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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第一話
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創生異能者の攻防

 ユティスは半ば反射的に剣を生み出しフレイラに渡した後、どう立ち回るかを死に物狂いで思考する。

 まず見張りの騎士が会場に踏み込むまでにどの程度の時間が必要なのか――刺客の人数がわからない上、自身の体はどこまでもつかわからない。よって、王の近くに武装した騎士達が来るまでの勝負となる。


(長くて……三分程度、か?)


 会場入口に騎士はいない。これは騎士が一時離れるようシフトを組み、なおかつ騎士達に攻撃を仕掛け時間稼ぎでもしているのだろう。とはいえ、刺客の技量や装備を考えれば、警備の騎士達も敵を突破し会場へ来ることができるはず――ユティスは胸中算段を立てた時、ガラスの破砕する音が聞こえた。


(筋力強化は役目を果たしているな)


 おまけで付加したものだったが――これが功を奏したかフレイラは刺客を吹き飛ばしてみせた。視線を送ると、彼女の真正面に新たな刺客。そして、アドニス達が刺客を捕らえ、さらに入口からもう一体現れる光景。


 ここで、ユティスはさらに剣を生み出すべく魔力を開放する。魔法封じのブレスレットなど存在しないように魔力が両腕に集まり、ものの数秒で剣を生み出す。

 そして――ユティスは入口から侵入した刺客と格闘する面々を視界に入れる。そこにはアドニスを中心として相手を拘束する姿を捉え、さらに、


 その中の一人、ユティスにとって見慣れない騎士服の男性と目が合い、


 ユティスは全力で剣を投擲した。


 使用方法を教えている暇はない。しかし武器があれば大違いだろうという予測と共にユティスは騎士に剣を投げ、さらに剣を生み出そうとする。

 その間に新たな刺客が入口から現れる。さらなる登場に女性の悲鳴と騎士らしき人物が駆ける姿。彼の手には手近にあった食事用のナイフ。


 そんな物で対抗できるとは思えなかったが――ユティスは援護しようとさらに剣を生み出そうとした――しかし、


 ほんの僅かな時間、戸惑う。果たして、これが本当に正解なのか。


 思考する間に金属音。それがフレイラと刺客が戦っているものだと視線を向けずとも認識し――援護すべきだと、頭の中で判断する。

 また同時に王を守るべきだと確信する。その二つを行うためには剣では駄目だ――


 剣を握った騎士が、入口から突撃する刺客に対抗する。合わせるようにアドニスが接近。最初に出現した敵は別の人間が取り押さえている。

 そしてまたも金属音――ユティスはそこで決断し、魔力を手のひらに収束させた。


 続いて生み出したのは剣ではなかった。腕にはめることのできる小さな金色の丸盾であり、ユティスはそれを左腕に通し、防具として使用する。

 無論、これにも剣と同様魔法が込められているが――実践している暇もなく、続けざまに魔力を収束させる。


 それによって次に生じたのは――弓。手首に盾を身に着けたことによって両手は空いているため、生み出したそれをユティスは左手でつかみ、右手に光の矢を生み出した。


 途端、体にずっしりとした疲労がのしかかる。これ以上力を使えば、限界が――けれどそれは紛れもなく王が危険にさらされることを意味し、ユティスは自分を奮い立たせるように矢を弓につがえ、構えた。


 狙いはテラスにいる刺客。フレイラは二人目と切り結んでおり、それに対しユティスは狙いを絞り、


「――っ!」


 誰かの声を聞いた気がした。それはおそらくフレイラにも当たるという警告だったのかもしれない。しかし構わず矢を放ち、まっすぐフレイラへと迫り、


 ――突如矢の軌道が折れ曲がったかと思うと、フレイラを避けるようにして横を通り過ぎ、刺客の頭部側面に直撃する。


「な――っ!?」


 またも誰かの声。ユティスはそれを耳にしながらも、刺客が健在なのを見て舌打ちしたい衝動に駆られた。


(威力がない――)


