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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
205/411

決定打

 ――ティアナからすれば、絶望的な状況だと思っていた。


 目の前のナバンの魔力は相当なもので、圧倒的な力を有しているのは一目瞭然。決意を表明したとはいえ、いざとなれば自身の身を犠牲にしてでもユティスを守らなければならないと思った。


「――ティアナ」


 そこで、ユティスの声がはっきりと聞こえた。


「一つ、思い出してくれ」


 ユティスは言う。ナバンが迫る中で、極めて冷静に――


「討伐隊の最後……あの魔物との戦いを」


 その言葉と同時、ティアナの頭の中でその時の光景が蘇る。迫りくる目標の魔物。ユティスが隣に立ち魔法を放つべく動く姿。

 それは、今目の前で起こっていることと同じようなシチュエーションだった。


 あの戦法がそのまま通用するかどうかもわからない。けれど、ティアナは目前に迫る虎口を脱するには、それしかないと直感する。

 ティアナは心の中で決断。同時、ナバンが計略ありと悟り好戦的な眼差しを向ける。


「……ユティス様」

「ああ」


 ティアナの言葉にユティスは応じる。彼は――自身の気持ちを理解しているわけではない。けれどそうやってティアナ自身のことを信じてくれることで、力が湧いてくるし、報いなければと思う。

 同時、ティアナが足を前に踏み出した。さらにユティスが収束させる破邪の力がどんどん高まってくる。


 勝負は一瞬。それで自分達の生死が決まる。だが、恐怖は無い。

 すべては――想う彼を守るために。


 ティアナは踏み込む。そしてあらん限りの力を右腕に宿し、ナバンを迎え撃った。



 * * *



 魔人の攻撃を矛で叩き潰した後、ジシスは反撃に出る。体格から力一辺倒で動きが鈍いなどと感じてしまうフレイラだったが、速度に特化した魔人に対し反撃に転じる程には、その動きは鋭く速い。


 魔人としてはジシスを突破しフレイラを狙いたいところだろう。けれど平然と受け流す様を見て方針を転換したか、一歩後退した。横へと逃れ回り込むつもりだとフレイラも悟る。


 しかしジシスもそれを把握。直後、横に逃れようとした魔人に追随する。


「確かに、その能力は目を見張るものがある」


 ジシスが言う。表情は見えていないが、不敵な笑みを浮かべているに違いない。


「じゃが、それだけで儂を抜けるとは思わん事だ」


 魔人が動きを変える。だがジシスは平然とそれに追随する。

 先読みしているのか、それとも勘で動いているのか――原理はわからないがジシスは魔人の動きを捉えている。このままいけるかと思った矢先、魔人は動きを止めた。


「ふむ、どうするか攻めあぐねている感じか?」


 ジシスが問う。魔人は答えないが、彼はさらに続けた。


「ネイレスファルトで戦った奴とは違い、それなりに理性がある様子。あやつの場合はまだまだ発展途上の技術だったが、それを発展させたのが貴様の能力、というわけか?」


 答えは来ない。そもそもフレイラはネイレスファルトで戦った魔人がどういった戦法をとっていたのかわからないため言及しようもないのだが――

 魔人が動こうとする。だがジシスは一歩前に出ることにより、その動きを封じた。


 身体的な能力を考慮すれば魔人の方が速いはずだった。少なくともフレイラの目にはそう見えた。けれど、今の動きは魔人が追いつかれると判断し、後退を避けた感じだった。


「儂への攻撃をやめ、他の騎士などに仕掛けるか?」


 ジシスが問う。これまでと同様返答はなかったが、フレイラはそれが図星であると半ば直感した。


「さすがにそれをさせるわけにはいかんなぁ」


 あくまで悠然と語るジシス。心理戦にでも持ち込もうと考えているのか。

 魔人は動かない。いや、ジシスの言葉によって選択肢が減っているとでもいえばいいのか。


 どういう能力であれ、戦況はジシスが掌握しつつある。だが彼自身まだ魔人に決定的なダメージを与えることに成功してはいない。もし真正面から仕掛けられたら、どうするのか。


 刹那、魔人が動いた。様々な選択を捨て、まずはジシスを倒そうとする動き。

 この速力ならば、ジシスを間合いに入れるのは一瞬。フレイラにとっては瞬きをする程度の時間。もしかすると魔人の最高速度なのかもしれない――そう思った刹那、


 ジシスが動く。魔人の突撃に対し真正面から矛で薙ぐ。それで通用するのかとフレイラが不安に思った直後、矛が魔人の右肩に触れた。

 予想外のことが起こる。魔人の体が沈み、矛の一撃によって地面に叩きつけられた。


「確かに恐るべき硬度。じゃが」


 ジシスが構える。その間に魔人は体勢を立て直そうと身じろぎするが、一足遅かった。


「この程度の能力、戦乱の渦中にいた儂にとってはさしたる障害とは言えん」


 矛を振り下ろす。その先端には先ほど以上の魔力が凝縮し――フレイラが一瞬身震いする程圧縮された力が、魔人に振り下ろされる。

 魔人が立ち上がろうとした直前、刃が入った。斬撃は右肩口から入り左わき腹に抜ける。胴体は綺麗に両断され、力を失くした魔人は黒い砂と化した。


「……さすが、ですね」


 アシラが構えを解きながら言う。するとジシスは肩をすくめ、


「とはいえ、この硬さは少し面倒じゃったな。今のは相手の動きやタイミングが良かったから対処できた……もう少し良い武器があればもっと早く倒せたはずじゃが」

「そういう物が手に入るよう、どうにかするよ」


 フレイラはジシスに約束し、ここで質問。


「先ほど、魔人の動きを読みとっていたように見えたのは?」

「そう難しい話ではない。魔人は常人と比べ発している魔力の規模が大きい。加え、人間もそうじゃが人は体を動かす時無意識に魔力も筋肉と同じように動いている。それに目をつけ、魔力の流れを読み取って相手の行動を先読みしていたというわけじゃ。筋肉の動きを見るよりはずっと簡単だぞ」


