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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第八話

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212/411

覚醒の朝

 ユティスは夢を見た――それをきっかけにしてあらゆる記憶が頭の中に蘇ってきたのだが、意識が浮上し眠りから覚めた瞬間は、何のことだかわからなかった。


「……あれ?」


 先ほどまで見ていた夢――討伐隊の記憶が現実だと思っていたユティスは、屋敷の一室で呟いた。

 ファーディル家の領地にある屋敷ではない。ここはそう、彩破騎士団にあてがわれた屋敷。


 時刻を確認。起きるには少し早い時刻ではあったが、二度寝するような気はまったくなかった。

 さらにどこからか金属音が聞こえる。おそらく誰かが訓練している。そこまで認識すると同時、ユティスはようやく意識を完全に覚醒させ、表情を変えた。


「……僕は」


 再度声を発したと同時、ユティスは布団を跳ね除けるようにベッドから飛び出した。

 すぐさま支度を始める。黒いローブを着込み全ての準備を済ませ部屋を飛び出したのは起床してからおよそ十五分後。そのまま近くの部屋へと走り寄り、ノックした。


「フレイラ! 聞こえるか!」


 扉の前で叫ぶ。だが返答はない。


「フレイラ!?」


 もう一度。けれど反応がないため、ユティスは扉を一瞥し、


「開けるよ! いいね!?」


 応答もないままユティスはドアノブを捻る。なぜこうまで焦るのか――それは紛れもなく全てを思い出したからだった。

 鍵は開いていた。それと同時に部屋の中を見渡し、フレイラが部屋にいないことを確認する。


 シーツが跳ね除けられたベッドと、ユティスと同じように慌てて身支度をしたためか寝間着が床に散乱している。それだけ見たユティスはすぐさま扉を閉め、屋敷の中を走り出す。


(まずい……!)


 ユティスは心の中で確信する。起床時間には早い時刻のはずだったが、それでもフレイラは一歩早く起床した。

 屋敷の中にまだいるだろうか――そういう推測と共にユティスはまず訓練をしている場所へと向かった。


「あら、ユティスさん。おはよう」


 最初に声を掛けたのはリザ。この場には彼女に加え訓練を行うアシラとジシスの姿もあった。


「――フレイラを見なかったか!?」


 ユティスは挨拶もせずリザに問う。その様子でただならぬものを感じらしく、彼女は眉をひそめつつ、訓練をしている二人へ体を向けた。


「アシラ! 一番早く起きたのあなただったはずだけど、フレイラさんは見た?」


 アシラはジシスとの訓練をやめ、少し思考した後答える。


「いえ、見なかったですけれど」

「……だそうだけど、何かあった?」


 リザが問うが、ユティスは答えない。どうすればいいか――それを思案し始めた。


(いないとなれば、彼女は一体どこに行ったのか……)


 考えられるとすれば――ユティスには一応心当たりがあった。間違いなく人に会いにいったのだと思う。

 その相手もまた貴族であり領土を持っている人間ではあるのだが――フレイラはその人物がいる場所を把握していたからいなくなったのだろう。しかしユティスには皆目見当もつかない。


「……ジシス!」

「はっ」

「すぐにラシェン公爵と連絡を。朝早くだけどおそらく、起床しているはずだ」

「了解いたしました」


 ジシスはすぐさま行動を開始する。続けざまにユティスは残るリザとアシラへ指示を出す。


「リザとアシラは屋敷の中にフレイラがいないか今一度確認してくれ!」

「……事情は、話してもらえるのよね?」


 リザの確認。それにユティスは即座に頷き、


「朝食の時間には話すさ」

「動揺の様子を見ると、なんだか食事が喉を通らなくなりそうな感じだけれど……まあいいわ。探せばいいのね? アシラ!」

「はい!」


 訓練を中断し即座にアシラも動き出す。二人の姿が消えた直後、さらにユティスは考え始める。


「次にティアナを呼ぶか……? そういえばオズエルは――」

「……ユティス様」


 そこに、横から声を掛ける女性。首を向けると、セルナだった。


「あの、その……」

「思い出したのか?」


 ビクリと肩を震わせる。次いでコクリと頷いたセルナは、恐る恐るといった様子で口を開く。


「あの、その……フレイラ様は……」

「敵に先手を取られた。アシラやリザに探してもらってはいるけど、おそらくいないだろう」


 セルナを見据え告げる。その顔は驚愕に満ち、どこか信じられないという様子を見せていた。


(……僕の場合は何かしら記憶を思い出してはいたからそれほど衝撃もなく受け入れている。けど、セルナはそんな素振りを見せてこなかった以上、驚くのも当然か)


 おそらくフレイラもまた、同じように記憶が戻りつつあったのだろう。けれど話さなかった。なぜか。


(フレイラは僕とは異なりファーディル家との関係性について思い出していた……どこまで詳細を思い出していたかはわからないけど、少なからず予感があったんだ)


 封印された記憶は、フレイラにとって負の要素でしかない――そしてそれは、紛れもない事実。

 だがそれでも、ユティスは心の中で悔いる。


(フレイラの様子がおかしかったことは僕も気付いていた。けれど……)


 敵の計略である以上、後手に回るのは当然だった。しかし、もしフレイラから多少なりとも話を聞くことができていれば、こうして独断で行動させることはなかっただろうと思う。


(フレイラ自身にもう少し目を向けていれば――)


 そこまで考え、はたと気付く。


(……そういえば、兄さん達はどうなっている?)


