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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第八話

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幻影の言葉

 ティアナ達が戦う一方で――ユティスとサフィはラシェンと話を始める。サフィが語り出した段階では、まず当たり障りのないことから始まった。基本的には今後の彩破騎士団の行動について。フレイラの件に関しては城側も動かないことが確定したので、あとは彩破騎士団がどう処理するかの問題となっていた。


「現状、フレイラを戻すためにティアナ達が動いています。フレイラ自身どう考えているかを含め、話し合えたらと」


 そうユティスが結論を出した時点で、サフィもラシェンも首肯した。

 よって、話が次に移る――いよいよだと思った矢先、唐突にドアがノックされた。


「……どうぞ」


 サフィが返事をする。やや声音が硬質だったのは、いよいよ切り出そうとしていたところに横槍を入れられて不機嫌だからかもしれなかった。


「……失礼いたします」


 そう告げ扉より入って来たのは侍女。それと共に、オズエルの姿があった。


「ユティス様のお付きの方より、お伝えしたいことがあると」

「……どうした?」


 ユティスが訊くと、オズエルは侍女が去った後、語り出した。


「ユティスさん、アシラから連絡があった」

「アシラ、から?」

「正確に言うと、アシラが公爵の私兵に頼んで言伝を行ったらしい」

「あまり良さそうな内容ではないな」


 ラシェンが言う。さらにやや険しい顔つきを見せたのは、何かしら予感があったからか。


「ララナス家側で、何かあったのか?」

「そのようです。公爵、確認ですがララナス家について、多少人を派遣していましたか?」

「ああ。一応屋敷周辺に異常がないかを確認させている」

「その人物がどうやら異常を発見したらしく……それをアシラに伝え、今こうして俺が伝えている状況です」

「アシラは、どういう言伝を?」


 ユティスが問う。するとオズエルは少し間を置いてから、


「自分自身も屋敷へ向かう、と」

「……屋敷内で色々やっているということは、公爵の屋敷も騎士団の屋敷も大丈夫でしょうか」

「魔法院側が何かをするなんて真似はさすがにしないだろう。それに、盗られるような物もないだろうからな」


 ――ユティスとしては、それを心の中で否定する。


 彩破騎士団の屋敷には現在、エドルやサフィと共に調査を行った遺跡の資料が存在している。本来ならば都に帰ってからすぐオズエルが調べるつもりだったのだが、銀霊騎士団のこともあり、なおかつラシェンの屋敷に一時寝泊りするなどあって、まだ調べられていないのが実状。


 とはいえその事実はラシェンには伝わっていないし、ましてや魔法院にも知られていないはず――第一、もし知っているのならネイレスファルトへ赴いた時点で行動する方が確実でもあるため、大丈夫だろう。


「……ブローアッド家に関することもあったから警戒していたけど、さすがに白昼堂々という可能性は低いでしょうね」


 ユティスは結論を述べ――再度オズエルに問う。


「それで、他に伝言は?」

「今はまだ。公爵の私兵と共に行動している様子なので、もし何かあったら逐一連絡を行うということらしいが」

「わかった……ラシェン公爵」

「現状、私達から話を聞きたいという人物も少なくなった。フレイラ君の件は不干渉ということにしたのだろう……よってもう城を出てもよさそうな状況だが、妨害される可能性は否定できないな」


 そこでラシェンは腕を組む。


「どうする? もし妨害があったのならば何か手を考える必要がある」


 ユティスはラシェンの言葉を受け思案する。


 アシラが動いているのは間違いない。彼一人で行動させることに多少の不安を覚えるのも事実だが、座して待つというのも選択肢の一つではある。


 ただ、待つとしてもこの場に残ってやれることはもう少ない。この状況ではサフィが述べたことを実行するタイミングも消え、さらにフレイラのことについてはほぼ解決したと言ってもいい状況。もしやれることがあったとしたら、自身もまたフレイラを助けに行くべきではないか。


