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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
196/411

屋敷制圧

 駆け付けたジシスとオズエルが到着した後の屋敷は、至極一方的な展開となった。


 ユティス達は屋敷内にいる襲撃者の掃討を始める。敵の実力はバラバラではあったが魔人のような力を有する存在はいつのまにかいなくなっていた。ニデル以外の魔人を倒してしまったか、それともティアナをさらった時点で引き上げたか――ユティスは後者だろうと推察しつつ、銃により襲撃者の一人を倒した。


 中をある程度攻略した段階で外に出る。ロランを始めとした騎士達が襲撃者達を食い止め、さらにジシスが襲撃者三人相手に一閃している光景が目に入った。

 ただ獲物は剣ではなく矛。その一撃により襲撃者は例外なく吹き飛び、ジシスは吠えた。


「有象無象がいくら束になっても敵ではないわ!」


(……丸っきり悪役のセリフだ)


 そんなことを思いつつ、ユティスはちょっと呆然となる騎士達を一瞥した後、横手から来る襲撃者に気付く。


「まだ仕掛けてくるのか……!」


 既に大勢は決したが、それでも襲撃者は攻勢の手を緩めない。ニデル達が逃げるまでの時間稼ぎか――


 襲撃者に対しては、まずリザが反応した。突撃する相手に対し一気に接近し、放たれた斬撃を避けると腹部に拳を打ち込んだ。

 それと同時に動きが止まり――ユティスの風の銃が頭部に炸裂。襲撃者は倒れ伏す。


「……ねえ、その武器は何?」


 横にいたアージェが今更ながら訊いてくる。ユティスはどう説明していいかもわからないため「また今度」とだけ返し、


「ひとまず残党の処理を……」


 告げた矢先、オズエルの魔法が発動する。右腕の銃を用いることはなく、彼の周囲には光の剣が束になって出現する。


「――食い尽くせ」


 言葉と同時に光が拡散した。それは騎士達を縫うようにして襲撃者へと向かい――交戦していた者は幾重もの光を受け、倒れ伏す。


「は……?」


 アージェが呻いた。なぜそんな声を上げたのかはユティスにも理解できる。


(オズエルは襲撃者を魔力で識別して魔法を放ったんだろうけど……この短期間で襲撃者だけを狙って攻撃する分析能力を持つ魔術師は、宮廷魔術師でも上位クラスの人だからな)


「というか、普通に魔法が使えるんですね」


 アシラが呟く。それに対しては、リザが返答。


「目立つから、いつもの武器は使いたくないんじゃないかしら……ま、ユティスさんが使っているからあんまり意味はなさそうだけど」

「一応言っておくけど、僕の持っている物とオズエルが使う物とは全然違うよ」


 ユティスは答えた後、アシラとリザに指示を出す。


「オズエルの魔法で大半は倒したみたいだけど……二人は、残っている敵を片付けてくれ」

「わかりました」

「了解」


 アシラとリザはほぼ同時に返事をして動き始めた――その時、

 ふと、ユティスは悪寒を感じた――予感めいたその感覚は、きっと『精霊式』を身に着けたことによる危機察知能力なのではないかと漠然と思う。


 即座に視線を転じる――屋根の上。

 そこに、視認しづらかったが、襲撃者を確認することができた。


(狙っていたか……?)


 リザやアシラが離れたタイミングで――悟ると同時に襲撃者が飛来する。そこでリザやアシラは察し、即座に転身しようとした。

 だが、それよりも早くユティスは動いた。隣にいるアージェや剣を構えようとするシルヤを見つつ、銃を構え相手へと放った。


 空中にいる相手はそれをまともに受けざるを得ない。直後相手は風により多少バランスを崩した。だがそれでも着地しようとして――その間に、ユティスは右手に力を込める。


(破邪の力を用い、一撃で仕留める……!)


