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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第八話
232/411

光の矢

 ――思い出した直後、ティアナはまず剣を投げ捨てた。


「っ――」


 マリードが短く呻くのをティアナは耳にする。とはいえ次の行動には迷いがない――魔物が迫ろうとする中で、先ほど回避したのと同じように跳躍した。

 先ほどは壁を蹴るような形だったが、今度は後方に移動。同時に体をバク宙でも決めるように半回転させ、壁である結界に足を当て――止まった。


「へえ、そういうこともできるんだ」


 マリードによる感嘆の声。ティアナは壁に足をつけ横向きに立っているような状態であり、半透明の結界を利用しているためか空中に浮いているようにも見える。

 魔物が接近する。それと同時にティアナはさらに跳躍した。身体強化を利用し勢いをつけ、再度壁に着地。しかし高さは、魔物の図体を越えている。


「そのまま天井まで逃げるつもりなの?」


 マリードは問う。魔物に指示を出したか首を向け――ティアナはさらに跳躍し天井へと近づく。

 その間に、左腕を振った。刹那魔力が生じ――ユティス達に聖騎士候補であることを明かす前、使用していた『顕現式』の弓を出現させる。


「なるほど、そういうことか」


 マリードはティアナの目論見を理解したのか、声を上げた。


「弓により上から攻撃……しかし、あなたは思い違いをしている」


 何が言いたいのかティアナも理解していた。だが構わずティアナは矢を生み出す。


 ――この矢も本来ならば、物質化を行い相手の撃ち抜くのだが、今回は違う。


 ヨルクが語っていたのはこの事。ティアナ自身武芸を学ぶ中で剣以外の武器も習得した。その中の一つが――


「やりなさい」


 マリードが告げる。上部にいるティアナへ向け――魔物は跳躍した。

 恐ろしい速度だった。予想できていなければ対応は不可能だっただろう。


 しかし、ティアナは冷静に魔物の動きを見極めていた。そもそもあれだけの力を有していた相手だ。脚力なども相当あるだろうというのは想定していた。

 だから放たれようとした剣をさらに壁を蹴ってティアナは避ける。そして、矢をつがえた。


 マリードはきっと通用しないと思っているだろう。だが、


 矢が空中にいる魔物へ向け放たれた。相手はティアナのように壁を蹴って回避するなどといった所業はできず、逃げ場なく矢を右肩へと受けた。

 そして落下、着地する。魔物は痛みなどないのか、それとも声を発するような器官がないだけか、声一つ発しなかった。しかし、


「な……!?」


 マリードが呻く。矢が直撃した右肩は、大きく損傷していた。


「――単純な話です」


 壁にへばりつく、ティアナは語る。


「あなたも知っている『幻霊の剣』を、矢に転用した……ただそれだけです」


 マリードととしては、たったそれだけのことでこうも容易く傷を――と、考えていることだろう。だがティアナにとっては大きな違いだった。何せティアナがの技術が深く眠っている右腕の魔力収束により生み出した矢なのだ。威力があって当然だ。


 実際、試しに使った時も驚くほどの効果を生んだ。左手はやはり制御不足なのか、右手によって生み出された『幻霊の矢』は、明らかに威力が高かった。

 そして今、幻獣のような力を持っている魔物に対しても効果が実証された。


「再度、私の所へ跳躍しますか?」


 ティアナが問う。だがマリードは動かない。

 さすがに理解できているのだろう。空中で魔物は逃げ場がない。それはつまり、ティアナの矢を確実に受けることを意味している。


 ティアナは無言のまま、新たな矢を生み出す。次で決める――そういう意思を固める。


 直後、魔物もまた動いた。このまま座して待てば敗北が確定だと認識したらしい。再度跳躍し剣を放とうとする魔物。だが空中により立ち回ることができない魔物の斬撃軌道を読むのは容易く、壁を蹴ってあっさりと回避することに成功する。


 仮に、結界を消せばまだ勝機はあったはず――とはいえそれができないだろうという予想はティアナもできていた。それは『召喚式』の魔物を維持しているため――命令を含めた細かな指示を送る場合、それなりの集中と魔力を消費する。それが推測できていたからこそ、こうした行動をとることができる。


 魔物がティアナのいた場所へ剣を振る。既にティアナは横へと回り、狙いを定めていた。


「――終わりです」


 言葉の直後、最初の矢が放たれる。狙いは左足。太もも当たりに直撃し、問答無用で膝から下が消失する。

 落下を始める。その間に矢を放ち頭部を破壊。だが魔物である以上それでも動く可能性がある――ティアナはこの時点までで『幻霊の矢』が十分通用すると確信し、魔力の収束方法を変える。


