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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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過去――彼女の力

 目的の魔物を討伐する二日前、いよいよ住処である山に踏み込む段階となって、ティアナは夜、眠る前にユティスに一つ相談を行った。それは、新たな技法に関すること。

 ここまでで数度魔物と戦い、成果を上げてはいる。だが、結局何一つ手掛かりすら得られないままここまで来た。


「そこまで焦る必要はない気もするけど……」


 相談したユティスはそうした返答。


「それに、付け焼き刃で変な力を習得したとしても身につかなければ意味はないし」

「そうなのですが……」


 自分が慌てているのは、もしかするとエゼンフィクス家の経済状況に関係しているのかもしれない。ここで何かしら成果ができれば、家の状況を改善するべく支援に乗り出すような人物が出てくるかもしれない――打算的で、なおかつ確率の低いことだとティアナ自身わかっていたが、それでも淡い期待を抱かずにはいられなかった。


「うーん……ティアナの得意なことってなんだっけ?」

「得意なこと、ですか? 例えば魔力の収束能力とかでしょうか」


 ティアナ自身他者と同じようなやり方でやっているとは思うのだが、刀身に魔力を注いだりする場合、その魔力の濃度が他者と比べ高いらしい。これはヨルクがティアナの能力を調査していた時判明したことであるのだが、かといってそれが特段技の威力に繋がったりはしていないらしく、落胆した記憶がある。


「へえ、魔力の濃度が……」

「ですが、何の役にも立たないというのが定説ですので……」

「ふむ、濃度か……」


 ユティスはティアナの言葉を無視し何か考え込んでいる。何か思う所があるのかと沈黙を守っていると、


「……物は試しだな」

「え?」

「ティアナ、夜だけどちょっと訓練しないか?」


 唐突な提案。収束能力に関して何か試したくなったようだが――


「で、ですが……」

「検証した時と比べて腕だって上がっているんだろ? 何か技のヒントになるかもしれないじゃないか」


 ユティスはティアナの手を引いた。途端に心臓が跳ね上がる。彼自身瞳の色は明らかに研究的な色に変化しており、そちらの興味の方に意識が向いているようだが――


「ユティス様、一応鎧を着させてください」

「え? あ、そうか」


 ユティスは手を離す。その時点で手を掴んだことに対しユティスは一言「ごめん」と呟いた。


 それから鎧を着たティアナはユティスと共に、野営地から多少離れた場所で対峙する。ただこのままやろうとすると魔力を察知されるため、ユティスが魔力を遮断する結界を生み出した上での実施。


「どんな感じか見せてもらえる? あ、ただし剣は使わないように。素の状態でどのくらい魔力収束ができるか確認したい」


 ユティスが言うので、指示されるがままにティアナは両手に魔力を集中。すると、両手の間に魔力が生じ、なおかつ青白く発光し始めた。


「おお……」


 ユティスは興味深そうに見つめる。ティアナはなんだか気恥ずかしさすら感じながらもそれを何気なく長剣のように棒状に伸ばす。すると収束を果たした魔力は青い光の剣となってティアナの右腕に宿った。


「なるほど……単純な魔力の塊とは思えないくらいの出力と濃さだな」

「……どうも」


 ティアナは礼を述べつつ自身が形作った剣を眺める。


 魔力を実際に利用する場合、生み出した魔力を疑似的に物質にする必要がある。『詠唱式』を始めとした魔法は魔力を物質に変えるために行動しているといっても良いものであり、これを成さなければ魔法とは呼べない。

 騎士達も魔力の収束方法を学ぶが、この場合は武器などに付加させることによって物質と同義となり、その力を活用することができる。ティアナの魔力収束もその範疇であるため、武器などと合わせなければ意味はないのだが――


