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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第八話
221/411

忙殺の騎士

 ユティスがサフィと会話をする一方で、騎士ロランは仕事に追われていた。元々事務作業に慣れていないことに加え、さらに記憶が復活するなどという事件が生じたことにより、忙殺されることとなってしまった。


 ユティスやティアナに関することなので、大臣クラスの人間には関係がない――というのは浅慮な兵士達の考え。彩破騎士団に加わった両名は政治的な上層部でも色々議論の的となり、話をさらにややこしくさせている。

 果てはラシェン公爵と激論した大臣もいる――などという噂レベルの話が舞い込んでくるくらいに、混乱しているのは間違いない。


 加えロランはスランゼル魔導学院の一件で彩破騎士団と協力した――これが忙殺具合に拍車をかけた。ただでさえ忙しいのに、ロランのところへユティス達のことを訊いてくる人間までいる始末。正直ロランは一度も怒鳴らずに済ますことができたのは奇跡だと思っていた。


「まったく……」


 ロランは愚痴のように零しつつ、詰所の横に存在する部屋で仕事をする。本来は会議などに使う一室なのだが、状況が状況であるため急遽この部屋を使って仕事をすることになったのだ。


 そうこうしているうちに昼前となる。ロランの体感時間としては恐ろしいまでの速度でこの時間となった。ただ、休んではいられない。今日はまともに昼食をとることさえできないかもしれない。

 ロランは静かにそういう覚悟をした――直後、ドアがノックされた。ロランは怒鳴りたくなる衝動を抑えつつ、短く返事をする。


 扉が開く。そこにはシルヤが立っていた。


「ご苦労だな」

「……そっちも大変なご様子で」


 決して嫌味ではなかった。朝目にした時は記憶が戻ったことで懸念顔ではあったが、決して顔色は悪くなかった。だが今はどうだろう。まるで徹夜明けでもしてきたかのような雰囲気を漂わせている。


「まあな。質問ばかりで喉と頭が痛くなりそうだよ」


 彼女はため息をつく。ロランは「そうか」と応じた後、手近にあった書類を脇へ逸らした。


「……現状、どうなっている?」

「ラシェン公爵が上層部に説明したことで、それなりに落ち着きはしたようだ。ちなみに騎士ロラン。事情については知っているか?」

「俺のところに来る人間がそれなりに喋ったので、断片的には」

「一応情報交換しておこうじゃないか」


 そう言ってシルヤは話し始める。内容はロランも予想していた通り、ファーディル家とキュラウス家の関係性に関する話。


「……本来、ユティス殿を斬ったことで大事となるはずなのだが、あいにく証拠が何一つないため、結局のところ何もなし……あらゆる人間が首を傾げるような事態となってしまったわけだが、彼女の一件は彩破騎士団の面々に一任することになった」

「それが無難だろうな……アドニスは何か言っているか?」

「あいつも妹のリシアなどと話し込んでいて、結論はまだまとまっていない様子だな」


(当然か)


 ロランは胸中で断じつつ、いくつか疑問に思ったことをぶつけてみた。


「ひとまず彩破騎士団が何事もないというのは良かったが……そっちは疑問、あるよな?」

「私もその辺りについて色々と検証したい。ちょっと相談に乗ってくれるか?」

「はい、どうぞ」

「まず一つ。物的証拠なども消失している現状だが……これは、異能の仕業だと思うか?」

「わからないな。ただ一つ言えるのは、消した記憶の内容から、ファーディル家縁の人物による仕業だとしか」

「ユティス殿以外に異能者がいる、か。この場合はロイ殿になるのだろうが……」


 シルヤは沈黙。とても信じられないといった雰囲気。


 これはロランも同意見だった。可能性として考えられるのは、ロイと手を組む魔法院関係者。ユティス達の事件が起こる前の時点で、ロイはある程度人脈を得ていた。となれば、そうした異能者を隠し持っていた可能性はある。


