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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
188/411

騎士の決断

 ユティス達はラシェンから侵入者の情報を聞きつけると同時に、すぐさま屋敷全体に事実を伝達。またラシェンによると屋敷の建物には薄いながら結界が張られ、強度はそれなりに確保されている。静かに侵入することは無理だとのこと。

 さすがに着替える時間は無かったのでユティス達はそのまま行動を開始。とはいえ剣くらいは携帯しており、戦闘態勢は整っていると言ってもいい。


 そして食堂に移動。ユティス達彩破騎士団はラシェン公爵の指示によりこの場に待機することとなった。


「彩破騎士団は精鋭であり迎撃に対する戦力としては十分だと思うが、どういう手で来るかわからないことや、敵の戦力も把握できていない段階である以上、まだ温存しておきたい」


 そういうラシェンの説明。ユティスが小さく頷くと、今度はリザが言及する。


「戦力については、実際の所仕掛けてこないとわからないしね」


 彼女は兵達に目を向ける。


「敵の数はどうかわからないけど、屋敷に常駐する兵士さん達だってそれなりに精鋭よ。もし彼らが突破されるとなると、結構本腰入れてきている可能性が高いわね」

「……一体、誰がこんなことをしている?」


 オズエルから疑問が。それにユティスは推測を述べる。


「銀霊騎士団……と関連する可能性は低いかな。そもそも宴があったその日に襲撃するなんて真似、さすがのロイ兄さんでもしないだろう」

「加え、タイミングが変じゃな」


 言及は、ジシスから。


「公爵の屋敷を襲撃するのなら、ユティス君達が戻って来ていない状況の方がいいじゃろう。馬車で移動中がベストだと思うが。その辺り、上手く調整できなかったのか……?」


 改めて考えても、不可解な襲撃だった。とはいえ敵は実際に襲い掛かって来ている。対応しなくてはならないのだが――


「待て、ユティス君」


 ふいにラシェンが声を出した。


「敵の目的は不明だが……一つ、可能性を明示しようと思う」

「可能性?」

「この襲撃について」


 ラシェンが語る。ユティスを訝しげな視線を送り、


「どういうことですか?」

「敵の目的が彩破騎士団もしくは私である可能性もあるのだが……実は、夜の時点で私の部下が屋敷に戻るはずだった。だが、戻ってこない」

「囲まれていたため屋敷に入れなかった、と?」

「その者は簡単な『召喚式』の魔法を扱うことができ、もし非常事態が起きた場合それで何かしら連絡を行うよう指示している。そして、実際に魔法を経由して連絡がきたのだが……」

「他に何かあったと?」

「詳しくは報告されていないが、ユティス君達が馬車で移動を開始した後、何かしら騎士団が動き回っていたらしい」

「それは……?」

「この屋敷が襲撃されているため、とは考えにくい。何せ気付いたのはついさっきだからな。そうなった場合、考えられるのは……宴が始まる前の時点で、騎士達に護衛されている屋敷があったな」


 その言葉により、ユティスの顔にヒビが入る。


「……ティアナの、屋敷」

「騎士団が動き回っている事実から考えて、何かしらあると私は思っている。ちなみにだが、ティアナ君の屋敷の護衛をしているのは銀霊騎士団とはかかわりのない面々であり、私の『決闘会』に所属しているオックスやシャナエルの姿もある」

「そうした面々のいる場所を、襲撃?」

「ああ……襲撃を仕掛けた方も屋敷に護衛がいることはわかっているはずだ。それにも関わらずの襲撃したのであれば、最悪のケースも想定されるのではないかと」


 途端、ユティスは表情を硬くする。最悪のケース。それは――


「さらに、私達の屋敷へ襲撃……彼女の屋敷が襲撃されているとしたら、首謀者は同じだと考えてもいいだろう」

「そう、だと思います」

「騎士団がバタついている以上、異変が起きているのは間違いない。なおかつ私の部下がこの屋敷の状況を連絡しに行っているのも間違いなく、直に味方が来るはずだが……ここで疑問が。敵の本当の目的はどこにあるのか」


 どちらが本命なのか――そうラシェンは言いたいのだろう。


「私を狙っている他、彩破騎士団を狙うというのは色々理由を推測できるが……ティアナ君の屋敷を襲撃する動機がわからない。仮に彼女と接触しているブローアッド家の仕業だとしても、こんな無茶な行動を起こす理由がない」

「――マグシュラント側から、何か指示されたという可能性は?」


 そこで発言したのは、オズエルだった。


「俺達はネイレスファルトでマグシュラント王国の人物と思われる存在と関わった。それに関することという可能性は?」

「それなら私達が襲撃される可能性は納得いくが、ティアナ君を狙っていることがなおさら理解できないぞ?」

「元々ブローアッド家は彼女の家と関わっていたんだろう? だとするならマグシュラントから指示を受け、彩破騎士団やエゼンフィクス家に対し強硬手段に出た……そんなところじゃないか?」

