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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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思わぬ敵

 轟音が響くと同時、ティアナは味方が来たと思う一方、ここから出なければという感情に駆られる。


(迷惑はかけられない……)


 そういう気持ちがあると同時に、ティアナは恨めし気に出口である部屋の扉を見据える。木製であるように見えるのだが、ティアナの拳を突き立てても軋む音一つ上げない。


(何か武器がなければ破壊するのは難しい……)


 窓もない部屋であるため、外の様子を窺い知ることもできないが――断続的に続く爆音などを聞いていると、いてもたってもいられなくなる。


(思い出した技法についても、単なる物質ではどうしようもない……待つしかないと?)


 いや、やれることは――ティアナがそう決断したと同時、扉の外から靴音が聞こえた。

 それはひどく規則正しく奏でられるもの。味方にしては早過ぎる上、その音がひどく悠長であったため、ティアナは音を耳に入れながら訝しんだ――その足音が部屋へと近づいてくる。そしてどうやら、ティアナの部屋の前で止まったようだった。


(部屋の中に気配があるから……?)


 胸中で立ち止まったことに対する推測を立てた時――部屋に轟音が響いた。

 一切破壊できなかった扉が、容易く粉々になって弾け飛ぶ。


 ティアナが呆然としている中で視線を扉奥へと移す。そこには、


「……気配がしたため当たりかと思ったが、違ったようだな」


 無骨な胸当てを身に着けた、黒髪の男性が一人。ティアナには声も顔も記憶にあった。それは――


「闘士、テオドリウス……!?」

「ん? ああ、あんたは確かリザと共に戦っていた人物か。なんだ、パーティー用のドレス姿が似合っているじゃないか。見た目的にそうだと思っていたが、お嬢様だったんだな」


 ――相手は、ネイレスファルト初日に遭遇した敵、イドラの味方をしていた闘士、テオドリウスだった。


 リザから聞いた話によると、名前はテオドリウス=ラズダーク。ネイレスファルトの中でも名が通っていた人物であり、誰もが認めていた闘士。

 そして、こんな場所で遭遇するとは思いもよらなかった。


「あなたがここにいるということは、イドラという人物もここにいるということですか?」


 丸腰のままでも警戒態勢に入り、問う。すると彼は頭をかき、


「これはまずかったな……まあいいか。露見しても何かが変わるわけでもない」


 そう言うと質問に答えることなく、身を翻しこの場を立ち去ろうとする。


 ティアナはここで彼を止めるべきなのか考えた。だが自分は丸腰であり、どうにもできなかった扉を平然と破壊した壊した相手。どう立ち回ろうと時間稼ぎだってまともにできないだろう。

 だが、何か――そういう考えに突き動かされ、ティアナはテオドリウスに対して口を開いた。


「あなたは……何のためにここに来たのですか」


 正直、反応が返ってくる可能性も低いと思った。けれどテオドリウスは立ち止まった。

 そして振り返る。ティアナを見て何もする気がなかった先ほどまでとは違う。


「話す必要はない……と、言いたい所だが」


 その顔には、笑みが張り付いていた。


「やる気のようだな」


 言葉と共に相手はティアナを見据える。刹那、ティアナは反射的に両手に魔力を集め――両手で剣を持つような形で、光を生み出していた。

 それを興味深そうに見据えるテオドリウス。


「物質化されていないようだな」


 ティアナが何をしたのか理解している様子。次いで、興味を持ったのか剣を眺め腕を組んだ。


「しかし、ただの魔力の塊とは違うようだな……本来なら単なる魔力の塊は何の意味も成さないはずだが――」


 呟く間に、ティアナは隙だと思い走る。式典用のドレスは動きにくかったが、それでも一瞬で間合いを詰め、


「だが、無理だな」


 テオドリウスは一瞬で瞳を『彩眼』へと変じ、右手をかざした。刹那、ティアナは自身の体が動かなくなる。


「っ……!」


 それは正確に言えば、何かに体を押されているような感覚。しかし風などではない。言ってみればそれは、動く壁が突如ティアナの前に出現し、それを使って押し込もうという感じだった。