「……ティアナの収束自体は他の人とは異なる何か違う性質が?」

「あの、ユティス様……?」


 研究モードとなっているユティスにティアナは声をかける。すると彼は我に返り、


「ああ、ごめん。えっと、それじゃあ」


 と、何やら考える素振りを見せた後、


「その魔力の塊、僕に当ててみて」

「……はい?」


 思わぬ言葉に、ティアナは間の抜けた声を上げた。


「こ、これをですか?」

「危険は無いだろ? というか普通、単なる魔力の塊をぶつけてもダメージはない。けど、ティアナの収束具合だったら、何かあるかも」


 ――もし何かあったとしたら、それはそれで問題があると思うのだが。


 ティアナも一度は拒否したのだが、再三ユティスが要求してくる上、体の表面に結界を張るからということで、結局承諾する形となってしまった。


「ほ、本当に大丈夫でしょうか……?」

「結界越しに人に当ててどうなるか探るだけだよ。物質化していないなら安全だ。ほら、やって」


 ユティスのさらなる要求。まあ魔術師で知識のある彼が言うのなら――というわけで、ティアナは内心ドキドキしつつ剣を構えた。

 一方のユティスはじっと魔力を湛えるティアナを見据えている。その視線についてもなんだか複雑な感情を抱き――ティアナは、横薙ぎを放った。


 結界に触れても、物質として形を成していないたねあっさりと素通りする。そのまま体に直撃したが、あまり反応はない。

 振り抜いた後、ティアナはなんとなく光を消した。静寂が周囲に生じ、ユティスとティアナは沈黙したまま対峙する。


「……えっと」


 ティアナは何か発した方がいいのかと沈黙し――ふいに、ユティスの体が傾いた。


「ユ、ユティス様!?」


 慌てて駆け寄ろうとするティアナに対し、ユティスはすぐさま足で踏ん張り手で制した。


「……魔力が抜けた感触がある」


 ユティスはそんなことを口にした。


「面白いよこれは……魔力濃度が相当に高いために起こる現象なんだと思う」

「は、はあ……?」

「つまり、魔力濃度が高いため物理的には作用しなくとも、魔力を打ち払う力があるわけだ。物質として生成されたものについてはほとんど効力がないけれど、人間の体の内にある魔力を多少ながら消し飛ばすことができるようだ……魔力の塊である魔物相手なら、これはさらに強力になるんじゃないか?」

「あ、あの。ユティス様?」


 ティアナに話すというより、自分の身に何が起こったのか検証するような声音。対応に困り再度名を告げようとした時、


「ティアナ、これは使えるよ。魔力の質を多少変えることができれば、相手の魔力だけを大きく削ぐような特殊な技ができる」

「は、はあ……」

「魔力は急速に失われると貧血が起きたように体に変調をきたす。安静にしていれば魔力が回復し元に戻るわけだけど……例えば魔物相手なら、あるいは――」

「あの、ユティス様」


 そこで再度ティアナは相手に呼び掛ける。すると彼は我に返り、


「あ、ごめん。一人で先走り過ぎたかな。つまり、僕が言いたいのは――」


 必死になってくれている彼に対し、ティアナは申し訳ない思いとなった。


 同時に、心の中で別の事を思う。こうやって目を向けてくれているにしても、いずれ自分は騎士を辞めなければならない時が来るだろう。それはエゼンフィクスの経済状況と関連していることであり――今更ながら、こうやって色々と世話になる資格はないのではと感じた。