 ユティスは決断し、着地地点へ形を成した光の槍を放った。それは右腕に収束させたものだが、手に握る長剣から放出されたもののようにも見えた。


 襲撃者がそれを受けるべく剣を構える。着地と同時に光の槍は到達し、襲撃者の正面で光が炸裂する。

 大きな音が周囲に響く。それと共に衝撃波が生まれ――光が消えた後、残っていたのは倒れ伏す襲撃者だった。


「……ユティスって」


 そこで、アージェが声を上げる。


「こんなに強かったっけ?」

「……僕にも色々事情があるんだよ。というか、思い出せないのか?」

「思い出す? 何を?」


 首を傾げるアージェ。どうやら記憶については戻っていない様子。


(アージェなら、封印された記憶の中で僕の『精霊式』について知っていてもおかしくない。けど、思い出せていないということか)


 記憶が戻っている人間と戻っていない人間がいる――改めて理解すると共に、ユティスは声を発した。


「それについても後回しだな……リザ、アシラ。手筈通りに」

「大丈夫? どっちかが傍にいた方が――」

「彼は私に任せてくれ」


 そこで口を開いたのは、シルヤだった。


「私は少し魔力を消費しすぎたため、回復したい。とはいえユティス殿を守れるくらいの余力はある……両者はまだ戦えるようだ。一刻も早く制圧を頼みたい」

「だそうだよ。リザ、アシラ」


 ユティスの言葉にアシラ達は同時に頷き――残っている襲撃者へと走り出した。


「少数精鋭にしろ、相当な者達を加えたな」


 称賛に近い言葉が、シルヤの口から漏れた。


「どういう手品を使った?」

「偶然ですよ」

「本当か? 援護に来た残り二人も相当な使い手だ……そうした面々を加えるとは、ネイレスファルトに行ったとしても相当な運だと思うのだが」

「……向こうでも、異能者などを巡る陰謀がありました。彼らはそれに対抗していて、その結果こうして集っただけです」


 ユティスが答えた時、アシラが襲撃者を倒す――そこには二人いたのだが、一閃により両方崩れ落ちる姿を見て、周囲にいた騎士が驚いている。


(どうやら、大丈夫そうだな)


 この屋敷を制圧するのは時間の問題だろう。しかし、まだ戦いは終わっていない。時刻は深夜になろうとしているが、敵を追う必要がある。


「私達はこのまま敵を追うつもりでいる。彩破騎士団はどうだ?」


 シルヤが問う。それにユティスはすぐさま頷いた。


「僕らも同行します」

「ありがたい……というより、残されたメッセージを見ると敵は君達が目的である可能性が高い。大丈夫か?」

「敵がどう思っていようとも、ティアナを助ける必要があります」


 ユティスの強い言葉に、シルヤは満足したのか「わかった」と短く答え、笑みを浮かべた。






 やがて襲撃者を全て倒し、さらに事後処理のために兵や騎士が駆けつける。ティアナの両親は無事。だが兵や騎士の中には犠牲者も出てしまった。


「城に戻って、私達は態勢を整える。すぐに準備を始め、数時間後には出発できるようにする。彩破騎士団は?」

「それに合わせることにします……城門で合流しましょう」

「わかった。人数分の馬を用意する。公爵の屋敷に残っている者達と、誰が向かうかなどを相談してくれ」


 シルヤの言葉を受け、ユティス達は馬により屋敷へと戻る。無論、これで終わりではない。長い夜は、まだ始まったばかりだった。






 ラシェンの屋敷へと帰還したユティス達は、敷地内が問題ないことを把握した後食堂でラシェンと話し合いを行うことにした。


「状況はわかった。制圧以降襲撃の一つも発生していない以上、戦力は全て砦へと向かっているのだろう」


 ラシェンはそう感想を述べた後、一度周囲を見回した。


「騎士団は、相当やられたようだな……襲撃する人間の質も関係しているだろうが、こちらとは大違いだ」

「こちらの被害は?」

「戦闘により調度品がいくつか破壊してしまったくらいで人的被害はゼロだ。しかし、魔人か……そのような人物は、こちらにはいなかったな」

「こちらの襲撃は、僕らを誘い出すためのものだったのかもしれません」


 ユティスが述べる。それにラシェンは息をつき、


「ティアナ君の屋敷が護衛されているという情報……そして私達と彼女との関連性……実は襲撃者の所持品などを調べてみると、ブローアッド家の刻印が施された短剣などが見つかった。さらにエゼンフィクス家の家紋が施された品まで……」

