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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
199/411

存在価値

 フレイラ達が砦へと到着したのは空が白みがかり始めた段階。視界の確保には困らない程度には明るく。移動の音もあってか砦側も迎え撃つ構えを整えていた。


「さて、どう攻めるか……」


 隊長である騎士が呟くのを近くで聞きながら、フレイラは周囲から視線を感じ取る。

 その目は間違いなく期待であり――重圧に、フレイラは耐えなければならなかった。


 以前のフレイラならば、きっと超然としていたことだろう。けれどスランゼルの事件に始まりネイレスファルトでの経験を経て、その重圧がひどく両肩にのしかかる。


(私は……期待されるような……)


 もし何か発したら、途端に騎士達の目の色が変わるかもしれない――そう思うと恐怖が背筋に走る。

 自身の中に眠る記憶も相まって、フレイラは自身の能力を見失いかけていた。さらに言えば魔人と立ち向かえる彩破騎士団の面々の実力――ユティスもまたその一人であり、自分だけが遠い所へ置き去りにされたような錯覚さえ受ける。


 以前のフレイラならば、悩んでも奮起して砦の攻略に参加していたかもしれない。だが、今は――


「フレイラさん」


 横にオックスが来る。後方にはシャナエルやアージェの姿も見え――砦の門前にいるブローアッド家の私兵と睨みあう形の中で、彼は言う。


「ティアナさんの屋敷における戦いぶりを見れば、この戦いの戦局を決めるのは彩破騎士団の面々になりそうな気がする」


 それに、おそらく自分は入っていないだろう――自虐的な考えが浮かびつつも、フレイラは彼の言葉を聞く。


「騎士隊長さんはどうやら正面突破をするつもりみたいだが……あれだけ屋敷に人員を割いた以上、砦で待ち構えている人間はそう多くないだろ。となれば、少数精鋭である可能性もある」


 オックスがそこまで語った段階でフレイラも察しがついた。魔人のことを警戒しているのだろう。


「顔つきからすると、わかったみたいだな。後詰めの連中が来るまでに片付けられるのが理想的なはずだが……門番やっている人間にしても気配が普通の奴とは違う。突破する場合はこっちも相当気合を入れないといけない」

「その主だった戦力が、私達だと?」

「その可能性が高いって話だ。騎士団としては彩破騎士団に最初から頼ることはしないだろうけど――」


 その時、隊長から号令が下った。それに伴いまずは宮廷魔術師達が動き出す。

 遠距離から魔法を仕掛けるつもりのようだ。だが門番二人は一切動かない――いや、その体からほんの僅かだが魔力が感じ取れる。


 オックスの予想通り、彼らもまた魔人なのだろう。その直後、宮廷魔術師が動いた。火炎と雷撃――双方が怒涛の如く門番へと襲い掛かる。

 相手はまだ動かない。だが火炎と雷撃が間近に迫った時――フレイラは門番達の気配が変わり、また同時に門を守るべく自身が盾となって動き、なおかつ表情が変化したのを悟る。


 具体的な顔つきまでは遠目であったため判断は難しい。けれど、確信する――両者は間違いなく、笑っていた。

 炸裂した魔法により門周辺に粉塵が舞い上がる。宮廷魔術師の攻撃はフレイラの目から見て驚異的であり、直撃したのならばそれなりにダメージを受けていてもおかしくなかった。


 だが次の瞬間、濃密な魔力が周辺に満ちる。始まった。


「来るぞ!」


 誰かが警告した直後、粉塵の中から一人飛び出してくる。それは先ほどまでの門番とは違う、人間を逸脱した存在であり――フレイラはどういった姿なのか上手く理解できない中で、騎士と激突した。


 そこでようやくフレイラは視認する。手に握る長剣はごくごく一般的なもののはずだが、腕を経由して収束した魔力は常人を超えるものであり、最大限までに力を増したそれを破壊するのは相当困難だと悟ることができる。


