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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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屋敷突入

 ラシェンの屋敷を出る際、当然ながら交戦が発生した。だが屋敷に存在するラシェンの私兵の連携により、それほど労せず突破することに成功。ユティス、アシラ、リザの三人はティアナの屋敷へ移動を開始する。


「公爵の私兵、練度相当高いわね」


 抜けた直後リザが感想を述べる。後方から敵が追って来るかもしれないと警戒したのだが、兵達が足止めしているのか、まったく来ない。

 後方を気にしつつ、ユティスは進む――馬車は御者を屋敷から連れ出すことが困難であったため、徒歩移動を余儀なくされた。とはいえリザとアシラは身体強化により速度を上げられるし、ユティスも風の魔法を利用して移動ができるためそれほど時間が掛からずに目的地に到達できそうだった。


(こういう技術も、以前訓練していたみたいだな)


 ユティスは改めて思いながら魔法を行使する。まだまだ『精霊式』を用いた技術は眠っている――そう考えつつ、リザの言葉に返答する。


「敵の能力を考えると、ジシス達がいなくとも大丈夫かもしれない。さらに屋敷自体も補強してあるし……撃退できると思う」

「ティアナさんの屋敷はどうなっているかしらね?」

「……仮に、ラシェン公爵が語った通り敵と内通する者……この場合、内通というよりそもそもマグシュラント側の人間だと解釈した方がいいか。ともかく、手引きする人間がいたとしたら、まずいことになっている可能性が高い」

「騎士の人が、ラシェン公爵の私兵より弱いとは思えませんけど」


 アシラが言う。ユティスはそれに同意の意を示し頷いたが、


「騎士や兵士は、公爵の屋敷で守っている人たちのように一枚岩であれば相当な強さを誇る。そもそも騎士団や兵士は集団で戦うことを前提に編成されているからね。もちろん個の強さも必要だけれど、やっぱりメインは集団戦だ」

「と、いうことは?」

「敵はブローアッド家である以上、そうした事実はしかと理解できているはずだ。つまり、敵が先んじて行うことは、騎士や兵士達の連携分断。中に裏切者がいるとわかれば騎士達は疑心暗鬼に陥るはずだ。となれば混乱するのは必定で、後は各個撃破すればいい。誰が敵かもわからない状況で孤立したなら、騎士達も長くは耐えられないと思う」

「集団ならば強いですが、バラバラにされるとどうにもならないと」

「うん。襲撃側はそれを前提として、個の力を高めた面々が出てくるだろう。となれば、勝負は見えている」


 とはいえ、騎士シルヤなどもいる。場合によっては個の力で押し返すことも――そうユティスは思ったが、裏切者がいるとすればそれについても想定済みのはず。となれば、対策を立てている可能性は高いか――


 そこで一つ、疑問が湧いた。


(ブローアッド家は確かに王家の血筋で力もある。けど、騎士が護衛する場所に襲撃をかけるような戦力が、すぐ用意できるのか?)


 ましてやシルヤなどに対抗できるとなると――その時、馬の蹄の音が聞こえた。


「……城からのようね」


 リザが言う。言葉通り音は城のある方向から発せられている。静かな夜の都でその音はずいぶんと響き、ユティスにもどういった面々なのか予測できる。


「増援というわけだ……この調子でいくと僕らは騎士より遅れて到着することになりそうだな」


 語る間にユティス達は進み続ける。周囲に敵がいないかを都度確認しているのだが、追ってくる様子もなく、障害なくティアナの屋敷へ向かうことができている。

 やがて馬の音が止んだ――そこから完全に音が消えたため、ティアナの屋敷周辺については音を遮断する結界でも張られているのだろうと推測することができた。


「今の内に作戦を決めておく?」


 そこでまたリザが発言。ユティスは即座に頷き、


「そうだな……とはいっても、まずはティアナの確保だと思うけど」

「彼女と、その両親辺りが護衛対象かしらね? ちなみに、兄弟は?」

「いないという話をラシェン公爵から聞いている……三人さえ守れば敵の目論見は潰えたと考えてもいいと思う。ああ、できれば敵は倒さずに捕らえた方がいいか」

「そんな余裕、あるかしらね?」

「……アシラ」


 リザの言葉に対し、ユティスは名を呼ぶ。


「相手の魔力の多寡なんかを、判別することはできそう?」

「わかりませんが……先ほど屋敷で遭遇した相手は感じられました」

「リザは?」

「私も一緒」

「僕もあのくらいだったらどうにかわかったけど……騎士達が手に負えないレベルだとすれば、公爵の屋敷を襲撃した面々よりティアナの屋敷の方にいる敵の方が強い可能性が高い。判断できれば僕の言ったように対処してもいいけど、難しければ切り捨てるのもやむなしか」

