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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第八話
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召喚命令

「……つまり」


 僅かな沈黙の後、ティアナが口を開く。


「ララナス家の仕業だということを利用して、魔法院はヨルク様を……!?」

「どういう交渉があったのかはわからない。だが故意に彼だけ記憶の封印を解き、説得した可能性が高い」


 ラシェンは言う。同時に難しい表情を見せつつ解説を続ける。


「記憶を戻すことによってデメリットは存在する……が、魔法院――というより、ロイ君の魂胆がおぼろげながら見えてくる。彼自身魔法院という後ろ盾があり、現状記憶が戻り不利な情報が拡散しても対処できるだけの権力がある……さらに言えば手駒を集め、数にものを言わせ無理矢理納得させる手法もある」

「とすると、ロイ兄さんが一番重要だと考えているのは――」

「銀霊騎士団と彩破騎士団との戦いだろうな」


 ラシェンが断定。それに再度ユティス達は沈黙する。


「マグシュラント王国の手勢も前の事件と共に引き上げたと考えていいだろう。つまり他国からの謀略的な介入もなく、魔法院は今完全に枷が外れた状態にある。これを機にさらに勢力を拡大し、なおかつ異能者との戦いについて手駒である銀霊騎士団が彩破騎士団との競争に勝てば……魔法院が権力層の最上位に立つことは間違いないだろう」

「最大の障害は、僕達ということですか」

「結果としてそうなっているな。陛下直属の対異能者組織――しかも一つの戦争を終わらせた組織は、政争だけで突き崩すのは難しいという判断をしているのだろう」


 ラシェンはそこまで語ると、水を一口飲んだ。


「騒動をいくつか解決し、なおかつマグシュラントの手勢すらも倒した功績と戦力……銀霊騎士団としては、彩破騎士団と直接戦い勝てなければその存在を証明することは難しい」

「だからこそ、ロイ兄さんはヨルクさんを……」

「盤石の態勢を取りたかったのだろう。残る障害が彩破騎士団だけであるなら、それを上回る戦力を整え……叩き潰す」

「逆を言えば、そこで私達が勝てば情勢が大きくひっくり返るのよね?」


 どこか楽しげに語るリザ。それにラシェンは大きく頷き、


「そうだ。間違いなく彩破騎士団の価値が高まり、この政争に終止符を打てる可能性がある……だからこそ、今目の前にある騒動を素早く解決し、対決に備えなければならない」

「オッケー。わかったわ」

「話を戻そう。フレイラ君に剣を贈ったのはララナス家……今回フレイラ君が向かった場所は、ララナス家が都内に所有する屋敷だろう。場所については現在調査中だ。もう少し待ってくれ」

「わかり易くていいけど……そもそもフレイラさんは、何をしに行ったのかしら?」


 リザからの疑問――ユティスとしても一番の疑問点。


 フレイラ自身、意図したことではないとはいえユティス自身を「斬った」行為を許せないと思う事だろう。となれば、その計略を主導した相手に自ら――と考えることもできるのだが、ユティス自身フレイラが何も言わずそこまでの行動をするとは思えない。


「どういう理由であれ、屋敷の場所を把握次第、赴く必要があるだろう」


 ラシェンが言う。それにはユティスも同意し――ここでようやく食事を終えた。


「敵は、こちらに仕掛けてくると思いますか?」


 ユティスが問う。ラシェンはしばし考え――


「マグシュラントのような無茶なやり方はしないだろうと思う。しかし、ララナス家がどう動くかわからない以上……判断はできないな」

「もしやるにしても、ブローアッド家のように大っぴらにはやらないと思いますが」

「それは同意する……しかし、ララナス家はブローアッド家とも比べ厄介な能力を保持している。注意せねばならない」

「それは一体?」


 アシラが訊くと、ラシェンは歎息した。


「彼女は国内でも有数の『召喚式』魔法の使い手だ……もし交戦するとなればそうした存在と戦うことになるだろう……しかもしれだけではない。噂レベルではあるが、厄介な実験をやっているなどという噂もある」


 噂。ユティスが詳細について問い掛けようとした――直後、ふと疑問に思うことが一つ。


(……僕が『創生』により作成した剣は、どこにある?)


 セルナを見る。彼女は硬質な顔つきでユティスを見返すが――


(記憶にある限りでは、僕はフレイラに斬られた後数日間ベッドで寝込んでいた……となると)


「ラシェン公爵」

「ん? どうした?」

「質問ですが……僕は事件が起きる前の討伐隊参加の時、創生の異能を用いて剣を作成しました」

「ほう、それは初耳だな」

「その剣は僕の部屋にあったはずなのですが……」

「消滅している可能性もゼロではないな」

「消滅、ですか」

「真に不可解な話だが、今回の件は記憶だけではなくファーディル家とキュラウス家の関係があったという証拠自体が消えている……これが異能かどうかもわからないが、もしそうならまるで過去を書き換えるような恐ろしい所業……関係性が失われればユティス君も剣は作成しなかっただろうから、記憶を封印された時になくなったと考えるのが自然ではないかと思う」

