する。


「もう少し近くならば判然とするのでしょう……こちらの目から見ると、ずいぶんと歪んでいる」

「歪む?」


 ユティスが聞き返すと、オズエルは解説に入った。


「言ってみれば、周囲の空気と魔力を同調させつつ、大地などから魔力を利用し閉鎖空間を作り出している……アシラ、接近してみてどう思った?」

「物理的な行動では破壊が難しいかと思いますけど」

「ふむ、俺も同感だな……というより、宮廷魔術師が相当な準備をしないとキツイだろう」

「それほどの結界を、あの当主が……いや、ヨルクの師である以上、このような芸当もできる、か」


 ラシェンが呟く――と、今度はアシラが小さく手を上げた。


「あの」

「どうした?」

「聖賢者ヨルクの実力は噂に聞いていますが……ララナス家当主の方の評判はありませんよね? 本当に強いのですか?」

「強かった、とでも言えばいいか」


 ラシェンは言う。ユティスは事情を多少ながら知っているのだが――


「当代きって、とまではいかないが宮廷魔術師としても上位に位置する実力の持ち主であったことは間違いない。今屋敷に存在する結界もその時の技術などを活用したものだろう」

「今は、違うと?」

「魔導実験で、事故を起こしてな……それにより障害が出て、自分自身の魔力を上手く行使することができなくなってしまった……もっとも、それはあくまで自身の魔力を活用してのこと。あの結界のように大地などから借り受ける魔法ならば、行使できる」

「重大なハンデだな」


 オズエルが言う。それにユティスは心の中で同意する。


 どれだけ強力な魔法が使えようとも、全ては魔力の質や量によって決まる。技術的な問題も関係しているが、どんな魔法も基本は自身の魔力を介して発動するものであり、今のマリードのように自身の魔力を利用することができなくなった場合、手足を失ったに等しい程のハンデである。


「そう、これは重大なハンデだ。だからこそ、自身の魔力を利用しなくとも使える『召喚式』に彼女は手を出した」


 ラシェンはオズエルの言及に頷き、さらに説明を続ける。


「とはいえ、それは半ば狂気の研究だったのかもしれん。話によれば、事故の後も身体的にも精神的にも問題なかったはずだが、次第に性格が歪んでいったらしいからな」

「魔法の大半が使えなくなったことで、暴走するようになったというわけですね」


 アシラの言葉にラシェンは頷いた。


「その通りだ――話を戻すが、現状屋敷に入るのは難しい様子……どうする?」

「結界を破るには、二つの手段がある」


 オズエルが言う。それと共に一同視線を注ぐ。


「一つは、先ほど言ったように複数の魔術師が連携して結界を破壊する術式を組むこと。大地から魔力を借り受けているなら、それをさせないために魔力の供給を妨害するか、それとも結界を構築する魔法の命令などを書き換えるか……どちらにせよ、大仕事になる」

「ラシェン公爵、人なら城から要請するしかありませんが、来ると思いますか?」


 ユティスは心の中で来ないと結論を出したが、訊いてみる。


「いや、無理だろうな」


 ラシェンの返答は予想通りのものだった。


「結界を構築して実験をするのはララナス家。トラブルが多かったことを考えると日常茶飯事、などと言われて取り合ってくれない可能性もある。もちろんそれは魔法院の妨害もあるはずだが……そうなってしまえば、私達も引き下がらざるを得ない」

「しかし、フレイラ達が……」

「単にお茶をしているか、それともマリードが魔法の品評会でもしているか……などと主張するだろうな。どちらにせよ外部に状況が漏れていない現状では、私達が考えているフレイラ君達の危機は推測に過ぎない。よって、宮廷魔術師も動けないだろう」

「魔法院も絡んでいる以上、協力は厳しいと」

「そういうことだ……オズエル君、二つ目は?」

「内部から何かしら魔力的に干渉する」


 オズエルが言う。彼は腕を組みつつ、話を続ける。


「外部だけではなく、内部からも干渉すれば、あるいは……」

「それをするためには、中の状況を確認せねばならないな」

「……結界にもほころびがあるかもしれない。それを利用すれば、中に入ることはできなくとも連絡くらいはとれるかもしれない」

「その方法しかないな」


 ユティスは承諾。ならばと、オズエルは続ける。


「なら、結界を調査しよう……その間に当主本人が干渉して来たら好都合だが」

「そういうことだね……行こう」


 ユティスが言う。次いでラシェンへ首を向け、


「ラシェン公爵――」

「うむ、さすがに戦闘になったら迷惑をかけるからな。私はここで引き下がらせてもらおう。もしマリードと一悶着あった場合……いや、さすがにこの状況では戦いが起こっているだろう。その辺りの対外的な対応については、私に任せてくれ」


 ――サフィ王女との会話もあり、色々思う所はある。だがユティスは全てを押し殺し「お願いします」と告げた。


 ラシェンは私兵と共にこの場を離れる。そしてユティスはアシラ、オズエル、ジシスと共に、屋敷へと歩き出した。


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