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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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残された言葉

 ユティスが驚愕し叫んだと同時、それは相手も同じだったか、アージェは首を向け驚いた表情を見せる。次いで襲撃者の攻撃が来たため、慌てて表情を戻し回避する。


 襲撃者は前へと足を踏み込んだ。明らかに仕留めようとする動き。ユティスは指示を出そうとし、それよりも早くリザが先んじて動いた。

 対する襲撃者は右手をかざし、魔力を発する。生じたのは風。風の刃が騎士の体を抉り、吹き飛ばし壁に叩きつけた。


 アージェはそこで反撃しようとして――だが一歩早くリザが到達した。彼女は拳を放ち、一方の襲撃者は長剣で防ごうとした。しかしリザの踏みこみは想定以上に早く、剣で防御するよりも早く拳が相手の胸部に到達した。

 襲撃者の体が吹き飛ぶ。威力は相当あったらしく、地面に激突してもなお数度バウンドし――ユティス達からずいぶんと離れた廊下の隅で、止まった。気絶したのか、ピクリともしない。


 ユティスはすぐさま吹き飛ばされた騎士に駆け寄る。すると相手は立ち上がろうとしながら口を開く。


「私の事は気にしなくていい……アージェさん、あなたは彼らと共に。私は他の場所の様子を見てくる」

「わかりました」


 アージェが返事をすると騎士は立ち去る。その後、ユティスは改めて彼女に視線を送った。


「大丈夫か?」

「平気……そっちはどうしたの? ティアナさんに用? だとしたらこんな状況で来るなんてとんだ災難ね」

「ラシェン公爵の屋敷が似たような輩に襲撃され、こっちもそうなんじゃないかと思って駆けつけたんだよ」

「なるほどね」

「それより、何でアージェがここに?」


 改めて姿を見る。ユティスにとって彼女は普段ローブ姿。そのためか騎士服に相当違和感がある。

 よくよく見ると、彼女の着るものには見覚えがあった。宮廷魔術師――それも、近接戦闘を行う人員が身に着ける、特殊な繊維でできた物だ。


「スランゼルでの一件を解決した後……ユティスがネイレスファルトに行ったタイミングでお達しがあったの」


 アージェはリザやアシラを見つつ、ユティスに話す。


「曰く、あの戦いで君の能力はしかとわかった……城から宮廷魔術師に加入しないかというお誘いが来ていると」

「それは……」

「普段の私なら一も二もなく断るんだけどね。けど、相手が私の所属する研究室に関することをチラつけせた以上、断れなかったわけ」

「つまり、脅されたと」


 ユティスの言葉にアージェは肩をすくめる。


「直接そういう言及はされていないけどね……ま、私がこうやって動いていることで研究室は何事もないようだし、従うしかないんだけど」


 ――ここで、ユティスは一考する。この屋敷には、勇者オックスなどラシェン経由で知り合った人物や、騎士ロランといった騒動で関わることになった騎士や魔術師――しかも、知り合いが多い。

 これは決して偶然ではないだろう。ティアナの護衛に選ばれた人物というのは、彼女とも関わりのあった人物を選定したとも見ることができるが――


「アージェさん、屋敷の構造とかはわかるかしら?」


 リザが問う。それにアージェは「もちろん」と答えつつも、質問を行う。


「確認だけど、ネイレスファルトで彩破騎士団に加わった人?」

「ええ。リザ=オベウスよ。こっちはアシラ=ウェルベ」

「どうも」

「そう。えっと、屋敷内は案内できるけど……どこに行く?」

「ティアナの部屋……いや、彼女の行動を予測すると、ご両親の部屋か」

「安否をまず確認するってことね。なら、ついてきて!」


 アージェが走り出す。ユティス達はその後を追い、階段を上る。

 踊り場に差し掛かった瞬間、轟音が。どうやら廊下で一戦交えている人間がいるようだ。


 それが誰なのか――ユティスが確認した時、騎士シルヤであったため嫌な予感がした。


「あれって、ティアナさんの護衛をしていた――」


 リザが呟いた瞬間、彼女の刀身から雷光が発せられる。ユティスはシルヤの『雷光』という異名を思い出すと同時に、それを駆使しても苦戦する相手なのだと理解する。

 気配を探る。全力で戦闘しているためかユティスでも理解できた――間違いなく、魔人だ。


 黒装束の襲撃者は見た目に変化はない。だが、発せられる魔力は明らかに常人を逸している。


「なんか、ヤバイ奴じゃない?」


 さすがのアージェも呻く――ここで、ユティスは判断する。


「アシラ……先行してくれ」

「わかりました」


 命を受け、アシラは走る。一歩遅れて、アージェを含めた全員も動き出した。

 瞬間、シルヤの雷撃に対抗し魔人の腕から光が発せられた。離れた場所でも熱さを感じたため、それが光熱波であることがユティスにも理解できる。


 アシラが迫る。シルヤは気配で察したか何か声を出そうとしたようだが、魔人が先に襲い掛かり中断せざるを得なくなる。

 雷光が迸る。対する魔人は熱波でそれを相殺し――アシラが、仕掛けた。


 シルヤの横を抜け、最短距離で魔人へと迫る。同時に放った剣戟には相当な魔力が乗っているはずだが、シルヤ達の攻防に隠れてユティスにはあまり感じられない。

 魔人は即座にアシラを迎撃するべく動く――持っている剣が発光し、アシラの剣を砕く勢いで一閃する。


 だが――アシラはそれを弾き返すと同時に反撃を決めた。一瞬の攻防。魔人であっても知覚できない、言わば剣術の最高領域のやり取り――剣の技量で下回る魔人には対応できず、気付けば体に縦に一撃入っていた。