 そして生み出された矢を放ち――手から離れた瞬間、矢が分裂し光の雨となって床に着地する魔物に降り注ぐ。

 左足が残っていれば回避できたかもしれないが、それはまったくできなかった。光の雨が魔物へ降り注ぎ、それらは全て例外なく魔物の体を貫通する。


 どれほどの強度を所持していようとも――ティアナの攻撃には無意味。とうとう魔物は消滅した。


 ティアナは地面に降り立ち、マリードを見据える。相手は驚いていたが――やがて、


「この子も、どうやら私の予想以上に出来が悪かったということね」


 仕方ない、といった様子で声を発した。


「……それもありますが、一番の原因は他にあると思いますよ」


 ティアナは投げ捨てた剣を拾いながら言う。するとマリードは小首を傾げた。


「へえ、それはどういうことかしら?」

「あなたはおそらく、こうした魔物を完璧に創り上げた……そして、私達で性能を確かめようとした」

「正解ね」

「そもそもあなたが生み出したもの……限界があったというだけの話なのでは?」


 挑発的な言動。それに対しマリードは俯いた。


 怒っているのかと最初思ったが、肩の震わせからして笑っているのだとティアナは悟る。


「……まさかあなたの口からそんな安い挑発が飛び出るとは思わなかったわ」

「どうも」

「私自身、完全な存在を創り上げたわけではないけれど、確かにあなたの言う通り連続で醜態を晒したのであれば、そんな言及がきてもおかしくないわね」


 マリードは顔を上げる。その表情はあくまで余裕に満ちている。

 それを崩した時こそ本当の勝負――ティアナは確信しつつ、さらに言葉を紡ぐ。


「で、次はどうしますか? 私はまだまだ余裕なので連戦でも構いませんが」

「そうしても良いのだけれど、残念ながら次の対戦カードは決まっているの」


 となれば――ティアナはすぐさまフレイラ達の立つ場所へ目を向ける。全員マリードの発言を受けて警戒を示している。


 決まっているとまで言った以上、今度はもしかすると強制的に仕掛けるかもしれない――ティアナは結界越しではあったが仲間達に近づこうと動く。


 その時だった――突如、ティアナと仲間達を阻む結界が、消えた。


 より正確に言えばフレイラ達のいる周辺の結界が一瞬消え、また新たな結界を形成しようと動く。その時点でティアナは仲間の近くにいたが、自身の体をわざと避けるようにして結界が湾曲しながら再形成される。


「これは……」


 ティアナは呟きマリードに目をやった。直後、


「――フレイラさん!」


 アリスの声が聞こえた。即座に視線を転じると、いつのまにか近くにいたフレイラとティアナ達を隔てて結界が形成されていた。


「今度は強制よ。フレイラ、決着をつけましょうか」


 マリードが言う。フレイラはまず周囲を観察。自身が歪んだ形となって結界の中だと認識すると、静かに歩き始めた。


(まずい……)


 ティアナは胸中呟く。そもそもフレイラは現段階で丸腰。このアリスとティアナは魔物に対し有効な攻撃手段を持っていたからこそ対処できた。しかし、フレイラにはそれがない――


「ティアナさん、そう不安になる必要はないわ」


 マリードが言う。


「彼女とは、単純な戦いで決着をつけるつもりはない……ねえフレイラ、あなただって自身が犯した過去と対決したいでしょう?」


 フレイラは何も答えなかった。その後姿にティアナは少なからず不安を覚える。大丈夫なのか。


「では、始めましょう」


 言うや否や魔力が胎動。そしてフレイラの目の前に、魔物が出現する。


「武器もあなたにあげるわ。もし自由に攻撃していいわよ」


 魔物が出現する間に、マリードは傍らにある机から剣を手に取り、結界を一瞬だけ開いてフレイラへと放り投げる。


(……え?)


 その剣を見て、ティアナは心の中で呟く。柄頭から鞘まで全てが深い青色を成している。その見た目に形状――見覚えがあった。


(あの剣は、まさか……)


 呟く間に魔物が出現。フレイラは即座に落ちた剣を拾った。ただすぐには抜かない。贈り物と称して罠を含ませた相手だ。その剣だって何かしら仕掛けている。けれど魔物の出現もあり、警戒のため――そういう感情が見え隠れする。


 やがて魔物が完全に形を成す。今までとは異なる、子供の背丈くらいしかない、黒い人形のような魔物だった。


「……あ」


 そして、フレイラは声を発する。同時にその肩が震い始め――


「フレイラ様!?」

「さあ、どうなるか楽しみね」


 マリードが言う。その目には確実に、実験という以上にフレイラの悲惨な結末を期待する様子を見せていた。


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