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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第八話
222/411

女主人の配下

 ティアナ達が玄関ホールに踏み込んだ時、ホールに陣取る相手を見据える。玄関扉を背にして存在する敵は、異質極まりない魔力を所持していた。


「ヤバそうね、これは」


 リザもそう評する。それと共に相手もまた動き出した。

 人型であるのは間違いないが、大人が三人並ぶくらいの肩幅と体格を所持している。


 全身を白銀の鎧で覆ってはいるが武器は所持していない。鎧の所々から見える体の色は青。そして顔には、目も口も鼻も存在しておらず、ただ虚ろな青色だけが存在している。


 その中で極めて特徴的なのが腕。肩から左右に二本ずつ生えており、それらが今にもティアナ達に襲い掛かってきそうな気配を見せている。


「……マグシュラントのものと毛色は違いますが、魔人という名称が似合いますね」


 ティアナは剣を構え、さらに左手に『幻霊の剣』を生み出す。見た所目の前の存在は魔物と同様魔力の塊に違いない。マリードが『召喚式』の魔法で生み出した存在であるのは間違いなく、魔力の塊である自身の技が通用するとティアナは確信する。

 とはいえ、その巨躯を見れば攻撃を一度もらった時点で危険なのは明白――ティアナは周辺に他に敵がいないかを探りつつ、イリアに問う。


「他に気配は?」

「ない、です」

「ならば、アリスさんと変わってください」


 人格を入れ替えても、敵は態度を変えないだろう――そもそもイリアが驚異的な魔力探知能力を持っているのは彩破騎士団しか知らない。

 彼女は一瞬目を伏せ、開ける。目つきが少し違っていたため、入れ替わったのだと悟る。


「アリスさん、攻撃してきた瞬間に魔法を撃ちこみ足止めしてください」

「わかったけど……さすがに腕四本は辛いけど?」

「アリスさんが考えるような形で防いでください。私はそれに応じて動きます」

「……わかった」

「さすがね。ところで私は?」


 リザが茶化すように言う。ティアナは敵を見据えつつ、


「フレイラさんの護衛を」

「……ごめん」


 フレイラが言う。ティアナは何か言おうとしたがそれを飲み込み――相手が動く。

 巨体であるためか一歩がずいぶんと長い。間合いまで一気に接近すると、二本の右腕が同時にティアナ達目掛けて振り下ろされる。


 それに対し先んじて動いたのはアリス。光を収束させ、塊となったそれを、迷わず腕へ向け放った。

 ティアナにも彼女の魔法が相当な魔力を乗せているのが理解できる。頭の中で彼女の魔法により動きを鈍った腕をすり抜け、左腕が来る前に攻撃を仕掛ける――そういう算段だった。


 けれど、次の瞬間予想外のことが起きる。アリスの放った魔法が腕に直撃した直後、いきなりかき消えた。


「っ――!?」


 魔力で相殺したのとは違う。ティアナの目にはアリスの光が相手に向かっていく際、少しずつ拡散していく様を見て取った。

 光は敵の腕に直撃はしたが、衝撃すらも与えられなかった。ティアナは即座に方針を変更。後退を選択する。


 アリスも同じように引き下がる。敵は振り下ろした右腕二本を床スレスレで止めると裏拳で追撃を掛けた。だがティアナ達は間合いを脱することに成功し、拳は空を切る。

 ティアナは即座に転身しようかと迷った。だが自身の左手にある魔力剣を見て、動くことはできないと判断した。


(……魔力が)


 いつのまにか、左手に存在していた幻霊の剣の光が弱くなっていた。長剣ほどの長さがあったはずの刀身は半分になり、その光もずいぶんと弱くなっていた。


(魔力を吸い取られた……? いや、これは違う。しいて言えば――)


 考える間に敵が迫ろうとする。反射的にティアナはさらに後退し、他の面々も同時に後ろへ。

 背後は屋敷の奥へと続く廊下が存在している。逃げ道は存在しているわけだが、果たしてその道は大丈夫なのか。このまま背後の道へ行かせることが目的ではないのか。


(――いや、考えても仕方がない、か)


 そもそも自分達は自らの意志で虎穴に入り込んでいる。ティアナは胸中呟くとアリスに指示を送る。


「……アリス」

「はい」

「イリアと変わって、背後の道が安全かどうか確認してください」


 頷くと同時に彼女はもう一歩下がり一瞬の間。その間目の前の敵は動かない。

 これは警戒しているのか――しかし先ほどの攻防を考えれば、突撃してきてもおかしくない。


(入口を守るよう指示されている?)