 魔人が呻く。そこへ間髪入れずユティスが銃を撃った。風の弾丸が相手の頭部に直撃し、体が大きく傾いた。


 そこへ、シルヤが雷光の一撃を加える。それは綺麗に魔人の体を薙ぎ、とうとう襲撃者は倒れ伏した。


 そして、塵と化す――シルヤはそこでユティスに首を向け、


「すまない、助かった」

「ティアナは?」

「部屋にいる。騎士ニデルがいたのだが――」


 ニデルということは、やはりブローアッド家の関連。魔人がいることを踏まえれば、間違いなくマグシュラント王国の一件だろう。

 即座にシルヤは走り出す。ユティス達は彼女の背についていき、目的の一室に。


 そこに――ティアナの姿はなかった。


「くそっ……!」


 悪態をつくシルヤに対し、ユティスは壁に注目する。テラス横の壁に、文字が描かれていた。


『魔術師――彼女を助けたたくば我が主の城へ来るといい』


 そう書かれていた。ここでユティスは助けられなかったことに対し後悔した後――文面に違和感を覚えた。


「魔術師……? 騎士団、とかじゃないのか?」


 その言葉が引っ掛かった。シルヤを始めとした人間に書いたものではないと、魔術師という単語で匂わせている。


「もしかして……僕らがここに来ることを予測していたのか?」

「そうであったとしたら、公爵への襲撃はここにおびき寄せるための行動だったのかもしれないわね」


 リザが言う。彼女は破壊されたテラスに慎重に近寄り、外を確認する。


「下ではまだ交戦中ね。テラスから出て屋根にでも逃げたのかしら」

「リザ、上の方に気配はあるか?」

「ないわね。既に屋敷を脱したのかも」

「わかった……とにかく、ニデルの後を――」


 そこまで語った所で、ユティスは文面に対しさらに疑問を抱く。


「ちょっと待て、城? ブローアッド家は、領地に屋敷は所有していても、城なんて持っていなかったはずだ」

「――いや、一つだけある」


 シルヤが発言。全員、彼女に注目する。


「以前、隣国との戦争のために使っていた軍事拠点……その砦をブローアッド家が買い取り、管理していたはずだ」

「そこに、僕らを誘うためにこんな文面を?」

「魔術師という文言……さらに、迎え撃つ構え。おそらくそうなのだろう。狙いは彩破騎士団……何か、心当たりはあるか?」

「……ネイレスファルトで、彼らの一派と接触した。先ほどのような強力な存在と戦い、倒した」

「それの報復、ということなのかもしれないな」

「報復、ねえ」


 リザが言う。再度壁に書かれた文言を目でなぞり、


「私達が倒した人っていうのは、相当重役だったのかしら」

「……学院の資料を奪うなんてやろうとした人間だ。そもそも学院に入り込むこと自体一定の知識や能力が必要なはず。そう考えると、こうした作戦を行う人間に近しい人だったのかもしれない」


 そう告げると、ユティスは考え込む。


「あの時は、ああするしかなかったとはいえ……結果的にロゼルストを巻き込んでしまったか」

「私としては、どう動こうともこういう形になっていたと思うが」


 シルヤが言う。廊下を見回し、ユティス達を手招きする。


「魔法院が動いている以上、どうやったとしても私達はこうやって戦っていたさ……ともかく、まずは屋敷内にいる襲撃者の撃退だ。砦の案内はするが、まずは態勢を立て直さなければどうにもならない」

「わかりました……リザ、アシラ。時間もあまりなさそうだ。いけるか?」

「はい」

「もちろん」


 二人が応じた直後、どこからか爆音。それに次いで、何やら叫び声が聞こえた。

 いや、それは言ってみれば豪快な笑い声のような、雄叫びのような――なんとなく聞き覚えがあったので、ユティスは名を口にした。


「もしかして……ジシス?」

「そんな気がするわ。公爵の屋敷の敵を倒したからこっちに来たんじゃない?」


 リザは同意し、ユティスに声を発する。


「合流して、敵を倒しましょう」

「そうだな……騎士シルヤ」

「ああ、わかった。状況の確認もある。一度入口に戻るぞ」


 言葉と同時に動き出す。夜は一層深くなっていくが、戦いは一向に終わりそうにはなかった。


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