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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第一話
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敵の異能

 ユティスは色々と複雑な感情が入り乱れる中で、本題に入る前にフレイラへ問うた。


「えっと……それで、現在はラシェン公爵が?」

「そう。ラシェン公爵はすり寄ってくる、なんて可能性があると言及していたけど、私としては妬み云々で迫るという可能性の方が高い気がする」


 ――ユティスとしては、微妙だと言わざるを得なかった。確かに王を異能で守ったと聞けば家族達が和解の一つでもと考えそうになる。

 けれどファーディル家の両親及び兄弟達は王宮の人間と深く関わるようにしている。その中で邪険に扱って来た三男が――それを貴族は色々と言及するだろう。中にはこれを上手く利用してファーディル家を追い落とそうとする者だって出るかもしれない。そう単純な話にはならないと思う。


 色々考える間に、フレイラはさらに続ける。


「その後、敵は本格的に動き始めたらしく、立て続けに報告が届き……こちらも戦争の準備を始めた。だから現状、私達のことは棚上げされている状態」

「そっか……で、そのことが僕に強壮系の薬を使った理由?」

「相手は『彩眼』を持っている人物で、陛下達はユティスの話を訊きたいみたいだから。それと、今回共同で戦ったためなのか、それとも他に理由があるのか……私まで立ち会うことになった」

「そう、なのか……会議の参加について、僕は構わないけど」

「なら、ナデイルに連絡させる」

「では私が伝えておきます」


 ここでセルナが発言し、そそくさと部屋を退出。

 残されたユティスとフレイラは少しばかり沈黙していたが――やがて、彼女が話し出す。


「……ねえユティス、変だと思わない?」

「変?」


 問い返したが、フレイラは何も答えない。今までのことで何か引っかかったものを感じている様子だが、ユティスとしては何も発さない彼女を見返すしかない。


「……まあいいか。ひとまずウィンギスとの戦いに集中しないと」

「そちらは、現在どうなっている?」

「現在兵を集めている……三日という時間だから、今は人を集められるだけ集めている感じ」


 ――そこで、ユティスはウィンギスの戦力を頭で計算する。ロゼルストと比べ領地が二十分の一にも満たない小国である以上、どれだけ兵を集めたとしても限界がある。そもそも国力が違い過ぎて、侵略戦争など引き起こしてまともに戦えるとは思えない。


「……敵の動向は?」


 ウィンギスの戦力はよくて千あればいい方だろうと思いつつ、ユティスは問い掛ける。


「既にネジェイド領は通り過ぎている」


 そしてフレイラの言葉に、ユティスは驚いた。


「通り過ぎている……!? 領民はどうなったんだ!?」

「略奪を繰り広げているというわけでもない。恐ろしい程理路整然としていて、攻撃を仕掛けて来なければ反撃はしないと表明し、街道を堂々と突き進んでいる」


 その言葉を聞いて、ユティスは嫌な予感がした。数の程までは聞いていないが、そこまで士気が高いとなると――


「敵の大半は、式典を襲った時に戦った……」

「そう。斥候の報告によると、疑似的な人間とも呼べる仮初めの存在。今回は黒じゃなくて、槍と鎧を身に着けた白い兵士らしいけどね。それに加え、魔具らしき腕輪を身に着けているという情報もある」


 深刻な顔でフレイラは語る。それならば、合点がいった。


「情報によると、実際の人間は中核にいる四、五十から百人程度じゃないかという話」

「そう、なのか……けど、今兵をこちらも集めているんだろ?」

「相手の行軍速度を考え、こちらは急ピッチで準備を進めている……現在陛下達は軍議を開いているのだけれど、出発するのはおそらく明朝になると思う。計算上、戦うのは都の南に位置するカラシア平原になる」