「……まあいい。記憶を封印及び戻した理由については諸説あるため割愛しよう。では二つ目。ファーディル家とキュラウス家との関係性が無くなったという一事により、ユティス殿はあの家の中でずいぶんと隅に追いやられていた。これはなぜなのか理解できるか?」

「……俺も記憶が戻ったから、概略程度には理解できるぞ」

「ほう、なぜだ?」

「ユティスさんが『精霊式』の魔法に手を伸ばしたのは、騎士フレイラのおかげのようだ……まあ、彼にとって騎士フレイラとは幼馴染であると共に、ライバルでもあったんだろう」

「……彼女が剣を握ったため、ユティス殿も魔術師として精力的に活動を?」

「記憶がない状況でも魔術師として活動していたことを踏まえれば、全面的な理由というわけではないと思うが、おそらく何らかのモチベーションになっていたということは間違いなさそうだ」

「ふむ、わかった。では三つ目」


 ここでシルヤはロランに視線を送る。それはどこか穿った目をしている。


「どうした?」

「……その顔つきからすると、まだ話はいっていないようだな」


 何のことだとロランは首を傾げる。するとシルヤは深いため息をつき、言った。


「先ほど、記憶を戻した理由は諸説あると言ったな?」

「ああ」

「現状、記憶を戻しても大したデメリットがない上、むしろ戻すことで宮廷内が混乱する……それを利用し魔法院は色々暗躍しているのだろう」

「それはわかるけど……というか、現在進行形?」

「ああ。そして」


 シルヤは苦々しい顔を見せつつ、続ける。


「おそらくだが、その仕事の大半は終わっている」

「……どういうことだ?」

「話は変わるが騎士ロラン。近日に中に行われる演習に関して何か情報はきているか?」


 唐突に話しが変わったため多少面食らうロランだったが、すぐに小さく頷いた。


「二週間後に行われるものだろう? それがどうかしたのか?」

「以前、それを銀霊騎士団が利用したいという話があったはずだ」

「ああ、確かに。結成直後連携を確認するために、とかなんとか」

「……おそらくだが、その時に彩破騎士団と勝負するつもりでいるのだろう」


 その発言にロランは眉をひそめる。


「それは……?」

「最終的に銀霊騎士団主導で行うというのは否決だったはずだ。だがついさっき確認した所、銀霊騎士団が異能者対策のために行う演習ということになっている」

「つまり、改ざんされた?」

「そういうことだ」


 シルヤは重い返事で応じた後、さらに続ける。


「詳細については詳しく調べていないためまだわからないが、単に演習計画を変更しただけではないだろう。もしかすると、最悪の事態に発展している可能性がある」

「彩破騎士団にとっては、か」


 ロランの言葉にシルヤは首肯。そこで、一つ疑問が生じた。


「……そこまで彩破騎士団を狙うのは?」

「彼らが実質最後の砦となっている。彩破騎士団は異能者との戦いを経験している以上、その戦歴からロゼルスト王国にとって手放せない存在。戦争を終わらせた功績もある上、ブローアッド家の事件なども解決した……マグシュラントの手勢を追いやった事実は宮廷内でそれなりに価値のあるものだったようだ。現時点で権力的に追いやるにしても、よほどのことがなければ難しい」


 シルヤはそう語ると、ロランを一瞥しした後、告げた。


「ラシェン公爵の力も借り、銀霊騎士団最大の障害となっているのは間違いない。それを崩すために、魔法院は動いていると考えることができる」

「……その中で、俺達は」


 何が言いたいのか理解できたロランは声を上げる。対するシルヤは苦々しい顔を見せながら答えた。


「おそらく、そちらが想定している通りだろう……どちらにせよ魔法院は着々と準備を進めている。そして今彩破騎士団は目下トラブル中だ……これをできるだけ素早く収める事。彩破騎士団ができるのは、ただその一点だろう――」


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