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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
201/411

それぞれの交戦

 ユティス達が到着した直後、砦の周辺は混沌に包まれていた。


 まず砦へ侵入を果たしたはずの騎士の背後に魔物が多数存在している。幸い魔人はいないようだったが、浮足立った先発隊は連携も上手くとれず対応に苦慮している様子だった。


「すぐに先発隊の援護に向かう! 続け!」


 シルヤの声と共に騎士団が馬を駆り突き進む。それに追随するユティスは、目を凝らしフレイラ達がいないかを確認し始めた。


(外にいるのか? それとも――)


 考えている間に、騎乗したジシスや下馬したフレイラがまた魔物へ向かい攻撃を仕掛けている様子が見えた。

 魔物達の動きは統一感がないのだが――ユティスはこの段階でなぜフレイラ達が魔物を掃討しているのか、理解した。


「ああ、なるほど。魔物は砦を守るんじゃなくて散らばろうとしているのね」


 リザが言う。彼女の言葉通り、魔物はどうやら四方に分散しようとしているようだった。

 そんな動きをされれば、当然騎士達は魔物へ注力せざるを得なくなる。さらに門前で戦闘があったのか負傷者も出て混乱している様子。非常にまずい状況なのは間違いなさそうだった。


「オズエルの姿が見えないな……」


 その中でフレイラ以外の面々の姿がない。状況を誰かに尋ねるべきかと思った時――


 先陣を切ったシルヤが馬上から近くの魔物へと斬りかかった。彼女の雷光を浴び魔物はあっけなく消滅。


「フレイラ!」


 その間にユティスは魔物を倒したフレイラへ呼び掛ける。周囲の騎士達が援護に向かう中、フレイラは呼び掛けに気付き駆け寄ってくる。


「ユティス! 大丈夫?」

「体調は今の所問題ない……それよりオズエル達は?」

「騎士ニデルが砦に入った直後にいて……魔物が出現し、なおかつ魔人が襲い掛かって来たの」

「とすると、オズエルはその魔人を相手に?」

「魔物の掃討が先だとして、彼には魔人を食い止める役を」

「わかった」


 状況を把握すると、ユティスは馬首を砦へ向ける。


「このまま砦にいるオズエルと合流する……フレイラはどうする?」

「私はこのまま魔物を討伐を継続するよ」


 その表情に――どこか悲しげなものが含まれていたが、ユティスは言及する時間はないと断じ、


「わかった……とはいえ」


 魔物はどうやら砦周辺の魔力を利用し生み出されている――おそらく砦内に『召喚式』の魔法が組み込まれているのだろう。

 際限なく出現する魔物に、遅れて来たシルヤ達も倒してはいるがなおも湧き続ける様は異様の一言。ユティス達が到着したと同時に魔物の出現数を増やした可能性もある――


(オズエルに砦内の魔力解析をしてもらい、敵の人数なんかを把握できたら……場合によってはフレイラやジシス以外にも魔物討伐を行わせるのもありか)


 頭の中で算段を立てた時、オズエルの姿を発見。彼は門の前に立ちはだかり、一体の魔人と睨みあっていた。

 その見た目は真紅。全身を血の色が覆っており、鉄仮面にでも覆われたような顔からは表情など窺い知ることはできない。ただ武器などは所持していない。


「オズエル!」


 言葉と同時、魔人が動く。だがそこへ、馬を乗り捨てるように下馬したリザが仕掛けた。

 さらにオズエルも動き出す。右手に生み出している武器はショットガン――リザが間合いを詰めるよりも速く発射された弾丸は、その全てが命中した。


 次いでリザの蹴りが首下へと直撃する。それにより相手は大きく後退したが――まだ生きている。


「硬さだけは一級品だ。ジシスの一撃もこいつには通用しなかった」


 オズエルが言う。どうやら精鋭らしい。


「なおかつ俺が動こうとすると容赦なく仕掛けてくる。俺を後方に行かせると、魔法で一気に殲滅してしまうのを把握しているらしい」

「なるほど……つまり、ティアナの屋敷やこの場できちんと戦力分析をしているということだな」


 ユティスの呟きに、リザとアシラは首を向ける。それと共に、後方から魔物の雄叫び。さらに召喚されたのだろう。


「増援が来たことで、魔物の生成速度を増したみたいだな……なるほど、こういうやり方で騎士を分断させ、僕らを始末するのか」

「ということは、ここまでは彼らによる御膳立てってことかしら」


 リザが面白くも無さそうに問う。ユティスは魔人に視線を移すが――まったく動く気配がない。


 状況的に彩破騎士団以外の面々はバラバラになった。加え、ジシスやフレイラも外で戦っている。騎士団としては魔物を掃討した後攻め込むつもりのはずだが、魔物の生成速度が上がっているのだとしたら、戦いが終わるのはどのくらいなのか――


