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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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騎士団の味方

 ユティスはラシェンの言葉を聞いて考える――彼に対し、疑義を抱いているのは事実。とはいえ現状彼は彩破騎士団に肩入れしており、彩破騎士団に勝つことに賭けている節がある。


(どっちにしろ、公爵がいなければ僕らはどうにもならないわけだし……ひとまず、その流れに沿うしかないな)


 胸中でそう判断した時――ユティスは別のことが気に掛かった。


「そういえば、ラシェン公爵」

「どうした?」

「ヨルクさんの姿が今回の戦いで見えないのですが……」

「それなのだが……彼の動向は、ユティス君達がネイレスファルトを訪れて以降、ずいぶんと鈍くなっている」

「鈍く?」

「何か理由があるのかもしれん。サフィ王女も訝しんでいたことから、魔法院が何か干渉した可能性がある」


 ユティスとしては嫌な予感がした――魔法院は彼についての対策もあったということなのか。


(もしや、ティアナと同様に……)


 記憶の封印はユティスだけでなくティアナにも関係していた。そしてヨルクもまたそうである可能性は否定できない――


「ユティス君」


 はっとなる。気付けば考え込んでしまっていた。


「疑問はいくらでもあるだろう。だが今はやるべきことがある。違うか?」

「……はい」


 ユティスは返事をする。確かにそうだ。


「今はティアナ君を助け出すことを考える……ヨルク君は動いていない。そして銀霊騎士団はおそらく動かないことを踏まえれば、エドル君の登場もないだろう。となればティアナ君の屋敷で苦戦した騎士団と私達だけで対応するしかない」

「はい」

「その中で、どうやら彩破騎士団が戦力の中心になってくる……全員、余力はあるか?」

「一晩くらいなら、動き回っても問題ないわよ」


 いち早く答えたのはリザ。次いで、


「徹夜には慣れている」


 オズエルの言葉。続いて、


「こういった戦場では昼夜等関係ない。この齢でも戦いがあれば高ぶる。問題ない」


 ジシスが好戦的な笑みを見せ応じた。


「俺も、大丈夫です」


 そしてアシラが返答すると、ユティスは大きく頷いた。


「僕も平気です……このまま、騎士団と共に砦へ」

「わかった……フレイラ君、どうする?」

「私も……行きます」


 僅かだが言いよどんだ。ユティスはそれが一瞬気になったが――言及はせず、ラシェンへ言う。


「ラシェン公爵、イリアは?」

「眠っているため無理だろうな。彼女については私が責任もって預かろう」

「わかりました……出発はすぐ行います」

「いいだろう。借り受けた馬は屋敷の敷地内にいるな? フレイラ君の分も用意するため、ひとまず部屋で準備をしてくれ」

「はい」


 承諾し、ユティス達は動き出した。






 それから屋敷を出てユティス達は城門近くまで馬で移動。時刻はまだまだ深夜だが、門周辺は明かりで照らされ、討伐へ向かう騎士団達が準備を行っていた。


「来たか」


 シルヤの声。見ればロランやアージェと共に騎士団の行動を見守っているような状況。


「もう少しで準備が整う。それまで少し待ってくれ」

「……砦まではどの程度時間が?」


 下馬しながらユティスは問うと、シルヤは一考し、


「飛ばせば数時間といったところか。現在は深夜を超えた時間帯であるため、砦に到達した時点で空は白くなっているかもしれないな」

「わかりました」

「そちらは大丈夫か?」

「彩破騎士団は一人を除いて来ています」

「そうか……もし例の危険な存在と出会ったら、彩破騎士団の力が必要となるだろう。その時は、頼む」


 シルヤの要求。本来ならばこうして頼み込むような真似はしたくないだろう。彼らとしては騎士団だけで解決したいと思うはずだ。しかし、それは難しいとあの戦いで判断し、彩破騎士団に頼んだ。