「ふむ、一応襲撃する動機があるにはあるか……」


 ラシェンは腕組み。ユティスはその姿を見ながら彼に対し口を開く。


「とはいえ……だとしても、僕らは――」

「選択肢は二つある」


 ラシェンが述べる。選択とは――


「一つはこの屋敷を防衛することに終始する。そしてもう一つはティアナ君の屋敷へ赴く。襲撃されていたなら救援する」

「救援、ですか。護衛をしている以上問題ないような気がしますが」

「これはあくまで私の勘だが……危ない気がするのだよ」


 そう述べたラシェンは、難しい顔を見せる。


「今回の敵はマグシュラントである可能性を考えるとすると……正直、私もどういった人物が諜報員なのかわからない。よって、もしかすると護衛していた屋敷の人間が諜報員である可能性を否定しきれない」

「となると、その人物の手引きで……」

「そうだ。私の場合はきちんと身辺調査を行っているため大丈夫だが……これについては銀霊騎士団も同様だろうな。マグシュラントと縁のない面々――なおかつ魔法院と関わりのある人選だ。さすがに魔法院もそんな愚を犯すこともないだろう」

「しかし屋敷護衛はそうもいかない。となると……」

「もし交戦していたなら、手引きにより大苦戦している可能性がある」


 だからこその救援――しかし、この屋敷をないがしろにするわけにもいかない。


「救援に行くとして……ここの守りはどうするんですか?」


 フレイラが問う。するとラシェンは一度彩破騎士団の面々を見回した。


「……相手である襲撃者は、私のような老いぼれでも発見できた。強敵が存在している可能性もあるが、先陣を切る存在がああである以上、今ある防備でも十分戦える可能性が高い。連携がきちんとできれば彩破騎士団の君達がいなくともなんとかなるだろう」

「しかし、戦闘できる兵士達の数は――」


 フレイラが問い質そうとした直後、食堂の扉が開く。そこには完全武装の侍女が立っており、


「準備は整いました」

「うむ。ご苦労」

「……え?」


 侍女を驚き見返すユティス。するとラシェンから説明が。


「さすがに私自身、身の危険を感じるようなことはほとんどないが……有事の際、ある程度戦えるよう屋敷にいる大半の者は武器を手に取り戦うことができる」


 ――ずいぶんとまあ、とユティスは内心感嘆の声を上げる。


「全て私の私兵であり、技量も十分だ……さすがに騎士と比較すると劣っている面々もいるが、それでも一致団結できれば十分戦える」

「……なるほど」

「ユティス君、私は君達の手助けがなくとも対処できると言いたいだけだ。無論、いてくれた方が戦況は盤石のものとなるが……ここからは、彩破騎士団の判断だ」


 救援に行くのは自由、とラシェンは言いたいに違いなかった。


「だが、一つ注意点がある」

「注意点?」

「現状、ティアナ君と彩破騎士団の関係は切れたと言っていい。騎士達が護衛をしていることから考えても、彼女を含めエゼンフィクス家に関わることについては私達の手を離れたと考えてもいいだろう」


 ユティスも内心同意する。確かにユティスはティアナと過去に関わりがあった。気になるのは事実だが、彩破騎士団の立場からするとそれらはあくまで個人的なもの。それによって騎士団を危機に晒すわけにはいかないのもまた事実。


「だが、彼女を彩破騎士団に加入させる――といった明確な意志と、何より彼女達に危害を加えようとする面々は騎士という立場から考えても、見過ごすことができないというのも一つの考え」


 ラシェンは語る――ユティスと目を合わせながら。


「この屋敷が襲撃を受けている時点で対応に追われていたという理由は立つため、ティアナ君の屋敷の救援に行かずとも問題はないだろうが――」

「――ロイ兄さんは、このことを全て計算に入れて計画していたのでしょうか?」


 ユティスがラシェンの言葉を遮り問い掛ける。


「ラシェン公爵にもお伝えしましたが、マグシュラント王国の者はネイレスファルトで過去に関する資料を奪おうとしていました。遺跡を破壊した存在とは、明らかに異なる……そして破壊した存在と魔法院が繋がっている可能性があることを踏まえれば――」

「マグシュラントと遺跡を破壊した一派は関係がない、と言いたいわけだな。ふむ、その上でロイ君がどのように考えているか、か……」


 ラシェンはあごに手をやると、思考を始める。


「難しい質問だが……正直な所、ロイ君はこの襲撃までは頭になかったとは思う」

「では……」

「だが、いずれ彩破騎士団と今回の襲撃者……彼らをぶつけようと動いていた可能性は否定できない」

「僕らに、そうした勢力を打倒するように仕向けると?」

「共倒れを狙った、という解釈が妥当だろう。もし私達が動かなければ、銀霊騎士団が動き、手柄にするつもりだったのかもしれない」

「どっちにしろ、魔法院という組織にとってみれば益のある話ってわけね」


 やれやれ、といった様子でリザが呟いた。


「その中でもし、私達が利を得ようとしたのなら……ティアナさんを彩破騎士団に加えることが一番ってことかしら?」

「そういうことになるだろうな……ユティス君、どうする?」


 ――きっと、この襲撃は予定外であっても方向性はロイ達の計画の内だろうとユティスは思う。

 ティアナと関わらせるように仕向けたことを考えても、いずれ彼女を利用して今回襲撃を行った人物の勢力と戦わせようとしただろう。


 それにどこまでの意味合いがあるのか――とはいえ、ユティスとしては決断が揺らぐことはなかった。


「……ラシェン公爵」

「うむ」

「行きます」


 決断の言葉。それに他の彩破騎士団の面々は、承諾するように頷いた。


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