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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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屋敷内の脅威

「貴様……何のつもりだ?」


 剣の切っ先をニデルへ向け、シルヤが問う。すると彼は笑みを浮かべ、


「何のつもり、とは?」

「お前がここにいる以上、この襲撃はブローアッド家の仕業。そうだな?」

「否定できる要素はありませんね」


 あっさりと認めるような発言をするニデル――ティアナ自身、異常な光景だと思う。襲撃者が何者であるか黒装束ばかりで当然わからなかった。事後検証をしたならばどういった人間の仕業なのか推測できた可能性もあったが――そんな事が全て吹き飛んでしまった。

 目の前の人物がいる以上、誰が主犯者なのか判断することは容易。そしてそれは、ニデルの主君である人物にとっては致命的ではないのか。


「こうやって私がこの場に姿を現したのには、いくつか理由があります」


 ニデルはあくまで至極冷静に語る。それがどうにも不気味で仕方がない。


「ともあれ、一番の疑問はやはりなぜ私がこうやって姿を現しているのかでしょうね。その疑問についてお答えしたいのは山々ですが、現時点で語れるのは一点だけです」

「何……?」

「即ち、最早隠す必要がないということ」


 ――ティアナとしては意味不明だった。隠す必要がない。それは今回の件がブローアッド家の仕業だと公にしていいという話なのか。

 王家の汚点などと言われてしまう家柄だが、それでも王家の血筋であることには変わりがなく、少なからず王の威光によって守られていた。しかし今回の件は擁護しようがない程の失態のはずであり、家自体が取り潰しになってもおかしくない――


「詳しくは、貴様を捕らえて訊けばいいのだろうな」


 シルヤが言う。それにニデルは笑みを浮かべ、


「そういうことですね……さて、ティアナ様。私がこうして顔を見せここに待ち構えていたのに理由があります」


 その言葉と共に――ニデルはティアナに対し慇懃な礼を示した。


「お迎えに、あがりました」

「え……?」

「今すぐで大変恐縮ですが、私と共に主の下へとお願いできないでしょうか」

「お願い、などと悠長な感じではないな」


 言及に対しオックスが意見する。


「ティアナさんのご両親が不在ってことは、実質人質ということだろう?」

「さすがに私達はそこまで野暮なことはしませんよ。もし下手に殺してしまえば、逆にティアナ様に反抗される可能性もある」

「今はまだ手を出していないってだけの話じゃないのか?」

「そうとも言えますが……ティアナ様。私が顔を出したのには、貴女様にどういった存在がこの屋敷を襲撃したのかを明確にさせるためです。非常に強引で心苦しく思いますが、我が主君……つまりブローアッド家の所に来てほしいのです」

「なぜ……このようなことを?」


 ティアナはニデルに問い掛ける。エゼンフィクス家とブローアッド家はそれなりに関わりがある。よって、こんな襲撃をしなくとも一声でティアナはブローアッド家の屋敷に馳せ参じたはずだ――


「本来は、正式な通達であなた様を呼ぶべきだったでしょう。しかし、それを許さない勢力が出てきた」

「私達や、彩破騎士団のことか?」


 シルヤが質問すると、ニデルはすぐさま頷いた。


「ブローアッド家のよからぬ噂により、あなた方は私達とティアナ様の接触を避けようとするでしょう……もちろん襲撃を行ったのはそれ以外の理由もあります。とはいえその主要な理由はティアナ様に対するものです」

「なぜ……こんなことまでして、私を――」

「それは今説明差し上げることはできません。主の所へ行く間に話しましょう」


 たったそれだけしか語らない。ティアナにとっては、こんな無茶なことをしてまで同行させたいという理由が一切わからない。

 とはいえ、良いことにはならないだろう。彼の誘いに乗って自分の身がどうなるのか――


「さすがに、私がいる内はそんな馬鹿な真似はさせない」


 シルヤが言う。同時にオックスも飛び掛かれるように前傾姿勢となる。


「お前達がどういった行動をするのかわからないが……害悪であることは確かである以上、ここで止めさせてもらう」

「できるものなら」


 悠然と語るニデルの表情からは、とてもシルヤを相手にしているとは思えない――騎士団に所属している以上、彼はシルヤの実力を知っているはず。さらに勇者オックスの姿もある。だが彼は余裕の表情を見せており、それはなぜなのか――


 ティアナがなおも不安を覚える中、戦いが始まる。先んじてシルヤが踏み込み、雷撃を共に全力の一撃をニデルへ放った。

 彼女の行動は自然体のニデルに行動させる隙を与えなかった。さらに後続からオックスが走る――盤石の状況と見てもよかった。


 だが、ニデルはそれにも動じた様子がない――そればかりか腰の剣を抜かないまま応じようとする。

 何を――ティアナが感じた矢先、ニデルが右腕で防御した。縦に薙がれたシルヤの剣戟がその腕に触れ――止まる。


「な……!?」


 シルヤが驚愕の声を放つ。


 雷光を携えた彼女の剣は、鉄製の剣ですら紙のように両断する。結界を用いているのは間違いないとはいえ、止まるということは彼女の全力を易々と止めたことも意味している。ここから考えられるのは――