「……ここで一つ、彩破騎士団に頼みたいことがある」


 さらにシルヤは告げる。


「既に先行して動き出している面々もいる。西門に集合しているはずだ。我々は後発隊という形となるのだが……先発隊には勇者オックスを始めとした面々もいる。彩破騎士団もできれば先発隊の面々に多少戦力を振り分けて欲しいのだが」

「分ける、ですか」

「少数である状況でこう要求するのは申し訳ないと思っているが……先ほどの戦いを考えると、私達だけでは対処できない可能性も存在する。それを踏まえれば――」

「わかりました」


 ユティスは承諾。そこで視線をフレイラに向ける。


「ということだけど、どうする?」

「私は……」

「できればでいいのだが、騎士フレイラには先発隊に加入してもらいたい……貴女がいればずいぶんと士気も上がるだろう」


 戦争の経緯から、彼女の名声を利用したいのだろう。途端、フレイラは緊張した面持ちを見せる。


「……私、でよければ」

「ありがとう。他の面々は――」

「ジシス、オズエル」


 すぐさまユティスが声を上げる。


「二人はフレイラに同行してくれ」

「わかった」

「承知した……ユティス殿、無理はするなよ」

「ジシスとオズエルも」


 視線を交わした後、フレイラ達は去った。それを見送った後、シルヤはなおも言及する。


「今回の場合はロクに指揮がとれていない状況での行動だ……非常に危ないかもしれない」

「統制が……?」


 ユティスが聞き返すと、シルヤは苦笑した。


「銀霊騎士団編成の際、上官もだいぶ引き抜かれた。なおかつ今日の壮行会に出席して酒が入っている人間も多い。銀霊騎士団は兼務者が多いとはいえ、パーティーに参加した大半の人間は動けない。その状況下でこの戦闘……敵は狙っていたと考えた方がいいわけだが……ともかく、騎士団で指揮を執れる人間がほとんどいない」

「そんな状況が……」


 その時、ユティスの頭の中に一つ浮かんだことが。


「……騎士シルヤ」

「どうした?」

「そうした面々は当然、魔法院と関わりのある人物ですよね?」

「関わりがあるかどうかはわからないが……確かに、魔法院に近しい人間が多かったのは事実だ」

「例えば騎士メドジェなんかもそうですか?」

「魔法院、というよりも彼らの場合は魔法院経由の指示を受けてという感じだな……ともあれ、銀霊騎士団に加わった人間は基本彩破騎士団を支持するような面々はいない」


 腕を組むシルヤ。次いで周囲に視線を送り、準備を行う騎士達を眺める。


「そして騎士ティアナの護衛を行った人間の中には、彩破騎士団を支持する者がいた……というわけだな?」

「そうです」

「ユティス殿も、考え付いたようだな。今回の戦いは彩破騎士団とブローアッド家を戦わせることで相打ちを狙う。加え、彩破騎士団を支持する人間の発言力を低下させる狙いがある。つまり魔法院が騎士団を掌握したければ、今後銀霊騎士団が発言力を高めてくるだろう」


 そこでシルヤは大きくため息。


「内輪もめをしているような余裕はないはずだが……いや、混迷を極めているからこそ、魔法院は権力掌握に勤しんでいるというわけか」

「その中で、騎士シルヤは見限られたということでいいのかしら?」


 ふいにリザが問い掛ける。ずいぶんとぶしつけな質問であり、思わずユティスは咎めようとしたのだが、


「ここにいる以上、そういうことになるな」


 シルヤは怒ることなくあっさりと同意した。


「ただ、媚を売られるよりはいいし、私としては立場を明確化できたということで良しとしよう。とはいえ、だ。私達が直接的に彩破騎士団に協力することは難しいぞ。この場にいるのは立場上あくまで近衛騎士団や中央騎士団だ。もし彩破騎士団と協力を行うとしたら――」

