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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
187/411

失われた技

 ユティス達が敵を発見するより前――ティアナは彩破騎士団の面々が会場を去った後多少出席者と話し、やがてシルヤと共に自身の屋敷に戻ることとなった。

 その道中、当然ながら話題は討伐隊のことに終始する。


「……何かしら記憶操作をされていた、ということでいいんだな?」

「おそらくは」


 シルヤの疑問にティアナは首肯。彼女はなぜという疑問とこんなことをしでかす人物に対し何かしら思う所があるようだが、口に出すことはない。

 その間にティアナは一つ思い出す――討伐隊でユティスと深く関わる結果になった出来事を。






 水辺で正体がバレた後、ユティスとティアナはテントに入り話をすることになった。ちなみにヨルクが同伴。ユティスがなぜ彼女の素性を隠すのか理由が訊きたいらしかった。

 そこでヨルクはユティスに単なる騎士候補ではなく聖騎士候補だと伝え、理由を述べる。


「聖騎士候補の段階で女性だとバレたら上層部の人に妨害されそうじゃないか」

「……それだけですか?」

「あとは、騎士の反発なんかの可能性を考慮して、だな」

「……理由はなんとなくわかりました。で、なのですが」

「んー、別に態度を改める必要はないぞ」


 ユティスが何を言おうとしたのかを予測したらしく、ヨルクは述べた。


「それとティアナ。さすがに露見したからといって待遇を変えるわけにはいかないから」

「……承知しています」


 騎士に男女は関係ないというのは至極当然の話なので、ティアナは首肯。とはいえ、隣にいる相手のことが気に掛かるため、変に意識してしまうのもまた事実。


「いずれにせよ今後は二人で組むことになると思うから、今の内に相談しておいてもよいかもしれないな」


 ――そんな言葉を残し、ヨルクはテントを出た。そして取り残されたティアナとユティス。両者はしばし沈黙していたが、やがてティアナは小さく息をつき、


「すみません……なんだか」

「ああ、いや。そっちも色々と事情があるってことみたいなので、僕は別に」


 手を振るユティス。ティアナとしては内心複雑な心境だったのだが、それを押し殺し提言する。


「ヨルク様の言う通り、こうして露見してしまった以上、相応にどう立ち回るか考えるべきかと思います」

「まあ、そうですね……けど、騎士ティアナの技量に僕がついていくのは難しいと思うのですが」

「……私の事は呼び捨てで構いませんよ」

「え?」

「それに、丁寧にされなくても結構です。その方が私としてもやりやすいので」

「……そっちは?」

「私はこの口調が癖になっていますので、お構いなく」


 なんとなくよそよそしくされるのが嫌だったのでそう言及したのだが――ユティスは「わかった」と答え、


「じゃあ、遠慮なくさせてもらうけど……なんというか、技量的にも僕はティアナに追随することは難しいと思うんだけど」


 彼の言葉は、聖騎士候補となっているティアナと連携するのは技量面で難しいのでは――そういう意図で発されたものだ。


 そこでティアナは小さく息をついた。ヨルクの推薦もあって、ティアナは聖騎士候補として試験するような形で今回の討伐隊に同行している――が、ユティスが言及するような実力はない、と自分では思っている。

 正直荷が重かった。騎士達からもその技量は認められているようではあったが、その中身が女性だと知られれば反発の一つくらいあってもおかしくない。ヨルクが隠すのもわかる。


 非凡でないことは、多くの人が認めている。だが、聖騎士と言われるような力を持っているとは――それこそヨルクと対等になれるような気が、まったくしなかった。


「――ティアナ?」


 ユティスがふいに問い掛ける。ティアナは声にはっとなり、慌てて謝罪した。


「すみません、考え込んでしまいました」


 誤魔化すように笑う。だがそれは逆効果だったようで、ユティスは逆に訝しげな視線を送る。


「何か、気になることが?」

「いえ、大丈夫ですよ」


 彼に心配してもらうわけにも――そういう考えによりティアナは返答したのだが、ユティスは「ふむ」と呟き、


「何か、悩んでいることが?」

「へ? あ、あの――」

「いや、単に僕が一時陥っていた雰囲気に見えたからさ……初対面の状況であれだけど、今後の事もあるしもし良かったら相談に乗るよ?」


 あまりに突然の言葉。そして心情を的確に捉えたユティスの言動に、ティアナはドキリとなる。

 彼にとってはティアナは初対面の相手だろう。ただティアナの方は違うのだが――ともかく、


「あ、あの……その」

「あれだろ? 聖騎士候補になって変にプレッシャーがかかっているとか、そんな感じじゃない?」


 図星だったので二の句が継げず沈黙する。それにユティスは「やっぱり」と呟き、


「そういうことを含め、今回ヨルクさんは討伐隊にティアナを参戦させたんじゃないかな」

「そう……だと思いますけど」

「あ、否定しないということは悩みを抱いているということでいいの?」


 しまったとティアナは胸中思った。誤魔化せばまだ否定できたのだが、会話の流れで返答してしまった。


「僕自身ティアナが聖騎士候補だからどうというわけではないんだけど、やっぱりこうして討伐隊として共に関わるのなら、色々悩みとかも解消して欲しいかなと」

「……ユティス様は」


 そこで、ティアナは声を出す。


「その、私の抱えている気持ちはご指摘の通りですが……似たような状況に陥ったのですか?」

「まったく同じじゃないけど……僕は、いずれ見返そうと……いや、今は違うな。認められ並び立ちたいという相手がいるんだ」

「並び立つ……?」

「その人はなんというか……友人というか戦友みたいな感じの間柄なんだけど、ともかくその人の背中を追って僕は魔法を学び『精霊式』を習得した」

「その人を、目標にというわけですね」

「まあ、ね……今回の討伐隊で少しは近づけたかな」


 それほどの相手とは誰なのか――気になったがティアナは追及せず、代わりに別のことに話題を移す。


「あの、それで……悩みといいますか……」

「ん? あ、言いにくそうだったら別に……」

「いえ、その……事実ですし」


 自身の心情を吐露することで、少しばかりティアナとしても気が楽になったのも事実。ただその相手がユティスというのには――いや、こういう状況で相手が彼でなければ、決して話すことはなかったかもしれない。