 カラシア――ロゼルスト国内で一番面積の広い平原。街道に沿うようにして平原は存在しており、主戦場としては申し分ない。


「となると、その場所で戦って――」

「けど、大問題が」


 フレイラはユティスを遮り続ける。その顔は、ひどく深刻なもの。


「敵の戦力を勘案し……可能な限り兵を集めて総力戦を行う様相となっているのだけど……正直、明朝までにどれだけ体勢を整えることができるのか……」

「総力戦……?」


 ユティスは首を傾げた。フレイラの口上から、ロゼルスト側が不利であるようにも聞こえる。

 異能という存在はあれど、国力的なものを考えれば――と、ユティスが思った直後、


 唐突に嫌な予感がした。


「……敵は」


 そこでユティスは、計算を行う。駐屯地や近隣の領内から兵士をかき集め、なおかつ行軍する際に様々な領地から兵を吸収したとしても――おそらく、兵数としては一万から一万二千程度だと見当をつける。


「――どのくらいの、兵力なんだ?」


 問い掛けに、フレイラは険しい顔をした。そして、


「……総勢、十万」


 聞こえたのは、絶望的なものだった。



 * * *



 ユティスが貴族服に着替え全ての準備を済ませた後、フレイラは彼と共に城内の廊下を進む。事態の重さを認識した彼もまた口が重くなったか、自発的に言葉を発しなかった。


 無理もない――相手は十万の大軍に加え、人間ですらない存在。果たして勝てるのか。


「会議が始まる前に、確認しておきたいことが」


 そうした中、フレイラは隣を歩くユティスに告げる。


「ユティスの『創生』は制約上、自身の魔力を超えた物を生み出すことはできないよね?」

「それは……うん」


 頷くユティス。質問の意図が理解できないためか、やや困惑している。

 しかし、フレイラは構わず問う。


「例えば、大地から魔力を吸い出して自身の魔力と結び付けることができれば、通常と比べて強力な物を生み出せる? それとも、できない?」

「……それは」


 少しばかり考えるユティス。その間にも目的地へ着々と進み――


「……組み合わせること自体は、可能だと思う。実際、それによって簡単な道具を創ったこともあるから」

「そう、わかった」


 フレイラが応じた時、軍議が行われている会議室に到着。フレイラとしてはもう少し話をしたがったが、ユティスが先に見張りの騎士に声を掛ける。

 それにより速やかに扉が開き、


「来たようだな」


 王の声が聞こえた。


 フレイラが先頭に立って部屋へと入る。そこには、重臣に加えアドニスを含めた騎士の隊長達。さらにはラシェンといったそうそうたる面々が楕円形の円卓を囲み、着席していた。


 フレイラとユティスが指定されたのは、王に対し円卓の反対側。そこへ座ると同時に、ラシェンから声が聞こえた。


「待っていた。君達の情報がなくて話も行き詰っていた」

「――本当に、彼らの情報は当てになるのですか?」


 問い掛けたのは王の横にいる法衣姿の初老男性。フレイラは記憶の奥底から、経済系の大臣だと思い出す。


「陛下を助けたという点は……紛れもない事実であり、忠義があることは理解しております。しかし、二人の情報により戦略を判断するなど――」


 フレイラ自身、さして不快に思わなかった。むしろ至極当然だと思う。


 王を助けたという事実とユティスの力などを根拠として、二人はこの場に呼ばれた。視線を転じれば誰もが複雑な表情をしている。

 その表情に対し、フレイラもまた戦略を判断するということについては大臣と同意見だった。


 ただ――十万という軍勢の相手をする場合、どう立ち回るかフレイラは一つ思いついていた。先ほどの質問はそれに関係しているのだが、これは到底策と呼べるものではなく――


「無論、最終的に決めるのは陛下です」


 ラシェンが断言。それに大臣は、口をつぐんだ。


「さて、特に意見がなければ、二人とのやり取りは私が仕切ることにいたしましょう」


 ラシェンは言うと、柔和な笑みを浮かべた。ここには隊長としてユティスの実の兄であるアドニスの存在もある。けれど口を挟もうとしない。その理由は、ユティスとの関係を大なり小なり会議の面々が理解しているのか、それとも王の相談役であるラシェンが仕切ると明確に宣言したためなのか――


 フレイラは黙ったままラシェンへと視線を送る。彼の柔和な顔つきは、見る者を安心させるような空気がある。けれど張りつめたこの場所にひどくそぐわないものであった。

 だからなのか、フレイラは警戒する。あの式典の時、彼が起こした行動に対する疑問。


 この三日間で感じた違和感。あの襲撃は、あまりにタイミングが良すぎたものではなかったのか。もしユティスの『創生』がなければ、襲撃のタイミングは人々が離れたあの時以外になかった。それがどうにも、フレイラ自身引っ掛かっていた。