「――アシラ」

「はい」

「すぐに、フレイラの所に行ってくれ。ジシスは大丈夫だろう」


 意を介さないというアシラの視線。だがそれに、ユティスはすぐさま応じる。


「敵の狙いは彩破騎士団だけど、その主たる標的は僕かフレイラだろう。現在フレイラは単独行動している。そこを強襲する可能性は高い」

「わ、わかりました」


 アシラはすぐさま応じ、馬を返し走り去る。残ったユティスは小さく息をつき、


「オズエル、砦の内部状況を探ってもらえないか?」

「――わかった。すぐに終わる」


 オズエルは一歩下がり、詠唱開始。魔人が反応するかと思ったが、それでも動かない。


「僕らを分断させる手が、まだあるってことか」


 呟きと共に、オズエルが魔法を発する。それから少しして、


「――見えたぞ」


 オズエルは言う。


「一人、砦の頂上付近にいて――動いた。一気に降下して――」


 直後、遠くから重い音。着地したらしい。


「……魔人のようだ。ここからでも気配を感じ取れる」

「この魔力ならジシスも把握しているはず。フレイラが狙われるならアシラが対応する……信じよう。砦の中は?」

「正面の魔人以外に、中央付近に一人。こいつは先ほど遭遇したニデルとかいう騎士だ」

「他には?」

「一番奥にもう一人……いや、少しずつ魔力を減らしつつ魔法を行使する奴がいる」

「魔物を生み出している人間だな」

「そして――もう一人。ティアナさんだな。ゆっくりと、砦奥に向かっている」

「本丸を狙おうって話かしら」

「……ティアナなら、やりそうだな」


 ユティスは呟き、決断する。


「作戦は決まった……まずは目の前の敵を、倒そう」

「なら、私に任せてもらえない?」


 提案を行ったのは、リザ。


「さすがにこの辺りで活躍しとかないと給金がもらえなさそうだしね」

「……大丈夫なのか?」

「私だってこういう奴に対する戦術は持っているわよ。前にアシラと訓練して、この部分だけは私の方が上だったわ……ま、彼ならすぐに追いつくでしょうけど」


 告げた後、リザは構えた。


「一撃当てたら、後の攻撃は二人に任せるわよ」

「……わかった。行くぞ」


 ユティスは宣言し――三人は、魔人へ仕掛けた。



 * * *



 フレイラが魔物と交戦している間に、重い音が周囲に響く。見れば砦の城壁付近に、黒い影が見えた。


「魔人……?」


 周囲に魔物がいなくなったこともありそちらを注視した瞬間、その魔人がフレイラへ体を向けた。


(まさか――)


 予感した直後、魔人が動き出す。恐ろしい速度であり、どう足掻いても追いつかれるような俊敏さ。途端、フレイラは迎え撃たなければまずいと悟る。


(狙いは私か……!)


 彩破騎士団を狙っている以上、その目標は正しく――フレイラは剣を構え迎え撃とうとした。

 だが、果たして自分に対抗できる相手なのか。魔人と直接交戦するのはフレイラ自身初めてであり、自分の実力がどの程度通用するのか――


 騎士達が魔人の進撃を押し留めようと動く。だがいとも容易く弾かれ、猛然とフレイラへ迫る。


 自身が持つ『強化式』の能力を使えば、逃げられるか――だが相手の進攻速度を目算で計り、おそらく逃げ切れないと悟る。本来『強化式』の利点である身体強化面でも間違いなく上をいかれている。勝てるような要素がない。


(けど、それでも……!)


 フレイラが気を奮い立たせた――その時、


「フレイラさん!」


 アシラの声。見れば彼女の横から馬を駆り近づく彼の姿。


 味方が来たと思うと同時に、正面から気配が迫る。間近まで来たと悟った矢先、アシラの援護が入った。


 馬上から不慣れな一撃だったが、それでもフレイラに対する攻撃を弾く事には成功した――魔人は人の形を保ってはいるが、体の様々な場所から角のような黒い突起物が多数存在している。体表面は黒ではなく藍色で、他の魔人と同様金属めいた皮膚から魔力をうっすらと放たれている。


「大丈夫ですか?」


 アシラが下馬しながら問う。フレイラは頷きつつ、味方が来たという安堵と共に、どこか情けない気持ちを抱く。

 だが――フレイラはその感情を押し込めると剣を構える。魔人は武器を持たないため当然腕で攻撃を仕掛けたはずだが――アシラと剣を多少合わせた段階では傷一つついていない様子。


 そこで、さらに馬の蹄の音。同時にフレイラ自身の名を呼ぶ声が耳に入り、視線を移すとジシスが近寄って来ていた。どうやら魔力に釣られ駆けつけたらしい。

 彩破騎士団が集まりつつある――彼らは理解しているのだろう。この戦局は魔物ではなく、魔人という恐ろしい力を持った一個体が決めるのだと。だからこそ、負けられない。


「――来ます」


 アシラが言う。それと同時に、魔人がさらなる躍動を見せた。


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