「敵は、ネイレスファルトで遭遇した変な奴だと思う?」


 リザの質問――オズエルが魔人と評した相手のことを言っているのだろう。

「あの強さの存在がいたなら、もう勝負がついていてもおかしくないな」

「ロゼルストの騎士では対応できないと」

「……フォローしておくけど、騎士が弱いわけじゃない。あれくらいの強さを持った相手は闘技大会の上位入賞者を呼んでも対処が難しいと思うんだけど」

「確かに、あの時は遠距離能力メインの魔術師が多かったからどうにかなったんでしょうし」

「――あの」


 ここで、今度はアシラが声を上げた。


「今回の敵は、ネイレスファルトで遭遇した能力を持っていると思いますか?」

「……仮に腐蝕能力なら、相当ヤバそうよね」


 リザの言葉。ユティスは内心彼女の言葉に賛同しつつ、アシラに応じる。


「可能性はあるけど、あの敵と戦って感じたのは、ああした魔人が持っている固有の能力というよりは、あの魔術師の魔力に合わせ生み出された技能という感じだった。その考えが正しければ、何か力は持っていたとしても腐蝕能力である可能性は低いと思う」

「単に炎とか氷とかを操るんなら、対処のしようもあるわね」

「確かに」


 リザの言及にユティスが同意――したところで、いよいよ屋敷に近くなってきた。


「屋敷に入ったら、まず単独行動はしないこと」


 ユティスは最後の確認としてアシラ達へ告げる。


「屋敷の中は、できれば構造を把握している騎士と遭えればいいけど……もし見つからなければ歩き回ることになる。覚悟するように」

「ユティスさん、体は大丈夫なの?」

「そう心配してもらわなくても平気だよ……少なくとも夜の間は」


 リザの問いにユティスは苦笑を伴い答え――とうとう、屋敷の前に到着した。


 まず目の前に見えたのは、正門付近に存在する騎士と交戦する黒装束の襲撃者。人数は動き回っているため捕捉しづらいが、少なくとも五人以上は存在している。

 そして入口周辺には騎乗したまま戦う騎士や、倒れる馬。さらに負傷した兵などが倒れていたりと混迷を極めているが――確実に言えるのは、騎士側が劣勢ということだった。


 なおかつそうした一連の光景について音が全く聞こえない。ティアナの屋敷の敷地を囲むようにして結界が形成されているらしく、敷地の外に背を向ける多くの騎士や兵士はユティス達の出現に一切気付いていない様子だった。


「完全に結界で隔離されているな……」

「音だけでしょう? 先行した騎士が入り込んでいる以上、私達だって入れるわよ」


 リザの言葉にユティスは頷き――ふと、見知った顔を発見した。


「騎士ロラン……」


 襲撃者と切り結ぶ一人に、遺跡調査などでも同行したロランの姿があった。彼は敵をいなし弾き返してはいるが、周囲を気に掛ける必要があるためか思うように撃退できていない様子。

 その中で、襲撃者達はユティス達を察しているのか時折視線を感じた。だが仕掛けてはこない。結界の外で暴れれば音が漏れるためだろう。


(ここまでやる以上、音を気にするなんておかしな話だけど……いや、さすがに大きな音を立て都全体が混乱すれば、襲撃者も面倒だと思っているのかな)


 ともかく動かなければならない――ユティスは決断し、アシラ達に指示を出す。


「まず、玄関周辺にいる襲撃者から倒そう。いいね?」

「わかりました」

「私も同意。で、誰がその辺りを担当する?」

「僕がサポートするから、二人は思うがままやってくれればいいよ」


 ユティスは答えながら異能を発動――『創生』によって、瞬時に拳銃を生み出した。


「僕を狙ってくる敵がいても、こいつと『精霊式』の魔法でどうにかなる」

「……ま、危なかったらフォローするわ。その辺りは魔力の多寡でわかるでしょ」


 リザが言う――確かに音を遮断している結界だが、魔力については玄関周辺だけは多少ながら感じ取れた。結界がフィルターになっているのは間違いないが、少なくともネイレスファルトで戦ったジェドや魔人のような強い魔力は感じられない。


「自分の身は自分で守るさ……ま、その判断は二人に任せる。できる?」

「当然」


 リザが答えると同時に、ユティスは足を前に踏み出した。


「行くよ――攻撃開始だ!」


 言葉と同時にユティスを先頭にして結界を――抜けた。


 同時に屋敷全体から戦闘音が聞こえる。玄関を周辺とした場所から庭園が広がるであろう左右。さらに屋敷の中にまで――混沌とした戦場であることが窺える。

 だが、音が聞こえているということはまだ戦闘中であり制圧されたわけではない――ユティスは理解と共に、真っ直ぐ玄関口へと歩もうとした。


 そこへ、阻もうとする黒ずくめの襲撃者が二人。ユティス達の行動を予想していたのか、他の騎士達を食い止めており、襲撃者側は連携がとれている様子だった。


「――ユティス君!?」


 ロランの声が聞こえた。この場で戦う騎士達も、ここに至りようやくユティス達の存在に気付いた。


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