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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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広間の対決

 ユティスは広間を見回す――砦として機能する場合、おそらくここは兵を招集する場なのかもしれない。砦の中では間違いなく一番大きいであろう、天井も高い大広間。その中央に、たった一人でニデルは立っていた。


「ようこそ、お三方」

「今度はあなたが足止め役?」


 リザが問うと、彼は笑みを浮かべた。


「そういうことですね……この奥に進むことができるのは、ユティス様のみです」

「なるほどね」


 リザが呟くと、ユティスの前に立ち眼光鋭く相手を見据える。


「彩破騎士団の中でもユティスさんの首を狙っているわけね」

「全員の首を取ろうという欲は持っていませんよ。そもそもあなた方の技量を見るに、全員を相手にすれば苦しいのは必定」

「弱気ねぇ」

「私達もまた、万能ではないということです」


 両手を左右に広げる。それと共に、その腕に漆黒がわだかまり始めた。


「私は、これまでの相手と同じとは思わないことです。この技法は特性上、発動すると多少好戦的になりますが……私が宿しているのは最新型。通常の思考で戦うことができる」


 語る間にその見た目が変化していく。まず全身が赤黒い鎧のような形のもので覆われていく。次いでその表面部分から刃のような形状をした漆黒の棘が次々と隆起していく。

 顔まで赤黒いもので覆われ――両腕はどうやら刃となったらしく、右手をユティス達へ向け、宣言する。


「先ほど言いましたが、ここから先へ足を踏み入れることができるのはユティス様だけです」

「……どうする?」


 オズエルが問う。その顔には、多少ながら懸念が混ざっていた。


「この広間に侵入した時点で、奥にいるティアナさんの方にも動きがあった。今はまだ無事のようだが――」

「相手には、こちらの動向が筒抜けというわけか……」


 ユティスは息を吐く。単独で行動することは、間違いなく敵の術中にはまることになる。だが、


「……確認だけど、このまま僕らがこの場であんたを倒そうとすればどうなる?」

「それでも構いませんよ。あなた方にも勝算は十分あるでしょう」


 ニデルの回答はひどくあっさりとしていた。だが、


「しかし、ここで私と戦っている間に、ティアナ様も腕や足が無くなっているかもしれませんね」

「……リザ、オズエル」

「私達は、ユティスさんに従うわ」


 ため息を漏らしつつも、リザはそう告げた。


「目の前の相手はどうも、時間稼ぎをしようとしているみたいだし……そういう相手と戦うのは勝てるとしても、厄介なものよね」

「ユティスさん、大丈夫なのか?」


 オズエルが訊く。不安に思うのはもっともだ。しかし――


「相手の計略に乗せられようとも、ティアナは助けないといけない」


 決然とした言葉。次いで、


「それに……彼らの言葉は、僕が相手なら楽に勝てるとでも言いたげだ」


 その言葉は、どこか怒りも存在していた。


「その考えが間違っていることを、僕も証明しないとね」

「……無理はしないように」


 リザが忠告すると、ユティスは「ああ」と一言告げ足を一歩踏み出す。


「心配いりませんよ。主はあなたと話がしたいとのことです。主の命に従い、あなただけは見逃します」

「……私達が後ろから守るわ」


 リザが言う。ユティスは黙って頷きしっかりと歩を進めていく。

 近づく間にニデルは刃となった腕を下ろす。攻撃する意思はないと自ら主張している様子。


 そしてユティスはニデルを通り過ぎる――直後、


 背後から轟音が聞こえた。石畳に何かを叩きつけるような音。リザとオズエルを阻むために動き出したのだと思いながら、ユティスは反射的に振り返ろうとする。


「――ユティスさん!」


 オズエルの声が飛んだ。言外に大丈夫だという意味を汲み取り、ユティスは振り返ることなく黙って走り始めた。

 後方からニデルが残る二人へ声を発する。だがそれと共にまたも轟音が室内に満ち――そこでようやく、ユティスは広間を抜けた。


 ユティスには当然砦の構造はわからない。だが、砦の一番奥から、まるで誘うように魔力を感じ取ることができる。


「来いって言っているわけだな……」


 ユティスは呟くと、自身の体に大丈夫かと質問する。まだ体力は残っている。魔力も十分ある。左手の銃はまだ残っており、それを強く握りしめる。

 頼れるのは最早自分の体だけ。体調は最後まで気掛かりだったが、自らに鞭を振るい進む。全ては、ティアナを救うため。


「……行こう」


 自らに声を発し、ユティスは突き進む。魔力を辿り、少しずつ奥へと近づいていく。


 その時、ユティスはふと考える。自分がこうやって強くなった理由を。

 きっとその核心的な理由はまだ思い出せていない。けれど根本の一つにあるのあ、前世の記憶。


 可もなく不可もなくという人生だった。病弱な体でそうした人生を送ることもできないのではと思っていた――だけど、自らを強くすることでそれを打開しようとした。

 ユティスは一つ確信する。強くなろうと思った経緯には、ユティスにとって重要な誰かが関わっている。


