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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
207/411

事件の終焉

 フレイラ達が現場に踏み込んだ時、全てが終わっていた。


 正面には倒れるナバン。不気味な銀色の肌を見せてはいるがまだ生きており、気絶している様子。そしてユティスとティアナが彼を黙って見ているような状況。

 そしてリザやオズエルも到着しており――フレイラ達を一瞥。


「ようやく、夜が明けたようね」


 リザがそんなことを呟く。比喩的な言い方だったのかもしれないが、実際朝が来ようとしている時刻だった。


「……フレイラ」


 そこでユティスは振り向く。その姿を見てフレイラは不安――とは違う何かを感じたが、それをぐっと押し殺し、


「何?」

「外の状況は?」

「私達が砦に入った時点ではまだ戦っていた」

「そうか。とはいえ魔物の発生源は止まった。いずれ、決着はつくはずだ」


 視線を転じると、部屋の端の方に魔術師らしき人物が一人倒れていた。その人物が魔物を召喚していたのだろう。


「あの人は――」

「ナバンを倒した直後、ティアナが気絶させた。けど、その直後魔力が枯渇したか動かなくなった」


 フレイラの言葉にユティスは答えると、改めて告げる。


「……ナバンを捕らえ、戻るとしよう」


 彼の言葉にフレイラは頷き引き返そうとした時――変化が起きた。

 突如、ナバンの体が動いた。気絶していたのが目覚めたというのではない。誰かから念力か何かで引っ張られる――そんな感じの動き。


「っ!」


 ティアナが先んじて動く。ナバンを捕まえようとしたのだが、一歩間に合わず彼の体はそのまま玉座へとすっ飛んでいく。


「――今回は、お前達の勝ちだな」


 聞き慣れない男性の声。だがユティスやティアナは理解したようで、顔を険しくさせた。


「この声は……」

「――テオドリウス」


 リザが言う。名は聞き覚えがあった。ネイレスファルト初日の事件でユティスが遭遇した敵。

 直後、ナバンの体が壁に激突した。さらに壁の奥から衝撃波のようなものが発生し、彼の体を貫く。


 壁がいくらか破砕し、ナバンは倒れる。気絶していただけのはずであり、もし生きているのなら目を覚ましてもおかしくないが――彼は、動かなかった。


「情報が漏れるのを、防いだってところか?」


 ユティスが言う。するとティアナが発言する。


「どうやら砦に潜入していたようです……口ぶりからすると、ブローアッド家の方々とは敵対している節がありました」

「敵……謎ばかりだけど、ひとまずイドラという人物もこの事件に少なからず関わったということだな」


 どこか苦々しく語るユティス。


「……念の為ナバンの体を確認し、砦の外に戻ることにしよう」


 言葉に、ユティス達は動き始める。フレイラもまた彩破騎士団の面々と共に動きながら――何か、やるせない気持ちを抱いた。


(結局、私は……)