 定めた目標以外を避け、攻撃が当たる必中の矢――それが、ユティスによって生み出された弓矢の特性。しかし『目標へ確実に当たる』という部分でかなりの魔力を行使したため、威力がほとんど出ていない。


 他にやり方があったのでは――そうユティスが胸中で呟いた直後、矢が直撃したことにより体勢を崩した刺客へ、フレイラは容赦なく斬撃を放った。それは見事相手の左腰辺りへ直撃し、綺麗に吹き飛ぶ。


 そこでユティスも援護はできていると認識し――次いで、


 フレイラが戦う場所とは別のテラスに、新たな刺客が入り込もうとしているのを発見した。


「っ――!」


 周囲の面々はまだ気付いていない。なおかつ刺客の正面には、ユティスの見知った――


「――アージェ! 後ろだ!」


 その言葉が出た刹那、名を告げられたアージェは即座に後方にいる敵を認識したか振り返ろうとした。対する刺客は彼女の横をすり抜けるように足を動かし、構わず王の下へ突破しようと動く。


 だが――それを、他ならぬアージェが阻んだ。相手を肩越しに捉えた彼女は、即座に体当たりを決めると刺客の体を大きく転倒させた。


 ユティス自身、まさか攻撃するとは思わなかったので若干戸惑ったが――刺客はすぐに体勢を立て直し駆けようとしたため、即座に弓を放つ。結果、人を避けながら矢が刺客へと迫り、


 またも頭部へ直撃。破裂音と共に刺客は大きく体勢を崩し、


「――ふっ!」


 横から出現した騎士らしき人物が、その頭部に肘鉄を入れた。それによって今度こそ刺客の体が傾く。ユティスはこれで大丈夫だと思い、再度フレイラに視線を注ごうとしたが――そうはならなかった。


 ユティスは、肘鉄を受けた刺客が突如淡い光となって消えゆく様を捉える。


「――っ!?」


 呻いたのは果たして自分か、それとも攻撃を行った騎士か、アージェか――全てがわからないままユティスは背筋に蛇が這いまわるような感触を覚えた。


 おそらくあれは、魔力を人の形に模した疑似的な人間――これは『召喚式』という魔法区分に該当する。使用者の魔力によって形作られた存在が、命令に従い動くという術式。

 それを用い今回襲撃したというのはユティスも理解できた――が、疑問が生じる。『召喚式』の最大の欠点はその発露する魔力にある。魔力の塊であるが故気配を消すことも難しく、こうした襲撃には向かないという特性がある。


 魔具を使えば話は別なのだが――刺客の体は余すところなく消えた。つまりそうした武具については使っていない。

 従来の特性とは異なる魔法。次の瞬間、アクアの言葉が思い出される。ユティスと同じ、『彩眼』の使い手。


 もしこの刺客を使役しているのが『彩眼』を所持する存在だとすれば――果たして、どれほどの力を有しているのか。そして、その数が膨大なものだとしたら――


 ユティスの頭に最悪な結論が駆け巡った時、一際大きな金属音が周囲に響いた。見ると、フレイラの打ち損じた刺客がまっすぐ王へ向かい走って来る光景。


 即座にユティスは弓を右手に持ち替え、丸盾をかざした。接近されれば王に危険が及ぶ――だからこそ、盾に魔法を宿した。


「守護せよ――金色の精霊!」


 声の直後、盾を中心として結界が生まれる。それはユティスの前方に出現したかと思うと横に広がりなおかつ王を囲むように生じ、

 円柱状となって、全方位から王と王妃を守るべく形成された。


「これは……!」


 途端、王が驚愕の声を放った――同時、刺客の短剣が結界へと振るわれた。けれど一撃は見事結界によって防ぎ切り、

 後方から追いついたフレイラが、その刺客の頭部へ背後から斬撃を叩き込んだ。


 容赦のない一撃であったが、それによりその敵もまた光となって消える。やはりすべてが泡沫なのだとユティスは理解すると共に、結界を解除するか援護するべきか迷った。


 その時点で刺客はテラスに一人、入口付近に二人。テラスにいる刺客は迷わず疾駆する。それを阻むはフレイラ一人。反面、入口にいる面々は剣が一本と素手でも複数人。既に捕らえようとした敵も光となって消えたか影も形も無く、騎士達は新たに出現した刺客に対し交戦を開始しようとしていた。