 ――とはいえ、そんな技術はフレイラを含めアシラやリザだって保有していないだろう。これは間違いなく戦乱を生き抜いたからこそ得られた「戦歴」という名の力。さしものアシラも舌を巻いた様子で驚いている。


「さあて、大物は倒した。騎士達はまだ四苦八苦しているようじゃが……どうする?」

「砦に向かいましょう」


 アシラが言う。だがフレイラは多少迷ったのだが――


「騎士フレイラ!」


 シルヤの声だった。首を向けると雷光により魔物を撃破しながらフレイラ達を見る彼女の姿。


「砦の中へ! 私達はここで食い止める!」


 この言葉によって、フレイラ達がどうすればいいのかが決定した。


 フレイラ達は動き出す。ユティス達は無事なのか――不安に思いつつ、三人は砦へと急行した。



 * * *



 オズエルの生み出した使い魔の剣が先陣を切る。だがニデルはあっさりと両腕の刃で剣戟を弾くと、リザを見据えた。


「策は読んでいます。先ほど砦入口で見せた力を使おうというわけですね?」


 どうやら見ていたらしい――が、リザは笑みを口の端に作る。

 それにニデルはどう反応したか――続けざまに放たれた使い魔の刃をこれまた弾く。


 リザはそうして戦う両者の様子を見つつ、一定の距離を保持する。また同時に、右拳に魔力を集中。


(私はアシラやジシスのように何もせず一撃で、なんて真似はできない)


 リザは思う。闘士でも上位に位置するとリザも自負してはいるが、この場においてもまだ悩んでいる点もある。

 異能を有効活用すればいいのか――今まで一度として使ったことのない上、その利用法だってわからない状況なのだからこれは却下。ならば、自前で培ってきた闘士の力を使うしかない。


(ま、そう悲観的になる必要もないか)


 リザは思う――というより、まだまだ絶望するには早い。

 目の前のニデルは確かに強い。単独で戦うのならば腕一本くらいは犠牲にしなければならないかもしれない。


 だが逆の言い方をすれば、腕一本犠牲にすれば勝てる可能性があるということ。しかも現状、オズエルの援護がある。勝機は十分ある。

 右手の魔力収束が完了する。闘士となり幾度となく重ねてきた鍛錬の結果であり、こうした制御能力に関しては、発展途上で底が見えないアシラに対し現時点では上だと思っている。


「さあて……」


 立ち止まる。動かなくなるというのは目の前の相手にとって危険な行為ではあるのだが、ニデルはそれを誘いと感じたのか仕掛けてこない。


(用心深いわねぇ。この場合は時間稼ぎだからという意味合いもあるのかしら)


 胸中で思考しつつリザは足を前に踏み出す。まだニデルの間合いには入らない。だがニデルはオズエルの使い魔と切り結びつつ、後退した。

 そこで、リザが笑う。


「策を読んでいるのなら、かかってくればいいのに」

「こちらの目的はあくまで時間稼ぎなので」


 告げたニデルではあったが、リザの目論見を察しようとして神経をとがらせているのがはっきりとわかる。

 そんな行動に対しリザはまたも笑う。


(確かに能力は一流。けれど――)


 リザはとうとうニデルの間合いに入る。右拳に収束させた魔力を見て、ニデルも微かに警戒する。

 立ち回りとしては、距離を置くか反撃するかの二択。時間稼ぎを主とするならリザの攻撃を避けつつ一定の距離を保持するのも一つの手だろう。リザの策に気付いているのならばなおさらだ。


 しかし、ニデルは一瞬躊躇した。間合いに入り攻撃しようとしているリザは――明確な隙がある。

 それが罠なのかそれとも無謀な特攻なのか――ニデルは前者だと踏んだらしい。


 選択したのは後退。とはいえ後ろに下がりつつければいずれ壁際まで追い詰められる。そうなると著しく不利になるのは確定的であり、だからこそニデルは下がりつつも右腕で反撃を行った。

 それをまず、オズエルの使い魔が弾いた。途端ニデルは左腕もかざそうとする。


 使い魔が攻撃を食い止める間にリザが接近し柔の拳を叩き込む――ニデルが考えているのは、そうした手法だろう。

 そしてリザもまたその作戦だった。しかし、策を看破されるのは前提。


 今だ――そう胸中でリザは呟くと、さらに足を前に出した。過剰なほど接近するリザに対し、ニデルは後退を余儀なくされる。

 直後、リザの『霊眼』は捉える。ニデルがどう立ち回るか迷っている。


 無謀な攻撃であるのは間違いない。しかしこのまま接近を許せば時間稼ぎの目的も果たせなくなる可能性がある。防御し対処するというのも一つの手。だがリザの無謀さは目に余るものがある。

 そうした判断をしたからなのか、ニデルはとうとう本格的に反撃に転じようとした。とはいっても退避から攻撃と逆の方針に転換する必要から、体の対応が一瞬遅れた。


 リザにとっては、十分すぎる余裕だった。


 事前に足へ速度を上げる強化を施していた。一歩で踏み抜いたリザは、反撃しようと動き出すニデルの眼前まで間合いを詰める。

 途端、ニデルは驚愕したかほんの一時硬直した。


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