「あの、ありがとうございます」


 礼を述べるティアナ。するとユティスは眉をひそめ、


「いや、別にお礼を言われる程では……」

「その、これ以上ご迷惑をおかけするわけにもいきませんし、私はいずれ――」

「いずれ?」


 聞き返したユティスに、ティアナは口をつぐんだ。まずい、余計なことまで言いそうになった。

 まだギリギリ大丈夫か――などと思ったか、ユティスの目は不審に満ち、何か勘付いた様子だった。


「いずれ……何かあるのか?」

「あ、いえ、その」

「いずれ騎士を辞める必要が出てくるとか?」


 ティアナは動かなくなる。表情は見えていないはずなのに、ユティスは納得した顔を示した。


「なるほど、聖騎士候補という重圧以外にも、そういう複雑な理由があると」

「その、ユティス様――」

「ティアナってさ」


 と、ユティスはクスリと笑う。


「嘘とか誤魔化すような演技って、下手だよね」


 笑顔を向けられたティアナは――急に、胸が熱くなった。


 理由はよくわからない。いや、どういうことなのかティアナにはわかっていたが、それを口にすることはできないと思ったので、無理矢理飲み込むことにした。


「……演技、下手ですか?」

「それはもう。鎧着ててもわかるくらい」

「そういうことは、教えられていませんからね」

「ふむ、そっか……で、その問題だけど」


 と、ユティスは続ける。


「そうだな、きっとエゼンフィクス家自体の問題なんだろうね。となると、商家である以上問題として考えられるのは……資金繰りが厳しいとか、そういった感じかな」


 ――さすがに核心部分を突かれては、ティアナとしては演技所ではなかった。


「あれ、当たったの?」


 彼自身勘だったのだろう。だから逆に驚いている。


「え、えっと……」


 誤魔化そうかと思ったが、頭の中がぐちゃぐちゃでどうにもならなかった。

 よって、言外に肯定する結果となる。ユティスはどこか納得した表情でティアナを見据え、


「経済状況が苦しいため、何かしら大人同士でやり取りがあるわけだ」

「あ、あの……」

「ティアナ自身がそれを望んでいる様子じゃないのはなんとなくわかる。とはいえ、僕自身それに関わってもどうしようもないというのもまた事実」


 ユティスは腕を組む。何やらティアナの問題に対して考え込んでいるのだが――さすがにティアナはいたたまれなくなり、自分は大丈夫だという言葉を投げかけようとしたが、


「けど、ティアナ自身理解できていないのかもしれないけど……聖騎士候補をそういう理由で失くすというのは、国家的にも損失が大きいんじゃないかな」

「そ、そうですか……?」


 首を傾げるティアナ。正直、自分にどの程度価値があるのかなんて考えたことも無かった。


「わかった」


 そしてユティスが言う――何をしようというのか。


「僕自身が家のことをどうにかすることはできないけど……できるだけのことはやっておくよ」

「そ、それは……?」

「僕以外の誰かに話しているわけではないんだろ? 確かに資金繰りとかの問題はあくまで家個人の責任だからね。けど、こうやって聖騎士候補として活動している君の存在を失くすのは惜しいだろうし、勝機はあるんじゃないかな」


 勝手に話を進められており、ティアナとしては首を振ろうか迷った。けれどユティスは態度を変える気が無いらしく、この話は結局ユティスが主張して終わりとなってしまった。

 ティアナとしては何が起こるのか不安で仕方がないのだが――ともかく、これ以上この話題を続けるわけにもいかないと悟ったティアナは、無理矢理話を変えた。


「そ、それはそうと……ユティス様はどうなんですか?」

「ん? 僕?」

「ユティス様は事情が違うと思いますけど……私のように、何か技とか魔法を開発したりとかは?」

「僕が持つ『精霊式』の魔法はまだ完全に把握したわけではないから、そっちを調べるのが優先かな……けど、一応現時点での大技とかはあるけど」

「へえ、どんなものですか?」

「といっても、別に複雑なことをしているわけじゃないよ。単に破邪の力を右腕に結集させ槍状にして、矢のように放つってだけ」


 ――ティアナとしては少し興味が湧いた。というより、魔術師の彼がどれほどの力を有しているのか気になった、とでもいえばいいだろうか。


「ちょっとだけ、見せてもらってもよろしいですか?」


 ティアナが乞う。するとユティスは少しばかり複雑な顔をした後、


「……わかった」


 承諾し、ユティスは魔力を集中させる――その力は、ティアナを少なからず驚かせるものだった――


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