「過去を書き換える、ねえ」


 リザが呟く。声音は信じられない、といった様子だった。それに対しラシェンは肩をすくめつつ、応じる。


「詳細はまだわからないが、少なくとも単純に記憶を封印するだけではない……時間を操るような魔法が存在していないことを踏まえれば、これが異能である可能性は高いと私は考える……さらに言えば異能の効果範囲もまた驚愕すべき点だ」

「範囲が、でかすぎるということだな」


 オズエルが言う。彼自身異能に関して推測を立てている様子。


「記憶の操作範囲だけを考えると、少なくともロゼルスト国内にまたがっている……ユティスさんからもらった異能者に関する情報から考えると、異能については基本使用者の魔力の範囲内でしか実行することができない……記憶操作がどの程度魔力を消費するかわからないが、少ないにしても異常だろう」

「僕が『創生』を使用した時のように、大地の魔力を借り受けていると考えていいとは思う」


 ユティスが言う。それにラシェンも同意するように頷く。


「うむ、魔力の調達手段はそれで間違いないだろう……記憶操作についての最大の問題は、それを使用されたからといって私達がそれに気付ける可能性が低いということだろう。とはいえ、これだけ広範囲の人間を操作するとなると、準備もいるはずだ。現状、新たに異能を使われる可能性は低いだろう」

「それなら、異能に関する検証についてはこの際後でもいいんじゃないかしら?」


 リザの言葉。彼女はラシェンを見返しつつ、食べ終えたらしくフォークを置いた。


「今はともかくフレイラさんを助けないと」

「そうだな……ユティス君、君自身も出るか?」

「もちろんです。それと、騒動が収束するまでは以前と同じようにセルナなどをラシェン公爵の屋敷で保護してもらった方がいいと思います」

「ああ、それには同意する。さすがに今回は白昼であり相手は城と繋がりがあるわけでもないため、音を遮断する結界などを構築するような真似はできないだろうが……警戒はしておいた方がいい」

「なら、彩破騎士団としては――」


 人選について言及しようとした矢先だった。

 食堂に入ってくる侍女が一人。彼女はナデイルへ何かメモを渡すと立ち去り、彼はそれに目を通す。


「……これは」

「どうした?」


 ラシェンが問う。するとナデイルは難しい表情を伴い、


「ご連絡です……ユティス様とラシェン公爵に、召喚命令が」

「……城からか」

「はい」

「確か、私自身事件について多少なりとも陛下に伝えていたな……それだろう」

「魔法院との関係は?」


 質問したのはユティス。だがラシェンは首を左右に振って関与を否定する。


「仮にあろうとも、召喚命令自体は陛下は情報をまとめるために必要なことだと考えるだろう。どちらにせよ、そうした指示が来た以上行くしかないな」

「無視するのは?」


 そうした質問をしたのはリザ。だがそれをラシェンではなくユティスが否定する。


「さすがにそれを拒否するとなると後で厄介なことになる。魔法院側がここぞとばかりに色々動くだろう」

「そういうことだ……ナデイル、何か条件はあるか?」

「お二方とも護衛を伴い、だそうです」

「……その辺りのことを陛下が指示したのかはわからないが……条件にある以上、従うしかないな」

「とすると、護衛を二人つける必要があると」


 リザが言う。それにユティスは頷きつつ、言及。


「そういうことになるな……さて、魔法院の意図ではないにしろ分断することになってしまった。城に入るとどのくらい拘束されるかわからない以上、その足でフレイラを助けに行くというのは難しいかもしれん。ならどうするべきか――」

「ユティス様」


 次に声を発したのは、ティアナだった。


「私に、任せて頂けませんか?」

「……ティアナが?」

「はい。ユティス様は城に赴いてください」

「――それに、これは好機でもあるな」


 ラシェンが言う。どういうことかとユティスが首を向けると、


「城内が混乱している……どういう状況かを把握した後、上手くいけば調査ができるかもしれん」

「魔法院や、ロイ兄さんについてですか」

「うむ。この事件、私は魔法院以外にも首謀者がいるとにらんでいる。その辺りをはっきりさせるためには、城内を探るのも手だろう」


 ――ここでユティスは胸中で同意しつつ、またそうしたチャンスが巡ってくるのはこの時以外にないだろうと考える。

 とはいえ、そうした行動を起こすことはロイも考えているだろう。幾重にも張り巡らされた謀略を仕込んでいる兄である。その程度のことを看破していてもおかしくない――というより、むしろ当然だろう。


 それを潜り抜けて調べられるのか――


「……ラシェン公爵、人選は?」

「ユティス君に任せよう」

「わかりました。では――」


 ユティスは一拍間を置き、なおかつ周囲の面々を一瞥。

 全員食事を終え、指示を待つような状況。その中でユティスは思考する。


 城に入ること自体、危険はないだろう。だが首謀者が誰なのかを検証する場合、城に入る人選も重要となる。

 なおかつ――ユティスはここであることを思い出した。ララナス家の話はフレイラから幾度か出たことがある。


「……ラシェン公爵。ララナス家の当主についてですが」

「どうした?」

「ティアナを赴かせれば、おそらく入ることができます。とはいえ以前フレイラが語っていたことを踏まえると……入れない人物がいます」


 そう前置きをした後、ユティスは全員に告げた。


「それじゃあ人選を行う……この計略を魔法院に成功させられてしまうと、僕らが窮地に立たされる。どういう役割であれ、しっかりと全うしてくれ――」


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