 ユティスはサフィに視線を送る。彼女は見返すと、無言で頷いた。ユティスの行動に賛成する――そういう意図が見て取れた。

 王女にしてみればラシェンのことはいつでもできる。今はフレイラを――そういう考えなのだろう。


「……ラシェン公爵」

「うむ」

「行きましょう」


 言葉に彼は力強く頷いた。


「とはいえ城から急行するにしても準備が足りないな。ひとまず屋敷へ戻らなければ」

「はい」


 承諾したユティスは、一度サフィとアイコンタクトを行う。

 これでいいか――そういう意図を乗せた視線に、サフィは頷きにより応じた。


「妨害がないことを祈ろう」


 ラシェンが先んじて歩き出す。ユティスはそれに追随し部屋を出ると、廊下を進み始めた――



 * * *



 剣の柄に手を掛けた状態で、フレイラは相手を凝視する。その相手は――


「単純な話よ。渡した剣で目の前の敵を斬るだけ……簡単でしょう?」


 マリードが問う。だがフレイラは動けなかった。その理由は、


『どうしたの?』


 何度も見えていた子供の時の自分の姿――フレイラ自身目の前の存在が何かしら魔力的に変化させた幻影だとは気付いている。だが、


『ふふ、来るならどうぞ?』


 笑いながら語る少女。それを見たフレイラは、凝視してなおも動けない。

 なぜ――自問自答した瞬間、少女は語り始めた。


『あなたは私のことを見てどう思っているのか……ともかく、そうやって立ち尽くしているのなら、少なからず思うところがあるのでしょう?』


 一歩近寄る少女。途端フレイラは目の前の少女が何か仕掛けているのだと断じ、同じ歩幅だけ後退する。


「……来ないで」

「なぜ斬れないのか……その理由を教えてあげましょうか」


 少女は言う。それは一体――


『あなたはね、無意識の中で岐路に立たされていることを自覚している。私を斬れば彩破騎士団の所へ戻ることになる。そこに迷いがある』

「迷い……?」

『本当に、戻れると思っているの?』


 フレイラは呼吸が一瞬止まる。あやうく、手の力が抜けそうになった。


『マリードを倒して、本当に騎士団に戻れると思っているの? あなたは、ユティスにやってはならないことをしたのに』


 それは――罠だったと言いかけて、少女の鮮やかな微笑に口が完全に止まる。


『あなたの功績を考え、フレイラのことは許すかもしれない。ユティスだって、許してくれるかもしれない。けれど、あなたがしでかした罪は残る。ユティスの能力は奪われたままだし、傷痕だって残っている』


 弁明の余地のない事実だった。フレイラは相手を注意しつつも、一歩近づいた少女に対し、何もできなかった。


『力を奪ったことは、言い訳のできない明確な罪。それを取り戻すためにここに来たわけだけれど、結局それは叶いそうにない』

「何が……言いたいの?」

『私は、もう一つの選択を提示したいだけよ』


 少女は語る。もう一つとは一体何か――


『彩破騎士団には戻らず、領地に戻る』


 それはつまり、全てを放棄するということか。


『そうすることが、一番の手段だとフレイラ自身思っているんでしょう?』


 問い掛けに――フレイラは何も答えられなかった。


『ユティスを守るという固い意志があるのは認めるよ。ティアナさんが言ってくれたこともあるから、騎士団に戻ることはできると思う。けれど、本当にそれでいいと思っているの?』


 少女は、さらにフレイラに近寄り問う。


『――本当は、そんな力もないことを自分が一番理解しているでしょう?』


 無力、と断言するまでには至っていない。けれど、新たに加わった面々により、フレイラは何もできないという絶望が心の中を支配したのは明確な事実。


『私はね、ユティス達と一緒にいることが全ての解決策じゃないと思うの。フレイラはここまで頑張ったよ。ここからは少しやり方を変え、彩破騎士団を後ろから見守るなんて形もありなんじゃないかな?』


 ――思考が正常なフレイラなら、この甘言が紛れもなく誘いであると理解できたはず。

 敵は彩破騎士団の分断を狙っている。ユティスや他の仲間達は信頼関係が存在し突き崩すのは難しい。だがフレイラは封印されていた記憶のこともあり、揺り動かすことは容易だった。


「私、は」

『迷いを断ち切れないのあらば、私は斬れない。だけど、もし今ここで決断できたのならば……あなたは動くことができる』


 それは間違いなく暗示だった。フレイラはその瞬間頭のどこかで暗示を行い動きを止める幻獣なのだと悟る。

 目の前の魔物が発する声や気配が体に侵食していく。少女の言葉を聞き、それを理解することで彼女の言及に従わなければ動けない。そういう魔物。


『理解したみたいだね』


 少女は言う。フレイラが目の前の幻獣の特性に気付く――それ自体も、魔物やマリードが仕組んだことなのか。


『ふふ……その剣に罠があるなんて考えているかもしれないけれど、よく見て?』


 少女に言われるがままフレイラは剣を見据える。それは――


「っ……!」

『憶えているでしょう?』


 その剣は――あのユティスを斬った日、彼の部屋で見たことのある剣だった。


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