 もし彼自身が今回戦いを仕掛けた人間と内通しているとしたら、少なくともあの襲撃に関しては説明はつくが――その後フォローを入れたこともあり、不可解な点も存在する。だが、どうしても疑問に思える。


「とはいえ説明する前に、一つフレイラ君に言っておくことがある」


 ラシェンはまず、そう前置きをした。


「君の調査報告の件だが……どうやら、何者かに握りつぶされた形跡があった」

「……つまり、内通者がいたと?」

「そうだ。さらに言えば騎士のシフトなどが細工されていたことも発見された……これについては戦争と並行しつつ調査中だ。続報を待って欲しい」

「はい」


 短く返事をしたフレイラに、ラシェンは大きく頷き、


「次だが、ユティス君に確認だ。式典の戦いの後、私が騎士ロランに指示を出し敵を追わせた結果、相手が『彩眼』を所持する者であると判明した……わからない方々のために説明しておくと、ユティス君のように特異な力が使える人物に見られるものであり、見方によって瞳の色が変わる」


 解説と共にラシェンは一度周囲の面々を見回し――改めて問い掛けた。


「そこで、だ……『彩眼』所持者の力は確かに強力だが、付け入る隙があるのではないか、ということだ。その辺り、どう思う?」


 漠然とした問い掛け。それにユティスはまず質問を行う。


「私の見解を述べて、よろしいのでしょうか?」

「口上からすると、何かしら考えがあるようだが」

「……自分の能力ですからね。調べようとした時もありましたし」


 語ったユティスは――自身の胸に手を当て、ラシェンの言葉に応じた。


「例えば私の能力の制約は、自分の抱える魔力以上の力を持つ物は作れないということです。なので一般的な武器や日用雑貨などは簡単に創れますが、魔具となると……」

「なるほど、わかった。では次の質問だ。相手の能力を、どう考えている?」


 極めて難しい質問。けれどユティスは周囲の面々に臆することなく語る。


「私は命令によって動く存在や、生物や植物を創り出すことはできません。反面、彼はどうやら命令できる存在を創ることができる」

「つまり、彼の能力の方が上だと?」


 ラシェンの問い掛けに、ユティスは俯き、


「彼の能力で衣服や短剣までも創っていたことは、敵を倒した時全て消えたため間違いないでしょう。しかし、もし私のようにありとあらゆる物を自由に作成できるのならば、短剣や衣服に特殊な力を秘めていてもおかしくない。けれど、現れた刺客は丸腰である騎士の方々が取り押さえることに成功した相手……私のように、自由とはいかないのかもしれません」

「そうか、わかった」


 ラシェンは納得の声を上げユティスに返答。その顔は、自身の推測が間違っていないとでもいうような雰囲気。


「何がわかったのだ?」


 問い掛けたのは王。それにラシェンは神妙な面持ちとなり、


「敵の能力についてです。おそらくこの解釈で間違っていないと思いますが……」

「話してくれ」

「はっ……まず私が疑問に思ったことは、敵はなぜ陛下を殺めようとしたか、ということです」


 その言葉を聞いたと同時に、室内が僅かにざわつく。意を介せないため首を傾げる者もいれば、何かに気付き声を上げようとする姿もある。

 けれど、それらを全て制止するようにラシェンは語る。


「十万の兵力があれば、極端な話その兵力を使って怒涛の如く攻め込めばいいだけの話……ならばなぜ、陛下を殺めようとしたのか疑問に思いました」


 ラシェンはそこまで語ると一拍置く。他の者は誰も声を発さず、フレイラもまた緊張した面持ちで耳を傾ける。


「そこで私は、不謹慎ながら陛下が殺められた場合のことを想定しました……間違いなく、多大な混乱を呼ぶことになりましょう。敵はそれに乗じて十万の大軍で都へ攻め入り、おそらく陛下が亡くなり混乱する重臣や、騒動により残っているであろう領主達を根絶やしにするつもりではなかったのか、と考えました」