「ここの襲撃は、僕らを誘い出すために行ったことだと?」

「騎士ニデルが君達に向けてメッセージを残した以上、そうなのだろう。ティアナ君を連れ去る理由と共に、君達を始末したいと考えたのは間違いなさそうだ」

「ネイレスファルトでの戦いについて、余程根に持っているということですね」


 ユティスの言及に、ラシェンは小さく笑みを見せた。


「そうだな。もしかするとユティス君達が倒した人物は、マグシュラントの中で一定の地位にいた人物だったのかもしれない……ともかく、君達はマグシュラント王国にマークされているというわけだ」

「光栄とでも思えばいいのかしら」


 リザが他人事のように呟く。また、オズエルが声を発した。


「あっちが来るなら返り討ちにするまでだ。学院での所業……許すわけにはいかん」

「同感じゃな。ブローアッド家とやらはマグシュラントに繋がる末端かもしれんが、この国で権力的に根を張っていた人物。ここで打倒しておかなければならんじゃろう」


 ジシスも同調。全員答えは一致している――そこで、ラシェンが話を続ける。


「宮廷側も、ブローアッド家の動きは良しとする者は誰もいないだろう。銀霊騎士団が出てくる可能性も……いや、ティアナ君の護衛を行っている面々が銀霊を除いた面々なので、そちらが出張る可能性が高いな」

「銀霊騎士団は、動かないと?」


 ユティスが確認を行うように問い掛けると、ラシェンは「おそらく」と応じた。


「ブローアッド家の連中は深夜にこんな事件を仕掛けている。騎士シルヤの報告などでその狙いが彩破騎士団であることを宮廷側も認識するかもしれないが……かといって、城を手薄にするわけにもいかない」


 そこまで語ると、ラシェンは難しい顔をする。


「魔人の能力は、騎士団を圧倒する程のものである以上、近衛騎士団クラスでなければ太刀打ちできないかもしれない。とはいえ、彩破騎士団と合わせ討伐に向かわなければならない以上、銀霊騎士団に城の護衛を任せる可能性もある……というより、流れ的にそういう形に魔法院が持っていくだろう」

「僕らとブローアッド家を戦わせ……」

「そうだ。また、今回のことで中央騎士団の発言力が弱まるかもしれない。屋敷の護衛もできないのか、とな。それに代わり魔法院が働きかけて銀霊騎士団を騎士団の中心に推すような形に持っていこうとするだろう……どうあっても、今回の事件で魔法院側は得をしているということになるな」

「魔法院は、今回のことを機にさらに発言力を高めると」

「そういうことだ。これが奴らにとって予定の内なのかどうかはわからないが……ただ、言えることが一つある」


 ラシェンは僅かに間を置き、ユティス達を一瞥した後、述べた。


「いずれ、彩破騎士団と銀霊騎士団は対決する時が来るだろう。その時までに銀霊騎士団は宮廷の人間をできるだけ引き込もうとするはずだ」

「城の中にいない僕達では、それを止めることは難しいですね」

「だろうな。とはいえ手がないわけではない。というより、銀霊騎士団は必ずその実力を問われる日が来る。そのために彼らは準備していると考えることができるわけだが……そこで、奴らを倒せばいい」

「できるでしょうか?」

「できる状況に持ち込むか、そういう条件で勝負をする……これについては私の交渉次第だろう。上手くやるさ」


 ラシェンは微笑を浮かべつつ、ユティス達に語った。


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