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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第八話
213/411

広がる騒動

 騎士ロランは目覚めた直後、あやうく絶叫しそうになりながら支度を整え城へと馳せ参じた――そしてロランが予想していた通り、宮廷内は混乱していた。


「どういうことだ! これは!」


 城内にある詰所に入ると同時に騎士の声が聞こえた。見れば騎士団が一ヶ所にわだかまっている。

 その場所にロランもまた足を運ぶ。すると騎士達はそれに気付いて道を譲る。


 奥にいたのは――席につくアドニスと、傍らに立つシルヤ。ロランが視線を送ると、アドニスは黙って見返した。


「……騎士達も、混乱しているようだな」

「ああ」


 ロランの言及にアドニスが答える。彼自身もまた、ずいぶんと険しい表情をしている。


「この場にいる騎士達は、全員同じことを考えているはずだ……『なぜ急に、討伐隊直後に行った、あの演習のことを突然思い出したのか』を」


 強調するように告げたロランの言葉に、幾人かの騎士が頷いた。


「聖騎士候補だったティアナ=エゼンフィクスとお前の弟であるユティス=ファーディルが聖賢者ヨルクと公開試合をした件だ……突然思い出し、事情を知っていそうなお前にいち早く聞きに来た。大臣クラスの連中でも何かしら思い出し、どういうことか尋ね回っている人間もいるだろう」

「そうだろうな」

「……その様子だと、お前も朝方思い出したってことか?」


 アドニスは険しい表情のまま頷いた。


「……記憶を消されたことについて、何か心当たりはあるのか?」

「それはある。だが理由は私の口からではなく、きちんとしたしかるべき場所で話をするべきだ」

「なるほどね……ならもう一つ。険しい顔をしているってことは、戻った記憶はネガティブなものなんだろ? なぜ今になって思い出す?」

「誰かからの計略だろう」


 誰か――ロラン自身、彩破騎士団絡みなのは予想がついた。


 この時点で他の騎士達も理解したことだろう。この場にいる騎士達の中には先日あったブローアッド家との戦いに参加した者もいる。さらにユティスやティアナに関する記憶とくれば、想像は容易い。

 加え、ロランはさらに思考を一歩進める。こんなことをした人間、さらに記憶を戻した人間は誰なのか――


「……わかった。俺達はどうすればいい?」

「普段通りだ。それ以外のことはしなくていい」

「彩破騎士団にまた厄介事が降りかかっているかもしれないな?」

「そうだとしても、指示なしには動けない」

「……お前はおそらく、どういう立場を表明したとしても、記憶を封印した人物と組むことはできないぞ」


 言葉に、騎士達がざわめく。それと共にロランは、アドニスの傍らにいるシルヤに目を向けた。


「騎士シルヤなら想像できるだろう……記憶を戻したってことは、その首謀者には何かメリットがあるってことだ」

「そうだろうな」

「で、だ。その中で俺達はどうするべきなのか……銀霊騎士団の発足と、所属している騎士達の面子を考えれば、想像は難しくない」

「なぜ銀霊騎士団がこの話に出てくる?」

「想像できているんだろ? この記憶操作自体、魔法院の仕業だと」


 さらに騎士達のざわつきが大きくなる。とはいえ予想していた人物もそれなりにいたようで、周囲にいる騎士の中に同意するような表情を浮かべる者もいた。


「つまりだ、奴らはどういう考えなのか知らないが、自分達の手駒にできそうな奴らを集めて騎士団を編成した。加え、この騒動だ……いずれ、選択を突きつけられるだろう」

「彩破騎士団に味方をするか、銀霊騎士団に味方をするか」


 シルヤが言う。彼女もまたそうした結論を出していたようで、苦笑した。


「わかっているさ……というより、銀霊騎士団の人選からして狙いはそこだろうと推測していた。自身の手足となる連中を集めることに加え、彩破騎士団の戦力を減らすように勇者を登用する……間違いなく、彩破騎士団の活動に干渉することだ」

「……で、俺達はどうすればいい?」

「何もできない、というのが実状だろうな。騎士団は記憶が復活したこともあって浮足立っている。この混乱の間に、魔法院側はさらなる味方を取り込もうとするはずだ」


 シルヤは難しい表情を示し断定する。


「とはいえ、私達は陛下の指示に従い動くだけだ……まあ、私はどういう状況であっても彩破騎士団の味方をするが」

「だろうな」


 ロランが笑う。次いで後方にいる騎士達に告げた。


「俺とシルヤはどういう状況であれ、今後彩破騎士団と共に戦うことを表明する……こっちが勝ち馬だと思った奴は、ついてこい」


 その言葉に騎士達のざわつきが最高潮に達する。そうした状況の中で、ロランは無言に徹するアドニスに問い掛けた。


「……アドニス、お前はどうする気だ? もっとも、相手が魔法院である以上、望んでもあっち側につくことはできないが」

「……だろうな」


 嘆息。その顔は険しいことに加え、確実に疲労に似た感情を宿していた。



 * * *



 朝食の空気は重いという表現や暗いという言葉が当てはまるものではなかった。言ってみればそれは不可思議――ユティスやラシェンなど事情を知っている人間にとっては重いが、リザを始め事情を把握していない者達はどういう状況なのか判然としないために、沈黙するしかないようだった。