 騎士であるアドニスなども思い出しているのか――もしあらゆる人間の記憶が戻っているのだとしたら、宮廷内は混乱しているのではないだろうか。

 考える間もセルナは立ち尽くしている。それを見たユティスは「朝食の準備を」とだけ告げ、歩み出した。


「……どうする?」


 ユティスはさらに思考する。次に打てる手は何か。急がなければならないと思う反面、フレイラを呼び戻す手段がないことも事実。


(オズエルの魔法でフレイラの魔力を探るか? いや、フレイラはおそらく目的地に到着しているはず。相手も対策しているだろう)


 思考しつつもユティスは歩き出す。ともかく僅かな望みをかけ屋敷を探してみよう。そう思った時だった。


「――ユティス様!」


 セルナが戻ってくる。何事かとユティスが駆け寄ると、彼女は屋敷の入口方向を指差した。


「ラシェン公爵が……」

「僕らよりも動きが早かったか」


 ジシスが呼ぶ前に既に行動していたのだと理解しつつ、ユティスは歩き出した。


 入り口まで到達すると、ラシェンに加えナデイルの姿もあった。特にナデイルは複雑な顔をしているため、ユティスは双方もまた記憶が戻ったのだと即座に認識することができた。


「ラシェン公爵」

「ユティス君もまた、記憶が戻ったようだな」


 ラシェンの言葉にユティスは首肯し、話し出す。


「それと申し訳ありません。フレイラは――」

「騎士ジシスから聞いている。彼女がどこにいったのかは私にもある程度推察できている……当該の人物は間違いなく都に屋敷を構えているはずだ」

「その場所は?」

「現在確認中だ。ユティス君としては焦燥募るだろうが、少しだけ待ってくれ」


 そう告げるとラシェンは、ユティスを安心させるように続ける。


「フレイラ君自身、彩破騎士団という立ち位置である以上、下手に危害を加えるとまずいと相手も認識しているはずだ。今の段階ではまだ大丈夫だろう」

「時間が経てば、わからないということですよね?」

「そうだな……だが一両日中くらいは余裕があるはずだ」


 それまでにフレイラを――彩破騎士団が動けば十分対処は可能か、とユティスは頭の中で算段を立てた。

 となると、次にやるべきなのは――


「ラシェン公爵、朝食は?」

「まだだ。私自身その辺りはあてにしてここに来たのだが」

「なら、まずは食べましょう。他の面々にも事情を伝えないといけないですし」

「そうだな」


 同意したラシェンをユティスは中に迎え入れる。それと同時に、ユティスはさらに今後の事を考える。


(事情……アシラ達に事の一切を伝えることで、新たな問題が生じることになるだろうな)


 さらなる混乱が呼びこまれてしまうことは間違いない。とはいえ説明しなければならないのは事実である以上、ユティスとしてはため息をつく他なかった。


「……もう一つ、懸念があるのだが」


 移動中ふいにラシェンが告げる。彼自身が懸念だと表明する以上、ずいぶんと重く聞こえる。


「宮廷の状況だ。この調子ならば宮廷側の人間も間違いなく記憶が戻っているはずだ」

「……全員、でしょうか?」

「こうして記憶を戻したのには理由がある……記憶を封印したということは不利益があったということだし、実際そういう内容だったことは私やユティス君は認識できている」

「そう、ですね」

「それをあえて彼は戻した。ここから考えるに、彼らの目的は――」


 言い掛けた時、廊下正面に新たな人影が。ティアナだ。

 ずいぶんと騎士服が板についている彼女は、ユティスに気付くと声を上げた。


「あ、ユ、ユティス様! その――」

「そっちも記憶が戻ったみたいだな」


 その言葉に彼女は頷く。次いでラシェンに視線を移し、


「ラシェン公爵……」

「ティアナ君はあの事件に関わっていない以上、どういう状況なのか把握できていないはずだ。それらについてはきちんと説明しよう」

「あの事件、とは?」

「なぜ記憶が封印されていたか、という重要な部分だ」


 ティアナの表情を緊張したものに変化。続けてユティスが声を発した。


「フレイラがいなくなってしまったのは完全に後手だ。けど、これこそ敵の目的と考えれば、ここからどうするかを考えないといけない」

「……記憶を戻すデメリットよりも、彩破騎士団の分断を狙ったということでしょうか?」


 ティアナの意見は確かにだが――するとラシェンは答えた。


「それもあるだろうが、別な理由も存在しているだろう」

「別……?」

「朝食の時話すが、ロイ君……いや、魔法院はこれまで城の政治状況を二つに分断させようとしている。今回の計略は、それを推し進めようとする動きなのだろう」


 どういう風に繋がって来るのか――それについては、ラシェンの頭の中で多少なりとも理論的に考えられているはず。


「詳しいことは後だ。まずは彩破騎士団の面々に情報を渡さなければ。現状を把握して、対策を考えるとしよう――」


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