 そこでユティスは思案し――まず、体に生じる重く冷たい疲労について考慮する。考えていたよりも体に負担が掛かっており、このまま結界を維持し続ければ倒れるかもしれない。

 そのためユティスは結界を解除。次いでフレイラが戦おうとしている刺客へ援護しようと弓を持ち替え矢を生み出した。


「っ……!」


 さらに体が重くなる。限界が近いのだと頭では認識していたが、どうにか奮い立たせユティスは渾身の矢を放つ。それはフレイラをかわすとまたも刺客の頭部に当たり、とどめの斬撃が加えられて消滅する。そして、


「――陛下!」


 援軍と思しき騎士が、入口にいた刺客を倒しながら会場へと到達した。



 * * *



「彩眼、だな」


 彼は使役する魔力で作られた人間の『眼』を通し、王を守る存在を見据えた。

 さして驚いているわけではなかったが――正直、あの状況で王を殺め損なったのはあまりに惜しいと思う。


 襲撃した直後、『眼』を通してベストな状況だと率直に彼は思った。王の目の前にいるのは、おそらく二十歳にも満たないような男女だけ。さらに男性はどこか血色が悪く、その内倒れるのではないかという印象を受けた。


 他の人々は、王や彼らに対しなんとなく距離を開けていた――男女は嫌われ者なのかと思いつつ、ならなぜ王と話しているのか疑問に思ったが、それらを押し殺し仕掛けた。入口は陽動で、テラスから忍び込んだもう一人で王を襲う。丸腰である以上、これで始末できるはずだった。


 けれど、女性の方はテラスへ向き、敵を察知して迷いもなく足を前に出した。身を盾にするつもりかと思いつつ、彼は躊躇なく攻撃を行った。しかし、

 次いで男性の瞳の色が変化したのを見て、彼はまさかと思った。


 ――この場に俺と同じ『彩眼』を持つ人間がいたのか。


 男性は魔法封じのブレスレットがあるにも関わらず剣を生み出す。それは結界などを構築できる魔法剣――次いで盾や必中の弓を生み出したことを考えれば、彼にはおぼろげながら能力が見えてくる。


 自分と同じように、魔力によって『創生』のできる使い手だ。


 しかし矢の威力は低かった。だからこそ自分と同じように、複雑な特性を持たせる場合はそれ相応の魔力が必要なのだと、男性は頭で理解する。

 そして、一つ結論付ける――同じ『創生』とはいえ、男性は自分のように動く存在を創り出すことはできない。


 彼自身は逆に、男性と違い様々な特性を持つ物質について生み出すことはできなかった。できるのはあくまで人間に模した動く存在と、簡素な装備。けれど、この能力は彼自身驚異的な『異能』であることを自認し――だからこそ、ウィンギス王国がこの異能を用いてロゼルスト王国に侵略戦争を行う、などという荒唐無稽なことまで計画した。


 だが、この能力が絶対的でないことは彼も理解している。実際、この襲撃を行っている存在全てを精密に操るためにはそれなりに近くなければならない上、複雑な命令を与える必要がある――その場合、操れる数がかなり限られてしまう。


 現状戦力の少なさや、男女二人による獅子奮迅の活躍で王を殺すことができていない――会場外にいる騎士達の足止めに対し、多少余分に戦力を割いた結果、このような形となってしまった。


 とはいえ、彼はこのまま終わるつもりもない。


「……仕方ねえな」


 彼は呟くと――会場外で騎士を食い止め生き残っていた手勢に対し命令。突破した騎士達を追うように、会場へと駒を進める。


 同時に彼は笑う。思わぬ好敵手と遭遇して内心楽しみ始めているからだと、彼自身心の隅で思っていた。


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