 少しばかり耐えていたが、やがて体が傾き足も離れてしまった。結果、後方へと吹き飛ばされる。


 着地が上手くできない中、ティアナは壁際まで追いやられながら倒れ込む。それを見たテオドリウスは、小さく肩をすくめた。


「体表面にそれだけの質を持った結界を構築する以上、異能であんたを倒すのは難しそうだ。真っ向から戦ってもいいが……その魔力の塊は警戒に値するにしても、丸腰だからな」

「武器を持たない人間とは、戦わないと?」

「別に騎士道なんてものを持っているわけじゃないが、一応俺も闘士だからな。もし戦うんだったら、お互い最高の状態でやりたいと思わないか?」


 肩をすくめるテオドリウス。


「それに正直、あんたに負けるとは思っていないが、付き合っていると時間が掛かりそうだ……ひとまず勝負は預け、互いが干渉しないってことにしようじゃないか」

「ふざけ――」


 声を上げ立ち上がろうとした直後、今度は背中に岩でも伸し掛かったような感覚を抱いた。立ち上がることができない。

 しかし、唯一顔を上げることはできた。だから相手を見据える。テオドリウスは、右手をかざしたまま先ほどの提案の答えを待っている。


 その中で、ティアナは考える。


(この、能力……)


 異能が何であるかは、遭遇時点で疑問だった。その時見せた能力と、ティアナが一身に受けている状況を考えれば――


「斥力や……引力を操る能力ですか」

「さすがにヒントを与えすぎたか」


 言葉の直後、ティアナの体が軽くなる。すぐさま立ち上がるが、テオドリウスはなおも右手をかざしており『彩眼』も維持されたままだ。


「……先ほどの言葉を考えると、あなたの能力は物理干渉的なものであり、魔力による防御には通用しないようですね」

「察しが良すぎだな。しかしまあ、バレたからといって大した問題じゃない」


 テオドリウスは剣を抜き放つ。


「どうする? タネがわかった以上、仕掛けるか?」


 ティアナは相手を見据える。とはいえ――


「その能力を使えば、私に傷を負わせられないにしろ、吹き飛ばすことはできるわけですね」

「ご名答。魔力による結界は負傷することは防げても衝撃までは殺せないからな。固定型の結界ならまた別の話だが、あんたがそれを素早く展開できるような魔法技術を持っているのか?」


 問いにティアナは答えない――それによりテオドリウスは察したのか、剣を軽く素振りしつつさらに続ける。


「もし近づいてきたなら……異能を使わずとも、圧倒できる自身はあるぞ? そっちが来ても俺は対応できるし、こちらとしてはあんたに引っ掛かっていると面倒だ。ここはいったん互いの事は忘れようじゃないか」

「……その能力を用いて、踏み込まないのですか?」

「聡明そうなあんたなら理解できるだろ?」


 ――異能を使用している間、他の能力は使用できない。


 そういう推測をティアナは頭に浮かべる。いや、そういう制約があるというより、彼の場合は元々存在していた地力と異能を上手く組み合わせることができず別々にしか使えない、といった感じだろうとティアナは思う。

 とはいえ、彼は武器を所持し闘士としての実力も相当なもの――リザが認める程の相手だ。完全な状態であったとしても、勝てるのか――


「状況は認識できたようだな」


 テオドリウスは告げる。それにティアナは無言。


「俺は引き上げさせてもらうぞ」

「……あなたは、何のために――」

「こっちの都合としか答えられないが、一つ言わせてもらうなら欲しい物があるだけだ。言っておくが、あんたらの邪魔をする気も味方をする気もない」


 言うや否や彼は剣を鞘にしまい、背を向け歩き出す。今度こそティアナは動けなかった。声を絞り出しても引き留めることはできないとわかっていたからだ。


 少しの間ティアナは立ち尽くし――やがて、破壊された扉を抜け出て左右を見回す。そこにテオドリウスの姿はなかった。まるで最初からいなかったかのように静かだが、扉が破壊された痕跡だけはきっちりと残っている。それこそ、彼がこの場にいた証明。


「……あの人物が現れたという事実は、認識しておくべきか」


 ひとまず扉は吹き飛んだ。ならば次はどうするか――本来ならば脱出するべきだとは思う。

 だが――ティアナは通路を見やる。自分が砦最奥の部屋からどうやってここに来たのかを思い出し、ゆっくりと、歩を進めた。


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