 そんな推測を行った時――


「ずいぶんと用心深いのね」


 マリードの声がした。ティアナ達から見て左。


 視線を移すと左後方に存在する廊下から当主の姿。なおかつ彼女の横には対峙する敵と動揺顔のない――しかし二本腕でなおかつ常人と同じくらいの身長を持った敵が彼女を守護するように控えている。


「聖騎士候補になっていたという実力があれば、もっと果敢に向かって来てもおかしくないと思ったのだけれど」


 肩をすくめるマリード。


「ただその実力があるからこそ、今のところ無傷で立ち向かえているというわけかしら」

「……こんなことをして、タダで済むと思っているのですか?」


 ティアナが問う。だがマリードは声色を変えないまま返答する。


「思っていないわよ。けれど、私としては問題ないの」

「問題がない……?」

「あなた達をどうにかすれば身の安全は保障するという契約も交わしているし」


 契約――それを行った相手は間違いなく魔法院だろう。


 魔法院としても彼女を利用し彩破騎士団を潰そうと動いているのは間違いなさそうであり、やはりここを訪れること自体が罠だったと改めて悟る。


「さて、あなた達には悪いけれど、ゲームを始めましょう。やり方は簡単。私が生み出した可愛い子供達を全て倒せたらあなた達の勝ち」

「あなた自身を今ここで叩き潰せば、そんなゲームの必要もなくなるかしら?」


 リザが問う。するとマリードはクスクスと笑った。


「確かにそういう方法もあるわね……けれど、それこそまさしくいばらの道だと思うけれど?」

「あっそ……やってみなければわからないわよ?」


 今にも飛び掛かりそうになるリザ。ティアナはそれを手で制しつつ、マリードに問う。


「できれば、私達としては平穏無事で済ませたいのですが……通してはもらえませんか?」

「嫌よ」


 その言葉は子供が駄々をこねるような口調だった。


「それにね。私自身こんなチャンスを逃したくないのよ」

「……チャンス?」


 ティアナが聞き返すと、マリードは意味深な笑みを浮かべる。


「こんな……魔法を試すことができる機会を」


 ――なるほどとティアナは胸中納得し、改めて対峙する敵を眺める。


 先ほどアリスの魔法が通用しなかったことから考えても、マリードが使用した『召喚式』の魔法は特殊なものだったはず。それらを試したいという考えが彼女の中にはあり、むしろ魔法院からの指示というよりは、彼女自身の目的と合致するからこその攻撃なのかもしれない。


「……ティアナさん」


 そこでイリアが言う。


「私が感じられる範囲では、特に何もありません」

「……今はそれを信じるしかなさそうですね」


 ティアナは心の中で結論を出し、リザとフレイラへ伝える。


「後方へ脱しましょう」

「そうね。私も色々と検証したいし」


 リザもまた賛同し、さらに一行は後退。相手もまた動き出そうとしたが――消極的な行動であるのを悟ったティアナは、即座に叫んだ。


「一気に!」


 その短い言葉で他の面々は理解したらしく、敵に接近されることなく玄関ホールを脱する。


 追ってこない。やはり入口を守る魔物だったのか――とはいえ油断はまったくできない。イリアに確認してもらっているとはいえ、まだ屋敷の中である以上、いつ何時敵が出現するかもわからない。

 ティアナはこれからの算段を考えようとして、まだだと自制する。安全な場所などないかもしれないが、それでもひとまずどこか――


「部屋に入るしかないわね」


 リザが言う。目線の先には扉。


「確かめたいこともあるし、適当な部屋に入ろう」

「大丈夫だと思いますか?」

「さあね。けど廊下にずっと留まっているのもまずそうじゃない?」


 リザは言いながら後方を確認。


「敵が来る気配もないし……それに、相手の言葉からすると今はひとまず大丈夫だと思うわ」


 何を根拠にと思ったが、他に選択肢がないのも事実。なのでティアナは了承し、リザを先頭にして部屋の中へと入った。


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