 それ以上フレイラは考えないことにした。弱気になるなと自らを鼓舞するように言う――そうする他なかった。



 * * *



 テオドリウスが砦を出た時、出迎える者が一人。


「用は全部終わったのか?」


 ログオーズだった。今回戦いに介入する際、彼と共にここに来ていた。


「ああ。きちんと目的の資料は回収した」

「それがなくなっている事に気付いた時、俺達が何をやったのかがバレるな」

「構わんさ。まあ、資料を奪ったことで証拠隠滅でもしていたなどと推測してくれれば御の字だろう。こちらの本来の目的を悟られずに済む」


 言いながらテオドリウスは胸に手を当てる。


「資料は奪取した。イドラさんも喜ぶだろう」

「ああ。それじゃあ戻るとしよう……しかし、もったいねえな。それを使えばロゼルスト王国で色々立ち回れると思うが」

「この国の彩破騎士団はこちらの活動に利をもたらす可能性がある。よって、放っておくという結論だったはずだぞ?」

「わかっているさ。ちなみに、資料は目を通したのか?」

「ああ。いくらか貴族関係の裏事情なんかがあったが、王族を崩すような材料はないな」

「なんだ、つまらん……そういうことならさっさと戻るとしようじゃないか」


 ログオーズは言い、先頭切って歩き出す。


「なあテオ。この国の戦い、どちらが勝つと思う?」

「どちら? それは彩破騎士団の奴らと誰のことを言っている?」

「他全部だよ。俺の目からすりゃあ、奴らの周りは全て敵に見えるもんだからよ」


 テオドリウスは一度砦の方向へ振り返る。そして、


「……さあな」


 冷たい目を伴い返答した後、ログオーズと共にこの場を去った。



 * * *



 魔物を全て撃滅し、全てが片付いたのは陽が昇ってずいぶんと経った後、ユティスは倒れるまでには至らなかったが疲労により砦の一室で休むことになった。


「申し訳ありません。私のせいで……」


 付き添いのティアナが謝罪する――彼女がこの場にいるのは、おそらく誰かしらの計らいなのだろう。


「……こういう形でなくとも、僕らは計略によってナバンと戦っていたことになっていただろうから」


 そんなフォローをしてみたりもするが、ティアナの表情は晴れない。


「……ティアナ」

「――私は」


 名を呼び彼女が声を発した直後、ノックの音。ユティスが声を上げると、部屋にシルヤが入って来た。


「騎士ティアナ。いくつか訊きたいことがあるのだが、いいか?」

「は、はい」

「まず重要なことが一つ。首謀者であるナバンとニデルが死亡していることは知っての通りだが――」


 ――砦から出る際、ニデルもまた気絶ではなく死亡しているのが発見された。オズエルが使用した拘束魔法すら解除されており、ナバンと同様テオドリウスの仕業だとユティスや騎士は結論付けた。


「さらに、奇妙な事実が一つ。ナバンとしては目的……つまりユティス殿の首を得た後、国外に出るつもりだったはずだ。そのための準備が成され、旅を行う物資も用意されていた。だが」

「だが?」


 ティアナが聞き返すと、シルヤは渋い顔をした。


「それに付随して、間違いなくユティス殿の首以外にもマグシュラント側に手土産を用意していたはずだ。そうした資料が、無くなっている」

「……つまり、テオドリウスが奪ったと?」

「そういうことになるな。そいつの狙いもそれだったのだろう」

「できれば資料を奪い返したいところでしょうけれど……」

「さすがに今の状況では無理だな。まあ資料を利用しロゼルストに干渉してくるなら返り討ちにするまでさ……今度はやられん」


 強い表情で語るシルヤ。瞳には確実に怒りが宿っていた。


「顛末については以上だ。さて、次の話だが」

「はい」

「そう思いつめなくてもいいぞ」


 ユティスはきょとんとなった。けれど少ししてティアナが思いつめていることだと察し、言葉を待つ。


「我らは王を始めとした宮廷の命に従い動いたまで。なおかつブローアッド家は逆賊であり、いずれ倒さなければならない相手だった」

「しかし――」

「貴族の家系……それも王家の遠縁がこうした裏切り行為を果たすとなれば、当然宮廷側も黙ってはいない。騎士ティアナはあくまで計略に利用された形だ。怒るのがむしろ当然であり、思いつめる必要はない」


 シルヤの言葉にティアナはそれでも納得がいかない様子だったが――そこで、


「無論、責任を感じているのならば……貴女も身の振り方を考えないといけないだろう」

「え……?」

「複雑な経緯があり、貴女は聖騎士候補という身分を自ら捨てた。だが、今後貴女のように能力の高い騎士は必要になってくる。どこに所属するかはできれば貴女の希望に沿いたいところだが……ともかくまあ、今回のことを気にするなら国のために働いてくれと言いたいわけだ」


 それが報いるための行動だ――言葉には乗せなかったがそう主張したいらしかった。


「は、はあ……」

「人的資源というのは極めて大切だ。貴女のような騎士は特に」


 と、そこでシルヤはコホンと一つ咳払い。


「……あの討伐隊の時も、私は貴女に支援をすると言ったはずだ」

「……そういえば、そういう話もありましたね」

「原因はわからないが記憶を失っていたためそれに関してはご破算となっていたが、私自身の考えは変わっていない」

「なぜ、そこまで……」

「意地になっている部分はあるな」


 と、彼女は苦笑して見せた。


「とはいえ、だ。今後あなたの存在は必要になる……そんな気もしている。その力で支援する分だけ働いてもらえればいい」

「あの、しかし……」

「そして、私も特定の騎士団に無理矢理所属させるような真似はしたくない」


 ピシャリと言った彼女の言葉に、ティアナは押し黙る。


「だからこそ、騎士ティアナの意思でどういう組織に所属するのかは決めてくれ。無論――」


 と、シルヤはユティスを一瞥し、


「彩破騎士団でも構わないさ」

「あ、あの……」

「それでは」


 彼女は立ち去る。事の顛末を話すよりも、こうしてティアナと話すことが主目的だったのだろうと感じた。

 ユティスとティアナはしばし彼女が去って行った扉を見据え――その時、


「ああ、一つ確認を忘れていた」


 なぜかシルヤが戻ってきた。


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