「……さて、朝食をとりながら話をしようか。場合によっては胃が重くなるかもしれないが」


 ラシェンが言う。ユティスは彼と向かい合うように座っており、小さく頷いて見せる。

 他の彩破騎士団の面々は男女に分かれて並んで席についている。ユティスの隣が男性陣で、ラシェンの隣にリザとイリアが順に並んでいる。なおセルナやナデイルは列の傍らに立っており、食事を供にする様子はない。


「ただ、話をする前にどうしても一つ確認しておかなければならないことがある……ユティス君」

「はい」

「あの日、事件について私自身も立ち会ったため経緯は把握しているが……フレイラ君自身に何かしら兆候はあったのか?」

「僕が記憶する上では、ありません」

「そうか。となれば――」

「ねえ、その口上だと――」


 リザが口を開こうとした矢先、ラシェンが「待った」と言葉で制止する。


「その辺りについて、今から話そう……食べようじゃないか」


 事情がわからないイリアやアシラは首を傾げつつも食事を始める。ユティスとしては重い感情を抱きつつも、パンを手に取り一口。


「まず、一番重要な点から解説しよう……ユティス君が語っていたためこの場にいる誰もが認識していたはずだが、記憶が封じられていた」


「――どういう内容で封じたかが、重要よね?」


 リザがサラダを口に入れながら問う。対するラシェンは深く頷き、


「そうだ。とはいえ、私やユティス君が関わった事件の記憶だけを消されていた場合、説明がつかない点が多い……よって、封じた記憶はもっと別の事を対象にしている」

「……記憶、で済まされるんでしょうか」


 ユティスが口を開く。それはラシェンも同じことを思っていたようで、短く嘆息した。


「言いたいことはわかる。単なる記憶封じだとしても説明がつかない……私は異能なのではないかと勝手に思っているのだが、そうであれば新たな異能者が出現……いや、出現は語弊があるな。ユティス君以外に、このロゼルスト王国には異能者がいたことになる」

「で、その封じた記憶とは?」


 質問したのはオズエル。そこでラシェンはいよいよ本題に入る。


「疑問点については、わからないことも多いが今から順々に列挙していくことにしよう……では、封じた記憶とは何か。これについては間違いないと断言してもいい。それは――」


 一拍置き、ラシェンは彩破騎士団の面々を一瞥し、


「――ファーディル家とキュラウス家の関係性だ」


 一時、沈黙が生じる。事情を把握しているセルナやナデイルについては重い表情。さらにティアナも関係性の一端を知っているため驚きはしない。

 だが他の面々は違った。事情を知らない彩破騎士団の面々は一様に訝しげな表情を見せた。


「……それはつまり、元々ユティスさんとフレイラさんは知り合いだったと?」


 先んじて質問したのはアシラ。それにユティスは頷き、


「そうだ」

「何かの縁があったということですか?」

「縁なんてものじゃない。ファーディル家次男のロイ兄さんとキュラウス家長女のエルマさんが婚約するくらいには親交があった」


 その言葉により一同面食らった様子。その中で手を上げ質問をしたのは、リザ。


「ユティスさん、私を含めネイレスファルトで加入した人は最初の事件……つまり戦争の経緯については口頭で教えてもらっているけど」

「うん」

「その中で、最初フレイラさんはユティスさんのいる領地を訪れ協力を依頼したのよね? それについても封印された記憶が関係していたってこと?」

「……正直、それについては偶然という可能性もゼロではないけれど……無意識の中で、フレイラも僕のいる領地を訪れれば何かあると考えたのかもしれない」


 そこまで語るとユティスは一拍置き、頭の中を整理しつつ続ける。


「どちらにせよ、最初の戦争についてはおそらく魔法院は関与していない。さすがに宮廷内を政治的に分断させるにしても、陛下を殺めようなんて考えはないはず。だからあの戦争を通じ、彩破騎士団を色々と利用しようとした……そう考えている」

「……ずっと、疑問に思っていたのです」


 次に口を開いたのは、ティアナ。


「私は戦争後ロイ様の部屋を訪ね、彩破騎士団に接近するよう言い渡されました。その中、私自身が聖騎士候補であったことを隠すよう厳命し、スランゼルでは結局それを明かすことができなかった――」

「これは推測だが、彼ら自身スランゼルを利用して色々と事を起こそうとしていたのかもしれない」


 ラシェンが言う。同時、ユティス達は彼に視線を注いだ。


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