 身に着けていた鎧は魔法により吹き飛ばされているが、下に着ていた衣服は無事であり、その下に存在する肌が黄緑になっていることもまた認識できた。人の形を保ってはいるが、顔まで仮面に覆われたように表情を失くし、唯一目の部分だけが真紅に染まり不気味極まりなかった。


「くっ!」


 先んじて応じた騎士は魔人の剣を受けようとする。だが剣が触れた瞬間、騎士は驚くほどあっけなく吹き飛ばされた。

 すかさず隊長の騎士が指示を飛ばそうとする。だがそこへ、フレイラは次の気配を感じ取る。ゾクリとさせるような魔力収束――まだ粉塵が消えない、門方向からのものだった。


「まずいぞ――」


 オックスが叫んだと同時、白い魔力の塊が門前からフレイラ達へ向かって放たれた。すぐさま隊長が散開するよう指示を送るが、一歩遅く白い光がフレイラ達の下へと到達する。


 閃光と爆発。さらに衝撃波によりフレイラは握っていた手綱を離す。馬がいななく中で必死に制御しようと立ち回るが、衝撃波に圧されとうとう馬が横倒しとなった。

 フレイラは即座に立ち上がる。ここで隙を見せるのはまずい――そう悟ると同時に男性の悲鳴が上がった。この光の中でも攻撃に動いた魔人は立ち回っている――それを認識したと同時、光が消えた。


 最前線にいた騎士達は、ほとんど壊滅状態に陥っていた。魔人は今や部隊の中核へ突き進んでおり、その狙いが隊長であることを誰もが理解する。

 進撃を阻むべく、近くにいたシャナエルやアージェが攻撃を繰り出す。光や風が合わさり、並の魔物ならば押し留められる――はずだった。


 けれど、魔人は攻撃を受けてなお突き進む。最早押し留められないとフレイラが思った時、フレイラの横を一頭の馬が駆け抜ける。

 馬上を見ると、ジシスの姿。矛を振りかざし混乱する騎士達の間を縫って魔人の背後まで迫る。


 隊長の間近まで到達しようとしていた魔人もそれには気付き、すぐさまジシスに応じようとする。振り返りざまに剣を一閃しジシスをその力で吹き飛ばす――そういった戦法をフレイラは予想した。


 対するジシスは馬上から矛を薙ぐ。豪快な攻撃だが果たして魔人に通用するのかと思った――直後、

 それぞれの獲物が触れた瞬間、矛が易々と長剣を両断した。


「な……!?」


 おそらく騎士隊長の声。だが彼が呻く間にジシスは平然と魔人の体すら両断する。胴体の真ん中で完璧に両断された魔人は、上半身が地面に当たる前に、塵となり消え失せた。


「――来るぞ」


 次いでフレイラの近くにいたオズエルが呟く。同時、砦の門近くから再び魔力の胎動。先ほどの白い衝撃波が来るのは間違いない。


「オズエル!」

「任せろ!」


 ジシスの呼び掛けにオズエルは応じると、門へと進む。さらに右腕をかざし武具へと変化させるが――変わった形状をしていた。


 ユティスから彼の武器について説明は受けている。だが今顕現して見せたそれは、砲身なども存在しない、ずいぶんと重厚な小手のような物だった。

 色は白銀で右腕全体を覆うような形状。小手によって見た目でオズエルの腕が倍以上に大きくなり、果たしてそれが武器になるのかフレイラは疑問に思った。


「おい、大丈夫なのか?」


 オックスもたまらずオズエルに問い掛けた。それに彼は即頷き、


「ジシスがあそこまでやったんだ……少しは俺も力を誇示しておかないとな」


 言って見せた直後、白い光の塊が魔人から放たれた。魔力の濃密さだけでいえば先ほど放ったよりも大きい。もしあれが炸裂したとしたら、崩壊とまではいかないが騎士団に相当なダメージが入るのは間違いない。


 相手の攻撃に対し、オズエルが動く。彼は、あろうことか右手に生み出した小手を、光の塊へとかざした。


「ちょっと――!?」


 後方からアージェの声が聞こえた。まさかそれを防ぐのかという質問が飛んできそうだったが、それよりも前にオズエルと光が激突した。


「――さすがに、相当な魔力が込められている」


 オズエルは光の塊を受けながら論評する。その声には余裕があり、フレイラはただ事の推移を見守るしかない。


「だが、受けられない程じゃないってことだ」


 刹那、フレイラは信じられないものを見た。光の塊が、小手に徐々に吸い込まれている。


(まさか――相手の攻撃を吸収!?)


