表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
192/411

襲撃者の能力

 ユティスはロランの声を耳にしながら、迫ろうとする二人を見据える。同時、左右からアシラとリザが前に出た。リザが右。アシラが左。


「――騎士さんとしてはやりにくい相手でしょうねぇ」


 そんなことをリザは述べると同時に、襲撃者が放とうとした長剣の腹を彼女は弾いた。斬撃の軌道を見切らなければ決してできない芸当。それと共に、彼女は懐に飛び込むべく足を踏み込む。

 その移動は、まるで石畳の地面を割ってでも踏み抜くという勢いが込められていた。ユティスはそれを初戦であるため発破をかける意味合いがあったのだと推測。同時に放たれた彼女の掌底を襲撃者はまともに受け、吹き飛んだ。


 まるで彼だけ重力が存在していないかのように後方へ飛び、屋敷の壁面に激突。動かなくなった。


 そしてアシラは――襲撃者が攻撃する間もなく、抜き放った長剣で斬り伏せた。出血はしておらず、指示通り捕らえるべく動いている。それはつまり、力量の差があり余裕があるということだ。


「さあ、どうするのかしら?」


 リザが悠然と呟く。同時、兵士に片膝をつかせた襲撃者と、庭園から玄関へと移動してきた襲撃者が左右二人ずつ、襲い掛かって来た。


「数が結構多いな……」


 ユティスは感想を述べつつ銃を構えようとした。だがそれをリザとアシラは同時に制すと、左右に足を踏み出した。

 襲い掛かる襲撃者。だがユティスの目にもわかる――魔具で武装してはいるが、本質的にはそれほど力を所持しているわけではない。


 先行して交戦を開始したのはアシラ。連なって仕掛けてくる襲撃者に対し、彼はまず一人目の相手に剣戟を見舞う。

 襲撃者はそれを受けようとする。おそらく一人目が剣を押し留め二人目が横から――そういう意図をユティスも察したが、どうなるかおおよその予測がついた。


 剣が激突する。直後、襲撃者は大きくたじろいだ。


 二人目はそれでも横手に回ろうとする。だが次の瞬間アシラは剣を振るう。襲撃者が彼の剣を押し留められたのはほんの一瞬。斬撃により吹き飛び、回り込もうとした襲撃者の動きも止まる。

 アシラはそこを見逃さなかった。間合いを詰め、襲撃者が次の行動に移るよりも早く斬撃を縦に叩き込んだ。それによって、二人目も倒れ伏す。


 ユティスは右を見る。リザが同時に攻撃を仕掛けてきた襲撃者の一人を蹴りで吹き飛ばしている所だった。

 残り一人の襲撃者は剣を振るうが、その動作よりも一歩早くリザが体勢を立て直し回避する。襲撃者は追撃を行うが、リザはそれもあっさりと避け反撃。拳が胸部に直撃し、相手は倒れ伏した。


 これで向かってくる敵は――考える間に形勢を逆転したロランが襲撃者を打ち倒す。次いで他の騎士達も反撃し、玄関先を完全に制圧することに成功した。


「騎士ロラン」


 ユティスはすぐさま名を呼び駆け寄る。すると相手は「すまない」と応じ、


「助かった……屋敷の中に部隊の多くが進入した直後、これだ。相手の企みにより分散してしまい、連携ができず苦戦した」

「現在、他の方々は……」

「屋敷の中で発している音は彼らのものだろう……しかし」


 ロランを周囲を見やる。兵や騎士が倒れている状況もそうだが、何より倒れる襲撃者の数も多い。

 ユティスとしては襲撃といっても、そう数は多くないと思っていた。仮にブローアッド家の仕業であっても私兵として用意できる人数には限界があるはず。だからこそ手引きにより屋敷に潜入し分断を図る。そういう作戦を立てていると思った。


 だが実際は――屋敷の護衛の人数は不明だが、物量的に対応できる数なのではないか。


「どこの手勢かは知らないが……よくぞここまで人を集めたという感じだな」


 ロランが呟く。ユティスは小さく頷きつつ、彼に言及。


「気になりますが、話は後にしましょう。まずは屋敷内の制圧を」

「ああ、そうだな」


 ロランは同意し残った兵や騎士に指示を出す。それを見ながらユティスは、どう動きべきかを思案する。


(騎士ロラン達の指示で動くのもありだが……いや、優先事項を考えれば、僕らは僕らで行動した方がいいか)


 最優先はティアナや彼女の両親の安否。そこでリザとアシラと視線を合わせる。両者は共に先へ進む意志を明確に宿した視線で応じたため、ユティスは指示を出す。


「では、このまま――」


 告げようとした矢先、玄関扉の開く音が聞こえた。見れば、長剣を握る黒装束の襲撃者が一人。屋敷のどこからか玄関周辺の状況を見て来たのだろうか。


「一人か」


 ロランはすぐさま迎撃するよう指示を出す。残った兵や騎士達は動き出そうとしたが――


「待って」


 リザが声を出した。それに、ロランは反応。


「どうした?」

「ユティスさん、あいつはまずいわ」

「……気配は、さっきの襲撃者とは大きく違うな」


 ユティスはリザの言葉に賛同するように声を上げ――同時、

 襲撃者は突如魔力を噴出させる。先ほどまで交戦していた相手と比べると、段違いの出力。これには周辺にいた騎士達もたじろいだ。


「魔人、ですね」


 アシラが言う。その言葉通り襲撃者の容姿が変化していく。黒装束に身を包んでいるためどの程度変化しているのかは見た目でわかりにくい。だが、見えている手先には、赤黒い体毛のようなものが生え始め、全身をさらに血のような赤で染め上げようとしていた。