「その、私自身聖騎士という大役は荷が重いですし、実力もないと思うのです」

「聖賢者のヨルクさんがああだから、余計そう感じるのかもしれないね」

「あの人は、戦闘面において誰も追随できませんし。あの方と並ぶとなると……」


 そこから先は言わなかったが、無意識の内に体がブルッとなる。


「ふむ、そうだな……じゃあ、自信のないこととかを打開するために、今回の討伐に際し目標を立てればいいんじゃないかな」

「目標、ですか?」

「ティアナは実戦で戦った経験は?」

「何度かありますが……ここまで大規模なのは初めてです」

「僕も一緒だ。それに敵も相当な力……それに対抗できる技とかを編み出すのはどう?」

「技、ですか?」

「僕の目から見てティアナは確かにすごいと思うし、騎士の中でも勝てる人は少ないように思える……けど、ティアナの上をいく人……例えば騎士メドジェなんかは『剛魔』という異名があるように、どんな強敵と出会っても対抗できる手段がある」

「そうですね」

「ヨルクさんなんかはその究極であらゆる能力が騎士や宮廷魔術師の上をいっているわけだけど……ともかく、上位の騎士は騎士メドジェのように何か特化した能力とかを持っているような気がする」

「そうかもしれませんね」

「今回の討伐で技まで習得するのは酷だと思うけど、何かとっかかりでも得られればいいんじゃないかな。それが自信にだって繋がると思う」


 ――確かに、ティアナとしては漠然として不安があって聖騎士候補という称号に及び腰になっているのは事実。

 何か技を習得して解決するのかという疑問はあるのだが、それでも漠然と討伐隊に参加するよりはよっぽどいい。


「わかりました。少し心がけてみます」

「うん……というわけで、明日に備えて休もうか」

「はい……えっと」


 頬をかく。元々騎士ではなく貴族令嬢であるため色々思うところがある相手と同じ場所で眠るというのは抵抗感もあるのだが、それを言っても仕方がない。


「どうする? 不安なら僕を縛っておく?」

「いえ、そこまでして頂かなくても……」


 と、ティアナはクスリと笑った。


「……縛ってもいいのですか?」

「小説か何かでそんなことをするシーンがあったような気がして、そう言ったまでだよ」

「騎士としてはそんなことを言っていられない身分だとは思いますので、別にいいですよ」


 ティアナは言いつつ毛布にくるまる。とはいえ突然招集がかかり顔を見られる可能性はゼロではない。一応、頭まで毛布をかぶっておこうとする。


「……暑くない?」

「平気です」


 言いながらティアナは就寝する。眠る途中まではなんだかドキドキして眠れなかったのだが――最終的に疲れが勝ったか、ユティスのことを意識しつつも眠ることになった。






「――なんだか、複雑な心境のようだな」


 ふいにシルヤが言及する。ティアナは言葉に頷くと、右手を閉じたり開いたりしてみる。

 あの討伐隊で、ティアナはユティスの進言通り技を考案した――ような気がする。まだ思い出せてはいないが、そんな感じがする。


 ユティスは記憶を封印されたことで『精霊式』の魔法が使えなくなっていた。そしてティアナもそれは同じ事だった。


(記憶の中に封印されていたことで、そこで得た技法が思い出せなかった、ということだけれど……)


 討伐隊に赴いた記憶自体はある。失われていたのはユティスに関する記憶。なぜ彼と関わった部分が――


(いや、正確に言えばユティス様があの討伐隊に参加していた事実がなかったものにされている……それは一体……?)


「騎士ティアナ」


 思考はシルヤの鋭い言葉によって中断される。何がと聞き返そうとした矢先、気付く。

 気配――馬車は屋敷に到着したのだが、その屋敷周辺に魔力。


「え……?」

「これは、何かあったのか?」


 呟きながらシルヤはティアナの手を引いて馬車を出る。そして屋敷を見回した時、明かりの見える窓の奥で、黒装束姿の人物を見て取った。


「っ……!!」


 ティアナは衝動的に屋敷へ駆け寄る。シルヤの制止を無視し敷地に入った瞬間、金属音が響いた。


(音を遮断する結界……!?)


 それが屋敷内に張り巡らされている。確かにこれなら屋敷の中で騒動があったとしても気付かれにくい。

 しかし、屋敷の敷地内にこれだけ大規模に――疑問はあれどまずはどうにか対処しなければ。


「ここは私に任せろ!」


 シルヤが叫ぶ。それにティアナは視線を移し、


「君は丸腰だろう。とはいえこの調子では城に人を呼びに行くとしてもリスクがある……交戦しているが制圧はされていない。連携すれば勝てる」

「は、はい」

「行くぞ。動きにくいだろうが同行した方が安全だ。できればどこかで剣を入手し、戦ってもらいたいところだが」

「わかりました」


 ティアナは告げ、シルヤと共に動き出す――中から一際大きい金属音。ティアナは内心不安を抱えつつも、屋敷の中へと入った。


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