「言っておきますが、私を他の者達と同じにしないで頂きたい」


 右腕――そこから突如魔力を感じた。常人のそれとは明らかに異なる気配を放つ。

 直後、オックスが横から割って入る。刺突を右腰に向かって放ったのだが、ニデルは避けようともしなかった。


 剣が入る。だが、体に僅かに食い込んだ後動かなくなった。


「……やれやれ」


 面倒そうにニデルは呟くと、腕を動かしシルヤの剣を弾いた。力が相当あったのか彼女は一歩後退。その隙に彼は狙いをオックスへと定めた。


 オックスはすかさず防御に入る。ニデルはなおも剣に手を伸ばさないまま、間合いを詰め掌底を放った。

 剣の腹でオックスはそれを受ける。おそらく受け流し反撃に転じる――そのつもりだったのだろうとティアナは予想できた。


 けれど、それは叶わなかった。なぜか――オックスは掌底の衝撃により、体を大きく浮かせたからだ。

 一瞬で彼の体は背後にあった壁に叩きつけられる。ダメージはほとんどないだろう。しかし、いくらか衝撃が抜けたか体勢を整えるまでに時間を要する。


 その間にニデルはシルヤに迫る。彼女は再度雷光を刀身に生じさせ、迎え撃つ。とはいえ防御し反撃という戦法は用いなかった。オックスに対する攻撃を参考にし、回避を行う前提で動いているとティアナも理解する。

 ニデルがそれを理解して動いたのかどうかはわからない。しかし彼はシルヤが放った剣を容易く弾くと同時、彼女の懐に潜り込み、鎖骨辺りに手を触れた。


 刹那、彼女の体が驚くほど容易に飛ばされる――部屋から強制的に出され、彼女もまたオックスと同様壁に叩きつけられた。


「――ティアナ様」


 ニデルはオックス達が最初から眼中になかったかのように声を上げる。


「再度申し上げます。お迎えにあがりました。どうか同行して頂ければと思います」


 ティアナは何も言えなくなった。オックスやシルヤはなおも反撃しようと体勢を立て直し始めているが、目の前の存在には勝てないと直感する。

 なぜ、これほどの力が――疑問は尽きなかったが、その間にニデルはティアナに歩み寄る。


「……私が」


 そこで、ティアナは口を開く。


「私が行けば、この惨状を止めてくれますか?」

「やめろ! 騎士ティアナ!」


 シルヤが叫ぶ。同時になおも踏み込もうとしたのだが――突如横から人影が。


「っ!?」


 その面々にシルヤは剣をかざす。黒装束――しかし、シルヤの剣戟をあっさりと弾く程の力を持つ、猛者。


「もし彼らがティアナ様をあきらめ武装解除して頂ければ手を引きますが……さすがにこの状況では無理でしょう」

「だから、あなた方も退かないと?」

「ええ。大変心苦しく思いますが、それでも来て頂けないかと」


 無茶苦茶な要求だった。本来ならばすぐさま首を左右に振る。だが、もしここで断れば――


「察しておいでかと思いますが、もし断ればどうなるか……わかりますよね? 承諾していただけるならご両親に直接的な危害を加えるつもりはありませんよ。ご安心ください」


 ティアナは自身が持つ剣を無意識の内に握りしめた。


「あなた達は……」

「理由は、主の所にお送りする間に説明致します」


 それ以上語ることはしない。ティアナは言動に対し、何も言えなくなる。

 部屋の外ではシルヤが交戦する音。彼女が苦戦する程の相手。仮に助けが来たとしても――


「この野郎……」


 オックスが体勢を立て直し迫る。無茶だと思った矢先、ニデルは薄い笑みを浮かべ、


「いかに三国の勇者であろうと――この力の前には無力です」


 言葉と共に右腕から魔力が発せられる。まるで炎が湧き上がるかのように濃い魔力――オックスは怯むことなく炎と共に一撃浴びせるが、ニデルは平然と右腕で受け流した。


「終わりです」


 言葉と共に、返す刀で掌底を決める。オックスはそれを避けようとしたようだが――速度が想定を遥かに上回っていたか、剣の腹で防御した。


 彼の体が跳ぶ。魔力による強化による影響で、常人では引きだせない膂力を獲得したニデルは、オックスの体を容易にすっ飛ばす。

 その先は、砕かれたテラス。オックスの体はそこへ吸い込まれるように飛び、漆黒の闇夜の中に消えた。


「オックスさん――!」

「あなたは、私の提示した質問に答えて頂ければいいのです」


 口調は丁寧であり、なおかつ声音もひどく穏やかだった――しかし、同時に有無を言わせない迫力が存在していた。

 だからこそティアナの口が止まる。拒否権はない。


 屋敷は現状混乱している。なおかつ本当に両親が無事なのかどうかもわからない。確認したいところだが、ニデルの様子からそれすらできないのだろう


「ご同行願いませんか?」


 ティアナは相手を見返す。背後でいまだ戦闘音が続く中――ティアナはニデルと対峙しし――やがて、回答を口にした。


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