「上に立つ人間を先に始末することで、後の占領を楽にする算段なわけだな」

「はい」


 王の言葉にラシェンは首肯し、なおも続ける。


「しかし、策など用いなくともあれほどの軍勢がいるのならば占領は容易いはずで、理由づけとしては弱い……そこで考えたのが、単純に戦う場合どうなるか、という事。私達は未曽有の大軍に結束し、最大限の反攻をしようとするでしょう……とはいえ、それもまたあれだけの大軍がいれば十分対抗できるでしょうし、制圧して反発する者達を根絶やしにすることも可能なはず」

「何が言いたいのだ?」


 話の芯が見えないためか、重臣の一人が声を上げる。そこでラシェンは王を一瞥し、


「ここからが私の推測ですが……敵はおそらく、生み出した兵を減らしたくなかったのではと考えます」

「……何?」

「陛下を殺めることで占領を早くできる……我々は間違いなく浮足立ち、都の占領も容易。駐屯地にいる騎士や兵も陛下が亡くなれば士気も下がり簡単に瓦解する……だからこそ、彼らは王を殺めることを優先した」


 そこまで語るとラシェンは周囲を再度一瞥し、


「……ここから、ユティス君に尋ねた部分が関係してきます。私は『彩眼』の力を使用する際、制約が存在することを確認したかった。例えば襲撃の時であっても、もっと襲撃数を増やし数で一気に押すこともできたはず」

「複雑な命令を与えて使役すること自体、多大な魔力を消費するのかもしれません」


 ユティスの言。これにラシェンは大きく頷き、


「私も同意見……つまり、ユティス君が『創生』の力を利用するには制約があるように、彼にもまた制約がある。その一つが、複雑な命令を与えると操れる数が減るというもの……なので、十万の軍勢も簡単な命令しか受け付けないのでしょう。もっとも」


 と、彼は肩をすくめる。


「それだけの数がいれば、ただ突進させるだけで十分でしょうが」

「それと、兵を減らしたくなかったというのは関係があるのですか?」


 問い掛けたのは、ラシェンと向かい合う形で座る人物。騎士服であり、騎士団の者達が全員首を向ける白髪混じりの人物――フレイラは騎士団長であるハイズレイ=マドルーザだと断ずる。


「ええ……おそらく兵を減らしたくなかったというのは、一度失うと生成に時間が掛かる、という話ではないでしょうか?」


 その言葉に、誰もが沈黙。解説を誰もが吟味している様子であり――その間に、彼の言葉は続く。


「先の襲撃に話を戻しますが……敵は、数が減った分だけ新たな兵を生み出しても良かったはず。けれどそれは行わず、退いた。ここから考えるに、兵を生み出すにしてもすぐにはできないという風に考えることができる」

「……要するに、十万の兵をすぐに創り出すような真似は、相手もできないと」


 ハイズレイの言葉にラシェンはすぐさま頷き、そして、


「ウィンギスは彼の能力に目をつけ、ロゼルスト王国を打倒するためにその力を秘匿させつつ兵数を増やし、十万という数で押し寄せようとしている……というわけです」


 彼は語る――確かに制約については理解できる。けれど、それはあくまで瞬時に十万の兵を創りだせないという事実を説明しただけで、目前に迫る軍に対処できる突破口とはならない。


「とはいえ、まだ疑問はあります。十万という大軍を率いても策を用いたというのは、ロゼルストに対しそれだけ警戒していたのか、それとも他に重大な問題があるのか……それとも、ロゼルストを占領するだけでは飽きたらず、この大陸を蹂躙しようという、大望でも抱いているのか……」


 最後に告げられたラシェンの言葉に、皆口をつぐんだ。

 敵の底が見えず、今にも脅かされそうな状況――フレイラもまた十万という敵の多さに委縮しそうになっているのは事実。


 けれど同時に、また疑問が生まれていた。状況証拠からラシェンは敵の能力に対する推測を行った。けれどそれは、本当に単なる推論だけなのだろうか。元々能力を知っていて語っている部分があるのではないか。


 彼の行動について疑問が多々あり――フレイラは、無言のまま彼を見据え続けた。


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