「銀霊騎士団を倒さなければならない、と」


 ユティスの言葉に、シルヤは頷いた。


「そんな機会があればいいが」

「必ず来ると思います……いずれ銀霊騎士団は何かしらの形で僕らと戦うことになるでしょう。そこで僕らが鼻を明かせばいい」

「強気だな。そう簡単にいくとは思えないが――」


 ここで騎士が近寄って来た。小声でシルヤと話をすると、


「……面白い御仁が現れたようだ」

「面白い?」

「騎士アドニスだ」


 ――ユティスの兄。とうとう兄まで駆り出されるというわけか。


「奴もまた、銀霊騎士団に呼ばれなかった……実力は確かのはずだが、やはりロイ殿は兄弟を組み込むわけにはいかなかったと見える」

「でしょうね……」


 語る間に馬の音。振り向くと、騎乗したアドニスの姿があった。

 ユティスと目が合う。彼はその眼差しが以前と違うことを察したのか――下馬した後、ユティスに話しかけた。


「ユティス、無事だったか?」

「はい、兄さんは――」

「指揮の方を任された。とはいえ、ここには騎士シルヤがいるわけだが……」

「能力の高さはそちらの方が上だろう。私は基本前線で戦っている方が性に合う。存分にやってくれ」

「とはいっても、直接敵と戦ったのはシルヤだ。情報は必要だ」

「ならば、道中でどういう相手なのかを伝えよう。準備は?」

「もう少しだ。あと三十分程」

「先発隊は敵が逃げないように砦へ急行することになる……兵の損耗も考えられるが、大丈夫か?」

「それについてはこちらも考慮している」

「わかった……で、だ」


 シルヤはどこか面白そうに、ユティスに目を向け話を行う。


「何か言うことはあるのか?」

「……あの」


 ユティスが言及しようとした時、アドニスが口を開いた。


「一つ、訊きたいことがある」

「あ、うん」

「どうやら『創生』以外にも何か術式を持っているらしいが……いつ手に入れた?」


 ――その質問で、兄もまた思い出せていないのだとユティスは悟る。


「……それは」

「待った」


 答えようとした時、フォローに入ったのはシルヤだった。


「騎士アドニス。それについてはひとまず後にしてもらえないか?」

「後?」

「これはユティス殿だけの問題ではない……もしかすると騎士団全体に関わることかもしれない。よって、できればきちんとした場で話をしたい」


 彼女の言葉にアドニスは訝しんだ。


「それは?」

「頼む」

「……わかった。ユティスとしても話しにくそうにしている以上、込み入った事情があるのだろう。今はひとまず何も聞かないでおく。だがユティス。いずれ説明をしてくれ」

「わかった」


 アドニスは再度騎乗し、他の騎士の所に向かう。


 そこで、ユティスはシルヤに礼を述べた。


「あの、ありがとうございます」

「話が長くなると思って打ち切ったまでだ。しかし、アドニスは何も思い出していないのか」

「記憶を改変した存在は、どうやら討伐隊に関わることについて思い出させている様子……ということは、関係のないアドニス兄さんは思い出していないということなんだと思います」

「実の兄弟が思い出していないというのも不思議な感じはするが……と、待った」


 シルヤは突如言葉を止める。


「確認していなかったが、この記憶操作には当然、魔法院が関わっているんだろう?」

「断定はできませんが、僕達はそう考えています」

「となると、ロイ殿は――」

「ロイ兄さんが犯人である可能性が高いかと……もっとも、記憶についてはどういう経緯でこうなったのかまったくわからないので、憶測でしか物は言えませんが」

「そうか」


 シルヤはユティスを一瞥した後、呟くように話す。


「記憶……不安に思うだろうが、討伐隊に関する記憶が蘇り始めた私は、貴殿の味方でありたいとは思っている」

「ありがとうございます」

「彩破騎士団と連携すること自体不服に感じる者がいるのは事実だが……騎士フレイラの存在もある。そう問題にはならないだろう」

「できれば、銀霊騎士団との戦いでも色々と協力してほしいですけど」

「それは正直、確定できないな」


 シルヤは苦々しく発言。ユティスとしてはそれも了承した上だが――それでも、好意的な人物が登場したことは非常に心強かった。

 やがて、騎士団の準備が整う。アドニスが号令を発し移動を開始。ユティス達はそれに追随し、都を出ることとなった。


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