「なるほど、見た目は同じでもこういう奴が混ざっているというわけね」


 リザは納得したのか、声を上げる。


「襲撃者の格好は同じ……魔具などについては細かい差異はあるけれど、一番の本命は、魔人といったところね」

「こい、つは……?」


 ロランが呆然と呟く。それにユティスは答えないまま、


「アシラ、リザ」

「はい」

「ええ」


 二人はユティスの前に出て、隣同士で構える。今までの相手とは違う。ここは三人で応じる必要がある――そうユティスが思った直後、魔人は両腕を振った。

 刹那、その両腕が突如燃え上がる。袖が消失し、その奥に存在していた両腕は、手先と同様赤い体毛で覆われている。だが炎を生み出しても決して燃えず――炎はやがて、魔人が握る剣すらも飲み込み、炎の化身と化す。


「……確かに、ネイレスファルトで見た魔人のような存在。けど、能力が炎なら対処は難しくないでしょう」


 リザがコメント。それにユティスは内心同意しつつも、静かに魔力を銃に込め――魔人が、駆けた。

 速い――が、リザとアシラは完全に対応した。アシラが正面で応じるよう動き、対するリザは右に回り込む。魔人はリザの動きに反応せず、ユティスを狙うつもりか正面からアシラに攻撃を行う。


 対するアシラは足を前に踏み出し――魔力を乗せた剣戟を放った。両者の剣がぶつかり合う。炎が噴出し、それでもアシラは平然と受ける。

 剣同士が激突し一瞬硬直したが――すぐさまアシラの一撃が魔人を僅かにたじろがせた。そこへリザが背後に回り蹴りを放つ。魔人はそれを回避しようと動いた――が、アシラが放った追撃の斬撃が動きを押し留めることに成功する。


 リザの蹴りとアシラの剣が魔人の剣と再衝突するのはまったくの同時。意図した連携ではないが、騎士達から見れば息の合った動きにも思えるだろう――ユティスは勝機だと悟り、走った。そしてアシラ達の攻撃を受け衝撃により動きを止めた魔人に対し、銃を構え発砲する。


 炸裂音と共に放たれた風の弾丸は魔人の頭部を狙う――射撃訓練を受けたわけでもないユティスは何もしなければ弾丸を当てることは難しい。だが、相手の魔力を感知しそこへ向かうようにすれば――それは誘導弾というレベルではなかったが、ユティスが狙った通りの場所へ放つことはできた。


 風の弾丸が直撃する。体を損傷させたわけではないが、完全に動きを止めることには成功。刹那、アシラがここぞとばかりに剣を掲げる。振り下ろしだとユティスが認識すると同時に、今までで感じたことのない魔力を感じ取った。


 例えばジシスならばその見た目にそぐわない豪快な魔力を見せるのだが、アシラは違う。底の見えない、恐ろしく深い静かな魔力。

 アシラの斬撃。魔人はそれをまともに受け――斬った先から、黒い砂へと変じた。


「――強い、けれど」


 それを見ながらリザは述べる。


「ネイレスファルトで遭遇した魔人と比べれば、数段劣るわね」

「……みたいだな」


 能力の差異もあるが、ネイレスファルトで戦った相手と比べれば耐久性がない――もっとも、前の敵が異常であり、これが魔人としては普通の実力なのかもしれない。


「能力的には第二領域から第三領域の間くらいかな」

「これならアシラだけじゃなくて私でもなんとかなりそうね……屋敷に入る?」

「ああ、とはいえ構造がわからない以上案内役が欲しい所だけど……」


 ユティスが言葉を発したと同時、庭先があると思しき方向から喚声が上がった。ユティスは一瞬そちらが気になったが――


「……進もう。騎士ロラン。屋敷の内情を知っている人は……」

「この場にはいない。悪いな」


 彼は応じつつ、アシラやリザを一瞥する。魔人を易々と倒せる技量を見て、何か感じたのだろうか。驚きか、あるいは――


「退路は確保するように動く。先ほどの交戦は半ば奇襲同前だった。次は同じようなことにはさせないさ」

「わかりました……行こう」


 ユティスは指示し、アシラを先頭に屋敷の中へ。エントランス周辺に人はいない。道は左右に伸びており、ユティスは廊下をそれぞれ一瞥し、魔力のある左側を示す。


「こっちだ」


 足を踏み出す。少しすると、戦闘音が聞こえた。すぐさま歩む速度を上げ、音が聞こえる場所まで到達する。

 そこで目にしたのは、騎士ともう一人――


「っ!?」


 ユティスは思わず目を見開いた。騎士は見たこともない人物だったが、もう一人、藍色の騎士服を着た金髪の女性は――


「アージェ!?」


 学院の友人であるアージェ――思わぬ人物だったため声を上げてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