 心の中で叫んだ時、光の塊が一気にしぼみ、小手に全て吸収された。

 魔人としてもこれは予想外だったらしく、オズエルの行動を見て動きを止めた。


「――返すぞ」


 そしてオズエルは宣告し、右腕の形状を変化。ライフルへとその姿を変える。

 彼は間髪入れずに次の行動に出た。轟音と共に光が射出され、恐ろしい速度で魔人へと飛来する。


 相手は驚愕のためか、それとも対応に遅れたか――避けることができず、弾丸をまともに受けた。着弾と同時に爆散し、光は門の扉だけでなく周囲の城壁まで飲み込んだ。

 ガラガラと城壁が崩れ落ちる音が聞こえる。土煙も発生し、なおかつ魔人はその奥で完全に沈黙した。


 その間に騎士達が態勢を整え始める。フレイラが呆然と立ち尽くす中でジシスが近寄り、オズエルに尋ねる。


「今のは、相手の魔力を吸収し武器としたのか?」

「それだけじゃない。そっくりそのまま返しても相手を一発で倒すことはできないだろう? だから俺の魔力を加え、弾丸として射出したまでだ」

「なるほど、恐ろしい力だな」

「とはいえ、使用条件が厳しいため中々使えない。今回の場合は魔人の魔力の質をたまたま解析できたため吸収したまでだ。今後はそう上手くはいかないだろう」


 会話の間に煙が晴れる。見れば、門の前には僅かながら黄緑色の塵が残されていた。間違いなく、滅んだ証拠だろう。


 加え、門前の状況は一変。門は丸ごと吹き飛び砦内に続く大扉がはっきりと見える。おまけに門周辺の城壁は吹き飛び、最早そこからの侵入を防ぐことは叶わない程損傷していた。


「敵も、この事態に混乱してくれればいいが……」


 オズエルが呟くと同時に砦の中からさらなる兵士が出現する。見た目は変哲もない存在だが、遠くからでも魔力が常人とは異質であると認識できる――間違いなく、魔人だ。


「やるしか、なさそうだな」


 後方で騎士隊長が言う。率いてきた騎士団で倒すのは非常に厳しい――だが、それでも、


「行くぞ!」


 騎士の士気は下がっていない。むしろ魔人という脅威をはっきり目の当たりにして、彼らを野放しにしておくわけにはいかないという考えが生まれたのかもしれない。


 そうした騎士達の突撃に対し、フレイラ達も動く。特にジシスは馬を駆り先陣を切る役目を担う。魔人達が剣を構える中、彼はまず変化し力をつけた相手と武器を合わせ――先ほど同様、一刀で片付けた。


 それを見ると同時にフレイラは思う――自分は、果たしてこの戦いで――


(……やめよう)


 フレイラは自身の考えを振り払った。今は弱気になってはいけない。そう心の中で自身に告げ、ジシス達と共に砦の中へと踏み込む。


 直後、


「お待ちしていました」


 入り口正面に、騎士ニデルが立っていた。


「おっと、いきなり真打登場か」


 ジシスは声を発すると矛を構える。室内はそれなりに広いとはいえ、矛を振るうにはやや心もとない。彼としてはできれば腰の剣を抜きたいと思っているところだろうが――


「門番を容易く倒した実力、感服します……ですが、その快進撃もここまでですよ」

「わざと誘い込んだとでも言いたいのか?」


 後方から騎士がやって来て尋ねると――ニデルは、笑みを浮かべた。


「はい、その通りです」


 直後、魔力が周囲に発せられる。それが何なのかフレイラは認識すると同時に、

 砦周辺に、多数の魔物が出現した。


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