「思い出せる日が、来るのかな」


 そんなことを呟きながら、ユティスは進み――とうとう、最奥の扉の前に辿り着いた。






 部屋に入ると、そこには三人の人間。一人は魔法陣を展開し何かしら魔法を行使している。十中八九魔物を生み出す人間だろう。

 そして目の前にはドレス姿のティアナと、ブローアッド家主人であるナバンの姿。直後、ティアナが小さく呻くのを聞いた。


「ようこそ、ユティス=ファーディル君」


 満面の笑みでナバンは言う。それにユティスは歎息し、


「お望みどおり、一人で来たよ」

「上出来だ。もう少し遅ければティアナ君の耳でも貰っていた」

「……そうやって彼女を傷つけて、いいのか?」


 意味のない問い掛けだと思いつつもユティスは言及。すると、


「体さえあればどうとでもなる」

「……なるほど、彼女を連れ去ってロクでもないことをするのは理解できた」

「予想はできているんだろう?」


 ユティスは無言。とはいえ一度視線を魔法陣の中にいる人物にやった。それでナバンも言いたいことを理解したらしい。


「この力はいよいよ完成形に近づいている……私達が手に入れたものでも十分かもしれないが、マグシュラントはこれでも飽き足らないらしい」

「……ネイレスファルトで出会った人間の力とは、違うと言いたいわけか」


 ユティス自身、扉を開けた時点でナバンが発する気配は魔人特有のものを感じた。


「そうだ。ノルグ君ももう少し焦らなければ、君達にやられることのないこの完璧な力を有することができたはずなのに」

「……あいつのことを知っているのか?」

「ああ。マグシュラント王国王家の親族に当たる」


 ――彼の言葉で、ユティスは今回の戦いの経緯を理解する。


「なるほど……つまり、僕らを狙うのはマグシュラント側の指示か」

「そう。片付けろと……これは私を試す試験も意味合いもあるだろう。そして君の首を持参することで私は王国でも上位の身分が約束される」

「だからこそ、ここで派手にやっても問題ないと?」

「いかにも」


 歪んだ笑み。自らのことしか考えていないその様に、ユティスは反吐が出そうだった。


「さて、ニデルがやられるとも思えないが、そろそろ始めようじゃないか」


 右腕――いや、全身が銀色に染まり始める。そこでユティスは右腕に破邪の力を収束させる。

 一方のティアナはなおも動かない。ただその目はユティスに戦うなと主張しているのがわかる。目の前の存在は強大。だからこそ、戦ってはならない。


 聖騎士候補の彼女でさえそう思っているのだ。勝てる道理はない。しかし――


「ナバン」

「ん?」

「あんたはファーディル家と同じく王家の人間である。だが、あんたはこの国を害する存在だ」


 ユティスは眼光鋭くナバンを見据え、続ける。


「ここで、引導を渡す」

「できるものならやってみろ」


 声と共に、ユティスは右手に握る剣に破邪の力を込めた。さらに左手に持つ銃をかざし、迫ろうとするナバンへ向け発砲する。

 風の弾丸――ナバンはそれを視認はしたがどういう攻撃なのか判然としていない様子。もし虚をつくとしたら今しかないと思い、ユティスは足を前に出した。


 風が炸裂すると同時に破邪の力で斬り込む――そういう目論見を抱きつつ、間合いを詰める。

 その間にナバンの体が一瞬で銀色に包まれる。迎え撃つ構えができたと同時、弾丸が着弾。風が炸裂した。


 間合いには到達。ユティスは即座に斬撃を決める。


 さすがにこれで倒せるとは思っていない。だが多少なりとも傷を負わせることができれば――そういう考えはあった。

 だが次の瞬間、風が炸裂したにも関わらずナバンの動きは変わらなかった。怯むことも動作が鈍る事もない。ただユティスへ向け腕で突きを放とうとする。


 ユティスはこのまま攻撃を加えれば、自身もナバンも双方攻撃を食らう痛み分けという形になると直感。刹那、ユティスは剣を無理矢理引き戻し、さらに風の弾丸を放った。

 狙いは突きを放つ右腕。体に対してはほとんど効果が無かったが、それでも腕に着弾すると動きが多少ながら遅くなった。ナバンは興味深そうな表情を示し、その間にユティスは後退し虎口から脱することに成功する。


(並の攻撃では通用しない……というのは、共通か)


 通用するとなれば、間違いなく光の槍だけだろう。とはいえあれは隙が生じる――ユティスとしてはまずい展開であるのは確定的。


 だがそれでも、退く気は一片も無かった。


(光の槍を生み出す時間を稼がないといけない。けど……)


 風の弾丸はおよそ足止めにならない状況で、生み出せる方法としては別の形で時間を稼ぐか、それとも光の槍を瞬時に生み出せるだけの技術を思い出すか――とはいえ記憶を失う前の自分が果たして光の槍を即座に生み出せたのかは疑問に残る。


 ナバンが再度迫る。ユティスはすぐさま剣に破邪の力を乗せ対抗しようと動く。


 相手はおそらく破邪の力を目の当たりにして、十分防ぐことができると考えたはずだ――ナバンは力押しで一気に方をつけようとする。それをユティスはどう避けるか考え――


 刹那、突如ナバンの動きが変化するなぜか後退し、ユティスと距離を置いた。

 何事かと思っていた時、ユティスの横に立つティアナの姿が目に入った。


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